commons + community = 新しい概念をつくろう! コミュニティパワー国際会議in福島レポート(3)
コミュニティパワー国際会議では、2日間で基調講演や基調セッションのほか、8つのパラレルセッションが同時並行し、わたしとエレキ女史こと梅原昭子さんは二人分かれて話を聞いてきました。とてもすべての内容を網羅するのは難しいのですが、ちょっぴり難しい内容だった「Aの部」のセッションより、印象的なお話をお届けします。

セッション1-Aのテーマは「リーダーシップと起業家精神」。登壇者は多彩も多彩、でも身近な地元感もある顔ぶれです。モデレーターはISEPの飯田哲也氏、スウェーデンの元エネルギー庁長官で現在は自然エネルギー財団を率いるトーマス・コーベリエル氏、デンマークのローカル・ヒーローのソーレン・ハーマンセン氏、小田原から鈴廣から鈴木悌介氏、北海道グリーンファームの鈴木亨氏、会津電力を引っ張るパワフルな遠藤由美子氏、ISEPの研究員でもあるエリック・マーティノー氏。

 

一人ひとりのお話がとても貴重で細かくメモしました。エリック氏の「再エネの普及は利益追求のほかにたくさんの便益がある。民主的な地域をつくり、絆を強化し、地域に雇用を生み出し、地域経済の活性化につながる」と話した

 

エリック氏は今後、再生可能エネルギーが地域で普及するためには、特に太陽光発電などは個人所有に限らず、リースや共同所有を検討すること、同時にモビリティ(電気自動車)の役割はとても大きいと言いました。「特にインフラの整備、情報発信面では、エネルギー政策を国策に任せず自治体が国際会議等で存在感を発揮し、むしろ地方から国をリードすることが大切」

同じ神奈川県で、経済界代表として参加したのはかまぼこの老舗・鈴廣の鈴木悌介氏。小田原では地元の24社が共同で出資し「ほうとくソーラー市民ファンド」という会社を立ち上げました。「エネルギーがなければ商売ができない。省エネは新しいビジネスフロンティアになる」と、地域の経済人たちと一緒に中小企業ではなかなか進みにくい省エネにもチカラを入れているといいます。

日本の市民風車の草分け的存在でもある北海道グリーンファンドの鈴木亨氏のストーリーは、森ノオト読者に最も受け入れられやすいモデルではないかと思います。というのも、鈴木さんは元々生活クラブ生協の食材を配送する職員でした。食の安全・安心を求めて生産地と提携し、共同購入運動を展開する生活クラブの精神を引き継ぎ、エネルギー分野で起業したのが1999年のこと。

「苦労した点は技術も金融もビジネスも知識がなく、何もわからなかったこと。でもそれがかえってよかったのかもしれない」と鈴木さんは振り返ります。小さな事務所で机1つから始めた事業は、今では大きく広がりました。「覚悟としたたかさとおおらかさ。謙虚であれば色んな人が協力してくれるし、そこから生まれるネットワークや人の資産は代え難いもの」と朗らかに話しました。

 

セッション2-Aで、長野県環境部温暖化対策課の田中信一郎氏が示したモデル。これまでは大手の資本が地域に入り、収益の大半は域外に流れていたが、長野県では地域主導で地域資本が再生可能エネルギー事業を実施し、利益の大半を地域にもたらすモデルを目指しているという。日本の自治体(都道府県)で再生可能エネルギー100%の目標を掲げているのは、福島県と長野県だ

 

続いて2-Aは「地域自然エネルギー政策と地域経済」。司会はISEPの松原弘直氏。登壇者は分散型エネルギー技術研究所のピーター・モーザー氏、エコロジカル経済研究所のアンドレア・プラール氏、オンタリオ持続可能性サービスのハリー・フレンチ氏、立命館大学のラウパッハ・スミヤ・ヨーク氏、長野県の田中信一郎氏、富士通総研の高橋洋氏です。

わたしが面白いと思ったのは、立命館大学のラウパッハ・スミヤ・ヨーク氏による再生可能エネルギーが地域経済にもたらす効果を定量的にはかるための日本版モデルです。すでにドイツなどで先行している調査結果を、日本の法制度などに適合した形で試算し、今回の国際会議で初めてお披露目となりました。

まず、production(製造工程) > Installation(設置) > operation(運転) & maintenance(メンテナンス) > Management(運営) の4つの段階で、5種類の再生可能エネルギーの試算を行いました。再生可能エネルギーの設置コスト、投資金額や調査などのコストに関して、日本はドイツに比べると高く、オペレーションの収益性もドイツに比べるとまだ低いものの、普及が進めば初期投資のコストは下がるので今後収益性は見込めるようになるとのこと。一方、再生可能エネルギーを運営する段階での地域付加価値は現時点でもドイツに比べてひけをとらず、全体のコストの2-4割は地域に還元されるといいます。ただし、地域に落ちるお金の質が異なり、ドイツの場合は「収益」が多くの割合を占めるのに対し、日本の場合はまだ固定資産税頼りなのだそうです。

福島県の太陽光発電、小水力発電、風力発電の開発可能量の全てと、2020年に40%、2030年に64%の普及率を目指すデータをベースに描いたシナリオでは、開発可能量すべてを生かすと、福島のGDPの3%、1983億円、雇用2万人が生まれるとの試算。2020年目標では498億円、雇用6875人。2030年では295億円、雇用8,368人が生まれるとのこと。ラウバッハ氏は「できる限り地域の金融機関を使ってファイナンスを行うことがカギ。それには人材育成が欠かせない」と言います。

