リユース、リメイク、メイク!ポートランドのものづくり文化を訪ねて。Field Trip in PDXレポート(3)
私たちが6月に子連れで旅したポートランドは、環境にやさしい創造都市で、ものづくり文化が根付いています。森ノオトでも、エコなものづくりを始めてみたいと思っていて、ポートランドでどんなことが起きているのか、興味を持って町歩きをしました。

<世界の名だたるアウトドアブランドの聖地>

ポートランドには、世界を代表するスポーツブランド・NIKEの本社や、adidasの北米本社、アウトドアシューズのブランドKEENの本社、Colombia発祥の地で、ほかにもポートランド発のおしゃれなアウトドアブランドが数ある、アウトドアの聖地です。

 

オレゴンの深い森とコロンビア川、オレゴン・コースト、オレゴン富士と呼ばれるマウントフック、そして全米一自転車にやさしい街として知られるポートランドの、起業家精神あふれる風土に惹かれる企業が多いのかもしれませんね。

 

ダウンタウンにあるKEENのフラッグシップショップ「KEEN Garage」では、水陸両用のアウトドアシューズを買った。1歳9カ月の次女は、日本ならば13cmの靴を買うのに、現地で計測したところ11.5cmを勧められて購入

 

「PLAY」と看板のある遊べる店内で、娘と3歳男児は一緒に走り回り、椅子に登り、飛び跳ね……楽しんでいた!

 

アウトドア好きの二人が立ち上げたブランド「NEXT ADVENTURE」のショップは、South East地区にあり、登山、キャンプ、ヨガ、スキーやスノボなど、さまざまなアウトドアスポーツに対応できるアイテムを豊富に取り揃えている

 

アウトレットだけでなく、中古(USED)のコーナーも充実していて、アウトドアギアのレンタルにも対応。用途や頻度に合わせて、購入のスタイルを選べるのもうれしい

 

キタハラが大いに気に入ったポートランド発祥のアウトドアブランド「POLeR」。保冷機能のあるカラフルな色合いのナップザック、アーバンライフにも合いそうなラフなスタイルに一目惚れ! ……と言いつつ、疲れ果てて泣いている娘の写真しかない……(撮影は山川紋ちゃんです!)

 

 

 

<個人でも出版やものづくりができる!>

私たちが観光できる時間は、到着した初日と、翌日の夕方まで。2日間で子連れでどれだけ巡れるか、優先順位を決めて動かなければなりませんでした。

 

初日はまず、ダウンタウン(中心部)に荷物を置き、歩いて動ける範囲を巡りました。活版印刷とコットンペーパーをつくる工場を併設したセルフ・パブリッシングのスタジオや、ポートランド発のクラフトが集まったセレクトショップなどを見て回りました。

 

全員一致で行きたかった「Rebuilding Center」は、寄付で建築廃材を集めて再活用する巨大な施設で、住宅のDIYやリユースを考える森ノオトとしては、絶対に外せないところでした。Rebuilding Centerのあるミシシッピ通りは、ポートランドの代官山のようなおしゃれなショッピングストリートで、そこに見たいショップが点在しています。ほかにも、ポートランドのDIY文化を支えるものづくり工房「ADX」や、zine(個人出版)のセレクトショップなど、時間があればいきたい場所が山ほどあり、2日目に回ることにしました。

 

「Made HERE PDX」はダウンタウンの中心部にある。カバン、革製品、布小物など、ポートランド生まれのブランドが整然と並ぶ。ポートランドには自転車のメーカーもある! 自転車のパーツ類もすごくおおしゃれ

 

美しくパッケージされたポートランド産のハチミツ、コーヒー、ナチュラルコスメなど、乙女心をくすぐるアイテムもたくさん。地元企業がつくったものを応援したくなる、そんな文化が醸成されているのを感じる

 

ダウンタウンにあるKEENのフラッグシップショップからほど近いところにある「OBLATION papers &press」。活版印刷機の作業場とリサイクルコットンの紙工場が併設され、地元のクリエイターがつくったメッセージカードやペーパーアイテムが販売されている

 

OBLATION papers &pressの奥の工場で作業している人たち。作業場の手前にはタイプライターが並び、なんとも言えない味わいのある紙媒体づくりが体験できる

 

リサイクルコットンの紙工場では、クリエイターと思しき人たちが本の装丁の打ち合わせをしていた。OBLATION papers &pressで

 

