「じぶんっていいな」と思える子どもが育つ場|和光鶴川幼稚園〜夢をかなえる実践〜
「自分っていいな」ってどうやったら思えるんだろう。私たち大人の社会では、そんな疑問さえ忘れ去られている気がします。その問いへのヒントはここ、和光鶴川幼稚園の子どもたちと、その周りにいる先生たちが教えてくれました。

「“自分っていいな”と思える子どもに」 の言葉を保育の軸にしている幼稚園があります。小田急線鶴川駅からは車で15分程。幼稚園に向かう途中、どんどん景色の中に緑色の割合が増えていきます。ここは本当に東京都なのだろうか。こんな場所に幼稚園があるのかな。そんな風に感じながら、少し街道からは外れた道を、山の方角へと登っていきました。その坂の上に位置するのが、和光鶴川幼稚園です。

 

1969年に開園された和光鶴川幼稚園。ちょうど今年で創立50周年になりました。1学年2クラスずつ。3年間クラス替えはなく、現在園児は115名です。給食はなくお弁当ですが、週に2 回「おにぎり弁当の日」があります。幼稚園からお味噌汁が出るので、家庭からはおにぎりだけ持たせてもらうのだそうです。

幼稚園に入ると最初にお出迎えしてくれる壁画。こんにちは

幼稚園から大学まである和光学園。幼稚園と小学校は世田谷キャンパスと町田真光寺キャンパスがそれぞれあります。「意外と幼稚園のことは知られていないみたいなんです」と笑って話す副園長の保志史子(ほしふみこ)先生は、新卒の頃から和光幼稚園(世田谷)に勤務し、その後30年以上和光鶴川幼稚園町田真光寺キャンパス に勤務されています。

 

「昔から、“自分ていいな”と思えたことがなかったんです 。鈍臭かったので」

と笑う保志先生。公立小、中学校で育った保志先生は和光高校に入り、カルチャーショックを受けたそうです。

 

「本当にいろんな人がいて。でもね、いろんな人に対して、先生たちが、すべての子を受け入 れて、大事にしていたんです」。その時に感じたことが今の保育方針の原点にもなっているとお話してくれました。

保志先生の目は、子どもたちの心の深いところまで見えているようでした

一人ひとり の子どもを大事にしている和光鶴川幼稚園。子どもたちは園でどの様に過ごしているのでしょうか。実際に様子を覗かせていただきました。

 

園での過ごしかた

普段は天気がよければ、毎日外で遊ぶ園児たち。近くには約800坪もある「風緑の丘」や畑があり、自然の中で遊ぶことを大切にしています。虫探し、お花摘み、桑の実を取って食べるなどなど、四季をたっぷり味わって子どもたちは過ごします。

毎日の外遊び。どんな匂いを感じて歩いているのだろう(提供:和光鶴川幼稚園 )

 

小山田緑地へ遠足。ザリガニ釣れたかな?(提供:和光鶴川幼稚園)

 

幼稚園の近くにある畑。野菜クズをボカシや米ヌカと混ぜ、土と混ぜ、土を活性化し、野菜を育てている。土作りも子どもたちと一緒に行う。野菜は、ミニトマト、きゅうり、ナス、ブロッコリー、白菜、かぶ、大根、小松菜、さつまいも、ジャガイモ、しそ、パクチーなど種類も豊富。(提供:和光鶴川幼稚園)

しかし残念ながら取材した日は梅雨真っ只中。室内遊びの様子を見させていただきまし た。

教室を覗くとなにやら木工作に取り組む園児たち。最初に驚いたのがみんなかなづち、ノコギリを使いこなしていたことです。それも本当に大人仕様のもの。

 

本物に触れて欲しいからという理由で使うのかな?と思い、先生に伺うと、「うーん。それもあるけど、子どもがやりたがるんですよ!」と保志先生。子どもがやりたがるからやる。とてもシンプルな回答でした。

 

木工作の様子をしばらく見ていると、かなづちで時々指を打ってしまう子どもたち。「大丈夫?」と私が声をかけると、「全然へっちゃらだよ」と笑っていました。隣にいた子も「ぼくも   ゆびをたまにうっちゃう」「わたしもやっちゃうよ」と、まるで自慢のように話していたことに驚きました。

 

怪我をしたら嫌だからやらせたくないという大人の気持ちとは違い、怪我が武勇伝になるくらい、「できた!」という喜びの方が大きいのだなあと子どもたちを見ていて思いました。

釘が曲がってしまったら、釘抜きで釘を抜くのは必ず自分でやるのだそう。失敗してもまたやり直せるということを体得していく子どもたち

 

出来上がった船を水上で走らせることができる。うれしそう

隣のクラスでは、週末に自分が作ってきたもの、探してきたものなどをみんなの前で発表していました。見ていて感じたことは、友だちのことを「すごいね!」と素直に褒めることができる子がたくさんいたことです。

 

「自分が満たされていれば、友だちのことも認めてあげられるんです。だからまず自分なの」と保志先生。

運動会で踊る荒馬踊り。太鼓や笛の音をならすと自然に子どもたちは体が動き出すのだそう(提供:和光鶴川幼稚園 )

年間を通して、2泊3日の夏合宿や荒馬踊り、劇の会など、面白そうな行事がたくさんある 和光鶴川幼稚園。

 

保志先生のお話や、実際にクラスの子どもたちの様子をみさせていただき、魅力的な取り組みや、日々の保育について少し知ることができました。でも そのことが、保育方針の軸である“自分っていいな”とはどうつながるのか、まだつかめなかった私は、その話を深掘りすべく、保志先生に伺ってみました。

 

どうしたら自分っていいなと思える子に育つの?

