「こどもみらいフェスティバル」を支える大人たち
今年も「こどもみらいフェスティバル」のシーズンがやってきました。こんなにも地域に親しまれ、子どもも大人も巻き込む一大イベントが、実はまだ4年目で、ボランティアで運営されていると知ってびっくりして、実行委員長にお話を伺ってきました。

こどもみらいフェスティバルは、「子どもが主役の子育て」「もっと自由に外遊び」をコンセプトに、港北ニュータウン(横浜市都筑区)で、2週に渡って開催されるイベントです。

 

横浜市営地下鉄線センター北駅前に突如竹で組まれたタワーが登場し、何やら人が群がるティピ、ワークショップなど、あるはずもない場所に見覚えのあるプレイパークのような光景が広がり、改札を出た瞬間からワクワクしたのを思い出します。

 

私にとって港北ニュータウンは、今でこそ娘の幼稚園のある日常の場所になり、駅前以外の魅力をたっぷりと知ることになりましたが、それまではちょっとよそ行きの格好をしてお出かけをするまちでした。

 

でも、フェスティバルの時ばかりは、いつも泥だらけの娘の草履が全く違和感なく、子どもはもちろん、大人も一緒に無邪気に楽しめる、そんなちょっと不思議で、居心地の良い空間になっていて、気づいたら丸一日をそこで過ごしていました。

 

この日も、子どもたちがまわりで自由に遊ぶ中、フェスの打ち合わせをしていた

 

このフェスの仕掛人、いわゆる言い出しっぺが石飛智紹さん(57)。みんなから、親しみを込めて「とうちゃん」と呼ばれています。実際に小学生3人のお子さんのとうちゃんで、石飛家の子どもたちは、小さい頃から当たり前のように日々プレイパークで過ごし、幼稚園は都筑区にあるりんごの木子どもクラブに通いました。今年の3月に3人目の男の子が卒業し、石飛さんもりんごの木保護者から卒業したばかりです。

 

このフェスの企画が持ち上がったのは、りんごの木で不定期に開催されているサタデーナイトでの会話がきっかけでした。

サタデーナイトは、誰でも参加できる開かれた交流の場であり、様々な立場の大人たちが、普段は子どもの居場所であるりんごの木で子どものことや保育のことを、時には講師を招き、食べたり飲んだりしながら語り合う会です。

 

その中から、一保護者として男どうしもつながろう、と、りんごの木では通称はたけと呼ばれる自然がいっぱいの原っぱでデイキャンプをしたり、ゴルフ部や釣り部などが生まれました。そして、このフェスも。

石飛さんが「この港北ニュータウンでフェスをするとしたら、何をすればいいだろう?」と問いかけたところ、みんなが「柴田愛子さんの話をたくさんの人に聞いてほしい」「そうすれば、もっと肩の力を抜いて子育てを自由に楽しめるはず」という思いで一致したのだそう。

 

りんごの木子どもクラブを運営する柴田愛子さん。気さくな人柄に、大人も子どももみな「あいこさん」と呼び親しむ(撮影:おくむらさちこ)

 

「大人が子どもに寄り添ってあげさえすれば、子どもは自ら育つ力を持っている」と笑って話す柴田愛子さんの講演会は、全国から引っ張りだこで、テレビにもなんども出演して、雑誌などでもそのお顔は広く知られています。

しかし意外にも、それまで地元であるこの地域で愛子さんの話をたくさんの人が聞く機会がほとんどなかったのだとか。

 

港北ニュータウンは、転入者も多く、たくさんの子育て世代が住む街です。それだけにありとあらゆる塾や習い事の選択肢があり、早期教育などの情報が氾濫しています。

一見おしゃれでたくさんの子育て世代がいるように見えつつ、孤立している親子がいたり、情報が多すぎて追い詰められてしまう親に、かつて自分たちが愛子さんの言葉で救われ、心が軽くなったことを伝えたい。こういう子育てもあることを知ってほしい、知育教育の加熱に対し、一度立ち止まってみない? と一石を投じてみたい、みんなの中にそんな思いがあったのだと、石飛さんは言います。

 

そこから石飛さんは、子育てというお母さんが主役になりがちな場所に、お父さんを巻き込んでいきます。

 

