歴史探偵高丸の「青葉お散歩ノオト」第3回「鉄町」後編
鉄町の半分は山である。山といっても、高尾山から神奈川県北東部へと約20㎞にわたって広がる多摩丘陵の裾野が、緩やかに終熄する標高約40~50mの丘。そのほとんどが造成され閑静な住宅街で埋め尽くされた青葉区においては、緑豊かな鉄町のそれを山と呼んでも許されるだろう。その街の半分を占める山の真ん中に学校法人桐蔭学園の広大なキャンパスが鎮座する。幼稚部から大学・大学院を擁するマンモス校だ。そこから今回の物語は始まる。「青葉お散歩ノオト」鉄町後編のはじまり、はじまりぃ〜!
(写真・文=宮澤高広)

鉄町の半分は山である。山といっても、高尾山から神奈川県北東部へと約20㎞にわたって広がる多摩丘陵の裾野が、緩やかに終熄する標高約4050mの丘。そのほとんどが造成され閑静な住宅街で埋め尽くされた青葉区においては、緑豊かな鉄町のそれを山と呼んでも許されるだろう。

その街の半分を占める山の真ん中に学校法人桐蔭学園の広大なキャンパスが鎮座する。幼稚部から大学・大学院を擁するマンモス校だ。

 

青葉台駅や市が尾駅のバス停から5分置きに桐蔭学園行きのバスが発車する。そして、ふだん3,000人にも満たない鉄町の人口が、学生がいる時間帯は一気に3倍に膨れ上がる。

文壇の大御所・佐藤春夫が「世紀からは置きつ放しにされ、世界から忘れられた草深い農村」と、描写したことを知ってか知らずか、じゃれ合いながら鉄町のバス停に降り立つ若者たち。はたして彼らは、通学以外でこの町を歩くことがあるのだろうか?

 

そんなことを考えながら桐蔭学園入口バス停を通り過ぎる。今、歩いている横浜上麻生道路の旧道から鶴見川の河川敷まで広大な農地が広がっている。鉄町の半分が山なら、残り半分の7割弱は田園地帯だ。『多摩田園都市開発』という巨大プロジェクトからスルーされた鉄町は、ほぼ全域が市街化調整区域。さらに農業振興地域でもあるため、新たな開発は原則的にできないことになっている。

 

鶴見川河川敷から横浜上麻生道路の間に広がる田園。その向こうに見えるのが、青葉区で一番古い「鉄小学校」の校舎。

 

そのお陰で(というのは部外者である私の勝手な解釈だが)貴重な歴史遺産や伝統文化が消滅することなく残された。「古典獅子舞」や「囃子連」といった郷土芸能。「どんど焼き」「天神祭」などの伝統行事。民間信仰の珍しい祠や石造物。そして、摩訶不思議な民話や戦時体験の逸話。なかでも、民話や言い伝えの多さは他に類を見ない。

 

『鉄火松』鉄村と隣の早野村の境界争いの伝説。

『大蛇松』刀鍛冶の若者を救った不思議な刀の話。

『女郎松』江戸にいた女郎と駆落ちした若者の悲恋話。

『あずきばばあ』狐の仕業か?恐ろしい妖怪が出没する怪奇譚。

『おしゃもじさま』ノドの病気を治すという石の神様の伝承。

 

他にもあるが、これらを一つひとつ紹介したら前編後編どころか、ハリー・ポッターのようなシリーズものになってしまう。そこで、鉄町について詳しく知りたい方のために「鉄町のホームページ」をご紹介しよう。

 

鉄町ホームページ  https://kuroganetyou.mu-sashi.com/

 

作成されたのは自称「鉄町の管理人」こと臼井隆久さん。上記のような民話や言い伝えはもとより、鉄町の歴史や伝統文化からその日の天気まで網羅されている。さらに、ブログも書かれていて、日々の出来事や鉄町に生息する生きものや草花なども地元の方の目線で詳細にレポートされている。このようなブログもまた青葉区じゃ類を見ない。

