「ど根性」を支える男たち|横浜駅「大ど根性ホルモン」・いずみ野駅「ど根性キッチン」
「横浜の地産地消」と聞いて、真っ先に思い浮かべる「顔」があります。西区「大ど根性ホルモン」と泉区「ど根性キッチン」のオーナーシェフ・椿直樹さん。彼の活躍をお店で支える3人の女房役・輿水隆太郎さん、内山淳人さん、枝吉直樹さんを取材しました。

農林水産省認定「地産地消の仕事人」に神奈川県で初めて認定され、横浜市の地産地消の料理人や生産者ネットワークの「濱の料理人」代表、横浜市西区の居酒屋「大ど根性ホルモン」と泉区のレストラン「ど根性キッチン」のオーナーシェフとして多忙を極める椿直樹さん。椿さん目当てでお店を訪れても、どこかの畑にいるか、イベントに駆り出されているか、食育活動で子どもたちとふれあっているか……、つかまらないこともしばしばです。椿さんが自由に外を飛び回れるのは、頼れる人たちがいるからに他なりません。特に、「大ど根性ホルモン」のマネージャー・輿水隆太郎さんとの付き合いは約20年にわたり、まさに「女房役」と言える存在です。

「椿さんのやっていることは、ほぼ全て把握していますよ」と不敵に笑う輿水さん

「椿さんとは、もう、阿吽(あうん)の呼吸ですね。女房役? そう。大ど根性ホルモンのお父さんが椿さんなら、自分はお母さん……なのかなあ」

 

そう話す輿水さんは、椿さんがスペイン料理店のシェフだった時代から、料理人とホールスタッフという間柄で、椿さんが2011年に独立して、西区戸部町で「ど根性ホルモン」を立ち上げた時から一緒にお店を切り盛りしてきました。戸部のお店を立ち退きになって、今の「大ど根性ホルモン」に店を移す艱難辛苦(かんなんしんく)を共にしてきた間柄です。

 

「僕は毎日お店にいて、お客さんの顔を把握して、声をかけて、くつろげるようにするのが役割です。椿さんはガンガン外に出て新しいことを切り拓き、出会いを広げて、人をつなげていくタイプ。一方で僕は、堅実で保守的。だからバランスよくお店が回っているのかなあ」と、輿水さんは二人の関係を分析します。

大ど根性ホルモンのメニュー表や壁面は、生産者の似顔絵や、思わずクスッと笑ってしまうようなポップで埋め尽くされている。イベントや企画などのチラシも輿水「画伯」の手になるもの

そんな輿水さんと一緒に大ど根性ホルモンのキッチンで腕をふるうのは、内山淳人さん。28歳という若さながら椿さんは「私が若い頃よりもよほど腕がいい。料理のセンスがある」と信頼を寄せています。横浜市都筑区出身の内山さんは、大学時代に環境教育を学んだことから横浜の地産地消に興味を持ち、卒業後の進路として料理人の道を選んだといいます。

 

「大ど根性ホルモンでの仕事の面白さは、仕入れからメニュー開発、在庫管理まで、全てを任せてもらえること。黒板メニューやイベントメニューを考えたり、お客様に自分がつくったメニューで喜んでもらえると、すごくうれしい」と、内山さんは素直に話します。

「平本貴広さんの畑(神奈川区)にいくと、珍しい野菜や、時々野草やハーブなんかも生えていて、とてもおもしろい。季節ごとに彩りが異なっていて、魅力的だなあ、と思います」と、生産者との交流からもたくさんのことを吸収している内山さん

そんな内山さんの夢は、近い将来途上国に渡り、「環境教育と食」のテーマで支援をおこなうこと。入社当初から椿さんにその夢を話していたと言い、椿さんも「内山の夢を全力で応援したい」と力を込めます。

大ど根性ホルモンはテーブルや座敷席があり、店舗の奥行きが深い。家族連れや女性客が来やすいのもポイント。写真は2016年夏に森ノオトのスタッフ研修で訪れた際のもの

2016年8月に相鉄いずみ野線「いずみ野」駅ロータリーにオープンした「ど根性キッチン」は、横浜でも屈指の農業地である泉区にあり、「泉区の農業とともにありたい」と願ってつくられたお店です。店で扱う食材の9割は、いずみ野産。お付き合いのある農家さんの顔ぶれも泉区周辺の方が多く、横山宜美さん横山勝太さん矢澤秀之さん……と、やはりお店の壁には農家さんの顔写真がずらりと並びます。

ど根性キッチンは、枝吉直樹さん(右)が厨房とお店の管理を任されている。そして、女性のパートスタッフさんが元気。くつろいだ笑顔が、お互いへの信頼関係と働きやすさをうかがわせる

そんなど根性キッチンの「顔」は枝吉直樹さん。枝吉さんもまた、椿さんとの付き合いは20年にわたり、料理人生活の大半を椿さんと共に過ごしてきました。

 

「私はもともとサラリーマンだったんです。大学卒業後に大手の外食チェーンに新卒で入社して、いきなり店長、幹部候補という感じで 2年間がむしゃらに働きました。そのうちに、料理人になりたいという夢に気づきました」(枝吉さん)

