農福連携で魅力ある農業を。農業経営者・金子栄治さんの見る新しい農業のカタチ
横浜市青葉区鉄町で農業を営む金子栄治さん。東日本大震災を機にイチゴ栽培をやめ、3年前から合同会社 Universal Agriculture Supportを立ち上げ、同じ場所でミニトマト栽培を始めました。金子さんの取り組む新たな農業についてお話を伺ってきました。(photo:北原まどか)

ゆったり流れる鶴見川、両岸には木々や葦がしなやかに風に揺れ、あたりは気持ちのいい緑に包まれていました。そのほとりにあるのは金子栄治さんのビニールハウスです。

 

8月の終わり、まだ暑い季節にビニールハウスには大きく育ったミニトマト。だけど色づいたものは一つもなく緑色の果実のままです。旬の季節をずらして9月下旬~5月上旬に収穫できる栽培方法に金子さんは取り組んでいます。

 

金子さんの農園の風景

 

取材時、まず金子さんが見せてくれたのは携帯電話。画面には、ハウスの日射量、気温、地温、土壌の水分量、土壌EC(土中の養分濃度)などの数値が並びます。これは「ゼロアグリ」というAI(人工知能)による自動潅水施肥装置によるもの。自動計測したデータをもとに、AIが判断し、最適な量の水分と肥料を土中に張り巡らせたパイプを通して畑に投入されます。

「座ってパソコンに向かうのが苦手で、データ分析は人にお任せしています。この装置によるデータを見て、手動で設定することもできるけど、水やりも施肥もAIにおまかせ」と笑う金子さんでした。

 

携帯画面から手動操作もできるが、AIに任せることに装置導入の意味がある

 

AIによる自動潅水施肥装置「ゼロアグリ」。農家には水やり10年という言葉があるほど、水やりには技術と経験がいる。多くの仕事を兼務する金子さんが農業経営するには必要な装置だった

 

ハウスの外にある畑では障害者の方がパートさんや支援員とともに農作業に励んでいました。金子さんは農福連携に取り組んでいます。横浜市保土ケ谷区に本拠を置く社会福祉法人同愛会(以下、同愛会)の利用者5人を受け入れ、月~金曜に働いてもらっています。パートさんの掛け声のもとに5人は万願寺とうがらしの畑で、一つひとつの株元に肥料をやっていき、病気のもとになりやすい枯れ葉を地面や作物から取り除いていきます。

作業への取り組み方も人それぞれで、葉っぱをてきぱきと集める人もいれば、パートさんとペアで、バケツを持つ係、肥料をやる係を交互に担当してゆったりと作業をする人もいます。

まだ暑いけれど、帽子の下の5人の表情は穏やかで、そして歌うような独り言もにぎやかなやりとりも、広い空と畑にかき消されていきました。

 

金子さんは朗らかに言います。

「障害者の人に来てもらった影響?こないだお盆休みの時、万願寺とうがらしの収穫が大変でね。ふだん障害者の方プラス支援員さん、パートさんの7人でやっている仕事を一人でこなさないといけなかったので。来年は考えないといけないですね。大変だったのはそのくらい。デメリットなんてないかな、いいことだらけ」

 

実をつける万願寺とうがらし。ミニトマト栽培の農閑期にあたる夏に金子さんは障害者の仕事づくりの一環で万願寺とうがらしの栽培をはじめた

人生は一度きり。やりたいことは全部やろう

 

金子さんは青葉区で16代続く農家で、幼少期のころから農業に携わっていました。2004年ごろから9年間はイチゴ農園を営んでいました。直売所もあり、多くのお客さんでにぎわっていたそうです。

2011年、東日本大震災の災害ボランティアに参加し転機が訪れます。

「人生は一度きり。自分のやりたいことをやってみよう。農業経営のプロになろう」と金子さんは後ろ髪をひかれながらもイチゴ栽培をやめ、農業にまつわる各種の資格取得に取り組みます。

 

家業の農作業をしつつ、1年に12個の資格をとることを続けながら、稼ぐ力を磨きました。200812月に株式会社吉野家の方と認定農業者の勉強会で名刺交換をしたことが人生の大きな転機となりました。2009年、農業経営基盤強化促進法改正により企業の農業参入が可能になり、農業界ではこれまでにない大きな動きが起こる、その夜明け前のことでした。金子さんは、吉野家ファーム神奈川の設立に関与し、神奈川県統括管理部長として農地の利用権設定と地域農家との調整役に加えて、吉野家ファーム社員の農業指導も担当しました。この経験がもとになり、人材育成に興味を持つようになったそうです。その後、東北復興支援のボランティア「愛と勇気とサンマ実行委員会」で同愛会の統括所長さんにお会いしたのがご縁で、この施設の非常勤職員として、農業技術員という形で障害者と共に働き始めました。

