Vol.27 横浜国立大学地域実践教育研究センター長 佐土原聡さんインタビュー
地球温暖化が原因と考えられる猛暑や豪雨などの気象災害、都市の排熱やアスファルトの照り返しによるヒートアイランド現象……。そして、いつ起こるかわからない自然災害のリスク。地球環境対策と防災の課題解決に向けた最先端の取り組みが、横浜市で始まっています。ICTプラットフォームを活用した「地球環境未来都市」とは? いま注目を集めつつある「データ」は私たちの暮らしをどう変えていくのか? 
2013年7月26日(金)の「あおばECOアカデミー第3回」の講師でもある、横浜国立大学地域実践教育研究センター長 佐土原聡先生にお聞きしました!

●deep,big,open……3つのデータの統合的プラットフォーム

 

キタハラ: 地球温暖化問題が注目されるようになったのはここ7-8年のことですが、特に近年の真夏の暑さは尋常ではありません。赤ちゃんやお年寄りのいる家庭では本気で健康の心配をするほどです。今後数十年間は温暖化の影響を避けられないと言われています。今後、どのように対策していけばいいのでしょうか?

佐土原聡さん(以下、敬称略): 近年、豪雨に伴う土砂災害や生物多様性の喪失、都市においては防災力が低下など、様々な側面で気候変動の影響が現れてきています。気候変動への「緩和策」と「適応策」を同時に行わなければならない時代です。

キタハラ: 「緩和」と「適応」とは、具体的にはどういうことなのでしょうか。

佐土原: 緩和策とは、平常時にいかに気候変動に対応していくのかということで、具体的には風の道を生かした緑豊かな地域づくりや、高効率なエネルギーシステムの構築といった、「低炭素地域づくり」をイメージしていただければよいと思います。

一方、適応策とは非常時にどう備えていくかということで、都市においては災害時にエネルギー供給が途絶えにくい、つまり「災害時に被災しにくい地域づくり」と言えます。

緩和・適応を統合した案として、緑豊かな生態系サービスを生かし、自立分散型の拠点が連携した地域づくりを私たちは目指しています。こうした都市像のビジョンを共有しながら、「環境」や「防災」など専門分野に分かれた縦割り型の議論ではなく、産官学が連携しながら統合的に進めていかなければならない課題です。

2012年7月に設立した「地球環境未来都市研究会」は、地球環境問題の緩和・適応策を必須とする大都市で、地球環境対応型の都市のリ・デザインを目的に、今年、本格的な活動を開始しました。

リ・デザインのツールは、最先進の情報通信技術を結集したICTプラットフォームです。具体的には、地圏・水圏・大気圏・生物圏・人間圏の科学的知見(ディープ・データ)を基にして、大都市に集まるビッグ・データ(スマートフォンなどで発信される位置情報や、SNSのトレンドキーワードなど)、行政情報の発信(オープン・データ)の3つを重ね合わせ、シミュレーション結果も格納できるような統合的なICTプラットフォームの構築と活用に向けて共同研究や実調査を始めています。

キタハラ: オープン・データはまさに旬のキーワードだと思います。私たち「森ノオト」も小さなメディアですが、地球環境問題についての情報やデータをいかに生活者向けにかみくだき、生活実感として等身大に発信していけるか、「翻訳」能力が問われていると思います。

佐土原: データや情報はこれからの社会インフラの一つだと思います。今後、市民がどうデータを理解し、自治体はどう使いやすく提供していくか、力が試されるのではないでしょうか。

神奈川県では2020年をピークに人口が減ります。産業構造の変化も著しく、1990年を境に製造業から金融やICTなどの知識集約型の産業に転換し始めています。今後は都市をコンパクトに縮小し、郊外から都心に人口回帰することが予想されることから、郊外を中心に空家・空き地が発生します。生産人口が減るので税収も減り、自治体の機能も縮小せざるを得なくなることから、社会的コストを減らすには市民の力をいかに活用するかということにつきます。そのキーになるのが情報・データなのです。

 

●環境現象をデータで理解すると意思決定がスムーズに

 

層ビルが林立する横浜・港エリアの温度シミュレーション(未公開)について説明する佐土原先生

 

