親子にとっての宿り木に|お迎え付き夜間保育「にじのことり」
子育て真っ只中の私。仕事・家事・育児に一息つく間もないような一日を送ることがよくあります。そんな忙しない日々の中で、親にとっても子にとってもホッとできるような居場所に出会いました。お迎え付き夜間保育「にじのことり」を運営する三井恵さんを訪ねました。

小学2年生の息子と3歳の娘を子育て中の私の一日は、朝の子どもたちの支度から夜の寝かしつけまで、一瞬で過ぎていくような忙しない日々を送っています。きっと多くの子育て家庭にとっての日常ですよね。

 

仕事が終わり、駆け込んでお迎えに行った保育園。

「おにぎり食べさせておいたから、もうあとはお風呂入って寝るだけですよ」という保育士さんの一言に、心がふわっと軽くなった日は一度や二度ではありません。

 

こんな日もあります。

放課後、息子を預かってくれたママ友のお家にお迎えに行くと、「夕飯つくったから一緒に食べよう」と誘ってもらい、みんなで夕飯を囲んで、子どもたちに対しても心に余裕が生まれた夜。

 

誰かのちょっとした一言や声かけが、時間に追われて張り詰めていた心を緩めてくれること、ありますよね。そんなあたたかな場をつくっている方がいると聞き取材に伺いました。

 

マンションの扉にかけられたこのプレートが目印。「にじのことり」の名前の由来は、ガラス作家・秋葉絢さんの「にじのことり」という作品から。秋葉さんは三井さんが幼稚園に務めていた時の教え子。三井さんはいつもにじのことりのペンダントをつけて「虹見える?」と子どもたちとの会話のきっかけにしている

 

東急田園都市線・藤が丘駅から徒歩5分、とあるマンションの1階の玄関。「にじのことり」という木製のプレートがかかったお部屋のドアを開けると、代表の三井恵さんが笑顔で出迎えてくれました。日射しの入る明るいリビングダイニングと和室の2部屋。ここで三井さんは「にじのことり」を運営しています。

 

にじのことりでは、3歳~小学6年生のための「お迎え付き夜間保育」、小学生の放課後の時間「まいにち遊び隊」、乳幼児とママのための「親子サロン」の3つの居場所をこの場所で提供しています。スタッフは三井さんと、吉田文江さんの二人。子どもたちからは「めぐさん」「ふみさん」と愛称で呼ばれています。

 

この部屋を内見した際に、「日射しが入って明るくて気に入ったんです」と感じ、運営する場所として決めたのだそう

 

取材に伺った日は、まいにち遊び隊のクッキングの日でした。

この日のメニューは「いちごクリームチーズタルト」。小学2年生の2人の男の子が参加していました。普段から仲良しだという2人はボードゲームなどで遊んだ後、「クッキングはじめるよ~!」という吉田さんの声とともに、すっと立ってエプロンに着替えます。

 

「いちごって野菜なの知ってる~?」「えっ、そうなの??」。子どもたちと吉田さんがそんな会話をしながらクッキング

 

子どもたちは時々ペロッと味見をするのもご愛敬。

「きっとお家でも料理しているのかな。2人とも慣れているんですよ」と話す三井さんと吉田さんがそっと見守りながら、男の子たちはヘラで上手に混ぜたり、包丁も慣れた様子です。出来上がったサクサクのタルトを「めっちゃうまい~!!」と頬張りながら、「お家にたくさん持って帰ったらケンカになっちゃうんだよ」と笑って家族の分のお土産を分けていました。

 

「“食べることは生きること”って言いますよね。料理は気づいた時からはじめられるから、ここで食育は取り入れたいなと最初から思っていたんです」(三井さん)。三井さんは、まいにち遊び隊でのクッキングのメニューを考えたり、夜間保育で子どもたちと食べるおやつや夕飯をつくっています。

