地域で子どもを育てる。子どもと大人をつなぐキーパーソン|あおば学校支援ネットワーク・竹本靖代さん
毎年夏になると青葉区の藤が丘地区センターに一日限りの「おばけやしき」が出現します。区内の小学生から大学生と、大人が一緒に企画をして作り上げている異世代交流プロジェクトです。プロデュースしている「あおば学校支援ネットワーク」代表、竹本靖代さんに地域と学校のつながりや子どもたちの居場所づくりの秘訣を伺いました!

森ノオト読者の皆さんは、どんな幼少期を過ごしていましたか?

地方出身の私は、町中が顔見知りでどこのお家の子どもなのか大人も子どもわかっているような地域で育ちました。地域行事にもよく参加していましたし、久しぶりに会うと「大きくなったわね。お母さん元気?」といった挨拶は日常でした。

 

自分が子育てをする時になって、育った環境をよく思い出すようになったのですが、住んでいる地域の中で横にも縦にもつながりのないことは、親にとっても子どもにとっても不安です。小さい子はよく「夕泣き」をします。当時住んでいたマンションの一室で娘に泣かれると私も一緒に泣きたくなりました。そんな時は娘と目の前にある公園で2人で過ごしていただけの日々でしたが、地域の掲示板で知った子育てサークルに入ったことでママ友ができ、少しずつ地域に馴染んでいけたように思います。

 

地域を縦に横につなぎ「地域で子どもを育てる」、そんな風土づくりを青葉区で長年実践してきた「あおば学校支援ネットワーク」(以下、ASN)。代表の竹本靖代さんは、学校と地域をつなぐ活動や学齢期の子どもたちの居場所づくりのキーパーソンです。

 

あおば学校支援ネットワーク代表の竹本靖代さん。初めてお会いした竹本さんは、背筋のスッと伸びた品の良い女性で、専門学校の秘書コースの講師などもされていたという経歴に最初は緊張した私でしたが、お話をしていくと気さくな方で、だんだんと緊張がほどけていきました。

 

文部科学省では2008年に「学校支援地域本部」という名称で、学校・家庭・地域住民・各種の専門家などが連携して学校運営や子どもたちの学びの場を支えて言おうという取り組みを始めました。この取り組みの中心的存在になるのが「学校・地域コーディネーター」(*1)という役割です。

(*1)地域によってその名称は違い、横浜市では「学校・地域コーディネーター」と呼んでいます。

 

ASNは2005年に青葉区が主催した学校支援や生涯学習を学ぶ「学校支援ボランティアコーディネーター養成講座」という講座の修了生が立ちあげたグループです。地域と学校をつなぐコーディネーターのネットワークとして、その活動をスタートさせました。竹本さんは団体設立当初から代表を務めています。地域の学校支援ボランティアに関する国の取り組みが始まるよりも前から、青葉区では「地域と学校」をつなぐ人材の育成が始まっていたことになります。

 

学校支援ボランティアとは、公立の小中学校で、授業や給食の見守りや校外学習の付き添いなど、学校側がサポートを必要とする支援を行う地域の人材のことを言います。そして、学校・地域コーディネーターは、その学校支援ボランティアを学校とつなぎ、それぞれの活動をコーディネートしていく人のことです。現在ではASNの精力的な活動もあり、青葉区では公立小中学校の約7~8割の学校に学校・地域コーディネーターが配置されているそうです。

 

紙飛行機教室の様子。子どもたちと学校支援ボランティアが一緒につくった紙飛行機を一斉に飛ばしている(写真提供:ASN)

 

学校支援ボランティアをする人ってどんな方でしょうか?

「子どものために何かをやりたい!と手をあげてくれる方々で、もともとご自身のお子さんが通っていた頃にPTA役員を経験されていたり、地域の民生委員さん、自治会長さんのような、学校のことや地域のことをよく知っている方たちが多いです。そういう方が『いい人いるよ』とほかのボランティアさんを紹介してくれることから、広がってきました」と竹本さん。ボランティア活動への巻き込み方の秘訣は「身近な人」からの声かけなのだそう。

 

学校の先生は、クラスの子どもたち全員に、すべて一人で対応することがなかなか難しい場面もあります。集団行動が苦手だったり、発達がゆっくりだったり、特に学校生活が始まったばかりの1年生は、ボランティアさんがクラスに入って見守ることで、大人の目を行き届かせやすくなります。

 

「サポートと言っても直接手を貸すのではなくて、応援や声かけをすることで、その子の戸惑いの場面を減らすことにつながります。また発達がゆっくりな子にも、「今、何を、するのか」をわかりやすく説明する。それって、どんな子にも理解できるように伝えていることになると思うんです。ボランティアさんの研修ではそんなことを必ず伝えているんです」(竹本さん)。新しいボランティアには学校に入る前に、お子さんへのアプローチ方法について、ASN独自の研修も行っているとのことで、とても安心です。

