Vol.23 今年で活動20周年、子どものワークショップ代表の浦部利志也さんインタビュー
今年で活動20周年を迎えた子どものワークショップの活動報告展示会「寺家の風土〜感性かがやく子どもたち」展が、本日2013年4月12日(金)から4月26日(金)まで、寺家ふるさと村の四季の家で開催されています。寺家ふるさと村の豊かな自然のなかで、子どもに寄り添い創造性を育む浦部利志也さんに、20年間の活動を振り返っていただきました。

●空の下で子どもの創造性を広げていこう

 

キタハラマドカ(以下、キタハラ): このたびは20周年おめでとうございます。私が浦部さんの活動を知ったのは今から12年前、寺家ふるさと村の農地で子どもたちと花を育て、子どもたちが地元の人とふれあいながら絵を描く姿に感動した同僚記者の紹介でした。それから雑誌編集者になって、浦部さんのおもちゃを紹介させていただいたり、細々と交流を続けていくなかで、「いつか子どもができたら、浦部さんのワークショップに参加させたいなあ」と思っていて。4歳になった娘は念願の「子どものワークショップ」デビューを果たしました。娘は「うらべせんせい」のことが大好きで、隔週のワークショップ参加を指折り楽しみにしています。

 

浦部利志也さん(以下、敬称略): 今年の最初のワークショップ(1月)に初めて娘さんが参加した時、水車小屋前の畑で咲いたばかりの菜の花のつぼみをみんなで摘んで、塩をちょっと入れた熱湯でさっと湯がいて食べたんですよね。小学生のお姉ちゃんたちに助けられながら、自分で摘んだ菜の花のほろ苦い味は、娘さんの心身に鮮烈な印象として残っているんですね。

 

子どもたちの表現活動にとって、花は素晴らしい題材だと思っています。命があって、美しくて、花を人に手渡すことは自分の表現を相手に伝える手段にもなります。ワークショップでは子どもたちが育てた花を切り花にして、寺家ふるさと村を散歩する人たちに販売もするんです。子どもたちは、花を手にした人が喜ぶ笑顔を見ることで自分の表現に自信を持ち、喜びの体験を外に向けて発信する一歩になります。時には売れないこともありますが、現実のなかでトライすることで、子どもたちの体験としてしっかり刻まれていきます。

 

キタハラ: いわゆる「教室」ではなく「ワークショップ」という形式で、場所も四季の家の集会所で造形をすることもあれば、屋外に出て遊ぶこともある。このようなスタイルで始めたきっかけは?

 

浦部: 技術を教え高めるための場である「教室」の対比としてとらえると、「ワークショップ」はそれぞれが心を動かす主体的な学びの時間と言えます。

 

私は麻生区に住んでいるのですが、ちょうど20年前に寺家ふるさと村を訪れ、この地の自然や農家の方々の姿に心打たれました。自然の中では、草花、風、太陽の光、土など、様々なものにふれることができます。色々なものに出会うなかで創造性が育まれ、エネルギーが満ちあふれていく瞬間がありますが、それは狭い室内空間ではなかなか発揮しにくい。空の下で子どもたちの望むことをしたいと思って始めたのが「子どものワークショップ」です。

 

菜の花が一面に咲き誇る3月の水車小屋前で

●自然体験を共有して、心の距離が縮まる

 

キタハラ: 子どものワークショップは、寺家ふるさと村のフィールドを最大限に引き出したプログラムが最大の魅力だと思います。森ノオトでもかつて「田んぼパーク」(→リンク)や「森のこども道場」(→リンク)を取り上げたことがあります。

 

浦部: 「田んぼパーク」は横浜市環境創造局のまちづくり協働事業で青葉区内の近隣保育園に対しておこなった「ワークショップツアー」の一貫で、稲刈り後の田んぼをお借りして子どもたちが田んぼのなかで自由に遊べる空間をつくったものです。ワラ山に飛び込んだり、泥んこになって転げ回ったりして、大声を出して笑って、思い切りカラダを動かす。それができるのは空の下なんです。

 

「森のこども道場」は、ワークショップに参加している子どもたちが考えました。寺家ふるさとの森の中に幾つかの道場を構えて、参加する人たちはそれぞれの道場に入門するんですね。子ども師範に弟子入りする「忍者道場」、尾根のテーブルでは「手づくり皿回し」や「森のレストラン」など。子どもたちが考えるプログラムは、緻密さでは大人には適いませんが、大きくなった時に地域の中で生き力を尽くしていく原点になっていくような気がします。

