Vol.21 港北区の篠原城を舞台にした読み芝居に出演する、俳優の五大路子さんです!
戦国時代、小田原を本拠地にした後北条氏の時代に、横浜北部に小机城が築かれました。わたしたちの住まいの近くには、小机城の支城である荏田城や川和城、佐江戸城、そして新横浜駅近くに篠原城の跡地が残っています。
港北区に生まれ育ち、篠原城址を遊び場に幼き日々を過ごした五大路子さん。NHK朝のテレビ小説や大河ドラマで活躍し、この20年は横浜をテーマにした舞台を手がけ自ら演じる、日本を代表する俳優です。
12月1日(土)、2日(日)に篠原城を舞台にした読み芝居「まぼろしの篠原城」の語りを務め、本作の企画・構想段階から携わってこられた、五大さんの横浜に対する想いをお聞きしました!

大地とともに生き、耕した先人のいのちを、心の中によみがえらせる

 

ーー 五大さんが企画・構想段階から中心となって関わり、12月1日・2日に上演する読み芝居「まぼろしの篠原城」は、いまの新横浜駅周辺が舞台とのことですが、五大さんが今回このお芝居をつくるきっかけをお聞かせください。

 

10月25日に開催された港北芸術祭「まぼろしの篠原城」記者会見の様子。中央が五大さん(提供:篠原城と緑を守る会)

 

五大路子さん(以下敬称略): 今年はちょうど、港北芸術祭実行委員会設立20周年の記念の年にあたります。私は港北区出身でいまもこの地に暮らしており、港北芸術祭には設立当初から関わっています。港北区在住の芸術家、アーティストたちが、この地域で生み出される本物の芸術作品にふれられる機会をつくろうと自ら手弁当で始めた企画で、設立20年に向けて記念になるような作品をつくろうという機運が起きたのが一昨年のことです。ちょうどその時、旧篠原城址が開発で地形が変わろうとするタイミングで、遺跡などの発掘調査も行われていました。

私たちの住むまちにありながら、開発され存在が忘れ去られている古城。しかしそこには、私たちの先祖が生きてきた歴史が確かに存在しています。遺跡からは縄文期の料理に使った焼き石や、武家儀礼に使われてきたカワラケ(土器)、堅固な守りの堀などが見つかりました。大地とともに生き、耕し、戦国を生き抜いてきた人々の絆や、農民たちが戦から逃れ身を守るためにさまざまな知恵と工夫、助け合いをしてきた絆も、遺跡や文献からうかがい知ることができます。

読み芝居「まぼろしの篠原城」は、史実をもとにした創作劇です。地域コミュニティをつくってきた先人たちのよき心、思いやりを、ドラマいう形でよみがえらせ、当時のふるさとの姿をいまここに住む人たちに伝えたい、そういう想いから、このお芝居を企画しました。

ーー 五大さんは港北区で生まれ育ったとのことですが、幼い頃は篠原城の跡地でも遊んだ思い出があるそうですね。

 

記者会見ではプレリハーサルもおこなわれ、尺八とチェロと語りの見事な融合がみられた(提供:篠原城と緑を守る会)

 

五大: 篠原城は、子ども時代の私たちにとって、楽しい遊び場でした。緑もあり、隠れるような場所もあって……。父は歴史が好きで、ここは空堀の跡だったんだよ、などと案内してくれたものです。父はいつか孫と一緒に篠原城址で遊びたいと思っていたようで、私が出産して子どもと一緒にここに来て父と過ごしては、親から子へ、子から孫へと、家族の絆を伝えていく場でもあった、とても大切な場所です。

しかし、新横浜駅から徒歩10分ほどの篠原城址も、開発の波から逃れることはできず、どんどん大地が削り取られ、地形が変わっていきました。かつてここに生きた人たちの、大地と格闘し、耕し、お互いが手と手を取り合い助け合い生きていったいのち、そしてその城があったことすら忘れ去られてしまう……。

そう思った時に、私にはお城の建築はできないけれども、お城にまつわる史実から物語をつくり、音楽と語りで心の中にお城をよみがえらせることができるのではないか……。そう思って、私のお芝居でお世話になっている脚本家・演出家の畑圭之助さんと一緒にお城を発掘し、脚本と演出の書き下ろしを依頼し、港北芸術祭の実行委員でもある尺八奏者の三橋貴風さん、チェロ奏者の堀了介さんに声をかけ、音楽と語りが織りなす三重奏での読み芝居の制作に着手しました。

ーー 篠原城の歴史をひもとき、そこから物語をつくっていったのですね。

五大: 篠原城は、戦国時代に後北条氏の支配下におかれた小机城の支城だったと言われており、戦国時代の城主は小机衆の金子出雲だと思われます。小机衆とは、小机城主の配下に属する29人の武士集団で、そのうちの多くが後北条氏時代の前からこの地域に土着していた武士だと考えられています。

