外国人在住者と子育て〜その人らしい教育を選ぶということ 町田市在住・マシュー・ドンズさん
新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴い、前例のない学校の一斉休校が始まって約2ヶ月。子どもたちは、自宅で学習せざるを得ない状況が続いています。町田市で10歳の息子とホームスクーリングに取り組んでいるイギリス出身のマシュー・ドンズさんにお話を伺いました。(文・写真/NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 三坂慶子)
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

フェイスブックからつながった思いがけない出会い

 

マシューに出会ったのは、私が運営に携わっているNPO法人Sharing Caring Culture(シェアリング ケアリング カルチャー)のフェイスブックページへの書き込みがきっかけでした。

 

私たちは、2014年から任意団体として多文化親子交流会や異文化交流事業を通して、地域の外国人家族と日本人がつながる場をつくっていますが、1年前の20194月にNPO法人として組織化したことを団体のフェイスブックページで報告すると、これまでイベントや活動に参加したことがない男性から「おめでとう!NPO法人にするのは、大変ですか?法人化の手続きは、どのくらい時間がかかりますか?」と書き込みがあり、それがマシューでした。

 

それからというもの、フェイスブックに投稿すると、マシューからコメントが寄せられていたり、いいね!が押されていたり、いつもこまめに情報をチェックしている人だと気づき、どんな人なのか私も次第に気になり始めました。フェイスブックでは、個人のページを公開している人の投稿は、自由に閲覧できます。好奇心からマシューの記事を読んでみると、思いもよらない事実に声をなくしました。彼が癌の治療を受けていて、闘病中というのを知ったのです。20167月に末期癌と診断され、余命1年未満と言われながら、201910月に40歳の誕生日を迎えることができて嬉しい、という記事を目にしたのでした。

 

彼の状況をもっと詳しく知りたいという思いに駆られて、他の記事も読み進めていくと、放射線治療など闘病を支える資金を、イギリス在住のマシューのお姉さんが中心となって募っていることを知りました。面識はないけれど、いつもフェイスブックで私たちの活動を応援してくれているサポーターの一人だと思うと、自ずと支援したい気持ちがこみ上げ、寄付をしました。

 

その後、寄付がきっかけでマシューと連絡をとるようになり、2007年に日本人の女性と結婚し、現在は町田市つくし野で10歳になる息子と6歳の娘の4人暮らしだと知りました。そして、一度、自宅にお茶でも飲みに来ないかと誘いをいただきました。気軽に招いてもらったことがうれしくもあり、その一方、末期癌で闘病中の方と面会してもよいのだろうか、親しく距離を縮めてもよいのか、躊躇する気持ちもあり、返事を迷う中、ちょうど2年前の秋に癌で亡くなった私の娘の同級生のママ友との別れが頭によぎりました。もっと話をしておけばよかった。癌という病のことを気にするあまり、どこか距離を置いてしまった悔しさを思い出し、マシューの自宅を訪問することに決めました。

 

2019年11月、マシューは、自身が所属する東京LinuxユーザーズグループでLinux講座の講師を務めました。闘病中であっても、精力的に活動しています

ホームスクーリングで子どもを育てる

 

玄関の呼び鈴を鳴らすと、マシューと息子のエドワードが私を迎え入れてくれました。訪問した日は、平日の午前中だったので、学校が休みなのかと思えば、エドワードは学区の小学校へは通わず、自宅でホームスクーリングをしているとのことでした。紅茶を飲みながら、マシューの経歴を聞くと、イギリスでは、コンピューター·ネットワークの講師を務めていました。日本に住み始めて、癌を発症するまでは、自宅で子どもや大人を対象に英語教室を開いたり、個人事業主向けにコンサルティング業を行ったりしていたそうです。話題は子どもの教育のことになり、私も小学校で教鞭を取ったことがあったので、なぜホームスクーリングを選択したのか興味深く、マシューに聞いてみました。

 

エドワードは、生まれた時から、母親が日本語、父親のマシューが英語で接しているので、家庭内では両方の言語を使っています。プログラミングが好きで、マシューの手ほどきでプログラミングを覚え始めたそうです。自宅から近い地元の幼稚園へ通いましたが、日本の小学校へは通わず、マシュー自身が息子のホームスクーリングを検討した理由は2つあります。

 

1つ目は、教育の質の観点から「息子の興味、関心、性格などを考えると、試験重視の詰め込み型教育や科目別の学習ではなく、教育工学を駆使しながら、他分野横断的に学習するスタイルが合っているのではないか」、「教科書中心の学習に縛られず、膨大な教材の中から随時、進度や理解度に応じて柔軟に学習できる」と考えたこと、2つ目は、社会性の観点から「年齢で区分された学年に固定されず、ホームスクーリングは、年齢や文化的な背景の異なる多様な人との出会いの中で学習できる」、また「規律が多く、柔軟性に乏しい日本の公立小学校のような環境は、子どもの自主性を欠いてしまう」と。

 

とはいえ、母国のイギリスでは、5歳から18歳までの義務教育期間であっても、子どもを学校へ行かせるか、行かせないかは、個人の判断に任されており、教員資格の有無にかかわらず、家庭で義務教育を行うことが法的に認められているのに対して、日本でのホームスクーリングの実践は、事例があることを知りつつも、その実態がつかめない状態でした。マシューは、まずは通訳者を交えて町田市教育委員会へ相談しました。その後、教育委員会との協議を経て、エドワードは、特例として、学区の小学校に籍を置く形でホームスクーリングをすることになりました。 