佐土原: いまお見せしているのは外部研究機関に提供していただいた研究途中のシミュレーションで、みなとみらいエリアで建物から出ている冷房の排熱を地図上で可視化したものです。

キタハラ: 排熱がまるで壁のように立ち上がっていますね……! 赤や黄色に染まっていて怖いくらいです。

佐土原: このシミュレーションは計算上のもので、今後正確なデータを測って高い精度で検証していきます。都市の排熱の温度が高いところほどエネルギーをたくさん使っているところと言えるのですが、一つの仮説として、排熱が上昇気流を起こして、海側からの風を遮る可能性が指摘されています。そうすると、本来は海風が入り涼しいはずの場所が暑くて、ますます冷房のエネルギーを消費してしまうという悪循環が起こります。

大都市の場合は、排熱によるヒートランドでその傾向が顕著です。上昇気流が発達すると雲をつくり、雨を降らす可能性がないとも言えません。地表面に緑地を植えると温度を抑えるのに効果的で、水面だとさらに温度が低く抵抗がないからそこを風が渡るようになると考えられます。土地利用の仕方、地表面の都市デザインが、どう私たちの環境に影響を与えているのかを可視化すると、緩和策と適応策の統合的な進め方が見えてきます。

キタハラ: 私たちの行動が天気を変えてしまうところまで……ちょっとショックです。こうして排熱の影響と環境の関係が目で見てわかると、私たち市民も感覚的に理解がしやすいですよね。市民一人ひとりが温暖化対策のための具体的な行動のきっかけにもなりそうです。

佐土原: 研究機関がこうしたデータの蓄積と提供をし、自治体やメディアがわかりやすく伝えることができるようになると、市民の行動を喚起し、社会が変わっていくのではないかと思います。空間的、視覚的なグラフィックは、人間の動物的本能、空間の認識力に訴えかける力があります。

いまの都市計画や環境計画は、残念ながらこうした科学的な成果をベースに政策が練られていないように思います。実体がわからないまま様々な意見を持った人たちがそれぞれの持論を展開すると、すれ違いや摩擦も出てきますが、ありのままの現象をデータで理解し、実体を正確に把握・共有できれば、意思決定のプロセスがスムーズになり、合意形成に至る時間も短くなっていくはずです。最終的に意思決定をするのは行政や市民ですが、それをサポートしていくのが研究会の役割だと思っています。まさにそれを横浜でやろうとしているのです。

 

●大都市を支える生態系サービス

 

「市民一人ひとりが環境問題をどう自分ごととしてとらえ、どういう風な理解ができれば行動につながるのか、そこが非常に重要な気がします」と佐土原先生

 

キタハラ: もう一つお聞きしたいのが、私たちの暮らす大都市と生態系の関係について。生態系というと、川、地下水、森、海などがイメージされます。

佐土原: 大都市は都市そのものだけで成り立っているわけではありません。水を例にすると、横浜市は鶴見川や帷子川、大岡川が中心部近くを流れていますが、もっと広域でみると、相模川、津久井湖、酒匂川からも水を引っ張ってきています。横浜市の水源は山梨県の道志村や都留市にも至り、神奈川拡大流域圏と呼んでいますが、ここでの水環境問題は深刻になっています。

特に丹沢大山では森林生態系の荒廃が顕著です。戦後の拡大造林期に杉や檜などの針葉樹を植えていきましたが、木材の自由化で安い輸入材が入り林業が放棄され、林地に日光が入らず下草も生えず、土壌流出が起こっています。狩猟禁止等でシカが増加し鳥獣による被害も増え、土壌の植生も変わってきています。土壌表面から15cmほどは養分もあり微生物が無数に存在し、土壌の豊かさを支える大切な層なのですが、森林機能の低下により土壌流出が起こると、水源涵養機能や炭素貯留の能力も失われてしまいます。これを元に戻すには、数百年から千年以上かかると言われています。

もしまた大地震が起こり、水源が土砂崩れを起こしたら、横浜の水はどうなってしまうのでしょうか。都市自体がこうした自然に支えられていることを視野に入れ、水源の地域としっかり手を結び、森林や生態系がイキイキと生きていけるようにすることで、都市の基盤を支えていくしかありません。

神奈川県は水源環境税や「かながわ水源環境保全再生」施策を実施し、横浜市は「みどりアップ計画」やみどり税などで、総合的かつ多面的な生態系サービスの確保を目指した取り組みを行っています。さらにこれを広げていくのがとても重要だと思います。

キタハラ: 「生態系サービス」という言葉を聞き慣れない人も多いと思うのですが、どういった概念なのでしょうか?