城代である金子出雲とその二人の娘たちを軸に物語は展開します。当時の農民たちの多くは、豊臣秀吉による小田原攻めを回避しようと、一生懸命に動いていたことが史実からもわかっています。篠原城付近では、20年ほど前まで築城以来400年近く念仏講が続けられており、こうした歴史を知る地元の古老の方にお話を聞いたり、文献を読んだりしながら、当時の情景にイメージを馳せ、物語を紡ぎ上げていきました。

 

記者会見後、篠原城址を見学。子どものころ遊んだ篠原城址を案内する五大さん(提供:篠原城と緑を守る会)

 

 

豊かな緑と自然は、横浜北部の「宝物」

 

ーー 五大さんと言えば、NHK朝のテレビ小説や大河ドラマなどで有名ですが、ここ10数年は「横浜ローザ」「長谷川伸の心の女たち」など横浜をテーマにしたお芝居を精力的に続けていらっしゃいます。横浜夢座を立ち上げ、市民とともに横浜を題材にした演劇を発信し続けていることを認められ、2003年に横浜文化・芸術奨励賞や2008年に第29回松尾芸能演劇優秀賞、2011年に長谷川伸賞を受賞されました。横浜夢座の最新作は、野毛を舞台にした「野毛武蔵屋」です。五大さんがここまで横浜にフォーカスして芸術活動を行っている理由をお聞かせください。

 

記者会見後、篠原城址を見学。子どものころ遊んだ篠原城址を案内する五大さん(提供:篠原城と緑を守る会)

 

16歳の時に初めて演劇にふれた時の初心を大切に、横浜をテーマにした芸術活動をおこなう五大さん。自分のふるさとでもある横浜北部の篠原城への思いも強い

五大: 先ほどお話したように、私は横浜市で生まれ育ちました。16歳の時に神奈川県青少年センターの演劇講座に通い、そこから演劇の道に進みます。当時の横浜は、東京発の美術や音楽や演劇の地方公演がやってくる、そんな時代でした。16歳の私の心には、「この横浜にはもっと人々の夢見た想いや生き様があったはずだし、それを手で掘り起こして、横浜発の演劇を発信したい。たくさんの人々を横浜に呼びたい!」という夢が宿りました。

その後私は女優の道を進み、結婚、出産、子育てと人生のステージが移るのですが、30代後半になったある日突然、足が動かなくなる出来事が起こりました。1年間の苦しい闘病生活のなかで、自分自身に向き合う日々が続きました。

「私は何のために俳優になったの? 何のために生きているのだろうか?」

この問いを続けるなかで、16歳で初めてお芝居を始めた時の初心がよみがえってきたのです。

そうして、横浜をテーマにした演劇を発信しようと心に決めました。横浜・日ノ出町で生まれ育った小説家で劇作家の長谷川伸さんの人生や作品を追うことから始めました。当時の日ノ出町は横浜随一の歓楽街でもあり、戦後の動乱の中を生き抜いた人たちの喜怒哀楽がまだ残っていた時代です。

そのころ運命的に出会ったのが、横浜伝説の娼婦・メリーさんです。メリーさんは白いドレスを着て白塗りの厚化粧をし、老齢を過ぎてなお伊勢佐木町の街角に立っていました。戦後、米兵相手の娼婦として終戦後の横浜を生き抜いてきた女性です。彼女のことを取材して歩き、探索し、発掘していくごとに、自分がいままで見えなかったものが、はっきりと見えてくるようになりました。メリーさんの人生を翻弄したもの、それは「戦争」です。

メリーさんの人生をテーマにした舞台「横浜ローザ」は1996年に初演して以来、来年で18年目になります。メリーさんを演じることは私のライフワークであり、いまなお古くならない、常に「いま」という時を問い直す作品です。

昨年、東日本大震災という大きな出来事が起こりました。私も釜石市に足を運びその地に立ち、焼けただれた大地を見つめました。いま、もしメリーさんが生きていたら、どんな思いでこの大地を見つめ、そして生き抜いたのだろうか。その気持ちが、今年もまた私を「メリーさん」に向かわせるのです。メリーさんを演じることを通して、私はいつも「いま」を見つめ直しています。

メリーさんは2005年に亡くなり、メリーさんのことを知っている人も少なくなり、戦争を知っている人も、次々と鬼籍に入っています。時代に翻弄されながらも、強くたくましく生き抜いている人の姿を演じる……。だからこそいまを問い直す普遍的なテーマがこの作品には息づいていると思います。

 

記者会見後、篠原城址を見学。子どものころ遊んだ篠原城址を案内する五大さん(提供:篠原城と緑を守る会)

 

五大さんの代名詞とも言える芝居「横浜ローザ」。2013年も8月より上演予定。「メリーさんの人生が伝えるテーマは、いまなお決して色あせることはない。子育て中の若い世代のお母さんたちにぜひ観ていただきたい」(写真:横浜夢座ホームページより)

ーー 今回は、地元・港北区の歴史をテーマにした作品を演じられるわけですが、五大さんから見た、横浜北部の魅力とは?

