扉を開ければ本の世界に浸れる 家庭文庫「おはなしのへや ぽっぽ」
【2017年ライター養成講座修了:山田麻子】横浜市青葉区にどこかなつかしい時間の流れる「おはなしのへや ぽっぽ」があります。ここでは、地域の子どもたちを対象に、読み聞かせや本の貸し出しが行われています。個人で図書室を開くって、どういうことだろう? 本好きの私は興味津々で取材にいってきました。

<普通のおうちの地下室にある「おはなしのへや ぽっぽ」>

 

毎週水曜日、15時すぎ。

学校から帰ってきた近所の子どもたちが、「こんにちは!」と玄関の扉を開け、地下室への階段を降りてきます。

我が家の子どもたちもお世話になっている「おはなしのへや ぽっぽ」は、横浜市青葉区荏子田にお住まいの関沢純さんの家の地下室にあります。ここでは子どものための小さな図書室、家庭文庫(※)が毎週水曜日に開かれています。

主催しているのは「ぽっぽのおねえさん」こと、二塚はる子さん。

(※)家庭文庫とは、個人が自宅を開放し、本の貸し出しや読み聞かせなどを行う子ども向けの小さな図書室のことをいう。1960年代以降、全国各地で盛んに行われた。

ぽっぽにははる子さんが集めた児童書が900冊以上並んでいる

 

「おはなしのへや ぽっぽ」は、1999年、はる子さんと妹の知子さんが、実家の関沢邸で隔月のおはなし会からスタートさせ、翌年からは貸し出しも始めました。約10年間続いた「ぽっぽ」ですが、はる子さんの仕事の都合で一時お休みすることになります。そして、再び環境が整った2015年5月から再スタートし、現在に至ります。

玄関に「おはなしのへや ぽっぽ」と書かれた小さなプレートがある。とっても控えめ

 

<おはなし会とおはなしのろうそく>

 

はる子さんが力を入れているのは、毎月第2水曜日の16時から行っているおはなし会です(2017年4月以降は第4水曜日になります)。「おはなしのへや」という名前は、子どもたちにたくさんのおはなしを伝えたいという想いからつけたそうです。

取材した3月8日は、3月の第2水曜日。おはなし会の日です。東日本大震災のあった3月11日も近いことから、はる子さんは震災にまつわる詩を読んでくれました。『きのうより1回だけ多く 阪神大震災で被災したきみへ』(川崎洋/詩『だだずんじゃん』いそっぷ社)です。

この日、参加していた幼稚園生から小学5年生までの子どもたちは真剣な表情で耳を傾けていました。直接被災した経験はなく、震災の記憶も残っていないない子どもたちも、被災した人たちの気持ちに思いを馳せているようでした。

読み聞かせ絵本は『もりのひなまつり』(こいでやすこ/作・福音館書店)、『はるかぜのホネホネさん」(にしむらあつこ/作・福音館書店)です。「このお話、知ってる!」と言った子どもも、絵を見つめて聞き入っています。

最後は素話の時間です。素話とは、ストーリーテリングともいいます。読み手が物語を覚えて語る方法で、聞き手の表情を見ながら語るので、話を共有しやすいといわれています。

部屋の電気を消して、はる子さんはおはなしのろうそくに火をつけます。子どもたちはおしゃべりをやめ、部屋の中はしんと静まり返ります。

はる子さんの優しい声で、『おいしいおかゆ』『エパミナンダス』『おはなしのろうそく1』(東京子ども図書館)の物語が始まります。子どもたちははる子さんの表情を見ながらお話の世界へ入っていきます。読み手側のはる子さんと聞き手側の子どもたちに一体感が生まれます。家からもあふれだし、どんどん増えていくおかゆ……「どうなっちゃうの?」と私も思わず引き込まれてしまいました。

ゆらゆらするろうそくのあかりで、みんなの気持ちがそろう

 

全てのおはなしが終わると、はる子さんは「ろうそくを消したい子はいるかな?」と子どもたちに呼びかけます。この日は「やりたい!」と手をあげてくれた2年生の女の子2人が、みんなの代表としてろうそくの火を消してくれました。「ふーっ」と息を吹きかけるときに、心の中でお願いごとをするとかなうのだそうです。

電気をつけて元の明るい部屋になり、子どもも大人もおはなしの世界から現実の世界に戻ってきました。

おはなし会の内容は終わってからプログラムが配られる

 

<素話というおはなしの力>

 

はる子さんはおはなし会でろうそくを灯しながら話す、素話をとても大切にしています。

子どもが好きなはる子さんは、大学で幼児教育を学びました。そのときに出会った素話は、はる子さんの人生に大きな影響を与えることになります。

「人の声を通して聞くことで、ゴーシュの気持ちが本当によく伝わってきました」とはる子さん。かつて読んだ本『セロ弾きのゴーシュ』(宮沢賢治/作)は、素話で聞くと、それまで思っていた内容より、より深く心に入ってきたといいます。