親子サロンの読み聞かせの様子。時には講師を呼んでベビーマッサージや浴衣の着付け講座をやったことも。親子サロンに来たお母さんたちが講師になることもあるのだそう(写真提供:にじのことり)

 

「寺子屋のような場をつくりたい」

 

にじのことりの入るマンションのすぐ裏手にある「藤が丘幼稚園」が三井さんの最初の就職先でした。そこで幼稚園教諭として働いていましたが、その後は一転、オーストラリアにワーキングホリデーへ。帰国後も外資系のホテル関連企業でキャリアを重ねました。

 

30代は保育とは全く違う畑で働いていた三井さんですが、40代に差し掛かる頃「自分の人生これからどうするといのだろうか……」と漠然と思い始めたのだと言います。親の介護もあり、都内から青葉区あざみ野に引っ越してきたタイミングで、以前の職場である藤が丘幼稚園から復職の誘いを受けたのです。

 

それから藤が丘幼稚園で職員室の事務職員として働くことになりました。以前のように担任を持って子どもたちに関わることはないけれど、クラスになじめない子や家で何かあった様子の子……職員室でちょっとした話をしたことで表情がほぐれて、また教室に戻っていく子どもたちの姿が、にじのことりを考えるきっかけになったと言います。

 

幼稚園ではできないことをフォローするようなことだったり、一人ひとりの育ちに寄り添ったり、学齢期に入ってからの成長も見守ることができる「寺子屋」のイメージは、この頃に浮かんでいました。「子どもたちが“ただいまー!”って帰ってこれる場所をつくりたいと思ったんです」(三井さん)

 

でも、踏み切るのを躊躇させていたのは自分自身の気持ちでした。

「自分で選んできた人生なんですけど、結婚する機会がなく、子どももいなくて子育て経験がないということが自分の中でずっと引っかかっていて」。言葉を選びながらも、自分の内面と向き合ってきた頃のことを振り返ります。

 

そんな時に偶然、情報を見つけたのが、都筑区中川でお迎え付き夜間保育・学童保育を運営している「認定NPO法人あっとほーむ」でした。代表の小栗ショウコさんが講師となった子育て支援起業講座に飛びつくように参加した三井さん。「小栗さんのお話を聞いて、なぜだか根拠のない自信が出てきちゃって。子どもが好きなんだからやってみようと思って」と笑います。講座の最後のプレゼンテーションでは、今のにじのことりをそのまま再現できるほど具体的な内容で発表していました。

 

三井さん(左)と吉田さん。三井さんは吉田さんのことを「保育の価値観が似ていて、尊敬している」と信頼を寄せる

 

そこからの三井さんの行動の早さに驚きます。

幼稚園で一緒に働いていた頃から厚い信頼を寄せていたという吉田さんに「一緒にやってほしい」と声をかけ、お部屋の内見、開業届け、職場に退職の意向を伝え……、最後のプレゼンテーションから1年も経たたない2015年の秋ににじのことりはスタートしました。

 

開業翌日から兄妹での夜間保育の利用がありました。利用してくれたお母さんから「2人とも楽しんだと報告を受けて安心できました!」とメールが来たのだそう。「お母さんもお子さんも安心してもらえたことがすごく嬉しくて。こういうことをしっかりやっていこう!と、吉田さんと2人で確認しあったんです」と当時の気持ちを振り返ります。それからは、少しずつ少しずつ口コミで利用者が広がっていきました。

 

夜間保育の様子。三井さん手づくりの夕食を囲んでみんなで「いただきます!」。お風呂にも入れてもらえるので、子どもたちにとっては親戚のお家に来たような感覚。お迎えが遅くなっても安心して預けられる(写真提供:にじのことり)

 

にじのことりでクッキングをした経験から、苦手だった卵焼きが食べられるようになった男の子。

 

夜間預かりのお迎えの時に「よかったらお母さんも一緒に夕飯どうですか?」と聞いたら、それから毎週金曜は親子でにじのことりで夕飯を食べるようになった家族のこと。

 