 

2019年11月に都筑区の株式会社スリーハイと協業し、地域の外国人住民向けに工場を開くオープン·ファクトリーの企画をNPO法人Sharing Caring Cultureが実施。“温める”をテーマに英語で体験型の実験教室を開催し、マシューの家族も参加しました

身の回りにあるもの全てが教材

 

マシューによると、「日本は図書館をはじめ、美術館など様々な公共施設が整っているばかりか、工場見学なども個人で利用できる機会もあり、大変恵まれた環境にある」と言います。また、「ホームスクーリングは、家庭に閉じこもっての学習と思われがちだけれど、息子と調べ学習のために図書館へ出向いた時には、高齢者の利用者に声をかけてもらうなど、人とつながる機会にあふれていて、学校という限定された空間に閉じ込められることなく、子どもはいつでも多様な世代と接点を持ちながら社会の中で学ぶことができる」とエドワードの体験から語ります。

 

また、クッキーを作るという課題の時でも、マシューは、大人が教えるのではなく、まず、子どもがインターネットでレシピを検索するところから始め、自分で作ってみたいと思うクッキーのレシピを決めるようにしています。その後、レシピを見ながら、材料の買い出しのための買い物リストを作り、買い物へ。大人は、レシピの印刷ができるように、子どもに印刷の仕方だけ教えます。そして、失敗してもよいから子どもに体験させること、子どもが自ら判断する機会を奪わないことが大切だと言います。日頃は、英語で受講できる豊富なオンライン学習教材を使って父親のマシューと学び、漢字や国語などは母親と学ぶエドワード。その日の課題を終えた後、幼稚園からの同級生や近所の友達と公園で遊ぶのを楽しみにしているそうです。

 

2019年12月には、マシューから英語で子ども向けのプログラミング教室を開催したいと申し出があり、講師を務めてもらいました。エドワードは、参加者の子どもの様子を見回り、わからないことを教えるなど、しっかり助手として活躍

 

欲しい教育を選ぶという姿勢

 

話の流れから、日本語の「不登校」という言い方について、否定語で表現される点をどう思うかマシューに質問してみました。というのも、「不登校」と一括りに言っても、いじめや学校嫌いといった理由で学校へ行けなくなったのではなく、エドワードとマシューのように自分たちに合った教育を求めて、敢えて意図的に教育を選んだ結果、「不登校」という立場に置かれる場合があると思ったからです。

 

すると、少し笑みを浮かべながら、「僕はイギリスに住み続けていたとしても、おそらくホームスクーリングを選んでいたと思う」と切り出し、「イギリスでも、ホームスクーリングを主体的に選択する家庭がある一方で、学校へ行かないことを心配する人たちもいる」と。

 

ちなみに英語では、「不登校」*に該当する言葉はなく、それに近い言葉を探すとすれば、無断で学校をさぼることを意味するtruancyではないかとのことでした。

 

*文部科学省の定義によると、不登校とは、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因·背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたものとされる。

 

イギリスに限らず、アメリカでは、1993年に全米50州でホームスクーリングが合法化され、義務教育を家庭で行うことが認められています。**そのため、「学校へ登校しない」なら、他の手段を選ぶことができるので、日本の「不登校」という言い方にはならないのでしょう。

 

**長嶺宏作『アメリカのホームスクール運動のインパクト』 帝京科学大学教育·教職研究第4巻第2

私たち団体の外国につながりのあるメンバーの子どもたちとフィールドアスレチックつくし野コースで遊ぶエドワード。プログラミングだけでなく、体を動かすことも大好きです

多様な学びが受け止められる社会に

 

今回、ホームスクーリングを実践するマシューとの対話から私がお伝えしたいのは、右へ倣えと言わんばかりにホームスクーリングを推進することではありません。ホームスクーリングを実践するには、保護者のどちらかが家庭で子どもに伴走し、子どもに学習環境をつくり続ける覚悟が必要で、簡単には取り組めるものではないことは想像がつきます。ただ、私は、子どもは学校で学ぶものということを疑わずに育ってきた自分が、マシューのように、既存のシステムが我が子に合わないと感じたら、無理にあてはめず、何が自分たちに一番しっくりくるのかを考え、自分らしく選択する生き方に感銘を受けたのです。

 

教育や学習方法は、人それぞれ相性もあるでしょうし、万人に最適な最高の教育があるとは思えません。むしろ、人によって合う、合わないがある、違うということを理解した上で、それぞれが最適化できる余裕を持った教育システムが構築されることが多様化の時代に求められているのではないでしょうか。

 

Information

<Profile>三坂慶子

NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 / 川崎市立小学校外国語活動講師

幼少期をアメリカで過ごす。現地校に通い、小学校3年生で日本に帰国、公立小学校へ編入。大学院修了後、民間の英会話スクールにて児童英語講師を10年間務めた後、川崎市立小学校教諭となる。出産を機に退職、2014年に任意団体Sharing Caring CULTUREを立ち上げ、日本人と外国人が文化的な活動を通じて交流を深める場をつくる。2019年にNPO法人となり、在住外国人とともに地域づくりを進めることを目的とした活動を展開する。


団体ホームページ:https://sharingscc.wixsite.com/sccjapan

この記事を書いた人
寄稿者寄稿者
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森のなかま募集中!

メディアを寄付で支える
読者コミュニティ
「森のなかま」になりませんか?

もっと詳しく