五大: 私の小さなころの原風景は、篠原城址や近くの川で遊び、田んぼの畦でれんげやたんぽぽを摘み、小川にはお魚がいて……そんな緑に囲まれていた日の思い出が残っています。

やがて私も母になり、生まれ育ったこの土地で子育てをするようになり、近くの鶴見川に散歩に行った時のこと。川に魚の姿がない! これには大きなショックを受けました。気づけば動物や植物が消え、ふるさとそのものが消えていくかのような感覚で……。しかし、ここに暮らす人たちが、豊かな緑や環境を守ろうと一生懸命活動をし、やがて鷺などの鳥や魚を発見するようになりました。

横浜と言えばどうしても港のイメージが強いのですが、横浜北部は緑がとても豊かで生き物が自然にいる、そこで子どもたちが自然に遊ぶ。その環境が横浜北部の宝物だと思います。

私が演劇をやっていくうえで感じていることは、幼児体験でふれた自然との関わり、小川のせせらぎや動植物とのふれあい、こういったものはすべて感性の源になり、表現の世界で生きてきます。深呼吸ができるまち。そういう自然が身近にあるということは、今の時代の最高の宝ではないかと思います。

ーー 私たちが暮らすまちの歴史が舞台のお芝居、「まぼろしの篠原城」は、ぜひお母さん世代の女性にも観ていただきたいですね。

五大: 新横浜の駅からすぐ東、実は小高いほっこりとした山々があります。あっという間に消えてゆくかもしれない城址。この自然のなかで、かつて力を合わせて生活を守り、時代の嵐の中で生き抜いてきた人たちが確かにいました。一人ひとりの心のなかに、それぞれの「まぼろしの城」をよみがえらせて、ふるさとを愛する心を育みたい……。

私も母として二人の子どもをこのまちで育てました。地元の、ふるさとの城をお芝居でよみがえらせ、ふるさとを愛する心を、地域の人々、子どもたちにも伝えたいと思っています。ぜひ家族でお出かけいただけたら幸いです。

 

 

□取材を終えて……

幼い頃から大河ドラマフリークのキタハラにとって、五大路子さんは憧れの女優さんのお一人。そして、山形城三の丸エリアで生まれ育っているので、城址というのは遊び場であり、家族や土地の歴史そのものであり、城の存在はアイデンティティを形成するうえで欠かせない要素です。

五大さんが横浜夢座を立ち上げる時に、青葉区に住むご友人が、「あなたの想いがぶれずに、まっすぐ気持ちを持ち続けて本気でやれば、絶対に実現できる」と励ましてくださったそうです。そうして五大さんはいまなお、夢を紡ぎ続けていらっしゃいます。

いまを生きる子育て世代の女性たちに、戦争、戦後を伝えていきたいと五大さん。いつか森ノオトエリアの女性たちと「横浜ローザ」の観劇と感想を語り合う会をしましょうとお話しして別れました。来年「横浜ローザ」上演の際は観劇会をぜひ企画したいと思います。

その前に「まぼろしの篠原城」。残席わずかとのこと、自分の心のふるさととも言える「お城」を、この地でたくましく生き抜いてきた人々の想いを、それぞれの心によみがえらせる―—。読者のみなさんにぜひ、おすすめします!

Information

五大路子(ごだい・みちこ)

女優。桐朋学園演劇科に学び、早稲田小劇場を経て新国劇へ。NHK朝のテレビ小説「いちばん星」でテレビの主役デビュー。1999年横浜夢座を旗揚げ。2003年一人芝居「横浜ローザ」で横浜文化・芸術奨励賞、2008年横浜の地域文化振興に大きく寄与したとして第29回松尾芸能症演劇優秀賞、2011年第46回長谷川伸賞を受賞。テレビ「独眼竜政宗」「蝉しぐれ」「葵 徳川三代」。舞台「長谷川伸の心の女たち」「野毛武蔵屋」。映画「ヨコハマメリー」「DATH NOTE」「プライド」に出演。港北区在住。

 

読み芝居「まぼろしの篠原城」

~新横浜の 笹繁る丘に花ひらく戦国ロマン~

日時:2012年12月1日(土) 17:30開場・ 18:00開演

2012年12月2日(日) 13:30開場・ 14:00開演

会場:港北公会堂(横浜市港北区大豆戸町26-1・東急東横線大倉山駅より徒歩7分)

出演:五大路子(語り)

堀了介 (チェロ)

三橋貴風(尺八)

入場料:前売 一般 2,500円/小・中学生 1,000円(全席自由)

当日 一般 3,500円/小・中学生 1,500円(全席自由)

※前売り券が完売した場合、当日券なし

※未就学児入場不可

※当日券は港北公会堂のみにて販売

チケット販売所は、「チケットぴあ」「ローソンチケット」「日吉駅東急テコプラザ」「マルエツ大倉山店」「港北区役所」

詳細:http://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/sinkou/bunka.html#sinohara

http://www.yumeza.com

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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