 

給食のボランティアでは、配膳などの見守りやちょっとしたお手伝いのほか、一緒に給食を食べることもあるそうです。中学年でのミシンを使う家庭科の授業では、ボランティアさんが、ミシンで怪我をしない様に見守ったり、使い方を教えてくれたりもします。地域の方が学校にいることで、多世代交流の場面が自然と育まれていきます。学校の外でも見知った顔がいると、地域の防犯にもつながっていきますよね。意外にもボランティアさんの構成は学生が多く、次いで育児が落ち着いた世代の女性、仕事が手を離れた男性なのだそうです。

 

活動内容によって比率は変わってくるとのことですが、女性だと学校支援が多かったり、学生は体験活動など教師志望の学生さんもいらっしゃるそうです。ASNに学生が多いのは大学や高校のつながりや、「体験活動を継続していく中での子ども自身が成長するから」と竹本さん。

 

ASNでは、横浜市教育委員会と連携して、青葉区内の公立小中学校にどんな支援のニーズがあって、どんなボランティアをつないでいったらよいかを取りまとめています。また各学校に配置された学校・地域コーディネーターさん同士の情報交換の場もASNで企画してきました。学校に関わる人材のことをよく知る竹本さんには、学校から直接「こんな先生いませんか?」と教員の求人の問い合わせも来るのだとか!

 

青葉おばけやしきプロジェクトの準備の様子(写真提供:ASN)

 

学校と地域をつなぐ活動から始まったASNですが、年を追うごとに、そのネットワークも生かしながらいろいろな形で活動が広がってきました。ASNの活動を象徴するもう一つの側面は、地域での体験活動です。身近な場所でできる体験を通して、子どもたちはもちろん大人も学びを広げるいくつものプロジェクトをしかけてきました。

 

私が以前から名前に惹かれていた「青葉おばけやしきプロジェクト」や、エコキャンプなどの「環境プロジェクト」、「あおばみんなの学校プロジェクト」、「みらいづくり大学」など、ネーミングを聞いただけでワクワクするようなイベントを多数企画してきました。

子どもへの活動を通して、関わる大人も次第に増え、子どもたちの学校以外の居場所も広がっています。年に1回のイベントで終わらずに、「あおばみんなの学校プロジェクト」では毎月、宿泊キャンプ、実験、工作、料理などの学びの場もつくっています。

 

「あおばみらいわくわくプロジェクト」で企画した「防災キャンプ体験」。なんと青葉区役所の会議室に宿泊!実際の青葉区内の地名をつけて、ダンボールで小さな青葉のまちを製作。夕飯は非常食でつくり、ダンボールベッドで就寝した(写真提供:ASN)

 

こちらは大人の学びのプロジェクト「みらいづくり大学」。青葉区とASNが協働で区内の魅力づくりを学ぶ講座を企画。2018年に藤が丘のもえぎ野公園をライトアップした「光る池プロジェクト」の様子(写真提供:ASN)

 

竹本さんは子どもたちの世代を超えた交流の効果として「一つ上の自分が見えること」を挙げました。ちょっと未来の自分。子どもたちは縦割りの関係の中で、一つ大きくなった自分をきちんと見据えることができるのです。

 

また、こうした活動を通して違う学校のお友達、学年の違う仲間との交流ができます。「仲の良い友達といつも一緒ではなく、目的のために集まった新しい友達との出会いは、(自分は)一人でも大丈夫という自信へつながって、経験の中でたくましく自分の世界を広げるんです」と竹本さん。大学や社会人になったときに、ASNのプロジェクトに今度はスタッフとして参加しに地域に帰ってくる子どもたちもいるそう。

青少年の生活行動や体験と自立的行動習慣に関する資料を見せながら語る竹本さん。「自然体験などの体験活動をたくさん経験している子は自律性・協調性・積極性が身についている傾向があって、体験が豊かな子どもほど、自己肯定感が高くなるということはデータも実証しているんです」

 

普段は塾講師としてのお仕事やASNの活動、行政との取り組み、大学で生涯学習概論のゲスト講師など、いつ休んでいるの?と思うくらい活動が多岐にわたる竹本さん。そのバイタリティーはどこからやってくるのでしょうか?