「家族だけではどうしようもないことってありますよね。他人の力が必要なことも。あの人のところに行ったら、少し気持ちが軽くなるようなことってあるじゃないですか。ここがそんな場所でいられたらいいなと思ってるんです」と明朗活発だけども、自分の思いを確かめるように、丁寧に言葉を選ぶ三井さんが印象的です。子どもたちと家族のように食卓を囲み、時には保護者も一緒に夕飯を食べているこれまでの活動写真を眺めながら、三井さんは、一人ひとりのエピソードを話してくれました。

 

母が残してくれたもの

 

にじのことりのあるマンションの一室は三井さんの自宅でもあります。お話を聞きながら驚いたのは、この場所に来た時から、お母様のひでこさんの介護を自宅でしながら、にじのことりを運営してきたこと。にじのことりでは、ひでこさんが子どもたちと一緒に夕飯を食べたりする風景があたりまえだったのだそう。子どもたちもまるで自分のおばあちゃんのように、ひでこさんの手をひいてくれたり、お部屋に遊びに行ったりしていました。「母にとって、子どもたちがいることで、穏やかに暮らせていたのだと思います」と三井さん。

ひでこさんの手をとって歩くのを支えている小学生の男の子(写真提供:にじのことり)

 

子どもたちからも慕われていたひでこさんが、昨年の冬のある日、天に召されました。深夜、まるで眠るように穏やかに亡くなったそうです。葬儀までの1週間、自宅でもあるにじのことりの一部屋には、眠っているようなお顔をしたひでこさんの姿がありました。

 

「葬儀までの間も保育の予約が入っていたんです。怖がる子もいるだろうし、保護者の方には事情を説明して、キャンセルでも大丈夫だと伝えたのですが、ほとんどの子がひでこさんとお別れしたいと来てくれて……。母は死ぬ時にまで、子どもたちに何か伝えてくれたような気がしているんです」。子どもたちと保護者も「眠っているみたいだね」とひでこさんと最後のお別れをすることができました。「それが正しいことだったのかわからないのですが……、子どもたちとその保護者の方たちと、こういうつながりをつくってこれたことが、母が残してくれたことのような気がしています」(三井さん)

 

新型コロナウイルスの感染状況を受けて、春は静かだったというにじのことりも、6月中旬から子どもたちの姿が戻ってきました。

 

「これからまだまだ勉強しないといけないし、難しいかなとは思っているんですけど」と前置きしながらも三井さんはこれからの夢を語ってくれました。

「母と子どもたちのやりとりを見ていたからか、シニアの方と子どもたちが関われるサロンのようなカフェのような、どんな世代の人でも来られる場所をいつかやりたいなと思っているんです」。お母様が残してくれたつながりと、三井さんの行動力なら、きっと数年後には思い描く場を実現している気がします。

 

三井さんの言葉には、悩んだり迷ってきた一人の女性の等身大の姿が見えるようでした。地域の親子にとって必要だと思う場をつくってきたのと同時に、三井さん自身が自分らしい色を表現できる場として「にじのことり」は必要だったのだと感じます。そして、自分にとって必要な場は何歳からでも始められる。三井さんの姿にそう背中を押されるような気持ちです。

 

子どもたち、親たちが安心して、それぞれ自分らしい色に輝ける場をつくる、にじのことり。そこから羽ばたいていった親子が、また宿り木のように三井さんを尋ねてくる風景が思い浮かびます。

Information

お迎え付き夜間保育 にじのことり

住所:横浜市青葉区藤が丘2-37-3メゾン藤が丘106

保育時間:平日17:00~21:00

電話:045-878-1799

メール:info@nijinokotori.com

HP:http://nijinokotori.com

Facebook:https://www.facebook.com/nijikotori

宇都宮 南海子
この記事を書いた人
宇都宮南海子ライター/スタッフ
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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