横浜の夏。旬の浜ぶどう、浜なしを買いに出かけよう!寺家ふるさと村の大和園を訪ねました。
風に爽やかになびく青々とした稲が順調に育つころ、青葉区寺家ふるさと村の果樹園「大和園」を訪ねました。7月下旬からの浜ぶどう、8月上旬からの浜なしの収穫期を迎え、1年で最も忙しいシーズンが始まっています。

横浜市青葉区の寺家ふるさと村(青葉区寺家町)には、横浜市のブランド農産物の「浜なし」を扱う農家が5軒、そのうち「浜ぶどう」も合わせて栽培しているのが2軒。各直売所に「浜なし」「浜ぶどう」と書かれたのぼりが立っていることが直売所がオープンしている目印です。のぼりの立っている日は、どこの直売所も新鮮でおいしい果実を求めて、お客さんが列をしています。ちょっと出遅れると、「今日の分は売り切れちゃったのよー」と手に入らないことも多々。浜なし・浜ぶどうは「幻」とも言われるほどの人気ぶりです。今年もいよいよ、横浜の果物の旬が来たなぁとワクワクしています。 

東急田園都市線・青葉台駅からバスで約15分。ふるさと村テニスクラブというバス停付近にある、大和園の直売所

 寺家ふるさと村のテニスコートの裏手の直売所と自宅敷地内での直売を行う大和園さん。 

昨夏、私は大和園さんの直売所で、初めて「竜宝(りゅうほう)」という品種の浜ぶどうと出会いました。スーパーなどでよく見かけるような濃い紫色のぶどうではなく、赤褐色の見た目にもみずみずしさを感じる大きな粒の品種は、ジューシーで、豊潤な甘みがとても印象的でした。子どもたちにあっという間に食べられてしまい、また買いに行きたいと思った時にはもう販売終了していたことを思い出します。 

 

「竜宝は甘みが魅力なんですが、脱粒しやすく、日持ちもしないので、ほぼ市場に出回らないんです」と説明してくれたのは、大曽根大悟さん。農業に従事して6年目の34歳の大悟さんは、こちらからの質問に対して、丁寧に熱心に説明してくれる真面目なお人柄が印象的です。 

大曽根大悟さん。取材に訪れた時は、ぶどう園では袋掛けされたぶどうが並んでいました。袋かけは、房や粒の揃いを調整する本摘粒後に余分な果粒を取り除いて病害虫などを防ぐためにされている工程

横浜市では、高度経済成長期の人口増大によって、宅地化が進み、農地や樹林地急速に減少。それを受けて、昭和40年から「農業専用地区」の指定などによりまとまりのある農地の計画的な保全を進めました。さらに高収益化や市民のレクリエーション緑地の確保を目的とした「フルーツパーク設定事業」によって、恩田川、谷本川周辺に梨園の整備を進め、現在の「浜なし」ブランドにつなげてきたと言われています。 

 

大和園は昭和51年、現在の農園主の大曽根敏明さんの父さまの代から梨の栽培を始めたそう。昭和52年には横浜市のフルーツパーク設定事業によって、現在の場所に直売所がつくられました。当時から寺家町内には梨農家が5軒あったそう。大和園では平成8年からは、ぶどうの栽培も始め、現在は梨50アール、ぶどう15アール、柿10アール、その他に1年を通して野菜の販売もしています。 

フルーツパーク設定事業の際に建てられた直売所で今も販売しています

 

 

家族で守る果樹の1年 

 

現在、大和園を営むのは、大曽根敏明さん、真由美さん、大悟さんの3人。敏明さんと真由美さんの甥っ子だった大悟さんは幼い頃から、家も近所でもある大曽根家で過ごす時間が多く、梨やぶどう栽培の手伝いもよくやっていたそうです。 

 

「オートバイの整備士という夢があったんです。その仕事に就くことができて、夢は十分叶ったかなと思ったので、農業やるなら体力のある20代のうちにと思いました」と大悟さん。20代後半で前職を辞めて、大和園を一緒にやっていくことを決断します。 

 