 

退職後は、昼間はレストランで働き、夜間に調理師の専門学校に通う日々。そんな時に出会ったのが椿さんで、「30代の椿さんはどこかギラギラしていたというか……(笑)。でも義理人情に厚くて、面倒見がいいところは今も変わりませんね」。枝吉さんの料理人としてのステージが変わるタイミングで最も合うレストランを紹介してもらうなど、「椿さんは常に自分を導いてくれた」と恩義を感じているそうです。

ど根性キッチンを任されている枝吉直樹さん。椿さんとファーストネームが一緒!「枝吉はともかく真面目で“義”を大切にする男です。私と根っこが似ているところがある。コックとしてあれだけ料理に集中して打ち込む姿は尊敬に値します」と、椿さん

ホテルやフレンチレストランでフランス料理の技法を身につけてきた枝吉さんは、椿さんが「大ど根性ホルモン」を立ち上げる時に声をかけられ、2013年から正式に一緒に働くことになりました。

 

「大ど根性ホルモンは焼肉屋だからね、と最初に椿さんに言われました。私はフランス料理が食の最高峰と、実は思っているんですが(笑)、椿さんにはずっと世話になってきたし、ここで力を貸したい、と思いました。フレンチの技法があれば、和食でも中華でも居酒屋料理でも、なんでも応用できるから」と、大ど根性ホルモンでは椿さんのメニューを踏襲しつつも、少しずつ、枝吉さんの個性を出していったと言います。

 

「だけど、もともとは、“椿さんの料理”があるわけです。椿さんが長年料理人として培ってきたものと、農家さんとの関わりが料理に出ていて。だから、農家さんへの思いを大切にすることを真ん中に据えていけば、必然的に椿さんの料理に近づいていくんですよね」と、枝吉さん。

ランチはステーキ丼やローストビーフ丼、カレーなど、ともかくすごいボリュームで、思わず歓声が出てしまうほど

 

大ど根性ホルモンとど根性キッチン、二つのお店の違いは、どういうものなのでしょうか?

 

「大ど根性ホルモンは居酒屋で、普段働いている人が来店します。ほかのお店にはないような、横浜野菜がたっぷりのった“ど根性サラダ”を食べたくて来る人が多いんです。だけど、ど根性キッチンのお客さまはほとんどが地元の人で、普段から自分で育てた野菜を食べているような人たちだから、“ど根性サラダ”を注文しないんですよ(笑)。だから、地元の人がちょっと驚いてくれるような、一手間をかけて出すことを心がけています。地元の人は枝豆を自分で畑から採って茹でて食べるから、ここではガーリック炒めにするとかね」(枝吉さん)

国際会議で横浜野菜をメインにしたケータリングも。「ホテル時代に和洋中、すべてのジャンルの料理を学びました。大人数のケータリングにも対応できるのは、そこでの経験が生きているからかもしれません」(枝吉さん)

 

このように、仲間のような、同志のようなスタッフと一緒に、横浜の地産地消を横浜内外に発信し続ける椿さんは、常にスタッフへの感謝を忘れません。

 

「私のやり方を真似してくれ、踏襲してほしいとは思っていません。彼らのやりたいようにやってほしいし、彼らがありたいようにいてほしい。私が外に出て自由にやれるのは、間違いなく彼らのおかげです。私は、食はテクニックじゃないと思っています。横浜の、いずみ野の農家さんがつくってくれる食材に対する尊敬の気持ちと、ベースにある愛情、そして農家さんへの想いを共有してくれる彼らがつくってくれる料理は、間違いなく“横浜の地産地消”の味なんです」(椿さん)

 

椿さんの交友関係は、農家さん、料理人、加工品の生産者、企業、行政と多岐にわたり、しかもそれぞれと濃いつながりを築いています。

「私も50代になって、そろそろまとめの時期にさしかかっているのかな」と、椿さんは言います。無我夢中で、頭で考えるよりも先に体が動いていた時期を経て、横浜を代表する地産地消の「顔」になった椿さんが、これからどんな仕事を成し遂げていくのか、今後も目が離せません。そして、その活躍の礎には、椿さんの地産地消への想いを誰よりも深く理解し、彼ら自身の出会いや学び、そして気持ちをのせて、お客様へと料理を伝える「仕事人」がいるからこそ、なのです。

Information

大ど根性ホルモン

https://daidokonjyohorumon.owst.jp

住所:横浜市西区北幸2-13-4 第7NYビル B1F

TEL 045-320-3077

営業時間:

月~金:11:30~15:00 / 17:00~翌0:00

土、祝日、祝前日:17:00~翌0:00

定休日:日曜

 

ど根性キッチン

https://www.facebook.com/dokonjyokitchen/

住所:横浜市泉区和泉町6214-1
TEL:045-410-8466

営業時間:11:00~22:00 (L.O.21:30)

定休日    月曜(月曜が祝日の場合は翌火曜)

北原 まどか
この記事を書いた人
北原まどか理事長/編集長/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
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