「ADX」はポートランドのDIY文化を象徴する施設。中心部からは少し距離があるが、ものづくりを愛する人で賑わっていた

 

「ADX」は金属加工のMETAL SHOPや木工のためのWOOD SHOPなど、クラスが多岐に渡り、専門の講師もいる。作業場の見学は予約制でツアーがあり、子連れなので参加を断念した

 

ミシシッピ通り沿いにあるzineのセレクトショップ「READING FRENZY」。zineとは「magazine」からくる造語で、日本流に言えば個人出版、同人誌、私家版のようなもの

 

READING FRENZY」では全米から集めた多種多様なzineがそろい、紙媒体にまつわるイベントや展示等も数多く行っているという。ポートランドのzine文化の後押しをしてきた草分け的存在

 

zineといってもクオリティの高いものばかりを取り揃えている。デザイン的にも美しく、ここでしか手に入らないプレミア感を味わえる。そういえば、3.11後、クリエイター仲間と一緒にエネルギーに関するzineをつくったなあ、としみじみ思い出す

 

今回の旅行で巡ったお店は数が限られていましたが、ポートランドではほかにも、セルフ・パブリッシングを支える印刷会社が複数点在し、それらの多くは工場を一般に公開し、誰もが利用できる仕組みを整えているようです。作品を発表したいクリエイター、それを支える技術や情報があって、新しい文化を支えるファンがつきやすい(行けなかったけれども全米zineシンポジウムが滞在中に開催されていました)、ポートランダーがクリエイティブである理由が垣間見られました。

 

 

 

<廃材も廃品もアートに、DIYに!>

Rebuilding CenterとSCRAPは、エコとクリエイティビティ、DIY精神を象徴する、ポートランドらしい施設と言えます。

 

ミシシッピ通りにあるRebuilding Centerは、全米でも最大級の建材リサイクルセンターで、約5000平米の建物のなかに、サッシ、ボウル、扉、ドアノブ、バスタブ、電球など、所狭しと廃材が並んでいます。Rebuilding CenterはNPO「Our United Villages」が運営しており、廃材はすべて寄付で、市販品よりもかなりの廉価で販売することで運営資金をまかなっているとのことです。

 

建築家でもある山川紋さんは「宝の山だ!」と言って大喜び。詳しくは、今後発信する山川さんの記事でご覧ください。すべて見て回るには、1日あってもおそらく足りないくらいの広さと種類で、圧倒されました。

 

ドアのゾーン、サッシのゾーン、バスタブのゾーンと、パーツごとに区切られた空間。あまりに広くて、どこから見たらよいかわからない……

 

見学している間にも、市民が続々と使用済みの建材や家電を運び入れていた

 

SCRAPはダウンタウンからバスに5分ほど乗った大通り沿いにあります。Rebuilding Centerが建築に特化したリサイクルセンターならば、SCRAPは建材以外の、家庭やオフィスから出るあらゆるものを取り扱います。SCRAPもNPOが運営していて、すべて個人や企業からの寄付で素材の受け入れをおこなっています。市販品よりも60-75%も廉価で商品を購入できます。事業規模としては、「10人の雇用と家賃がまかなえるくらいで、助成金などを活用している」(SCRAP スタッフ)とのことでした。

 

古布や端切れはSCRAPの中でも人気のあるアイテムなのだそう

 

SCRAP内のギャラリーでは、スクラップから生まれたアートが展示されている。これを「ドネーションアート」と呼んでいる

 

SCRAPには、それこそ毛糸、古布、端切れ、ミシンなど布にまつわるもの、使用済みのカレンダーやノート、ペンやクリップなど紙製品、家庭やオフィスで支えるありとあらゆるものが所狭しと並んでいます。SCRAPでは扱うものを「スクラップ」と呼んでいます。年間140トンもごみになるもののスクラップとして扱い、それらが世に出て行き、アートやクラフトとして生まれ変わるそうです。

 

スクラップの中にはおばあちゃんがタンスの奥にしまいこんでいたような包装紙などもあり、受け入れ条件が気になるところ……。スタッフの方に聞いたら「アートやクラフトなど、ものづくりに使えるものならば受け入れますよ」とのことでした。

 

色系統別に端切れや文房具、紙切れを集めた「コラージュパック」を6ドルで販売。アートの才能がない私には持て余しそうだが、アーティストでもある森ノオト事務局長の梅原昭子さんのお土産にしたら、とても喜んでいた