 

キタハラ: それから、地元で大きな話題になった「月明かりと夜の森」。これは満月の夜に灯を持たずに寺家ふるさとの森を散歩するという、ちょっと不思議な体験ですよね。

 

浦部: 「月明かりと夜の森」を発想したのは、今の子どもたちは夜の闇を体験したことがあるんだろうか? と考えたことがきっかけです。近隣の複数の中学校の生徒たちを招いて、学校の異なる生徒同士のグループをつくり、冬の満月の夜に月明かりだけで寺家ふるさと村を歩きました。ドキドキしながら夜の森を歩いていくと、子どもたちは自然と打ち解け、最後には手をつないでほっとした表情で戻ってきます。

 

自然の中での体験では、いじめや社会での孤立感など、現代社会で起こっている様々な問題を一気に越えて、手を結ぶ気持ちを思い出させてくれます。

 

こうした冒険ができるのも、ワークショップの保護者の方々や、地元で土地を貸してくださる地主さん、月明かりの時は寒い夜に豚汁を振る舞ってくださった青山亭さんや活動拠点になっている「四季の家」など、地元の方のご協力があってのことです。

 

浦部さんはデザイナーとしても活躍。木のおもちゃづくりなども手がける

●地域と解け合いながら、子どものために生きる

 

キタハラ: 寺家ふるさと村は里山の豊かな自然と農空間が絶妙にマッチしていて、とても魅力があり、私も大好きなエリアです。寺家に魅せられて多くの方々がアートや農の活動を始めてもいますが、一方で鎌倉時代からの長い歴史があり、地元に長く根ざす方々に活動を理解していただく難しさも垣間みられます。20年活動を続けてこられた浦部さんが、地元の方とのおつきあいで心がけていることとは?

 

浦部: 20年前に「ここで活動したい!」と思った時に、寺家町に150軒ある家々を訪ね歩いて、自分のビジョンを話して協力を呼びかけて回ったんです。新参者がある日突然やってきて何か言ってくるので、当然ながら相手にはされません。ところが、ある方が私の思いを理解してくださって、活動フィールドをポンと貸してくださった。その時に、「この活動でかなえる夢は、自分だけでの力で実現できるものではない。地元の人たちは他人ではないんだ」と感じたんですね。

 

長く活動するなかでは、時に難しい局面にぶつかることもあります。何かをやろうと思う時に、まず真っ先に土地の人の顔が頭に浮かぶんです。思い切り野心的に、冒険、チャレンジしてみたいという気持ちと、それをやることで地元の人たちが本当に喜ぶのかどうか、そこはよく考えますね。それでも、自分らしく素直に、ただただひたすら、活動する。そうすると、地元の方との共通する思いも見いだせるようになる。それが20年間活動を続けていくなかで感じていることです。

 

キタハラ: そうして今年度は、地元の方から水車小屋の隣の里山を貸していただくことになりましたね。

 

浦部: 「1年間、まずはやってみましょう」ということで、地主さんに水車小屋の畑の隣の里山を提供していただきました。道沿いにあり、日当りもよく、素晴らしい場所です。今は高さ3〜4メートルの笹に覆われて、春が来る前は笹を刈って道を切り拓いて、これからようやくこの山をいかにデザインしていこうかという段階です。

 

山の中で寝っころがって、いわゆる「山」や「公園」ではできないようなことをやって、子どもも大人もワクワクする場にしていきたいですね。

 

キタハラ: 先日、浦部さんの案内で笹をかきわけ山に登りましたが、頂上では桜の大木が倒れていて、根っこが屏風のように大きな壁をつくっていて、自然が与えてくれるインスピレーションに身震いがしました。この場所でできることの可能性は無限大だ、と。

 

水車小屋前の里山。現在は整備中なので定例の作業日以外は入れない

 

浦部: 今の時代、子どもたちは家庭や学校、塾の行き帰りに明け暮れ、小さな室内空間の中で閉じこもっていて、せっかく持って生まれた自由な精神や創造性までもが開かれる機会が減っているのは残念です。空の下なら、大きな声をあげても、思い切り走ったりカラダを動かしても、自由に子ども本来の姿でいられます。そういう体験を積み重ねることで、人との距離がギュッと縮まったり、人に対しても、心も、開いてくる気がします。

