(本文で「こうじ」を表す時には一般的な表記の「麹」を使いますが、川口糀店さんの店名は「糀」で表記します。(text、photo:大西香織)
私が味噌作りを始めてから10年が過ぎました。塩麹や甘酒をつくるときにも、麹はなくてはならない材料です。味噌作りの大半は、材料、特に麹で決まるとも聞いたことがありました。そもそも麹ってどんなものなのでしょう。
その麹作りをされている方が横浜にいると知ったのは、今年に入ってから。しかもコマデリの人気メニュー「塩ブタBOX」の味の決め手にもなっている塩麹は、川口糀店さんの麹を使っているとわかりました。ちょうど仕入れへ行く小池さんに同行してきました。
「糀屋 川口」の暖簾をくぐると、ふわっとやさしい麹の香りに包まれました。
10月から6月までが麹作りの期間。お忙しい麹作りの合間をぬって、九代目の川口恭(たかし)さんに麹の作り方を教えていただきました。
川口糀店では、「よい素材を使えばまちがいない」と、食用一等の飯米を使用。加工米(加工米とは、調味料など食用とは異なる用途で使われるお米)は一切使わない。糀の魂とも言える材料の米は納得のいくものをと、日頃から、農家さんを訪ね歩くそうです。
麹づくりは、米を蒸すところから始まります。900kgの米を一気に30分ほど蒸します。
蒸した米に麹菌をまき、種つけをしてから、切り返しを繰りかえします。専用の板に盛り付けて、一定の温度に管理されている室(むろ)に入れます。温度管理は綿密に、麹で出したい味わいによって調整するなどの工夫も。
製麹を始めてから四日目に完成。米ひとつぶひとつぶに麹菌が繁殖して、はじめて麹になります。良い麹は米の芯まで菌糸がはいり、手でつぶすと粉々になります。麹菌が米の芯まで繁殖している証拠で、とても甘みのある麹に仕上がるそうです。
その後、常温であら熱をとり、冷凍します。冷凍するのは、米の表面の水分を飛ばすのが目的。乾燥させることで強い麹となるそうです。解凍のときに結露するからと、紙袋で販売しています。
川口さんに代替わりしてからは、特に道具の一つひとつにもこだわっていて、穀箕、ざる、米を蒸すたる、味噌用のたる、たわしまでも、自ら職人さんを訪ね歩き、職人さんによる最上級のものを使っています。
「使う人がいないと職人がいなくなってしまう。伝統を守りつなげていきたい」というのが、使い続けている理由です。
「国産のたわしはたるの溝に沿って洗うことができて、仕事効率もあがるんです」と、おもしろい話もきけました。手を洗うたわしまでも指名買いとは正直驚きましたが、細部にまでこだわる川口さん。だからこその決め細やかな麹に、その真摯さがあらわれているのかと思いました。
横浜市になければ神奈川県。それでもなければ関東、日本へと全国へ足を向けて、素材も、道具も、そろえていっている川口さん。
「そうでもしないと、職人の仕事が継げなくなる。職人同士、手をとり助け合っていこう」と、呼びかけているそうです。
とにかく良い麹と味噌を作るために、全国各地いろいろなところへ行き、研究を重ねている、その原動力になったのは、「子どもに何を食べさせたらよいだろう。我が子にいいものを選んで与えているのと同じように、お客さんに対しても接していこう」と思った時に、よい麹、味噌づくりへの情熱に火がついたと語ってくれました。
川口さんはほかにも、「学校で残飯をゼロにしたい。おいしいと思うものを口にしたときに、子どもの心は動くはず」と、年間30回ほど小学校へ出向き、味噌づくりを子どもや保護者に教えているそうです。「子どもの命はお母さんが握っている」と強く語る姿もまた印象的でした。
今後も地元の方のための麹と味噌を作っていきたいとのことでしたが、そんな川口さんの熱い思いをのせた麹を、たくさんの方へこっそりと教えてあげたい……そんな出会いでした。
3月26日に開催した森ノオトの味噌づくりワークショップでも川口さんの麹を使います。どんなできあがりになるか今から楽しみです。
川口糀店
電話番号:045-301-0036
住所:横浜市瀬谷区竹村町24-6
営業時間:10:30-17:00
休業日:不定休
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!