そして、それは、同じ志をもつ地域の団体、NPO法人もあなキッズ自然楽校や、地域のプレイパークの仲間たちといった横へもつながりが広がって行きました。

「プレイパークやりんごの木などの自然育児に興味がある人は、駅から離れていようと自分で情報を集めて、なんとかその場にたどり着ける。このフェスは、駅前をハイヒールでベビーカーを押しているお母さんにこそ届けたい」。そのためにはどうしたらよいか……

そこで、まずは、フェスそのものの「パッケージ」にこだわろう、と。

泥臭いものでは手に取ってもらえないと、おしゃれママたちにも興味を持ってもらえるクオリティのチラシにこだわり、知り合いのデザイナーに頼むことに。その方も、小さな子を持つお母さん。石飛さんたちの思いに賛同して楽しんで作ってくれて、今では毎年その方のデザインでチラシもシリーズ化しています。

そして、子どもが集まるイベントだということでアウトドアメーカーなどの企業にスポンサーとしての協賛を持ちかけ、2年目には実現させました。

これによって、愛子さんの講演会を無料で開催することができるようになり、より多くの人に愛子さんの話を聞く機会をつくることができるようになりました。

子どもたちに絶大な人気を誇るケロポンズのコンサートも、このフェスの目玉です。

石飛さんが大事にしているのは、個々が参加して楽しんでそれで終わりなのではなく、そこで出会った人同士が楽しくつながる場であり、会話が生まれる仕掛けづくりです。軸となる愛子さんの講演会以外に、駅前のショッピングタウンの中にワークショップスペースを設けたり、お母さんたちのアイデアから始まったバルーンアート、ハンドマッサージをしながら子育てのお話をする“ママの癒し隊”、子どもも大人も自由に遊べる日本一不親切なワークショップ『みんなの学校』などの映画上映会と、これまでも様々なイベントを点在させました。そして、それをプロではない、普通のお父さんお母さんたちのボランティアが潤滑油となってつなぎ、初めて来た人もなんだかホッとして会話が弾む、そんな空間づくりをしています。

そのための事前準備にも時間をかけます。実行委員を中心に、誰でも参加できるコミュニティ広場やカフェを定期的に開催してミーティングをし、子どもを遊ばせながらワークショップの練習やフェスのボランティアを募りました。

このフェスの象徴を担っている、ジャングルジムのように組まれた竹のタワー。これも、ボランティアのお父さんたちが切り出してきたものです。去年このフェスに関わったボランティアは100名以上、たくさんの人が楽しみながら参加できる環境をつくっています。

 

今年も5月半ばには竹の切り出しワークショップが企画され、お父さんたちがボランティアとして活躍する(撮影:藤吉光恵)

 

しかし、4年目を前にした今年、このフェスとの関わり方を見つめ直す機会があったと、石飛さんは言います。

それは、同じく実行委員として参加するパートナー、美郷さんからの「オレのフェスになってはダメだよ」という一言。

走り続け、負担や責任が大きくのしかかる石飛さんを一番近くで見守る美郷さんだからこその助言でした。

 

料理が得意な美郷さんは、フェスではカフェを切り盛りする

 

イベントの立ち上げの時は、とにかく勢いでなんとかなる。2年目はそれを発展させる、そして3年目……、だんだんと継続することの難しさが出てくる、と石飛さんは言います。立ち上げの時には同じ幼稚園の仲間で一緒に活動できたけれども、我が子が卒園すれば事情が変わって離れる人も出てくる、次の世代に変わると勢いにも変化が出てきたり、同じ熱量を持つことが難しくなってくる……と、時々で、課題が生まれてきました。それでも、いかに、みんなのフェスにしていくか。家族で、実行委員のみんなで、何度も話し合いを重ねたと言います。

ちょうど私が取材に伺った日は、ワークショップの内容を決めようと、まんまるプレイパークの代表、西田清美さんたちを中心に、プレイパークの一角でコミュニティ広場が開かれていました。

 

広い公園の一角にビニールシートを広げたオープンなスペースは、初めての人同士でも気軽に話しかけやすい

 

いろんな人が入れ替わり立ち替わり、それぞれの参加できる時間に顔をのぞかせ、気軽に語り合っていきます。

 

ワークショップの内容を決めたり、誰もが立ち寄りやすい空間づくりをするためにはどうしたらよいのか、みんなで意見を出し合う

 

