寺家ふるさと村の農の魅力、新たに掘り起こす。「金子ぶどう園」を訪ねました
横浜市青葉区の寺家ふるさと村で果樹栽培を行う「金子ぶどう園」。横浜のブランド果樹の浜なし、浜ぶどうを栽培しながら、農体験や加工品という切り口からその魅力を発信しています。金子ぶどう園の田畑稔さん、文枝さん夫妻を訪ねました。

寺家ふるさと村四季の家で年4回開催されている「JIKEマルシェ」。金子ぶどう園のブースは、季節に合わせた果樹や野菜だけでなく、オリジナルのアロマオイルや蔦や藁で作った雑貨も並び、オープンと同時にいつも人だかりができています。普段は寺家町バス停向かいで直売所を構え、親子2代で、浜ぶどう、浜なし、浜柿、キウイフルーツや露地野菜を栽培、直売をしています。

 

取材でお話を伺ったのは、金子ぶどう園を営む田畑稔さんと文枝さん夫妻。同園は約30年前、文枝さんのお父様の代で、ぶどう栽培から始めたのだそう。ご自宅の敷地内に「隠れ小屋」と呼んでいる木のぬくもりあふれる小屋でお話しを聞きました。

稔さんのDIYで建てたという木製の小屋には、趣味の置き物も並べられ、子ども心をくすぐられるような秘密基地感が漂います

稔さんと文枝さんは子育てをきっかけに、寺家町にある文枝さんの実家敷地内に居を構えます。電気関係のメーカーに勤め、技術開発などのお仕事をしていた稔さんは、「会社勤めだった頃はお盆休みに果樹の販売や、稲刈りを手伝うくらいでした」と振り返ります。

 

そんな稔さんでしたが、8年前、ご自身が48歳の頃に「会社を辞めて、農業しようかな」と思い立ったのだそう。「大きな会社に勤めていると自分のやっている範囲のことはわかるけど、会社全体として何をやっているのかわからないということも多くて。この先何十年も勤めるのか?と考えた時に、今かなと。お義父さんに農業を教えてもらえるうちにと思ったんです」。

 

文枝さんの反応はと言うと、「えー!今?!って思いましたよ」と、子どもたちが高校生・大学生とこれからの教育資金を思い浮かべて……、思っていたタイミングより早かったことに驚いたと笑います。「でも、とりあえず、今この農地があることが恵まれているんだと思って、なんとかなると思ったんですよね」と二人は声を揃えました。

以前夏に取材に伺かった時には、ご家族皆さんでぶどうの房の手入れをしているところでした

稔さんが農園に入り、文枝さんのお父さん・お母さんと一緒に毎日3人で畑へ。農作業の手順を一通り覚えた稔さんは、自家消費がメインだった慣行農業スタイルに変化を加えていきます。「商品としてのぶどうを作りたい」と、農業の安定的な経営体になることを目指す農業者を、意欲と能力のある人材として認定する横浜市の認定農業者になり、直売スタイルでの売り方へシフトしていきました。

12月のJIKEマルシェではキウイフルーツも人気でした

「両親とぶつかることもたくさんあったけど、今はもう自由にやらせてもらっています。果樹も野菜も生きているものを扱っているので、育ちも毎年違って、おもしろさと難しさも感じていますね」。稔さんは直売所での販売はお客様の反応が直に返ってくることや、食べ方の提案を直接できることなどにおもしろみを感じていると言います。農園がはじまった頃から栽培しているぶどうは 、藤稔(ふじみのり)・ハニービーナス・シャインマスカットの3品種を育て、一房一房、丁寧に観察して手をかけている田畑さん。2月から3月にかけてのこの時期は、果樹の木の剪定シーズン。どの枝を残して、伸ばしていくかを見極めていきます。

金子ぶどう園の直売所は、このおしゃれな板張りの小屋を目印に!友人のイラストレーターに作ってもらったという看板にも注目

稔さんは「新しいことにチャレンジするのが好きなんです」と同じく寺家町内の里のengawaの工房「made in 寺家」とコラボして、廃棄野菜を使った調味料や加工品の開発にも取り組んでいます。made in 寺家の看板商品の「浜なしの肉だれ」や「チリソース」、「柿酢」など、金子ぶどう園のB品の作物を提供して、商品開発しました。私も普段からこちらの加工品シリーズが好きで、自宅の料理で使っています。特に肉だれは、成分の70%が浜なしとあって、甘みが凝縮されていて、焼肉はもちろん、炒め物やドレッシングとして使えて本当に重宝しています。

made in 寺家とのコラボした加工品は、金子ぶどう園さんの直売所で買えるほか、里の恵季で販売されています(提供:里のengawa)