 

鉄町の管理人のブログ  http://blog.livedoor.jp/ueikjp/ 

 

約400年前、江戸初期の領主・加藤景正によって招来されたという。平成13年2月に神奈川県無形民俗文化財に指定。2年に1回、鉄町の秋季例大祭(10月の第一日曜日)にて舞いが披露される。

 

SNSも使いこなし、お孫さんのためにパソコンでイラストや紙芝居まで描いてしまう臼井さん。70代になられてから習いはじめた篠笛は達人の域になり、二年ごとに行われる古典獅子舞の貴重な伴奏役として無くてはならない存在。

鉄町に関する私の記事も、その7割は臼井さん情報。教えを乞うために何度ご自宅に足を運んだことか。それでも嫌な顔ひとつせず、いつもニコニコと笑顔で迎えてくださる。先日伺った時には、手彫りの仏像や能面が居間にずらっと飾られていた。喜寿を迎えられ、ますます旺盛な自己開発意欲と好奇心。畏敬の念を抱かずにはいられない。

 

毎年1月に行われる冬の風物詩「どんど焼き」。その準備からやぐらの組み立てまで、すべて臼井さんの指揮のもとで行われる。その工程も「鉄町のHP」上で公開されている。

鉄町どんど焼きHP http://dondoyaki.yu-nagi.com/dondoyakikumitate.html

 

鉄町に欠かせない存在をもう一つ。今から24年前(平成7年)、鉄小学校の創立120周年を記念して作られた「郷土資料館」だ。体育館の1階にあり、昔の生活道具や農機具など、児童が学習で活用することを目的に、約500点の資料が展示されている。平成26年(2014)に、横浜市歴史博物館の協力により、展示品を分かりやすく整理し直し、リニューアルオープンした。横浜上麻生道路が「絹の道」だったこともあり、養蚕や機織りなど生糸関係の道具が充実している。

 

 

地域交流の拠点としての役割を担う鉄小学校郷土資料館。約20年前に地域から収集された農具や民具は児童の学習にも活用されている。養蚕関係の資料は、明治大正時代に中里村で養蚕指導をされていた金城社(現、株式会社水野商会)より寄贈されたもの。

 

貴重ということなら、鉄小学校の存在そのものが貴重な地元遺産である。青葉区で一番古い学校の一つで、4年後に150周年を迎える。元々「くろがね野外活動センター」の場所にあったことは前編で書いた。現在の地に移転したのは昭和49年だが、田園の中に建つ現在の校舎も明るく開放的で好い。そうした環境のせいか、子どもたちが伸び伸びしているように感じる。それを実感したのが、毎年125日前後の日・月曜(学問の神様、菅原道真公の命日に因む)に鉄神社で行われる天神祭。境内にある文化会館で子どもたちの書き初めが展示されるのだが、ずらっと並んだ作品の、その大胆で活き活きとした筆使いに、毎回感動を覚える。

 

菅原道真公の命日(1月25日)に因んで行われる天神祭。小学校の子どもたちの書初めのほか、一般の方の写真や絵画なども展示される。

 

農業振興地域である鉄町の田園地帯は、地元の農家さんだけが耕作をされているのではない。ビジネスとして野菜の栽培をされている方も少なくない。上鉄のバス停手前にある「無農薬菜園 植野商店」もその一つだ。

 

「よぉっ!」

久しぶりに訪ねると、オーナーの植野勤さんが笑顔で迎えてくれた。直販の野菜売り場兼事務所のビニールハウス内には、相変わらず日本のポップスが流れている。緑区十日市場で農業をされていた植野さんが、鉄町に農地を借り現在の商売を始められたのは20年前。現在は、年間100種類以上の野菜を無農薬で育て、「あざみ野ガーデンズ」など近隣のスーパーに卸されている他、菜園でお客さんに直販もされている。知る人ぞ知る人気の直売所なのだ。

