まちづくりはまちあるきから。田園都市を「プラモウリン」
慶應義塾大学環境情報学部/大学院政策・メディア研究科 厳網林(げん もうりん)研究室のプロジェクト、M-NEX(注)をレポートするシリーズ。第2弾は「田園都市の田園はどこに」と題して、たまプラーザのまちを歩いた「プラモウリン」の様子をお届けします。

2018年6月2日、10時。東急田園都市線たまプラーザ駅中央改札口に集合した一行に与えられた最初のミッションは、「ナス」の価格を調べることでした。ナビゲート役を務める、研究室4年生の中山俊さんからの想定外の指示に、そうきたか!と私も好奇心がむくむく。駅の周辺には東急ストア、JAの直売所、東急百貨店、イトーヨーカドー、まちの八百屋、コンビニがあり、順にナスの価格と産地を調べて回ります。

開店まもないお店に、学生たちと一般参加者、取材関係者など総勢18名ほどが、ゾロゾロと連なり、ナスの売り場を記録する

 

野菜の価格は自然の条件でも変わるが、人間の都合も反映されている

 

調査結果の一覧表を作ってみると、最初のイメージ通り、最も単価が高いのが百貨店のもので、一本あたり80円。そのぶん見た目のつやや形の揃いがよく、陳列の仕方もていねいだったり、メイン商品以外にもたくさんの種類が揃っていて選ぶのが楽しくなる演出がされていたり、売り場の工夫にも一番力が入っていました。

 

この日、一番単価が低かったのはJAの直売所で、一本35円。こちらは横浜産で、栽培農家さんの名前も記されていること、鮮度も良いことなどから、お財布にも体にも、輸送のエネルギーの消費量という意味でも嬉しい感じ。ただ数に限りがあるので売り切れ御免で、イトーヨーカドーや東急ストアの圧倒的な物量が、多くの住民の胃袋を支えていることが感じられました。

 

スーパーマーケットのナスは高知県産のものが目立ちます。一方、まちの八百屋さんは、その場所を知っている人が来るところなので市場からの野菜の仕入れも少量ずつ行なっている様子が伺えます。研究室の学生たちの調査によると、コンビニの野菜は単身の若い人にはニーズがあるそうです。「言われてみれば、たしかに最近野菜を扱うようになった店舗が増えているかも」と参加者同士でも気づきをシェアします。

最初のミッションを終え、いよいよ、まちあるきスタート。駅前から山内公園を目指し、そこから平原橋を経て保木まで歩く。帰りはバスに乗って、さんかくベースのWISE Living Lab さんかくBASEでランチをして解散というのが本日のコース

駅前のショッピングエリアを抜けると、静かな住宅街が広がり、街路樹や適度に配置された公園によって緑のある風景が続きます。青葉区は街路樹や公園の数が横浜市内で一番多いまちですが、この日は最高気温25度を超す暑さだったので、道路沿いの木陰のありがたさをひときわ感じました。「公園は都市の肺と言われ、都市の拡大を抑え、少量ですがCO2を吸収する効果があります。人々の憩いの場、遊び場として、また防災時の拠点という意味でも重要です」と中山さんは解説します。山内公園には貯留浸透施設が隣接していて、大雨の際などに水をためる機能も備わっています。

 

しかし、厳先生は「この貯水施設はリスク管理を考えて設置されていますが、ちょっと見世物的、土木的発想のつくり方で、自然の理に適っているわけではないですね。都市全体で水の浸透率を高める、という考え方が理想的で、行政のセクターを超えてまちづくりをしなければならない」と指摘します。都市全体の水の浸透率をあげるには、緑地や土の面をなるべく残すことや、水の流れのエネルギーを分散させる工夫、アスファルトの素材を透水性のあるものにするといった工夫が、考えられます。

平原橋交差点の真ん中からみた早渕川。1962年から14年かけて護岸工事が行われて、それまで蛇行していた川はまっすぐに整備され、道路や暗渠ができ、周囲は宅地化された。川沿いは標高の低いエリアで、山内公園周辺からの標高差は26メートルほどあり、大雨が降ると一気に水が押し寄せる構造となっている