 

新たな転機になったのは3年前。お父様から「(現在の場所の)畑を引き継いでほしい」と声がかかります。

「当時、同愛会に非常勤で勤めていました。大手企業の特例子会社(※1)の農業指導、農業コンサルティングもやっていて、畑なんて無理だろうって思ったんです」と戸惑いを語る金子さん。

 

いろんな人に相談しながら解決策を探るうちに、法人として農業を経営するということに思いいたります。

「イチゴ栽培の時には認定農業者エコファーマーを個人でやることに限界を感じていました。法人ならたくさんの仲間と事業することが可能になる。だからそれらを目指しながら、畑の栽培も同時進行でやろうと」と金子さんは何かを選ぶのではなく、やりたいことは全部やるという大胆な決意をします。

 

AIによる自動潅水施肥装置の導入も、多忙な金子さんが農業経営するうえで必須のアイテムでした。

 

(※1)障害者の雇用促進と安定のため、雇用にあたって特別な配慮をする子会社のこと。

 

障害者との関わり方 金子さんの場合

 

「勤務していた同愛会の方に提案し、障害者を自分が経営する法人で受け入れることになりました。農福連携をスムーズにするコツは仕事をいかに細分化するかということ。作業を棚卸して経営者しかできない仕事とそれ以外を切り分けています」

例えば、トマトの脇芽とりはパートさん、通路に落ちた脇芽を集めるのは障害者の方。ミニトマト150gずつカップに入れたものを用意するのはパートさん、それを袋詰めするのは彼ら。支柱を埋め込むために、土に埋めてほしい位置に支柱へ印をつけるのが金子さん。手で畑に埋め込むのが障害者、仕上げにハンマーで打ち込むのは支援員さん……という風に仕事を分業化していくのです。

そのほか、彼らの仕事を細かくあげるとパッケージのシール貼り、バッグシーラー(ビニール袋のシール止め)、株元の草取りと多種多様にわたります。

 

金子さんが印をつけ、障害者の方が埋め込み、支援員さんがハンマーで打ち込んだ支柱。分担したほうが作業時間は短い

 

「農家が苦しいと感じる作業の部分だけ関わってもらうのではなく、栽培全体に関わってもらい、彼ら自身がミニトマトに愛情を注いでほしいと考えています。ですから出荷もお任せしています。自分たちが関わって作った商品が、どうやって売られているのか知ることが大切だと思います。納品先にも初めに障害者の方が納品に来てもご迷惑になりませんか?と確認したうえで、彼らに出荷をお願いしています。もちろんなにかトラブルが発生した時の責任はすべて私です。リスクを恐れず挑戦することの方が私にとっては価値があると考えています。出荷を任せられることで私の拘束時間が激減するので、とても助かっています」と金子さん。

「彼らは掃除が得意でとてもきれいにしてくれる」、「ガチャンコ(ビニール袋をシールで止める器具バッグシーラー)が好きな人がいてね」「彼らは市場大好きなんですよ。フォークリフトが動いていたり、でっかい冷蔵庫との中にたくさんの野菜があったり。だから出荷は喜んで行ってくれる」など、金子さんのお話には彼らの好きがよく登場し、優しいまなざしにあふれていました。

 

そして金子さんは農業経営者としての視点も併せ持ちます。作業時間にベンチに寝そべる障害者の方が一人。

「どうしたの?」と金子さんが声をかけると、

「疲れたから寝てるんだ」と彼からの返事。

「そうなの」と金子さん。

 

「作業時間に働き続けられない方に対して、何をやってるんだと大きな声を出すと彼を恐怖で支配してしまう。だけど業務時間に寝そべることをよしとしているわけではない。だから声をかけて、そんなときもあるよねと相手に寄り添いながら相手のやる気スイッチを探します」と金子さんはさっきのやり取りを説明してくれました。

ハウスのミニトマト。社会福祉法人のほか、大手スーパーにも出荷。パッケージには福祉事業所としての名前は出さない。プロとして野菜を提供する緊張感を保つための金子さんのこだわり

 