この空気も、実は4年目にしてやっと定着し、実行委員以外の参加者が増えてきたのだそう。企画から一緒に考え、つくり上げようという仲間が増えてきたことに、西田さんは手応えを感じています。

 

最近は、土日になると、父子で来る人も多いのだとか

 

このフェスに参加するようになって、プレイパークの存在が認知されてきたと言うのは西田さん。それまで、駅から離れ、さらに一段下がった場所にある広場は決して認知度が高いとは言えませんでしたが、今では、「面白そうだね」と親子はもちろん、お年寄りも立ち寄ってくれるようになり、活気が出てきたと言います。

まんまるプレイパークに小さい頃から通っている石飛さんの娘さんは、今ではここで周りの大人に相談を持ちかけることもあるとか。その、親でも友達でもない斜めの関係ができてきたことを見て、「地域が子どもを育てるのだ」と手応えを感じています。

この日、石飛さんと話をする間、何度も我が子が乱入してきて話が中断させられました。その都度石飛さんがすっと子どもの話に耳を傾けてくれ、美郷さんがさらりと子どもの横に腰掛け、会話していてくれる。あまりにそれが自然で、ああ、子どもの心に寄り添うというのはこういうことなんだなあと、改めて感じました。

「みんな、初めて出会う育児書が、愛子さんの本だったらいいのにね」と美郷さん。そうすればきっとみんなもっと子育てが楽になる、と。

私も以前、愛子さんの講演会で話を聞き、知らず知らずのうちに子育てに頑張っていた自分に気づき、もっと力を抜いていいんだ、とホッとしました。そう、子どものエピソードを交えたお話はとても笑えるのに、なぜだか笑いながら涙が出た覚えがあります。

こんなにも地域のこと、子どもたちのことを一生懸命考え、全力で楽しむ大人がたくさんいるこの地域が大好きになりました。

今年のこどもみらいフェスも、きっとたくさんの出会いと笑顔が生まれる場になることでしょう。今から楽しみです。

 

最後に今年のチラシから、柴田愛子さんのメッセージを抜粋します

 

………………………

子どもを育てるのが親の役目です。

でも、そのための情報を集めすぎ、混乱していませんか?

子どもに良かれと思い、口うるさい日々になっていませんか?

子どもも生まれつきそれぞれ違う個性を持っています。

やんちゃな子を静かに、慎重な子を大胆にすることはできません。

ありのままのあなたが、ありのままの子どもを見守っていくことで充分です。

おとなが教えるより、子ども自身が学んで育っていく力の方がずっと大きいのです。

あなたの家族になった子どもは、あなたの家の子らしく育っていきます。

楽しみながら子育てできたら、それがいちばんです。

………………………

 

Information

☆こどもみらいフェスティバル2017

http://www.kmfes.com

■1stWEEK

センター北駅前芝生広場

日時: 6月10日(土)・ 11日(日) 11:00-17:00

センター北駅ビル3F あいたいイベント広場

日時: 6/10(土) ・11(日) 11:00-17:00

【未来のための小さな映画祭】

会場:森のようちえんめーぷるキッズ(もあなキッズ自然楽校)

時間: 6月10日(土)   

10:00-「ダムネーション」

13:00-「オキュパイ・ラブ」

http://moanakids.org/moanafilm-yokohama/

■2ndWEEK

【柴田 愛子 先生 講演会「ママがホッとする子育てアドバイス

– まずは、子どもを見ることから –」】

会場:センター南 都筑公会堂

時間:6/17(土)10:00開場、10:30-開演

※入場無料:申込み制・先着順ですが、入場券(無料チケット)が必要です。

http://www.kmfes.com/eventinfo2.html

【ケロポンズ 唄って踊れるファミリーコンサート】

会場:センター南 都筑公会堂

時間:6/17(土)14:30開場、15:00-開演

※チケットはすでに売り切れました

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この記事を書いた人
齋藤由美子AppliQué事業部マネージャー/ライター
森ノオトの事務局スタッフとして、主にAppliQuéのディレクションを担当。神々が集う島根県出雲市の田舎町で育ったせいか、土がないところは落ち着かない。家では「シンプルな暮らし」関連本が十数年にわたり増殖中。元アナウンサーで、ナレーターやMCとしての顔も持つ。小3女子の母。
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