まずは子どもが「やりたい!」という気持ちを大事にすることなのだそう。

 

「全くゼロの状態から何かやりたい!って難しいので、例えばその子が興味がありそうなものや、やりたそうなものをそっとそばに置いておくとかね。ゼロから『何やりたい?』ではなく、子どもの普段の様子から、『本当のやりたいモノ』を引き出していく。そして、子どもが『やりたい!』っていうタイミングがきたら、それを全力でサポートするんです」(保志先生)

ここは、“やりたい!”ができる場所なんだね

それから、教師が一人ひとりに起こる出来事を大事に想うこと。

「今やっていること、ぶつかっていることを全力で応援し、悩んでいても、悩んでいることを応援します。泣いていることはダメな訳じゃないし、悩んでいること、ぶつかっていることの全てが大事なんです。それで、子どもが壁や、悩みから抜けて行った時、『よかったね』と、いつでも言います」(保志先生)

 

一人ひとりの話を聞いて、受けとめてくれる大人がここにはたくさんいる。だから子どもたちは話を聞いてもらいたくて、初対面の私にもたくさん話しかけてくれました。ここの幼稚園の子どもたちの人懐っこさは、人を信頼しているからだなあ。と、幼稚園の根底に吹く風のようなものを、感じた気がしました。

 

それから、毎年、年長になると取り組む「協同的学び」。

協同的学びってどんなものですか?と私が聞くと、「夢をかなえる実践です!」と笑顔で答える保志先生。

 

夢をかなえる実践? 言葉が既にすごい!と中身も知らないのにわくわくしてしまいました。だって夢を実践しちゃうんだもん。いいなあ。ロマンがあるなあ。と、心がじんわりしました。

 

「協同的学びは、最初はね、年長さんになると9月に、実物大ほどの動物を何種類も作り、本物みたいな動物園を作ったり、11月に自分たちも乗れるくらいの電車を作るって毎年恒例行事のように決めてやっていたんです。年長さんになったら、大きな電車を作るんだっていう子どもたちや親の期待もあったんだけど、でもやっていくうちに、その年の年長の子どもたちの雰囲気や、やりたいことも違う。それに先生も前年の子どもたちの盛り上がり具合を覚えていて、そこに向かおうとしちゃうというか、『いいものにしてやりたい』という教師根性から、子どもの今この瞬間の楽しさを飛び越えて、やりすぎちゃうっていうのがあって、それはよくないなと思ったんです。ゼロから作るってすごく力がいるんですけど、終着点は何もみえていないものに挑戦していく。すごく大変なんだけど、その方がいい、と思って、思い切って今までのやり方を変えることにしたんです。なので今は、年長になったら子どもたちと担任で『今年は何をやろう?』って、その年で決めていくんです」(保志先生)

 

その取り組みで得られるものはどんなものなのでしょう? と私が聞くと、子どもが言ってくれた言葉で心に残っている言葉があってね……と、保志先生が嬉しそうに明かしてくれました。それは、「ほんとうにできるかなとおもったんだけど、やったらできちゃったんだよ!」  と言ってくれた子どもの言葉。まさに夢をかなえた言葉なんですね。

協同的学びで作った「不思議な海の世界」。天井から吊るしたのは、海の中に自分たちがいるというイメージ。(提供:和光鶴川幼稚園)

「子どもたちの夢が一つの方向に向くまでがすごく大変で、エネルギーもいるんだけど、最後にまとまっていく時がすごいんですよ」と保志先生の語りからも、夢があふれているのがわかりました。

 

和光鶴川幼稚園の保育方針の細部を見て 、ありのままの自分を受けとめてくれる環境があって、自分がやりたいことができて、さらに、自分の夢を叶えられたら、子どもたちが「自分っていいな」と思えるかもしれないな。と感じました。

 

そして、保志先生は最後にこんなことを語ってくれました。

「私ね、ドジだったから。最初から自分をもっと好きになれていたら、自分のことを受け入れられてたら、こんなに悩んだり、もがいて、苦しむことはなかったのにって。だから子どもたちには、自分を好きになってもらいたいという想いが強いのかもしれません。だけどね、こんなに長く働いていてもまだ、子ども達とどういう風に関わることが“自分っていいな”につながることなのか、ずっと追求し続けているという想いはあります」。

 

保志先生の夢をかなえる実践は、もっと深く遠くに続いているようでした。

 

豊かな緑の環境の中で、「夢をかなえる実践」を続ける和光鶴川幼稚園の子どもたちは、どんな人間に育つのでしょうか。それは、これからの未来の希望の光のようにも思えました。

Information

和光鶴川幼稚園HP:http://www.wako.ed.jp/k2/

<和光鶴川幼稚園が出している本>

『うれしさを自信に3歳児』

『葛藤をチカラに4歳児』

『誇りを輝きに5歳児』

ひとなる書房より発行

和光鶴川幼稚園窓口のほか、amazonなどでもお買い求めいただけます。

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この記事を書いた人
佐々木茜子ライター卒業生
静岡県南伊豆町の山奥で生まれ育つ。故郷の緑が恋しく、現在は町田市の里山地域(百足たまに発生)に暮らしている。出版社で絵本の編集を担当しながら、ライター活動もちびちびと継続中。2男1女の母。
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