 

「今年は大変だったんじゃないですか?」と、水を向けると「大変なんてもんじゃないよ!」と苦笑しながら天井からぶら下げられた紙片を指差した。そこに書かれた「MIRACLE」の文字。

 

低温、長雨による日照不足、連続する大型台風、そして毎日コロコロと上下するここ最近の気温。野菜作りをされてる方の今年の大変さは、素人の自分でもさすがに分かる。作付け計画もこれまでの常識が通用しなくなっているのだ。

そんな苦労を「MIRACLE」だと達観して笑い飛ばすところが植野さんらしい。とはいえ、30年以上の経験、培ってきたノウハウは伊達じゃない。天候の変化に臨機応変に対応しつつ野菜づくりを楽しむ。

 

「無理をしない。だって定時に帰りたいからさ。()

営業時間は、10時から14時半。その日の状況次第で早々に店仕舞いということもある。なので、毎週送られてくるメールの野菜情報(下記アドレス)をチェックし、予約をしてからの購入をオススメする。

常連さんに聞くと、「旬の美味しい野菜を教えてもらえるし、量を多めに入れてくれるので、スーパーで買うより断然お得!なにより、生産者の人と直接やり取りできる安心が一番」と大絶賛だった。

 

飄々とされてるが、行動はアグレッシブな植野さん。書道や陶芸を習ったり、ジャズや和太鼓のライブをプロデュースしたり。ユーモア溢れる会話にバカ笑いしていると、ときどき含蓄に富む金言なんかが飛び出すので油断できない。植野さんも、臼井さんとは違った意味で鉄町のリスペクトすべき人物である。

 

聖護院かぶ、鮮紅大根、かつお菜、みぶ菜、わさび菜、バターかぼちゃ、菊いも…など、今が旬の冬野菜、他では買えないレアな野菜が黒板に並ぶ!菜園士が無農薬栽培で丹精込めて育てた野菜ばかり、チェックしてみてはいかがだろう。

 

無農薬菜園『植野商店』

火曜~日曜 11001430 月曜定休

携帯 090-6523-6174  メール v27c5486ceu96v9@t.vodafone.ne.jp 

PC野菜情報、毎週配信! ue573noo@ozzio.jp

青葉区鉄町151付近(あおばドッグラン隣)

 

これまでのやり方が通用しなくなりつつある農業。鉄町には、人工知能(AI)を取り入れて、美味しい野菜を常に安定供給されてる農園もある。

鶴見川の河川敷にある白いビニールハウス。ここでは、水遣りや肥料の供給を人工知能(AI)で制御する「ゼロアグリ」というシステムを導入してミニトマトの栽培をされている。じつは代表を務める金子栄治さんは、家族ぐるみで付き合いのある古くからの友人。たまプラーザに実家を持つ農家の16代目だが、以前から耕作放棄地の増加や違法な農地転用を憂いていた。都市型農業の在り方を模索しながら、紆余曲折を経てたどりついたのが「地域の人が集う開かれた農場づくり」。「近隣の学生たちや就農希望者などが農業体験できる農場に発展させたい」と語る金子さん。障がい者が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく【農福連携】の取り組みもされている。

 

現在、ミニトマトの収穫や袋詰を手伝ってくれるアルバイトも募集中!老若男女、経験年齢も問いません。見学会もあるそうなので「農」に興味のある方は、ぜひ! お問い合わせは下記まで。

universal agriculture support合同会社

WEB応募 eiji.kaneko15@gmail.com   TEL090-2205-9609(金子)

 