2021年から始まったJIKEマルシェに、金子ぶどう園も初回から出店。実はJIKEマルシェが直売所以外で初めての出店だったのだそう。「普段、うちの直売所はふるさと村の散策コースからちょっと外れているから、マルシェでの人通りの多さに驚きました。マルシェで知ってくれた人が直売所にも来てくれていますよ」とJIKEマルシェでの広報効果も実感している様子。マルシェ開催時以外にも、不定期で四季の家入り口で直売も始め、2022年からはInstagramで農園の日々の様子を発信しています。

 

コロナ禍で自宅にいるようになったことをきっかけに、文枝さんも農園に入り、収穫や直売所での販売を手伝うようになりました。趣味でもあったアロマに関する学びの場で出会った人たちから、農体験を求めて地方まで行っているという話を聞いた文枝さん。その友人たちに寺家町の農環境を紹介すると「都心から近いエリアで、米も育てて、野菜もある。こんなに良いところ他にないよ!」と驚かれたそう。

萬駄屋とのコラボ企画「しいたけ菌打ち1000本ノック」。原木に金づちで打ち込んでいく様子(提供;金子ぶどう園)

それならばと、援農を募集してみたり、収穫した野菜を調理して食べるワークショップなど自宅を会場にして企画します。「こんな田舎に農業手伝いに来てくれる人がいるのかな?と半信半疑だったのですが……」。そんな心配とは裏腹に 多くの友人たちが関心を持ってくれ、次第にその輪が広がってきていると言います。

自宅敷地内の茶畑で茶摘みイベント。積んだ葉っぱでお茶をいただくまでを体験できる(提供;金子ぶどう園)

しいたけ菌打ち企画から茶摘みイベント、柿の収穫と柿酢仕込み体験、稲藁をつかったしめ縄ワークショップ、自宅でのミニマルシェ、「uraniwa」のブランド名でアロマオイルの製造販売まで。2023年には、女性農業者がいきいきと働ける農のある豊かなまちを目指す横浜市の「よこはま・ゆめ・ファーマー」に認定された文枝さん。穏やかでチャーミングな雰囲気ながら、バイタリティーあふれる展開に、「今度はどんなことにチャレンジするんだろう?」とお話しを聞きながらワクワクします。自分が育ったこの土地に、こんなに魅力を感じてくれる人がいることを、文枝さんは農業に関わることで実感したと言います。現在は自宅とは別に直売所がありますが、今後は自宅敷地内に直売所や加工所を作るとが夢なのだそう。

取材中、B品で作ってみたという浜なしといちじくのドライフルーツをいただきました。「甘っ!!」と思わず声が出てしまうおいしさでした

寺家ふるさと村は、古くから農業を営む農家によってその田園風景を維持してきました。開村から30年以上が経過して、周辺環境も高齢化など農業従事者の事情も変化しつつあります。そんな中で、金子ぶどう園の農作物を「買う」ことだけではなく、「体験する」ことで農業の魅力を伝えているところに、これまで作り上げてきた農の魅力をさらに掘り起こしているように感じます。都市近郊農業の魅力の一つに、農的な暮らしを近くで体感できることがあると思いますが、時間をかけて遠い地方に行かなくても、足元の地域にこんなに豊かな旬の作物、農体験できる寺家ふるさと村がある。改めて私自身も暮らすこの土地の豊かさを感じました。

JIKEマルシェでの出店の様子。いつも援農や出店サポートをしてくれているスタッフと

「寺家の谷戸を残していきたいです。そのために、今後はお米がしっかりと消費されていく仕組みも考えていきたいと思っています」と稔さんと文枝さん。金子ぶどう園の今後のチャレンジから目が離せません。

Information

金子ぶどう園

直売所:東急バス「寺家町」バス停付近 または四季の家(青葉区寺家町414)での直売(いずれも不定期)

Instagram:https://www.instagram.com/kaneko_budouen/

 

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この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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