都市と農村をつなぎながら、農を植える……「森の扉」
青葉区周辺の有機・自然農の農家を訪ね歩き、汗をかき土に学びながら、人と人、都市と農村をつなげる活動をしている野原典彦さん。「ナチュラルフード森の扉」という屋号をもって、青葉区からオーガニックマルシェを立ち上げ、全国へと旅を続ける頼れる兄貴です。

「キタハラさん、会ってほしい人がいるんですけど……」

「キタハラさん、おもしろい活動をしている自然食品店があるんですよ」

「キタハラさん、今度、オーガニックカフェに行きませんか?」

森ノオトで紹介する「へえ、こんな人いるんだ!」的なネタ。その結構多くにからんでいるのが、「ナチュラルフード森の扉」の野原典彦さんです。農に学ぶ。のどんぐり農園では、ともに田んぼを耕し、ミコト屋や鶴川のカフェUTOKUを紹介してくれるなど、地元を歩いているからこその情報通です(ご本人は至って謙虚な方なので、情報通なんて言ったら怒られるかもしれませんが)。今年6月には、共通の問題意識でもある遺伝子組み換え作物について伝える「放射能だけじゃない!タネの遺伝子汚染を考える映画祭」を一緒に開催した仲間でもあります。

 

OLYMPUS DIGITAL 美味しそうなパスタやうどん、海苔、オリーブオイル、そして野菜が並ぶ、「森の扉」のマーケット。ナチュラルでリアルな食べ物と出会える場だ

 

9月、森ノオトで、桜台の焼き菓子工房「トミーヤミー」の小池一美さんをご紹介しました。ウィズの森での出張販売の日、小池さんと一緒にオーガニックマルシェを開催したのが、野原さんと奥さまの真由美さんです。

野原さんは全国の自然栽培農家や有機農家、加工品業者を訪ね歩き、自分がこれぞと思い惚れ込んだ野菜や自然食品を扱っています。熊本・水俣から農薬や化学肥料を使わない在来種の緑茶・紅茶・ほうじ茶や、鹿児島・出水から薬剤処理に頼らない無酸処理の焼き海苔、自然栽培のオリーブオイルなど、生産者・販売者と直接顔を合わせ、話をして、これぞと思った商品を販売しています。

「マルシェで自然農の野菜を売っていると、“無肥料で本当にこんなに美味しそうな野菜ができるの?”と、農家さんが聞いてくる。在来種のタネを渡したり、生産者の話を伝えることで、そこから農家さんに動きが出てくるんです」

と、野原さんはイキイキと語ります。

 

10月初旬、益子のマルシェで販売した自然農のかぼちゃ。可愛らしく美味しそうな見た目に、一般の方だけでなく、農家の方々も興味津々だったそう

 

野原さんが自然栽培・有機栽培生産物や加工品の卸や販売に行き着くまでには、それはそれは、長い物語があります。

ビジネスの世界でお金を右から左に動かす仕事をしていた時期に、遺伝子組み換え作物による環境汚染、種の危機に気づき、自ら農に携わる決意を固めたのが今から3年前。その決断は、一言で簡単に語れるような話ではなく、例えばアメリカの穀物市場での投機の動き、種子メジャー(遺伝子組み換え種子を販売するグローバル企業)の動き、日本の農政など、多様な問題が複雑に絡み合っています。そんななかで、野原さんは必死で人に会い、話を聞き、時には鍬を持ち耕しながら、農業の先達に「食とは? 農とは? タネとは? 自然とは? 生きるとは?」……さまざまなことを学んできました。ただ、自らが生産者になるのではなく、「全国各地にある耕作放棄地を耕して自然農や有機の農地をつくり、都市部の新規就農希望者をつなげていきたい」と、仕組みづくりの道を選んだのです。

 

9月のウィズの森マルシェで。トミーヤミーの小池一美さんとは気心知れた仲。月1~2回、「森の扉」のマルシェをウィズの森で開催予定

 

あざみ野の自宅を一方の拠点にし、青葉区周辺の有機・自然農農家の手伝いをしながら農を学ぶ日々。一方で月の半分は福島県の天栄村という携帯電話の電波も届きにくい場所で、地元の農家の方と関係を結び、生産者とともに有機や自然農を学びながら、畑を耕し都市からの新規就農者の受け入れ準備をしてきた野原さん。ようやく足下が固まってきたところで……3.11。東日本大震災と、東電福島原発事故が起こりました。野原さんが「この地に農を植えよう」と耕してきた、福島の大地が汚れてしまったのです。

 

野原典彦さん。以前はスーツでバリッと身を固めていたが、いまではすっかり日に焼けてたくましい。超がつくほどガンコで真面目、熱いハートの持ち主。だからこそ誰よりも信頼できる兄貴だ

 

それから半年。

青葉区と福島を行ったり来たりする生活を3年続けた野原さんは、ようやく自分が定まる場所を決めました。ご自身の生まれ故郷に近い、栃木県の茂木町の古民家に移り住み、夫婦が食べる分の野菜をつくりながら、ナチュラルフードの宅配や移動マルシェ、卸・販売をする道に落ち着きそうです。あざみ野の家は引き払う予定ですが、野原さんが青葉区でつなげてきた人、仲間がたくさんいるから、青葉区内での宿の心配はいっさいなし!

「青葉区にはお世話になったから、恩返しをしたいんです。青葉区発のオーガニックマルシェは、私の夢でもあります。青葉区は都市部でありながら、農村が残っていて、有機や自然栽培の農家が何人もいる希有な地域。自然と共生した暮らし、農、食を発信できる、大きな可能性があると思うんです。エコでオーガニックでローカルなecoloco marcheをこの地域に根づかせたいと思っています」

当面、青葉区と栃木と福島を行き来する日が続きそうな野原さん。野原さんの夢は、森ノオトの夢でもありますね。そして、野原さんの本当のライフワークでもある「農を植える」活動を、これからも応援していきたいと思っています!

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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