 

「開発の際に、自然を残すという発想があまりなかったことが見てとれます。川の周囲に、もう少し広く田んぼなどを残した方が良かったのではないかと思いますね」と再び厳先生。

 

「日本人のおよそ80%以上が 、標高100メートル以下の土地に住んでいて、その大多数の人が住む土地の面積は、日本全土からすると25%未満です。日本人は標高の低いエリアに過密して住んでいることがデータからわかります。世界の都市で見ると、東京は川沿いの低いところに住む人が多いのに比べ、ニューヨークやロンドンでは尾根側に住む人が多いです。たまプラーザ駅周辺は欧米型で高い位置にありますが、古くから暮らす人の多くは川沿いに住んでいます」。

中山さんの話からは、住む場所の高さという視点が示されて、まちが立体的に見えてくる感覚がありました。

川沿いを進むとこの地域で有名なパン屋さん、ベッカライ徳多朗の前で野菜の販売が行われていました。ちょっとした空きスペースを利用しての移動販売というサービスは、今後色々に展開される余地がある

「パン屋と八百屋の組み合わせも面白くていいですね」と、厳先生は、次世代の食の流通サービスとして注目している様子でした。駅から歩いて30分ほどかかるこの辺りは、まちの雰囲気もなんとなく、のんびり、ゆったりしているように感じられます。さらに進んで保木の交差点を過ぎると、待望の田園が見えてきました!

保木に広がる田園風景。芍薬の花の栽培でも知られる飯田農園さんの畑にお邪魔した。飯田さんは、3箇所1000平米ほどの農地で、家族3人、少量多品目の作物を育てている。直売と飲食店への卸のみに対応し、市場への出荷はしていない

飯田農園の直売所は、いつも開始1時間くらいでほぼ売り切れてしまうという近隣住民に大人気の小さな市場となっている。ここも目の前にパンステージprologueという人気のパン屋がある。野菜とパンのあるところには人が集まりやすい?!

株式会社アグリメディアが運営するサポート付き市民農園シェア畑も見学した。全国80箇所、地主さんから土地を借りあげて、区画わけして希望者に貸している。農機具類や種、苗の用意があり、手ぶらで行けるのが特徴。希望すれば指導もしてくれる

シェア畑があるのは主に、「生産緑地」と呼ばれる土地です(ただし、「シェア畑美しが丘」は生産緑地ではなく、市街化調整区域内の特区農園です)。

 

山内公園から平原橋にいたるまでのルートには、生産緑地が点在しており、生産緑地を説明することとして「税制優遇」「営農義務」「都市部にある」「指定解除が難しい」というキーワードを、プラモウリン参加者はクイズ形式で学びました。都市計画法という法律では、市街化区域と市街化調整区域と言われる土地の分類があるのですが、生産緑地は、開発可能な市街化区域内にある農地や山林のことです。市街化調整区域は、都市計画の中で、もともと市街化をしない区域のことで、農林漁業のために残された土地なので高層ビルなどを建てることはできません。建物を建てたりする場合には都道府県の許可がいります。

 

実は、全国の生産緑地のうちの8割が2022年に指定解除可能な30年間という期限を迎えるため、大量の土地が宅地化されて農地や農業従事者がますます減ってしまうのではないかと懸念されています。生産緑地は市街化区域の中にあるので、指定が解除されてしまったら開発が可能なのです。つまり、後継者のいない土地には、税金対策や維持管理の困難さのために、マンションなどが建てられてしまう可能性が高いのです。

 

それを防ぐ一つの方法として、土地所有者が自ら営農し続けるのではなく、企業やNPOに貸し出すことができるように法律が改正されました。シェア畑は、その制度を利用して、たくさんの人が農を楽しみながら、環境や景観を守ることができるサービスを提供しています。横浜市では、生産緑地であれ、市街化調整区域であれ、区画分けして貸し出しされている農地のことを、「特区農園」と言っています。ちょっとややこしいですが、農に興味がある方は覚えておくと良いですね。