金子さんは障害者の作業可能度に応じて段階的に手当を決め、3カ月おきに更新していくシステムを企業と開発中です。

「このシステムでは障害者は手当が上がることもあれば、下がってしまうことも。同じことがずっとできるわけではなく、その時の状況でできなくなる人もいる。もし、同じ手当を払い続けると、経営者としてはやるべきことがやれていないと腹の立つこともあるでしょう。でも契約が見直されるなら、障害者も次こそはというモチベーションにもつながり、双方にとって納得のいくものになるのではないかと考えています」と金子さんは言います。

「お互いが分かり合い、寄りかかってはだめですよね。安い労働力として大変なことだけお願いしては彼らが苦しいだけになっちゃう。トライアンドエラーを繰り返しながら、極力失敗しないよう先手先手で配慮をしながら、仕事をお任せしています」と金子さん。

任せることの難しさとともに、金子さんの度量を感じます。

 

障害者との関わり方 支援員さんとパートさんの場合

 

仕事内容を考えるのが金子さんならば、障害者の特性に応じて仕事を割り振るのは、同愛会所属の支援員さんです。

農作業にずっと付き添い、専門家として彼らを見守りつつ、自らも農作業に取り組みます。

「事業所内の仕事だと、ボールペンの組み立てなど単純な作業になってしまいます。農業は作業に幅があるのがいいですね。本人に合った作業を提供できるんです。それにこれだけ広いと声を出しても気にならないし、しっかり身体を動かして汗をかいて、睡眠がしっかりとれ、生活リズムが整うのがいい」と支援員さんは語ります。

 

支援員さんと同じく、障害者に付き添うパートさんは金子さんの意図を組んで、障害者の方を導きます。

付き添うパートさんは、2週間に一度、農業と福祉について金子さんからオンラインで学びます。

「作業中に話しても、忙しいので知識が流れていっちゃうんです。だから雇用の際の条件に学ぶことも入れました。時間はパートさんと相談して、作業終わりだと疲れて眠くなっちゃうから朝活にしようってことになりました」と金子さん。

 

「(金子さんから)本をいただいて、それをもとにオンラインで話を聞いています。福祉について少しずつ理解できるようになってきました。目を配っていないと静かに体調が悪くなってしまう方もいるので、気を付けています。チームでやっていくので、みんないろんな特性があって頑張ってくれます。障害者の方は、パック詰め作業とかとても早くて、私はとてもかないません」とパートさん。

 

障害者の方が肥料入りのバケツを持つのが大変だったようで、無言でパートさんに手渡す。パートさんは黙って受け取る。パートさんの持つバケツから、障害者の方がスプーンで肥料をすくい、万願寺トウガラシの株元へ投入していく。それぞれができることを作業していく

 

パートさんと支援員さんとともに障害者の方々が着実に取り組んでいくうちに、万願寺トウガラシの作業はどんどん進んでいきました。

 

地域にもっと農福連携を

 

「農業」と「福祉」の連携を「農福連携」と言います。

社会福祉法人が事業の一環として農業をすることはよくあるようですが、農業経営者と社会福祉法人が連携する事業はまだまだ少ないようです。

 

JGAP※2)指導員、食の6次産業プロデューサー(※3)、有機JAS審査員補(※4)など多様な資格をもつ農業経営者として、社会福祉法人の勤務経験も活かし、またキャリアコンサルタントとして金子さんは農福連携のスペシャリストになりたいと考えています。

「農業では人手不足が問題になっているし、福祉施設では障害者をもっと地域で雇用してほしいとの要望があります。僕が彼らの要望に応えられるよう提案していければ。

福祉、福祉ではないですよ、農業と福祉のバランスが大事。

これまで家族で農業をしていく農家でした。これからは多様な人が働ける場を提供できる農業経営者でありたい。楽しく仕事したいじゃないですか、こういう仕事もあるよといろんな農業者に紹介していきたいですね」と金子さんは語ります。金子さんの新たな農業は4年目。「ソーシャル・ファーム(※5)を目指す」という金子さんの目標は大きく広がっていくのでした。

 

※2)食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証

※3)食分野で新たなビジネスを創出する方への認定資格

(※4)農林水産省が認めている有機野菜は、JAS法に基づき「有機JAS規格」の検査認証を受けた農産物だけで、その審査をする資格。

※5)ソーシャル・エンタープライズ(社会企業)の一種であり、障害者あるいは労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたビジネス。

 

 

Information

ご両親が運営する直売所で金子さんのつくるミニトマトも販売しています

金子農園直売所

横浜市青葉区美しが丘二丁目19-7

TEL070-4405-3587

営業時間 12:0018:00

ミニトマトの販売期間 9月下旬~5月上旬

明石 智代
この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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