おもちゃがくれる豊かな時間。ともに育ち、ともに育てる場 20年|あおばおもちゃのひろば
子どもの遊びを豊かにするおもちゃ。「あおばおちゃのひろば」では、おもちゃを通して障がいのある子もない子も、同じ場で遊び、コミュニケーションができるインクルーシブな場を開いています。20年にわたるその活動の足跡を辿りました。

森ノオトが青葉区と協働で開催しているWelcomeあおば子育てツアー。新米ママさんたち対象で、青葉区内を6エリアに分けてまち歩きをしながら、青葉区内の子育て資源と出会えるような工夫をしています。2年前、市が尾駅エリアのコースの下見をしている時のこと、国道246号線沿いにある「ふれあい青葉(横浜市青葉区社会福祉協議会)」に立ち寄りました。たくさんチラシが置いてある中で、「あおばおもちゃのひろば」というチラシが目に止まりました。「おもちゃ」というワードに惹かれた私は、ツアーの訪問先の候補として、早速電話をかけて問せをしてみました。

 

電話に出てくれたのは、あおばおもちゃのひろばの代表を務める池上信江さん。電話越しなのに、何だか熱いエネルギーが伝わってくるような明るい声だったことをよく覚えています。それからひろばの開催日に伺ってお話を聞いたり、森ノオトの子育てイベントに声をかけたり、ゆるやかに交流をさせてもらってきました。会うたびに、池上さんは目を大きくして「宇都宮さんに会わせたい人がいるの!」と子育てに関わる場を開いているキーパーソンの情報をくださるのです。花から花へミツを運ぶミツバチみたいに、子育ての情報を媒介して運んでくれる、池上さんは私にとってそんな方です。

 

ひろば開催の様子。だれでも遊べる「フリータイム」、発達に心配のあるお子さんがゆったり遊べる少人数のひろば「ゆったりタイム」、障がい児と家族のための「チャレンジタイム・放課後タイム」がある(写真提供:あおばおもちゃのひろば)

 

読者の皆さんは、おもちゃといえばどんなモノを想像しますか?

あおばおもちゃのひろばには、約400点を超えるおもちゃがあり、親子が自由に遊べるひろばです。ここに並ぶおもちゃは、廃材や日用品で作る手作りおもちゃから、手ざわりが優しい布や木のおもちゃ、外国製のボードゲームやカードゲームなど、見たことのないようなおもちゃがたくさんあります。おもちゃ大好きなボランティアスタッフがそっとお手伝いをしてくれたり、見守ってます。障がいのある子もない子も、子どもも大人もじっくりおもちゃで遊べる場を、毎月開いてきました。

 

「プラステン」はあおばおもちゃのひろばのロゴのモチーフにも使われている木製おもちゃ

 

「私が好きなのはね、これでしょう。……ああこれも良いのよね」と言いながら次々にイチオシのおもちゃを持って広げて見せてくれる池上さん。良いおもちゃってどんなおもちゃ?という質問に、「(遊ぶ人に)媚びて来ないおもちゃかな。自分が動かないと反応しないおもちゃだったり、遊び方が決まっていないおもちゃが良いおもちゃだと思っています。主体はあくまでも子どもなんですよね」と答えました。

 

私はつい、子どもにおもちゃの遊び方やゲームのルールを教えてしまうことがあります。大人には「こう遊ぶもの」と見えているおもちゃも、子どもの目で見ると、トランプはお金になってお店屋さんごっこもできるし、ジェンガだってドミノになるし、石ころや葉っぱだって、ハンバーガーにもケーキにもなり得るものです。おもちゃのひろばでは、気づいたら子どもよりも夢中になっておもちゃで遊んでいるお父さんやお母さんの姿も。「それがいいんです。おもちゃへの興味に年齢は関係ないですし、親が夢中になっている姿を見て、子どもたちもその面白さに惹かれていくと思うから」(池上さん)

 

みんなのお父さん的存在の津布久守さん。ラポールおもちゃ図書館でボランティアをしていたことがきっかけで、おもちゃのひろばにも関わるように。小さい頃から模型や工作が好きだったそうで、おもちゃのひろばにも津布久さんの手作りおもちゃがたくさん

 

地域に欲しい場は自分たちでつくる

 