 

この山にある笹も、木の棒も、自分たちで育てる花も、子どもたちの創作活動のいい素材です。自然から生まれた素材で形のあるものや文学作品をつくって、里山の中で小さな経済を発展させるのも面白い。そうして、寺家の自然の中で散歩している人に、声をかけたり、時には作品を販売したりして、ちょっとした関係性を現実社会のなかで育んでいく。人とのコミュニケーションも、子どものワークショップの創作活動と言えるかもしれません。

 

キタハラ: 4月12日(金)から26日(金)まで開催される活動報告展示会「寺家の風土〜感性かがやく子どもたち」は、どんなコンセプトですか?

 

浦部: 最初は20年間の年表の展示も考えていたのですが……だんだん「感謝だなあ」という気持ちになって、「寺家の風土にありがとう」というテーマで、子どもたちの眼差しや笑顔、OBやOGのコメント、子どもたちが見つけた寺家の宝物マップなどをパネル展示していきます。

 

キタハラ: これから娘は長いことお世話になると思いますが、たくさんのお兄さんお姉さんに混じって、多くの大人と寺家の風土に育てられ、どんな作品を残していくのか楽しみです。私も保護者の一人として、末永くよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

 

子どもたちが育てた菜の花も「作品」として、世に送り出している

 

■キタハラ’s eye
 いつもやさしい笑顔とやわらかい声で、子どもたちを見守っている「浦部先生」。柔和な表情ではあるものの、瞳の奥はいつもキラリと鋭く光っています。子どもを里山で遊ばせる時、小さな危険は常につきもの。この「リスク」は乗り越える楽しさと紙一重で、成長するための重要な体験要素だと先生は言います。

 一方で、小さな子どもが回避しにくい危険を「ハザード」として、大人が事前に予見して取り除くための準備をする。リスクを残しながらハザードを取り除く、そこにワクワクする発見と楽しさ、そして喜びが生まれます。

 子どものワークショップがかけがえのない体験を提供しているのは、こうした浦部先生の多方面に目を光らせる細やかな配慮があってのこと(リスクとハザード以外にも、人の心に対する気配りも一流!)。子どもの目の輝きのために、私たち大人も日々、やさしく鋭く目を光らせていきたいものですね。

 

■子どものワークショップホームページ
http://childws.com

 

□ 風土組(5歳より 毎週水曜日15:00〜17:00)
□ 葉の組(5歳〜小2 隔週土曜日13:30〜16:30)
□ 樹の組(小3〜小6 隔週土曜日13:30〜16:30)
□ 萌組(2歳〜4歳の親子 月1回土曜日9:45〜11:45)
合同実施日や一般公開ワークショップもあります。詳しくはHPをご覧ください

 

■ 20周年活動報告展示会「寺家の風土〜感性かがやく子どもたち」展
日時:2013年4月12日(金)〜4月26日(金) 10:00〜17:00
場所:寺家ふるさと村「四季の家」

 

■子どものテンポ
日時:2013年5月11日(土)〜5月12日(日) 10:00〜15:00
場所:寺家ふるさと村「水車小屋」前
寺家のカースタジアムや「しぜんのかくれキャラクター展」など、子どもによる子どものためのお店をつくって、お客さんと一緒に楽しみます。

Information

浦部利志也(うらべ・としや)

寺家ふるさと村を拠点に、里山の自然を題材にした子どもの造形創作活動「子どものワークショップ」を展開し、今年で20周年を迎えた。6年間続いた横浜市環境創造局との協働事業「ワークショップツアー」では「田んぼパーク」や「森のこども道場」などユニークなプログラムが注目を集めた。青葉区の地域力アップ協働事業「月明かりと夜の森」は青葉区の子どもの風土サポートネットとして受託し6年間継続、評判を呼んだ。
定例の活動のほか、近隣の保育園・幼稚園・小学校・中学校の子どもたちや、一般参加も可能なプログラムも。プロダクトデザイナー、おもちゃデザイナーとしての活動や、大学で造形表現の分野で教鞭をとるなど、多彩に活躍している。

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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