 

今年1月、森ノオトとASNが青葉区と協働で「こどもつながりフォーラム」を開催した。100名を超える参加者全員参加のワークショップでファシリテーターを務めた竹本さん。素敵です

 

銀行員を経て専門学校の講師などを務めた後、出産後は、しばらく専業主婦だったと言う竹本さん。きっかけはPTA活動でした。

 

「最初はどうやってPTA活動から逃げようかと考えていたんですけどね」と笑って振り返る竹本さんですが、上のお子さんが小学校に入学して1年生でPTAを引き受けてからは、2人目のお子さんが中学校を卒業までの全ての年にPTA活動に関わってきたと言うのだから、驚きます。トータルで11年間。この期間に青葉区PTA連絡協議会・横浜市PTA連絡協議会副会長など、学校の枠を超えて地域・保護者・学校をつなぐことに奔走してきたのだそう。

 

「こういう話をするとPTA活動が好きな人!と思われることが多いのですが、私は仲間と一緒に何かをやることが楽しいんですよね。子どもが小学校入るまで○○ちゃんママと言われたりすることがあったんですが、PTAをやってみんなその人の名前で呼び合うこととかいいなと思いましたね」と竹本さん。

 

私自身はどうしてもPTA活動って大変そうというイメージがありましたが、竹本さんのお話を聞くととても楽しそうな活動に思えてきます。竹本さんの言葉に、周りも巻き込んでいくパワーがあるのでしょう。お話の中で何度も「楽しく」という言葉が登場するのが印象的でした。

 

「真面目な活動を真面目にやるよりも”子どもの安全”や”こんな力がついたらいいな”という目標を達成するために、イベントとして楽しいものにすることで参加したくなる仕掛けをつくってきました。やり方やツールを工夫してやってましたね」(竹本さん)。「楽しく」という思いがあるところが竹本さんの考え方の素敵なところだと感じました。

 

中央の野球帽をかぶって火の具合を見ているのが6年生の時の竹本さん。飯盒炊さんの様子を覗き込む子どもたちの表情が愛らしい。幼少期の自然体験が自己肯定感につながることを実践中?!(写真提供:竹本さん)

 

 

子ども心を持ち続ける竹本さん。ご自身の子ども時代の話を聞けば、ご両親が児童館をつくる活動をしていたことや、社宅の敷地内でテントを張ってキャンプを楽しんだとことなど、ワクワクするお話しをしてくれました。

 

大学時代はサークル活動で100人を超える子ども達をキャンプに連れて行くような活動もしていたそうで、今の竹本さんの活動は彼女自身の育ちにあるのだと感じました。そして、親が地域にどう関わっていたか?ということも、子どもが育つ中で、その子どもの財産となり、次の世代につなげる「恩送り」になるのだと思います。

 

ASNは今年4月1日にNPO法人になりました。法人化の背景には、今後も活動を続けていくための担い手づくりという視点があることも話してくれました。

 

ASNの活動に触れ、地域が子ども達を育て、ゆくゆくは育った子ども達がまた「恩送り」としてその力を地域に還元する素敵な循環が生まれているように感じます。青葉区に移り住んで、子育てをこの土地でしている私は、この「恩送り」の輪の中の一員になりたいと思っています。

 

学校と地域をつなぐ活動も、子どもたちの体験活動も、今後はwithコロナの中で、どの団体も試行錯誤していると思います。ASNでも毎年恒例の「青葉おばけやしきプロジェクト」などの開催はまだ未定です。毎年参加している子どもたちはヤキモキしていることでしょう。開催が決定したら、アイディアを持ち寄って今年ならではの企画になるはず。竹本さんなら、きっと、まだまだ「楽しく」おもしろい活動を仕掛けていきそうだと、今後の活動も応援したいと思いました。

 

取材後、私の娘が高校生の時に、小学生の頃の登下校見守りのボランティアさんが娘のことを覚えていてくれて声をかけてくれたと、嬉しそうに話していことを思い出しました。そんな方が地域にいてくれることが、私もとても嬉しかったです。子どもの育ちは親だけで成り立つものではない、と思います。地域の中で顔の見知った縦と横の関係があることや、ちょっとした声かけがあることで、子どもたちが健やかに育ち、子育てがしやすいまちができていくのかなと思いました。

 

自分の子どもが小学校や中学校を卒業しても、地域との関わりが終わりではなく、次の世代に「恩送り」できる間口が青葉区にはあります。ほんの少しのことで良いのだと思います。「私にも何かできるかも?」と思ったらANSのボランティアや体験活動に参加してみてくださいね!

Information

<あおば学校支援ネットワークHPはこちら>

http://www.aobaschoolsupport.net

塚原 敬子
この記事を書いた人
塚原敬子ライター
2000年に青葉区に引っ越してから早20年、長男は藤が丘で産まれました。 その頃、これからは介護だ!と介護福祉士やアロマ、ヨガの資格を取りました。「健康は自分で作るもの」がモットー。月や星、石や植物が大好きで山や海での拾い物多し。
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