書評『日本の地下水が危ない』
私は常々、日本はとても豊かで恵まれている国である、と感じます。物質的豊かさに代え難い、生活、命に欠かせないものが、とても良質であり、豊富に手に入る……。日本ほど「水」に恵まれている国もないのではないでしょうか。当たり前のように享受していた日本の水が、いま危機に直面しています。水ジャーナリストの橋本淳司さんは警鐘を鳴らし、いまこそみんなで動き出そうと呼びかけます。

東日本大震災の直後、我が家で最も緊迫した瞬間は、3月22日に東京や横浜の地下水が放射能汚染されたというニュースが駆け巡った時でした。ペットボトル水の大ブームが一段落し、水のエコを考えた時に、水道水を飲むのが最も環境負荷が少ないというキャンペーンが起こり、家庭でカルキを抜いた水を毎ボトルに入れて持ち歩く、そんな機運が高まり始めていたころ……。

 

横浜、特に青葉区に住んでいると、水道水の美味しさに驚く人も多いと思います。日本の大都市の中でも特別に横浜の水は美味しいと言われています。森ノオトでも何度か紹介している、山梨県は道志村の清流の水が、高度な上水処理を経て、青葉区に届いているのです。水道水はカルキ臭い、そのイメージは拭われつつあるはずなのに……。

 

 

水の放射能汚染によって、ペットボトル水や10〜12リットル入りの宅配水の需要はうなぎ上りに。ペットボトル水は飲料メーカーが豊かな森林資源のある地域の地下水を組み上げることが多く、宅配水大手メーカーは水道水を高度な膜処理でろ過し、ミネラル分を添加しています。

 

蛇口をひねればきれいで美味しい水が非常に安価に得られる日本で、ガソリン(化石燃料)を使いCO2を排出しながら、毎日、大量の水が運ばれているのです。

 

海外旅行をするたびに、日本はなんて水に恵まれているのだろう、と実感します。ヨーロッパではシャワーを浴びようにも水圧が低くて洗った気がしない。クレンジングだって水を使わない拭き取り型が流行しているのも、水の質がよくないからという説も。東南アジアの旅行では「生水は飲まないで」と念を押されます。

 

そんな風に、水に苦労している海外資本が、こぞって日本の地下水を狙っているという、衝撃的な事実から本書『日本の地下水が危ない』はスタートします。水不足に悩む中国が日本の水源地を取得しようと動き出し、森林経営につまずく山林地主は山を売りたいと手を挙げる。こうした動きは国境を越え、グローバルに進んでいます。大河の流れまで変えようとする中国に対し、日本の地下水をどう守っていけばいいのでしょうか。

そもそも、日本の水が美味しいのは、なぜ? 森ノオトで湊光代さんも再三紹介していますが、森林が水をたくわえ、長い時間をかけてきれいな水を育むのです。

実は稲作も日本の地下水をたくわえる大切な役割を果たしています。本書では、熊本市の「ごはん1杯、地下水1500リットル」というエピソードを紹介していますが、水田に張った水が地下水の「水がめ」の役割を果たしているのです。そのため、熊本市では地下水かんようのため冬季にも水田に水をはる「冬水田んぼ」に、市を挙げて取り組んでいます。

橋本さんはまた、「パン食が地下水を減らす」とも言っています。日本人の1人あたりの米の消費量は減り続け、ついに2011年、米の消費額がパンに追い越されています。食べ物をつくることと食べることは密接につながっています。森林を守っていくことに加え、日々、米を食べることが地下水を守ることにつながっているということに改めて気づかされます。

地下水は、地下を流れる川のようなもの。豊かな地下水盆の地で生まれ育った私は、自分のDNAに刻まれた水の歴史と記憶がカラダに染み付いています。実は地下の川を守る法律は、日本にはまだない。橋本さんは、地方自治体を飛び回りながら、豊かな生態系と水を守るために、私たち自身が暮らしのなかでできることを発信し続けています。

 

私たちには、豊かで美しい水に恵まれている。そして、その水がいま、危機に瀕している。私たちにはできることがあります。毎日暮らすなかで、毎日食べるなかで。その一歩は、まず、知ることから。水を知りたい森ノオト読者におすすめの1冊です。

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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