あおばおもちゃのひろばがスタートしたのは2001年のことです。青葉区役所別館(現在のビオラ市ケ尾地域ケアプラザ付近・2005年閉館)があった頃、館内にあった青葉区社会福祉協議会の子育て支援事業として誕生しました。「子育て支援」という言葉が世の中で使われ始めた頃で、行政も手探りの時代だったと池上さんは言います。今でこそ、常設で親子が集える広場や、一時保育、子育てサポートシステムなどの子育て支援サービスが充実していますが、当時はそうした支援がまだなく、必要だと気づいた人たちが動き始めた頃とも言えます。青葉区でいうと、地域子育て支援拠点「ラフール」などを運営するNPO法人ワーカーズ・コレクティブ・パレットが立ち上がったのが2000年です。おもちゃのひろばも青葉区の子育て支援の草創期から、自分たちで場をつくり継続してきました。

 

池上さんがおもちゃのひろばを立ち上げた理由には、次女の佳南さんの存在が大きくあります。佳南さんはダウン症という障がいを持って生まれてきました。「とにかくお姉ちゃんと同じことをさせたかったんです」。同じ歳の子たちに比べて成長がゆっくりな佳南さんですが、池上さんはできるだけ他の子どもたちと同じ空間にいられる場を求めて、あちこちに出かけたのだそうです。

 

縁あって池上さんは青葉区社協主催の子育てセミナーに参加しました。そこでママ友ができ、セミナー修了生で子育てサークルが立ち上がりました。自分たちで企画したセミナーに、佳南さんと利用したことのある、港北区の横浜ラポール(障害者スポーツ文化センター)のおもちゃ図書館のスタッフをゲストに呼んだことがありました。発達に不安がある子も、安心して楽しめる場をつくっているラポールのおもちゃ図書館には、いろんなおもちゃがあり、自由に遊ぶことができます。

 

池上さんが「こんなのが青葉区にあったらいいなぁ」とつぶやくと、幸運なことに、ラポールではおもちゃ図書館の出張先を探していたというタイミングでした。「どうなるかわからないけど、せっかくだからやってみよう!」とサークル仲間だった滝岩寿枝さんと2人で、ラポールおもちゃの図書館の出張先として「あおばおもちゃのひろば」を立ち上げました。

 

多くの親子連れでにぎわう。スタッフのアイデアから障がいのあるお子さんが安心して遊べるように「チャレンジタイム」も設けた。「走ってもいいし大声を出しても大丈夫だと思うと、お母さんもお子さんも安心しておもちゃで遊べるようになるんです」(池上さん)(写真提供:あおばおもちゃのひろば)

 

まず、ラポールから借りてきたおもちゃ約50点を並べて月に一度、ひろばを開催しました。池上さんは「あの当時、こうした親子で遊べて交流できる場が求められていたんですよね」と写真を見ながら振り返ります。入室待ちの行列ができるほどの大盛況に、2年目からは土曜ひろばも開催して月2回に、4年目には月3回、地域ケアプラザや療育センターで出張ひろばなど、遊びに来る親子もボランティアとして関わってくれる人たちその輪が広がりました。青葉区社協の子育て支援事業としてスタートし、ボランティアグループ「あおばおもちゃのひろば」の自主活動へと成長していきました。

 

2002年から発行している「おもちゃのひろば通信」。おもちゃの紹介やスタッフのコラムなどを掲載。設立15周年の時には通信をまとめた冊子も制作した

 

地域の先輩たちも力を貸してくれました。

 

市が尾駅前にある木のおもちゃ専門店「森のシンフォニー」の前店主の若林勝さん・ひろみさんご夫婦が、おもちゃのひろばで発行している通信に毎号おもちゃコラムを約10年にわたって書いてくれました。

 

布の絵本や遊具を制作するボランティア団体の「ぐるーぷ・もこもこ」。発達の心配や障がいのある子どもたちも、手で触れることを楽しんだり、遊びながら手先を使う練習ができる布おもちゃは、作り手のアイデアと気配りにあふれています。ひろばにはぐるーぷ・もこもこさんが寄贈してくれた布絵本、布おもちゃもたくさんあります。

 

わずかな力でおもちゃを動かすことができるスイッチおもちゃなど、肢体に障がいのあるお子さんが楽しめるおもちゃもひろばにはたくさんある(写真提供:あおばおもちゃのひろば)

 