富士通総研の高橋洋氏は「ドイツは日本よりかなり進んでいて、単に日本が15年遅れているのか、中央集権的な構造が問題なのか」と厳しい指摘を加えながらも、「FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)は国の政策だが、地方自治体では今後もっとポジティブでクリエイティブに、様々な政策を行ってもいい。電力事業をやるというよりも、ファシリティサービス(運用)、ファイナンス、信用保証など、自治体にできることはたくさんある」とまとめました。

 

セッション3-Aでわたくし・不肖キタハラが登壇、森ノオト、ならびにあざみ野ぶんぶんプロジェクトの活動から、たまプラーザ電力が立ち上がった一連の流れを説明しました

 

ところ変わって2月2日、喜多方市。キタハラは2日目のセッション3-A「ネットワーキング」に登壇しました。ISEPの若手ホープ・古屋将太氏をコーディネーターに、オンタリオ持続可能性サービスのハリー・フレンチ氏、オーストラリアからヘップバーン風力協同組合/エンバークのタリン・レーン氏、世界風力エネルギー協会のステファン・ゼンガー氏、自然エネルギー信州ネットの小田切奈々子氏、ふくしま再生可能エネルギー事業ネットの小椋真弓氏のトークセッションの末席にちょこんと座りました。

カナダのオンタリオ州では、再生可能エネルギーの協同組合をつくり、自治体の協力を取り付ける方法で仕事を回す仕組みをつくりました。オンタリオの太陽光や風力発電の規模は決して大きくなく、250-500kWのものが中心。「プロジェクトが十分に回れば、地域のほかの環境活動に再投資できる」とハリー氏。オーストラリア初の市民風車ヘップバーン風力協同組合では、有機農業など様々なコミュニティアクションと連携することで、教育やアドボカシー分野のプロフェッショナルとの連携も始まったといいます。

長野県では飯田市のおひさま進歩エネルギーが有名ですが、上田市の「あいのりくん」など、全県で20の地域協議会が立ち上がっています。県の協力を得て全県をネットワークする「自然エネルギー信州ネット」が発足。その活動に刺激を受け、福島県でも全県レベルでのネットワーク活動が生まれ、2013年2月に「福島再生可能エネルギー事業ネット」がスタートしました。

世界風力エネルギー協会は国連都市であるドイツのボンに本部を置き、国連の気候変動枠組条約の会議にも参加し、世界的なキャンペーンを展開する、とても大きな組織です。世界の100カ国以上にネットワークを持つなかで、ステファン氏は「ボトムアップのプロセスをどうデザインするかが大切。各国の参加者がいかに地域のコミュニティパワーに当事者意識を持って参加するかがポイント」とまとめました。

自治体、コミュニティ、様々なプロ、食などの異分野と積極的に関わり、関わりを持ちながら一緒に動いていくことで、エネルギーにとどまらない地域づくりに発展していく。それが皆さんの共通の意見だったように思います。

 

二日目、会津。会場は満席で椅子を追加したほど。わたしはずっと、MacBookAirでメモをとりながら傍聴していました。ステージ上でも!

 

最後のセッション4-Aは「自然エネルギー100% 地域のエネルギー自立とデモクラシー」。2日間の会議をまとめる一大セッションです。分散型エネルギー技術研究所のピーター・モーザー氏、ソーレン・ハーマンセン氏、田中信一郎氏、秋田県の大潟村村長の高橋浩人、東京都世田谷区長の保坂展人氏、会津電力の佐藤彌右衛門氏、ステファン・シューリグ氏、千葉大学の倉阪秀史氏が登壇しました。

千葉大学の倉阪研究室では、ISEPと共同で「永続地帯」研究を行っています。地域の再生可能エネルギーの供給量と需要、食料自給率のデータを見える化し、2013年12月の最新のデータを発表しました。日本全体でみると民生+農林水産業用のエネルギー自給率はわずか3.7%に過ぎず、都道府県別にみると大分県が22.9%で最も高く、東京とは最下位で0.38%。「都市型の市町村は太陽光発電と太陽熱利用に適しています。小さな日本の中でも地域によってバリエーションが多彩なので、地域特性に適した目標を立て取り組む範囲を広げていくべき」と倉阪氏。また、今後の低成長社会では、外貨を稼ぎ世界経済と戦う「成長部門」と、地域の経済資本を維持する「持続部門」にわけて考えるべきで、再生可能エネルギーは農林水産部門とならび、ローカルイニシアティブで進めていく必要があると言いました。

今回、ソーレン氏は「commonity」という新しい概念を日本に紹介しました。日本でいう里山や谷戸など、太陽・風・森・水などの自然を地域社会で共有する意味のコモンズと、コミュニティを掛け合わせた造語で、「コミュニティが存在するためにはコモンズが必要だ。コモニティを実現するには、地域の仲間と対話して夢を描き、勉強し、数字に落とし込み、最後は行動に移す。まずは、隣人とビジョンを共有しよう」と呼びかけました。

モデレーターの飯田哲也氏は「この2日間で我々が目指すべき未来がはっきりと垣間みられた」とまとめ、クロージングで「福島コミュニティパワー宣言」を提唱しました。このネットワークから「21世紀の電事連(こちら側の電事連)」の立ち上げを目指し、全国・世界的なネットワークづくりをしていくことを参加者全員で確認しました。

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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