第33回:たくわえられるエネルギー「水素」
山梨県は水素立国! 太陽光・小水力・燃料電池の最先端研究
(環境ビジュアルウェブマガジン「ジアス・ニュース」での連載より)

 

化石燃料を燃やす火力発電や、放射性廃棄物を生み出す原子力発電から、持続可能なエネルギー源にシフトしたい。太陽や風、水、波など、自然エネルギー、新エネルギーがにわかに脚光を浴びているが、ダークホース的存在「水素」を忘れてはならない。水の電気分解の逆、酸素と水素を化学反応させると、電気をつくることができる。化学反応のために必要な電気を自然エネルギーでつくることができたら……水と空気からCO2フリーの新しいエネルギー源「水素」を生み出し、発電することができる。そんな実験がいま、山梨県は甲府市、米倉山でおこなわれている。

 

ゆめソーラー館やまなしの施設では、太陽光発電の仕組みや種類、新しい太陽電池、球体スクリーンなど、再生可能エネルギーの勉強にはもってこい

 

■太陽の光で水を水素に変え、電気をつくる。

 

電気は、つくる量と使う量が常時同じ、つまり「同時同量」が原則で、貯めておくことができない。そのため、日本では真夏の最も電気を使う数日、数時間の「ピーク」時に電気が足りなくならないよう、電力の供給能力を高め、需要に合わせ設備容量を増やしてきた。でも、電力需要が減る夜間等に電気を貯めることができたら……いま起こっている様々な課題を解決できるのではないか、と考えるのは素人だろうか。

 

現在各社がしのぎを削って開発を進めている蓄電池は、電気自動車用のリチウムイオンバッテリーの分野で先行してきた。昨年は家庭用蓄電池元年と言われ、市場投入が始まったばかり。電気系統用の大規模蓄電池とエネルギーマネジメントの実証事業も国内外で始まりつつあるが、蓄電の技術が私たちの日常生活に恩恵をもたらすまでにはまだ相当な時間がかかるだろう。

 

エネルギーを「電気」の状態で貯めるのが蓄電池だが、それとは異なる形で「電気に変わるエネルギー」を蓄えようとする実証実験が、今年1月から山梨県甲府市の米倉山で始まった。今年1月28日に開館した米倉山太陽光発電所PR施設「ゆめソーラー館やまなし」は、太陽光発電や太陽熱利用を中心とした様々な再生可能エネルギーの技術や、山梨県のエネルギーに関する動向や情報を紹介する施設で、同時に館内のエネルギーを再生可能エネルギーで自給自足する実証フィールドとしての機能も持つ。

 

ゆめソーラー館やまなしの一角で、神戸市に本社を置く神鋼環境ソリューションが取り組んでいるのが、太陽光発電等の再生可能エネルギーによって水を電気分解し、水素と酸素にわけて、発生した水素をタンクにいったん貯めておく「水電解式水素発生装置」の実証実験だ。タンクに貯めておいた水素は、必要が生じた時に館内の純水素型燃料電池に供給し発電することで、ゆめソーラー館やまなしの電力需要の一部をまかなう。つまり、再生可能エネルギーを使って水を水素に変え、燃料電池によって発電する、という実験なのだ。

 

神鋼環境ソリューションの水素発生装置と、水素タンク、パナソニックの純水素型燃料電池とをつなぎ、水素で発電。実機を展示している

 

■燃料電池の最先端の研究が集まる山梨県の強み

 

米倉山太陽光発電所は、2010年にスタートした山梨県と東京電力の共同事業で、甲府市南部の標高388メートルの県有地25ヘクタールの敷地に7万8542枚の太陽光発電パネルを敷き、合計1万kW級(10メガワット)の発電所として今年1月に運転開始した。

 

高い山に囲まれた山梨県は、晴天率がとても高く、甲府市の年間の日照時間は2128時間で国内ナンバーワン。10位の群馬県前橋市の2037時間と比較しても5%以上多い。運転開始以降の稼働率は、冬季にも関わらず15%(太陽光発電の平均は約13%)と高い。

 

採用した太陽光パネルはCIS薄膜化合物型で、1枚あたり約20kg程度の重さ。太陽光パネルは日本の緯度に近い30度の傾斜で設置されるのが一般的だが、夏季の発電効率アップと風圧の影響を軽減するために、米倉山発電所では10度というゆるい傾斜で据え置いている。寝かせることで影ができず、たくさんの枚数を置け、基礎も比較的軽量で済む。

 

「山梨県では、ソーラー王国やまなしを目指している。また、歴史的に水力発電に力を入れ、県では電力量の10%を水力発電でまかなっている。森林管理の解決策としてバイオマス利用を推進し、燃料電池をこれからの産業として積極的に支援する。この4本柱で、低炭素社会の実現と経済活性化の両立を目指す」

 

こう話すのは、山梨県企業局電気課開発担当主査の宮崎和也さん。山梨県では北杜市などでもメガソーラーの誘致実績があり、今年度は韮崎市と甲斐市でも発電所の建設が始まる。すでに県内一般家庭の5%ほどに家庭用太陽光発電パネルが設置されていると推計でき、県は2009年度から始めている補助事業を継続し、今年度も1億1380万円の予算を設けて既設住宅への普及を促進していく。県が2009年に策定した「山梨県地球温暖化対策実行計画」では、山梨の恵まれた自然環境を活かした特色ある対策として、再生可能エネルギーの導入によるCO2削減を位置づけている。県土の78%を占める森林を活用する木質バイオマス利用や、水力発電では特に小水力発電に注力して、砂防ダムやダムの放流水等の未利用エネルギーを活用していく。

 

山梨県のもう一つの強みは、燃料電池だ。山梨大学には燃料電池ナノ材料研究センターがあり、燃料電池の触媒や電解質膜等の材料研究における世界最先端の知見が集まっている。2015年の商品化を目指した燃料電池自動車や、家庭用燃料電池の量産とコストダウンを目指した材料研究等が進んでいる。山梨県産業労働部産業政策課海外展開・成長分野推進室主任の千田知宏さんは、「燃料電池に関する世界最先端の研究を進める山梨大学の研究支援に県としても取り組んでいくとともに、燃料電池に取り組む県内企業の育成や事業所の誘致等にも力を入れたい」と話す。

 

神鋼環境ソリューションの水電解式水素発生装置と、パナソニックの純水素型燃料電池を再生可能エネルギーで動かすこの実証実験は、山梨大学の監修のもと、産・官・学の連携でおこなっている。「電気をためる」という課題に真っ正面から取り組み、山梨県の再生可能エネルギー戦略の「新しいピース」になり得る、最先端の取り組みなのである。

 

神鋼環境ソリューションの須田さん。後ろに写るのは水素タンク

 

■ いま目の前にある実験が、新しいエネルギー社会の一つの答え

 

2008年に市場投入が始まった家庭用燃料電池は、「エネファーム」の愛称で知られる。家庭用燃料電池は、天然ガスやプロパンガスなどを水素に改質して酸素と反応させ電気を起こす仕組みで、中学校の理科で習った「水の電気分解」の逆バージョンで発電をする。この時、電気だけでなく熱も生み出すので、排熱で水を温め60度のお湯を貯湯槽に貯めることができる。

 

一般的に発電所でつくった電気は、送電ロスがありつくられた電気の37%しか家に届かないが、エネファームは自宅で電気をつくるため送電ロスがなく、ガスからつくる電気の効率は36%、さらに発電時に発生する排熱のうち45%を給湯に利用できるため、エネルギーの総合利用効率は81%にもなる。

 

ただし、水素の改質のためには現時点ではどうしてもガスが必要で、化石燃料を使う以上はCO2の排出は避けられない。いまゆめソーラー館やまなしでおこなわれている実証事業は、この課題に取り組み、カーボンフリーで水素エネルギーを取り出すための実験だと言える。

 

山梨県企業局電気課開発担当主査の宮崎和也さん。「山梨県は古くから小水力発電が盛んな再生可能エネルギーの宝庫」と語る

 

神鋼環境ソリューションは神戸製鋼グループで、純水製造、海水の淡水化技術や、産業廃棄物の最終処分場の浸出水の浄化技術などの水処理技術を有しており、半導体や化学メーカーに欠かせない水素ガスの発生装置を1990年から開発してきた。膜を使用した水処理膜で純水をつくり、電気分解で水素をつくり出す水素発生装置の販売実績は、国内で100台以上。例えば鉄鋼では表面処理する際に酸素があると鉄が酸化して真っ黒くなるが、水素を流すと参加を防ぎ均質な製品ができるため、水素は鉄鋼や半導体などの産業に欠かせないガスとして使われてきた。

 

水素は最も比重の軽いガスで、熱交換しやすい。ただ、一定の濃度範囲に至ると爆発の危険性が出てくるという特性もある。

 

ゆめソーラー館やまなしでの実証実験では、逆浸透膜非再生ポリシャー(イオン交換樹脂)でつくり出した純水を電解セルに送り、純水を電気分解して酸素と水素を取り出す。酸素はそのまま大気中に放出し、水素はタンクに貯めておく。純水を使うのは良質な水素を取り出すためで、純水素型燃料電池への水素供給という目的がある。

 

取り出した水素は、館内の電力が足りない時に純水素型燃料電池に送り、大気中の酸素と化学反応させ、水と電気をつくり出して館内の電力として使う。

 

太陽光発電や風力の発電量は気象条件によって変動がある。ゆめソーラー館やまなしでの電力供給では、たとえば1日とか、時間単位の発電電力の比較的小さな変動などは蓄電池に充電し、館内の電力需要にも対応できるだろう。また、日照時間や天候といった比較的大きな変動などに対しては、太陽光発電で得た電力を水素としてタンクに貯蔵し、その水素を燃料電池に送り発電して対応することも可能という利点がある。タンクの圧力は7気圧とあまり高くせず、安全性にも配慮している。

 

エネルギーの未来をどう考えるか? その問いに、神鋼環境ソリューションプロセス機器事業部営業部課長の須田龍生さんは、「いま目の前にあるこの機器が、私たちの考え方の一つになるだろう」と答えた。この実証実験のポイントは、水を電気分解する際のエネルギーが再生可能エネルギーであるという点。日変動や季節変動が大きい太陽光発電で、どれだけ安定的に水素を発生させることができるのか、また純水素型の燃料電池で発電の安定性と耐久性を確認している。現在は、太陽光発電で生み出す直流の電気を交流にしてから電気分解に回しているが、いずれは直流のままつないでいくという目標も見据えている。

 

太陽でつくった電気で、水を電気分解して、酸素と水素を取り出し、水素をエネルギー源として貯める。エネルギーが必要になったら、水素を取り出して空気中の酸素と化学反応させて、水と電気をつくる。新しいエネルギー源として注目される「水素」。わたしたちの暮らしに水素が根づく水素社会が遠からずの将来に来るとしたら、いまゆめソーラー館やまなしでおこなわれているこの実験は、間違いなくその礎になるだろう。

 

米倉山太陽光発電所。展望台から眺める景色は圧巻。約8万枚もパネルがびっしりと敷き詰められている

 

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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