山川紋の暮らし訪問記 第1回 「ゆるやかにつながる清水さんの家」
青葉台で設計事務所を営む私・山川紋による“暮らし訪問記”。第1回は森ノオトのリポータ養成講座を一緒に受講した清水朋子さんのご自宅です。設計は小住宅で有名な「フリーハンド:小井田康和設計室」。清水さんお手製の香ばしいピザをいただきながら、吹き抜けのリビングダイニングのダイニングテーブルでお話を聞いてきました。

家には、住む人の人柄が表れます。建築家と二人三脚でつくった家ならなおさらのこと。住む人が選んだ建築家のこだわりやしかけに、家族の思いがプラスされて、いたるところに「家族の形」を垣間見ることができます。今回、清水さんのご家族(旦那様とお子様2人)には実際にはお会いしていないのに、家族の楽しい時間をのぞいたような気分になりました。

清水さんご家族は、2年前まで今の自宅の近くのマンションで暮らしていました。作ること食べること、それに人とふれあうことが大好きな清水さんは、「いつか自分のお店を開きたい」という思いがありました。そんな思いをご主人と共有し、土地探しからの家づくりがスタートしたのです。

遡ること5年前、図書館で出会った1冊の本が、今回の家づくりの舵取りをすることになりました。『小住宅傑作選』、この本はいわゆる住宅作家と呼ばれる建築家たちによる小さな家や、名作と呼ばれる住宅がいくつも掲載されています。

 

清水さんを導いた雑誌は今でもすぐ手が届くところに置かれていた。お気に入りのページもすぐに開けるようになっている。この本、わが設計事務所にもあり、バイブルと言えるかも

清水さんを導いた雑誌は今でもすぐ手が届くところに置かれていた。お気に入りのページもすぐに開けるようになっている。この本、わが設計事務所にもあり、バイブルと言えるかも

清水さんは、この本がとても好きで、中でも「フリーハンド:小井田康和設計室」の手がけた、小井田さんの自邸の写真に惚れ込んでいました。

 

「フリーハンド:小井田康和設計室」(以下、小井田設計室)は、私の住む桜台ビレジの近く、青葉区たちばな台にあります。2006年に建築家・小井田康和氏の没後、奥様の小井田玖美子さんが受け継ぎ、お弟子さんたちが腕をふるいながら活動を続けています。たちばな台にある自邸兼事務所のある通りは、その通り沿いの住宅6軒も小井田氏が設計していることから、通称「小井田通り」と呼ばれています。

 

今回、清水さんの家を設計したのは、小井田設計室で以前スタッフだった関島恵美子さん。清水さんが雑誌などで見ていた小井田設計室の気になる住宅の多くは関島さんが担当だったそうです。まるで絵画のような手書きの図面を見せていただきながら、そこかしこに潜む「小井田流」を満喫しました。

 

この「清水さんの家」は1階に念願のアトリエを併設しています。清水さんは3年後を目処に、このアトリエをコミュニティーカフェのような形で地域交流の場にしていきたいと語ります。1階にはアトリエとつながるリビングダイニングと洗面浴室トイレがあり、2階はご夫婦の寝室・娘さんお2人のお部屋(今は一部屋でいずれ分けられるようになっています)、旦那様の書斎コーナー(小上がりの畳敷き)という間取りです。清水さんはアトリエ、旦那様はこの書斎コーナーがそれぞれの新しい家に対する希望だったそうです。

 

アトリエから外に向けての窓は障子にすることもできる。古い日本的なものと、北欧的なもの、両方をうまく取り入れている清水邸

アトリエから外に向けての窓は障子にすることもできる。古い日本的なものと、北欧的なもの、両方をうまく取り入れている清水邸

 

「清水さんの家」の一番の特徴は、さりげない飾り棚が随所に仕込まれていること。玄関の側窓の桟、手洗いのタオルバーの上、トイレの窓枠がすっと伸びて棚に。どんなものを置こうか考えるだけでもわくわくしてきます。

 