素話という話法に出会い、本の魅力を再確認したはる子さんは、その後、司書の資格をとり、図書館に就職します。そして、素話の勉強も始めます。

「素話は語り継がれてきたものも多いので、文章がこなれています。過剰な表現や演技は必要なく、そのまま読めばいいのですよ」とはる子さん。内気で恥ずかしがり屋だったという性格の自分でも、これならできると思ったそうです。

そして、はる子さんが感じた素話によるおはなしの魅力を子どもたちにも伝えていきたいと思うようになったのです。

大好きな本のことを話すと止まりません。本好きになった秘密を聞き出しました。「小学校の担任の先生が、学期ごとに決めた課題図書15冊を読んだ子どもには、文庫本をプレゼントしてくれて。文庫本を読みたいあまりに、いつも真っ先に15冊を読み終えてたんですよ」。なるほど

 

はる子さんが子どもの頃から好きな児童書の一冊『大きな森の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー/作/思地美保子/訳・ガース・ウイリアムズ/画・福音館文庫)。「児童書は大人にもお勧めですよ。子どもの心理がよく描かれているから子育てにも参考になるのではないかしら」とはる子さん。ぜひ読みたいと思います

 

<ぽっぽのおじいさん、ぽっぽのおばあさん>

はる子さんのご両親である関沢純さん、理子さんも本の貸し出しや読み聞かせなどのお手伝いをしてくれます(ときには、おはなし会で楽器の演奏も!)。

純さんも、理子さんも「ぽっぽ」の開かれる水曜日を楽しみにしている様子。「小さいお友達ができて嬉しいよ。ぽっぽがなければ小学生と話すこともないからねえ」と純さん。子どもたちにとっても、親や先生以外の大人とゆっくりお話しできる貴重な場所かもしれません。

子どもたちが、親しみをもって「ぽっぽのおじいさん」「ぽっぽのおばあさん」と呼んでいる関沢純さん、理子さん。優しいお二人とゆっくりお話を楽しんでいく子どももいる

 

作りたい子どもは季節の折り紙なども教えてもらえる。2月は鬼の顔を折り紙で作った。年会費500円は折り紙代や、クリスマス会のお菓子代として使われる

 

<ぽっぽの蔵書>

 

ぽっぽの本は、「子どもたちに読んでほしい本」という視点からはる子さんが選んだものです。図書館や学校で、司書として働いていた経験のあるはる子さんは、子どもたちにとって頼れる存在です。何を借りようかと悩んでいる子どもには、はる子さんが相談に乗ってくれます。

また、「来てくれている子どもたちの興味に合わせて本を探すのが楽しい」とはる子さんは言います。例えば、バレエが好きな子には、バレエをテーマにした物語を、お菓子が好きな子には和菓子をテーマにした絵本を……というように、その子が好きそうな本を、本屋さんで探してきてくれるのです。

限られた人数の子の好みに合わせていると、蔵書が偏ってしまわないのですか?と聞いたところ、「これが、ぽっぽの個性になり、狭くても深い世界になるからいい」のだそうです。

ぽっぽに行って、おはなしを聞いたり、本を選んだり。また、ぽっぽの人たちとお話をした時間。それは、大人になって振り返ったときに、ほんわかと温かい気持ちになれるのではないかなと思うのです。

今回、取材をして、すっかりぽっぽファンになった私。

はる子さんのように本好きな人になってほしいと、娘や息子にも、「ぽっぽへ行って本を借りてきたら?」と勧めてみたり、子どもが行かれない時は変わりに行って借りてきたりしています。

公立の大きな図書館も好きですが、ぽっぽのような家庭文庫もずっと続いてほしいなと思います。小さなコミュニケーションの場としても大切にしたい場所なのです。

Infomation

おはなしのへや ぽっぽ

0歳から小学校中学年程度を対象に900冊以上の蔵書があります

電話: 045-909-1677(関沢さん)

【本の貸し出し】

毎週水曜日(祝日はお休み)

15:0016:30

【年会費】

500円(0歳から)ご家族3人目からは無料。11月以降の入会は200

会費は年度途中でも、初めて来たときにいただきます

【おはなし会】

毎月 第4水曜日(2017年4月より) 16:00〜

楽しい手あそびや絵本のよみきかせ、むかし話の語りをします

駐車場はありません。近隣への駐車も近所の方へ迷惑になるので、ご遠慮ください。

山田 麻子
この記事を書いた人
山田麻子ライター
横浜市青葉区在住。20代から食関係の仕事に携わり、出産後は赤ちゃん連れママが参加できる「ナチュラルおやつの会」を主催。その後、自宅での料理教室を開いたり、管理栄養士としてレシピ提供等をおこなう。家宝は実家から引き継いだぬか床。日本茶と本が好き。ブログ*スマイルごはん*を始めよう→
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