 

SCRAPでは毎日、廃材を使ったワークショップをおこなっている。私たちツアーの一行も参加。今はショップのレジがタブレットに変わり、ロール紙のレシートが大量に余っているそうで、ロールのレシートを活用したメモ帳を作成した。それぞれの作風がおもしろい

 

アートやクラフトとは違う文脈ですが、ポートランド観光で外せないのが全米一の規模を誇る個人書店「Powell’s City of Books」です。この書店のおもしろいところは、新品と古本を同じ棚で並べて同時に販売していること。絵本コーナーがとても充実していて、娘と一緒に本を選んでいる時に、そのことに気づきました。例えばエリック・カールの同じボードブックでも、6ドル、7ドル、9ドルと値段が異なるのです。中古でも状態のよいものしみのあるもの、新品と、自分が好きなスタイルで選べるのです。

 

Powell’s City of Books はパール地区の1街区を丸ごと占有する大型書店。スキップフロアの店内はテーマごとに9つの色に分かれていて、100万冊もの蔵書がある。

 

もちろんこどもの絵本コーナーも充実! 英語が堪能でなくても、ジャケ買いの楽しみもある。1日中いても飽きない

 

 

 

<マイクロライブラリーにみるギフトエコノミー>

住宅街のあちこちに見られた小さな小屋。巣箱のようでもあります。例えば、家で出た廃品を1週間ほど置いておいて、近所の人が好きに持っていってもいいシステムです。

 

ほかにも、私たちが泊まったAirbnbの近くには、幾つかのマイクロライブラリーがありました。その家で読み終わった本を置いておき、近所の人が読みたいものを持っていく。自分が読まなくなった本をそこにお返しして、本が循環していく……。本を通じた、なんとも心温まる地域交流がそこにありました。

 

2日目の夜にお邪魔したお宅の前には、リサイクルポストが設置されていて、こどものおもちゃや雑貨など、使わなくなったものを自由に持っていっていいとのこと

 

マイクロライブラリー発見! 青葉区でも、小池由美さんがウィズの森と一緒に「どこでも図書館MOSOプロジェクト」を始めています

 

私たちも2冊の本をいただきました。娘用にもらったアニメのキャラクターの本は、娘よりも船本由佳さんの3歳男児が喜び、1歳の娘は『こどもと行くニューヨーク』を自分の本だと言い張りました。次は子連れでニューヨーク旅か……?

 

1週間のポートランド滞在で、見逃したところも数多くありました。ポートランド郊外にあるウィラメットバレーは世界有数のピノ・ロワールの産地で、ワイナリーが数多くあるのですが、残念ながら子連れでは……。ポートランド報告会用に空港で2本ワインを買いましたが、本当に美味しくて、みんなから大好評でした。

 

また、ポートランドは世界のベストビール都市1位で、できたてのビールをタップから注ぐスタイルのマイクロ・ブルワリーが市内に60カ所以上あります。こちらも子連れでは難しく……残念。りんごの醸造酒「サイダー(シードル)」もブームで、サイダリーも続々生まれているそうです。

 

ドーナツとコーヒーはセット。スイーツに美味しいコーヒーは欠かせない

 

契約農場のコーヒー豆をその場で焙煎して、1杯ずつ丁寧に淹れるサードウェーブコーヒーの発祥の地とも言われるポートランド。コーヒーは滞在中、何杯かいただきました。ダークローストのコーヒーはしゃきっと目が覚め、会話もはずむ。旅の仲間も、ブレイクの旅に美味しいコーヒーを片手にリラックスしていました。

 

最終日の夜、宿で飲もうと思って買ったクラフトビール(右)。確かに、バスに乗る時まではあったのだけど、バスで眠ったこどもを抱っこして……などあたふたしている間に、どこかへ行ってしまった……

 

今回私たちが見てきたポートランドのものづくり文化、その一端を垣間見ただけではありますが、人々の暮らしに息づくDIY精神やハイクオリティなライフスタイルを支える大きな素地だと感じます。エコ、ものづくり、グルメ、まちづくり……さまざまな切り口で、ポートランドをもっと知りたい、感じたい、再訪したいと思えるまちでした。

Information

子連れでPDXツアー レポート集

(1) 概要編:(北原)

(2) 子連れ旅編:(船本)

(3) ものづくり文化編(北原)

以下、続きます!

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この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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