狭いようで広い鉄町。歩き疲れてお腹がペコちゃん。どこかでお昼をといっても、鉄町には選択肢が一つしかない。向かったのは、鉄町で唯一のレストラン&パン屋さん。パン好きなら誰もが知ってる美しが丘西の「プロローグ」が7年前にオープンさせた「プロローグ プレジール」だ。富士山の溶岩釜で焼いたナポリ風ピッツァと生パスタがオススメ!さらに、食事をして精算したレシートは、パンを買った時に割引になる。となれば、買わないという選択肢はない。お土産にリンゴまるごと1個入った一番人気の「アップルカスタード」と、しらすとチーズのパンをチョイスした。

美しが丘西のお店には「美しが丘あんぱん」という地元ネタのパンがあるが、果たしてここにはあった!カスタードを練り込んだ生地に甘い豆がたっぷり入った「くろがねブレッド」。そして、鉄町の未来型ロボット「クロえもん」。このシリーズには、今人気の◯こちゃんや◯イキンマンなど、アニキャラを思わせるパンも置いている。お子さんが喜びそうないやいや、自分もこういう遊び心は嫌いじゃない。

 

8年前、その年の大河ドラマ『江~姫たちの戦国』に因んだパンをプロローグさんに作ってもらった。たまプラーザやあざみ野が徳川二代将軍の正室・江姫ゆかりの土地だということをPRするための私のふざけた企みだったのだがなんと、社長の山本敬三さんは「いいですよ」と二つ返事で快く引き受けてくださった。そして、その年の「桜まつり」で販売したのがきんぴらとマヨネーズ和えという2種類のゴボウパンであった(江姫が村人に着物を贈り、その御礼にゴボウを献上したというエピソードがその理由)。

 

それなら、鉄町に因んだパンがあったもいいんじゃないだろうか。例えば、鬼の顔に小豆がたっぷり入った「あずきばばあパン」とか、おしゃもじの形をした生地にかりんジャムを塗った「おしゃもじさまパン」とか。ちなみに、「あずきばばあ」や「おしゃもじさま」の伝説の地は、プロローグの横の路地を入った先100mほどのところにある。

その奥の山林は、上皇后陛下・美智子様ゆかりの地。正田家が持っている山林ということで、幼少期に遊びに来られていた。その山林を管理されていたのが臼井さんのお宅。家の庭でテニスをされたり、山登りをして遊ばれていたという。

 

その山のさらに奥の尾根道は、鎌倉・室町時代に足利尊氏や新田義貞が軍団を引き連れて駆け抜けた鎌倉古道だ。鉄町の山には、前後編でも語り尽くせないほどたくさんのヒストリーが埋もれている。

 

(あ、そうだ!)と、クロえもんを食べていたら閃いた。鉄町名物「尊氏パン」「義貞パン」なんてのはどうだろう? それから、美智子様のミッチーパンは、さすがに不敬だなと思いつつレシピを考える歴史探偵であった。

おしまい

 

鉄町唯一のカフェレストラン&パン屋さん「プロローグ プレジール」。ナポリ風ピッツァにパスタ、焼菓子やケーキなどのスイーツ&カフェが楽しめる

青葉区鉄町1689-1 TEL&FAX 045-532-9985

無休(夏期、年始のぞく)

テイクアウト7:0019:00 カフェ11:0015:00[ラストオーダー]

(金土日祝及び祝前日はディナー営業17:0021:00[ラストオーダー]。

Information

歴史探偵・高丸(宮澤高広)

地域新聞の名物編集長として長年、「地名推理ファイル」など青葉区や地域の歴史を紐解く連載を続けてきた。歴史講座つきのまち歩きツアー「わがまち探訪」は常に満員御礼、中高年のアイドルである。「あおば紙芝居一座」では物語をつくり、語り部として子どもたちに地域の歴史を伝えている。

宮澤さんの講演予定などは以下でチェック!

プロボノ集団「スパイスアップ」高丸チェック!

https://spiceupaoba.net/takamaru

この記事を書いた人
寄稿者寄稿者
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森のなかま募集中!

メディアを寄付で支える
読者コミュニティ
「森のなかま」になりませんか?

もっと詳しく