障がいのあるお子さんを抱えるお母さんたちもひろばに遊びにきたり、ボランティアとして仲間になってくれました。おもちゃのひろばに参加し、池上さんが背中を押したことがきっかけで、ダウン症親子サークル「プチひまわり」を立ち上げた楠木いずみさんは「娘には重度の障がいがあって入退院を繰り返していました。私は、池上さんや子育ての先輩たちと出会えたから、信念持って子育てできたんだと思います」と話します。

 

池上さんは、「ボランティアのおもしろいところって、仕事じゃないから、みんなが自分の興味のあること、得意なことを出し惜しみなく出してくれること」と話します。「おもちゃが好き」「人が好き」と集まってきた大人たちはきっと、池上さんの情熱にも惹きつけられ、いつの間にか場をつくる側になっていくのだろうと思います。

 

池上さんの次女の佳南さん。就職した今も土曜ひろばではボランティアスタッフとして活躍。佳南さんは「障がい者のための場を開きたい」と夢を話しているそう

 

「主体的な子育てを」

 

池上さんのお話を伺いながらドキッとした言葉があります。

「私、『支援』という言葉が好きじゃないんです。ひろばに来てくれる利用者に、私たちがサービスを提供しているわけではない。ひろばのスタッフも『やりたい』という思いがあって、場に関わる主体者でいることを大事にしてきました」

 

共働き、核家族化……時代の変化を受けて、今、子育てを支える行政の支援制度は充実してきました。お金を出せば、民間のさまざまな支援サービスを利用することもできます。一方で、これまで自分たちで親としての経験を重ねて培われるはずだった力が失われてしまってはいないだろうか。家庭と地域がつながり、ここで育つ子どもたちをあたたかく見守れるコミュニティはあるだろうか。「私たちが子育てを始めた頃と違って、情報もたくさんある時代だけど、受け身にならず、主体的に子育てを楽しんでほしい」と、池上さんは今子育て中のお母さん、お父さんにエールを送ります。公助の「ある」時代の中でその恩恵を授かりながらも、自分の軸がどこにあるのか忘れずにいたい。池上さんの話を聞きながら、私は背筋が伸びるような思いでした。

 

池上さん(左)とファミリーでボランティアをしている中村直子さん。親子でひろばの利用者だったが、息子さんの「やってみたい」という言葉で家族でボランティアスタッフに。「大人になってもこんなにおもちゃがおもしろいんだと気づきました」(中村さん)

 

この春は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、ひろばも開催できずにいました。「もうひろばはできないんじゃないかって。とにかく不安でした」と落ち込んでいたという池上さん。ボランティアスタッフでミーティングをした時に、メンバーから出てくる前向きなアイデアに驚いたのだそう。おもちゃの除菌方法を自宅で検証してきた人、ほかの場ではどんな感染症対策をしているのか調べてきた人、ひろばのPRのためにのぼりを手作りしてきた人……。それぞれの関心事や得意なことを持ちよること次々に場を再開するイメージができてきました。「私が一番落ち込んでいて、みんなに引き上げてもらったんです」と池上さんはいつもの笑顔で笑います。

 

7月からひろばを段階的に再開しました。それに加えて、ひろばに参加するのがまだ不安な親子も、自宅でじっくりおもちゃで遊べるようにと新たに「おもちゃの貸出し」をスタートしました。オススメのおもちゃを聞いたり、スタッフとおしゃべりすることもリフレッシュになるでしょう。

 

遊び方が分類されたリストの中から選び、一家族2個まで、1カ月間借りることができる(写真提供:あおばおもちゃのひろば)

 

主体的な場は、困難にぶつかった時ほど、その力を発揮するのだと思います。おもちゃを通して、子どもたちもそれを見守る大人も、まさに「ともに育ち、ともに育てる」場へと成長してきたのだと感じました。

おもちゃがくれる豊かな時間を過ごしに、あおばおもちゃのひろばを訪ねてみませんか?あたたかな場を開くおもちゃ好きのスタッフが待っていますよ。

Information

ボランティアグループ あおばおもちゃのひろば

活動拠点:横浜市青葉区市ヶ尾町1169-22

青葉区福祉保健活動拠点「ふれあい青葉」内

HP:https://sites.google.com/site/aobatoy/

Facebook:https://www.facebook.com/aobatoy

Instagram:https://www.instagram.com/aobatoy/

ひろば通信:https://sites.google.com/site/aobatoy/omochanohiroba-tong-xin

宇都宮 南海子
この記事を書いた人
宇都宮南海子ライター/スタッフ
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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