 

参加者の一人は、「パンを買いに来たことはあったけど、直売所や畑のことは全然知らなかった。車で移動すると気づかないものですね。今回こうしてみなさんと歩いてみて、発見できたことがたくさんあった」と感動していました。参加した誰もがそれぞれにまちの魅力を再発見するとともに、課題も共有することができました。

たまプラーザでのM-NEXプロジェクトでは、データを見ながら実際のまちを歩いて見えてくることをまとめて、「まちの解体新書」を作りたいんですと、中山さんは語る

 

Food(食)Water(水)Energy(エネルギー)による新しい都市の評価軸ができれば、駅を中心とした利便性や住みやすさとは尺度の違う地図ができ、まちの定義や、まちの境界がガラリと変わる可能性を秘めています。今日の楽しい体験が、どんな形に落とし込まれるのでしょうか。次の展開がとても楽しみですね。M-NEXプロジェクトは日本だけなく、海外の研究機関と連携した取り組みであり、「世界の中の日本」を考え、暮らしをよりよく発展させることが求められます。たまプラーザは、日本の中でも東京に近い郊外都市です。この地域ならではのきめ細かいサービスを生み出すためのプロセスは、他国の都市にも応用されるかもしれないし、その逆もありえます。

豊かな食とはなんだろう? 例えば、みんなで食べると美味しい、みんなでつくると楽しいという感覚は、国を超えて共通するのだろうか。どんな視点から見るかで、豊かさの指標も変わっていく

まちあるきの締めくくりは、地元・美しが丘にお住いの料理家・みつはしあやこさん手づくりのお弁当です。主に、青葉区産の野菜を使っています。本日のお品書きは、おむすび4種(たこめし・きのこおこわ・桜海老とそら豆・寝かせ玄米)、季節の野菜(肉巻きアスパラ・新じゃがもち・豆の卵焼き・人参ケーキ・ズッキーニつくね・さんが焼き・玉葱・キャベツ・南瓜……)、栗とナッツのメープルグラノーラに味噌玉添え。たくさん歩いて、たくさん考えた後の体と心に沁みました。輸送コストや廃棄の量など、日本の食をめぐる課題は実は山積みですが、みつはしさんのように一途に食に向き合う人も多いことに、希望や可能性を感じます。

 

今回の企画に参加して、まちについて考えること、まちづくりに参加することは、楽しくて美味しいということを、私も改めて実感することができました。

Information

最後に中山さんに、この研究の下地になっている「本」を教えてもらいました。

まちづくりやM-NEXプロジェクトが気になる方は、読むと理解が進むかもしれません。

 

「新訳 明日の田園都市」 エベネザー・ハワード=著、山形浩生 =訳、鹿島出版会

「アメリカ大都市の死と生」 ジェイン・ジェイコブズ=著、山形浩生 =訳、鹿島出版会

「ヒューマンエコロジー入門」 ジェラルド・G・マーティン、天野明弘、関本秀一=著、有斐閣

 

※M-NEXはベルモント・フォーラム国際共同研究事業「持続可能な都市に向けてのイニシアチブ:食料―水―エネルギーのネクサス」のプロジェクト「可動型ネクサス:デザイン先導型都市食料―エネルギーー水管理のイノベーション」の略称です。

 

 

慶應義塾大学SFC厳網林研究室

神奈川県藤沢市遠藤5322, 厳網林研究室 ε502

tel&fax : 0466-49-3453

http://ecogis.sfc.keio.ac.jp/ecolog2/

 

梅原 昭子
この記事を書いた人
梅原昭子理事/事務局長/ライター
難しいものをおもしろく、かたいものをやわらかく翻訳し、絵で表現できる編集者。市民電力会社「たまプラーザぶんぶん電力」の社長になってしまうが、エネルギーの世界にも飄々とたゆたう視点で、こんがらがった世界を解きほぐす。アートユニット「WAKUSEI/ワクセイ」として縦横無尽に活動中。
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