照れくさかったのか大悟さんのその決断を、敏明さんと真由美さんが聞いたのは本人からではなく、大悟さんのお祖母さまからだったそう。「それを聞いてうれしかったよね」と、顔を見合わせて笑顔で頷く敏明さんと真由美さん。現在、大悟さんは大曽根姓となり、大和園の3代目となる予定です。 

農業を学ぶため大悟さんは、敏明さんも卒業した海老名市にあるかながわ農業アカデミーへ入学。「先生が厳しく、しっかりと技術を教えてくれたこと。それがあったからこその今だと思います。それに尽きますかね」(大悟さん)。梨の生育状況を確認しているお二人

「果樹は1年に1回しか収穫できないから、本当に毎年毎年勉強だよ。何十年やっても、毎年結果が違うから」と敏明さん。つる性のぶどうは雨にとても繊細で、急に大雨が降ると水分を一気に吸ってしまい脱粒したり、粒の大きさが揃わなかったりで、収穫期の一瞬を逃すと売り物にならないことも。ぶどう、続いて梨の販売する時期は約1カ月半ほどですが、おいしい果実ができる裏側には1年をかけて、人の目と手があることを、改めて感じます。お二人によると、今年は今のところ順調とのことで、7月末からの浜ぶどうの「竜宝」の販売がスタートし「藤稔」、そして9月上旬までの浜なしの「新水」「幸水」「豊水」の収穫へと続いていきます。 

 

 

寺家ふるさと村の農業のこれから 

 寺家ふるさと村の果樹園は今、転換期を迎えているようです。 

大悟さんによると、当初植えた木が40〜50年を経て老朽化し、梨もぶどうも少しずつ新木を植えています。成木になり収穫できるまでは4〜5年かかり、その間は収量にも少し不安があるそう。一方で、浜なしや浜ぶどうはどんどん知名度が上がって、毎年たくさんのお客さんが直売所に買い求めにきますが、売りたいのに果実が足りない……というジレンマがあるそう。 

 

「販売方法も模索中です。やっぱり対面販売がしたいです。対面だったら、お客さんの反応もすぐに聞けて、来年につなげらると思いますし、どう改良していったらいいかの知識を高めることもできる。せっかく来てくれているお客さんにちゃんと買っていただけるように供給できる量を確保していきたいと思っています」と大悟さんの言葉からは果樹にもお客様にも向き合う誠実さが滲み出ます。常連のお客様が高齢化していることもあり、数年前からはSNSを使って、若い世代の顧客向けに直売所情報の発信も始めました。新しくチャレンジしている手入れや栽培方法をSNSで紹介しています。新しい挑戦に意欲的な大悟さんの姿に、「若い人にはどんどん新しいことやってもらいたいからさ」と、大らかに背中を押してくれる敏明さん。「この二人(大悟さんと敏明さん)、月とスッポンみたいに違うの」と笑う真由美さん。 

 

寺家ふるさと村だけでなく、横浜市内農業の担い手不足は大きな課題です。そんな中、大悟さんは 

寺家町周辺の次世代を担う若手農家さんとつながりもできてきたそう。 

 

「この地域の農業を、もっと良くしていきたいなと思っています」。 

誇らしく、力強く語る大悟さん。寺家ふるさと村の豊かな自然と農地が、次の子どもたちの世代へと続いていく。そんな未来を感じた取材となりました。 

例年、直売所での販売をメインにしている大和園さんですが、7月28日に寺家ふるさと村四季の家で開催されたJIKEマルシェに初出店。今季初の竜宝が並びました(写真提供:大和園)

猛暑日が続き、今年は例年にも増して暑い夏になりそうです。みずみずしい旬の果実がよりおいしく感じられそうですよ。寺家ふるさと村の直売所をぜひのぞいてみてくださいね。 

Information

大和園 

横浜市青葉区寺家町157 

Instagram@fruits_yamatoen

 

7月下旬から9月中旬までは、浜なし・浜ぶどうの販売。10月下旬から11月中は浜柿。その他の時期は野菜販売を行っています。 

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この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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