「自由に見てくださいね」という気さくな清水さんのお言葉に甘えて、冒険するように家中歩き回ると「ここにも、ここにも」と小さな飾り棚が見つかるのです。飾り棚や壁には清水さんお気に入りの絵画や小物、お嬢さんの作品が。家族の形はきっとこの飾り棚が表現しているのかもしれません。

清水さんお気に入りの場所はこちら、キッチン前の作業テーブル。後ろの小窓の窓枠も小物が飾れるようになっている

清水さんお気に入りの場所はこちら、キッチン前の作業テーブル。後ろの小窓の窓枠も小物が飾れるようになっている

 

 

トイレの窓枠が伸びた飾り棚

トイレの窓枠が伸びた飾り棚

 

第二の特徴はペンダントライトの接続がコンセントだということでしょう。これは、通常の引掛けシーリングでは目立ちすぎるからで、たしかに天井高をおさえたダイニングテーブルの上は、さり気ないコンセントが合っているかも。ビンテージデザインの照明も、すっきりして、少し日本的な印象になりますね。

 

デンマークFog&Morup社の照明「Semi」。奥の壁にかかるのは小井田康和さんのお嬢さんで、版画家・小井田由貴さんの作品

デンマークFog&Morup社の照明「Semi」。奥の壁にかかるのは小井田康和さんのお嬢さんで、版画家・小井田由貴さんの作品

 

それから、この家では外とのつながりを非常に大切にしていると感じました。リビングにいるだけで外の空間と一体になり、屋外にいるかのような、とても快適な感覚になるのです。それは、ただリビングの窓が大きいからというだけではなく、キッチンの通路からまっすぐに伸びた窓の先にある樹木や、バーカウンターのようなバルコニーの手すり、外と内を限りなく近づけているコーナーの窓、これらの存在ゆえでしょうか。

 

リビングとバルコニーをゆるやかにつなげるコーナーの窓。この窓枠に飾られた植物は外にあるのか内にあるのか分からなくなるほど。この木製建具は大工さんの手によるもの

リビングとバルコニーをゆるやかにつなげるコーナーの窓。この窓枠に飾られた植物は外にあるのか内にあるのか分からなくなるほど。この木製建具は大工さんの手によるもの

 

お話し中、気づいたら、清水さんがさっと手際よくピザを作ってくれました。アンチョビやバジル、トマトソースの定番ピザと、旬の菜花を散らしたピザは、どちらも美味しく、食の方にも話が進みます。聞けば清水さんはチーズやワインのスペシャリストで、講師経験もあるそうです。

 

清水さんの家の子どもになりたい!と思った瞬間

清水さんの家の子どもになりたい!と思った瞬間

 

「この家でこれからつくっていくアトリエを通じて、ごはんと暮らしにまつわるモノやコトを扱い、家族や友人たち、ご近所さんとやわらかなつながりを育みたい」、そう願う清水さん。

 

ここを訪れる誰もが主役となって、その人のもつ才能、得意なことを生かせる場になれたら、と話します。

 

内と外。内である家での暮らし、家族の生活を大切にしながらも、外である地域とつながっていきたい。この思いこそが、清水さんの家を表している、そう感じる訪問でした。

 

最初に「まだまだ新築で味わいがなくて……」と話していた清水さんの家、これからご家族と地域の方とでつくっていく家づくりの続きを、今後も見ていきたいと思います。

 

※ 「フリーハンド:小井田設計室」との家づくりを満喫している様子は、清水さんのブログに詳しく書かれているので、これから家をつくりたいと考えている方はぜひご一読を。

Information

フリーハンド:小井田設計室

http://www.ne.jp/asahi/koida/freehand/

清水さんの家+アトリエづくりのブログ「House.T」

http://tomo0213.blog52.fc2.com/

版画家 小井田由貴さんのホームページ

http://yukikoida.com/

山川 紋
この記事を書いた人
山川紋ライター
教育やWEB関連の仕事を経て、現在は夫と住宅の設計やリノベーションを手がける「ショセット建築設計室」を主宰。横浜市青葉区のビンテージマンション「桜台ビレジ」に住まい、事務所を構える。森ノオトでは教育と建築の専門家として、子ども向けの建築ワークショップなどを展開。愛猫4匹が看板。
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