佐土原: 生態系サービスとは元々国連のミレニアム生態系評価(2005年)で使われて拡がった概念で、4種類あります。一つは基盤サービス。これは光合成によるCO2の吸収とO2の生成や、土壌形成などです。調整サービスは気候変動の抑制や洪水を防ぐ、疫病を防ぐなどの災害を軽減する機能です。供給サービスは、食料や水、木材の供給源として、生態系そのものが与えてくれる資源のことを指します。これは災害時の供給途絶対策にもなります。文化的サービスは、歴史や風土、都市の景観、精神的・審美的な恩恵を与えるものを指します。

生態系サービスは、安全・安心、豊かな生活の基本資材、健康や社会的な絆を育てるなど、人間に福利をもたらします。

地球温暖化や生物多様性の損失は、生態系サービス、都市や農業などの人工環境に影響し、それが社会経済環境・人間の福利を脅かしていきます。気圏・水圏・地圏・生物圏、そして人間圏のレイヤーを都市のなかでしっかり把握し、環境問題がそれぞれのレイヤーにどう相互作用し影響していくのか、その概念をいま整理しているところです。

大学や研究機関、そして自治体、地域住民のICTプラットフォームによる都市・地域の計画をリ・デザインしていく環境未来都市研究会と横浜市の今後に、今後もぜひ注目ください。

 

【キタハラ’s eye】

インタビューでは、廃棄物処理の排熱による地域冷暖房でのエネルギーの効率化や、地下水を活用した地中熱利用、地下水脈が防災にどう影響を与えるのかなど、話は多岐に渡りました。賢く、かつリスクの少ない住まい方・暮らし方を選ぶための原点は、「まさにデータにあり!」と直感しました。

一般的に女性はデータ、数字に弱いと言われますが、実際に排熱の「壁」のデータを見ると直感的に何をすればいいのか、理解できます。佐土原先生は「防災」「環境」と括りを分けず、ありのまま、そのものを理解することから始めよう、とおっしゃっていました。

ディープ・データ、ビッグ・データ、オープン・データ、それを生活者向けにかみくだいて整理する、その役割がメディアに求められていると思います。近頃、Facebookで「データ」「オープン・データ」についての情報発信が盛んで、市民の立場でどう関われるかぼんやりイメージしていたタイミング。佐土原先生のお話をうかがって、森ノオトでも来るべき未来に向け準備すべきことが見えてきたような気がします。

佐土原先生のお話は、あおばECOアカデミー第3回で、たくさんの図表とともにじっくりお聞きすることができます! 最先端のお話、ぜひ聞きにきてください。

Information

あおばECOアカデミー 私たちの未来をつくる井戸端会議

第3回:2013年7月26日(金) 10:00〜12:00

会場:アートフォーラムあざみ野セミナールーム1・2(横浜市青葉区あざみ野南1-17-3)

※東急田園都市線・横浜市営地下鉄線あざみ野駅徒歩5分

参加費:1000円(森のなかま会員は200円引)

定員:50名

※施設内に1歳半以上の託児あり(別途登録とお申し込みが必要になります。講座当日の4日前の17時まで→アートフォーラムあざみ野「子どもの部屋」)

※本講座は主婦の方をメインターゲットとしておりますので、1歳半未満のお子さんの同伴可とします。参加者の皆さんのご理解とご協力、温かい目をお願いいたします。

お申し込みは、申し込みフォーム、または森ノオトFacebookページ内のイベントで受け付けます。

氏名・住所・電話番号・E-mail・年齢、お問い合わせ欄に「あおばECOアカデミー 第●回申し込み」(お子様同伴希望の場合はお子様のお名前と月齢)とご記入のうえ、こちらのフォームからお申し込みください。

http://wx25.wadax.ne.jp/~morinooto-jp/contact/

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー