青空の下、里山を駆け回って、大人も子どもも遊ぼうよ! 里山自主保育「とっとこ」の進級式
私の娘が参加している自主保育グループ「里山自主保育とっとこ」では、毎年春に、樹齢200年とも言われる大きな桜の下で進級式がおこなわれます。里山を元気に遊び回る子どもたちの成長を大人が優しく見守り、皆で喜び合う素敵な行事です。今年小学校に上がった娘も晴れて進級とのことで、温かい春の一日に、親子で一緒に里山歩きをしてきました。

(text&photo:ながたに睦子)

 

娘が3年ほど前から参加している里山自主保育「とっとこ」は、東京都町田市・小野路地区を中心とした里山で、子どもたちを一日遊ばせる自主保育グループです。活動日は基本的に隔週の土曜日。活動日が土曜日なのは、とっとこが「オヤジ」たちが中心の自主保育だからなのです。町田に引っ越して来た時に、自主保育や里山保育の情報をいろいろと調べていたのですが、だいたいがお母さんたちによる活動でした。とっとこがお父さん中心の「オヤジ保育」と聞いたときに、面白いなーと、とても興味がわいたのを覚えています。

 

とっとこの活動フィールドは、町田市小野路地区の里山。緑あふれる田園風景が広がる。小野路は「にほんの里100選」にも選ばれている

 

とっとこでは交代制で毎回3人ほどの保育当番がつき、その中の1人が大将になります。大将はその日のまさに「ガキ大将」。みんな、大将について里山をてくてく歩きます。この日の大将は、とっとこ代表の石附和己さん(以下、かずみさんと表記)。みんなは「かずみー!」と呼びながら、楽しそうにおしゃべりをしたり、ときにはいたずらをしたり。かずみさんはそんな子どもたちを温かい眼で見守ります。その日の活動コースは、事前にメーリングリストを通して大将から発表があります。どの道を通り、どこでどんな遊びをするかなどを決めるのはすべて大将に権限があります。

とっとこでは、大人も子どもも、あだなで呼び合います。「◯◯ちゃんのお母さん」「◯◯ちゃんのお父さん」という呼び方でなく、お互いをあだなで呼び合うという関係に、最初はすこし照れもありましたが、慣れていくとなんだか不思議な心地さを感じました。あだ名で呼びあいながら、花や虫を探しつつ里山を歩いていると、子ども時代を思い出し、「ああ、自分にもこんな頃があったなあ」と、なんだか懐かしい気持になるのです。

 

大将かずみの後に続くはずが……あれれ? みんな大将を越しちゃってる! なんてことも

 

とっとこでは、大将やその日の当番が、子どもと一緒にどろんこになりながら、まるでガキ大将のように遊んでいる様子が良く見られます。時にはオヤジたちがちょっとはめをはずして農家のおじさんに怒られちゃっているような姿も? そんな情景は、自分が子どもの頃に空き地で上の学年の子どもたちと遊んでいた頃を思い出させます。遊びの中心には必ずガキ大将のお兄ちゃんがいたものでした。

 

水路で水の生き物探し。何を見つけたかな? 大人たちも子ども時代を思い出して夢中。みんな思い思いに遊ぶ

 

歩く途中で何かを発見。「見てごらん!どじょうがいるよ」「かずみ、とってよぉ!」

 

さて、てくてく歩いて、目的地の大きな桜の木のあるお昼休憩の場所まで辿り着きました。この辺りは「五反田谷戸」という地域で、この桜も地元では「五反田谷戸の畦桜」と呼ばれています。樹齢は200年、一説には400年とも言われており、みごとな大木です。残念ながらこの日は既に葉桜になっていましたが、満開の姿はそれはみごとで、映画『蝉しぐれ』のロケ地にもなったとのことです。

 

中央右寄りに見えるのが、その桜の木。満開を過ぎてしまったのが残念。木のぼり大好きな子どもたちだが、この桜の前では「この木はおばあちゃんだから登ったりしないでね」と一言

 

思い思いの場所でお弁当を食べたあと、畦桜の下での進級式が待っていました。とっとこでは、年齢によって名札のバッジの色が別れています。未就園児童は黄色の「ひよこ組」。幼稚園生はオレンジ色の「みかん組」。小学生は紫色の「すみれ組」、 中学生以上は水色の「そら組」。バッジの色が変わるのが進級の証ということで、それぞれ、新しいバッジを付けてもらいます。

バッジの進呈のあとは、かずみさんによる絵本の読み聞かせ。読む本は、毎年決まって中川ひろたかさんの『おおきくなるっていうことは』です。見上げれば空は青空。新緑のやわらかい葉桜の下で子どもたちと一緒に耳を傾けて、かずみさんの読み聞かせを聞いていると、なんだかこの一年の子ども達の成長が感じられ、心がじんわりと温かくなるのでした。

 

かずみさん「はい!『おおきくなるってことは』を読みます。」子どもたち「ええー、毎年同じで飽きたー!」なんて声もあってご愛嬌(笑)。思い思いに遊んでいた子どもたちも、だんだんと集まって来る

 

とっとこ代表の石附和己さん。子どもたちを見守る目はいつも優しい

 

読み聞かせが終わった後は、大人たちから歌のプレゼントをします。『今はまだ小さな君よ』という歌を全員で歌うのです。この歌は、かずみさんのお子さんが通っていた町田市小野路地区にあった「さんさん幼児園」(平成21年3月で惜しまれつつ閉園)で歌われていた歌とのこと。とっとこは、元はと言えば、この「さんさん幼児園」が閉園してしまったことで、「さんさん幼児園」と同じような里山保育が出来ないかと、そこに子どもを通わせていた一部の父母の呼びかけによって成立した自主保育グループなのでした。

 

事前にかずみさんによって用意された歌詞カード。歌詞をじっくり読んでいると、じんわりと胸に込み上げてくるものがある

 

かずみさんは、子どもたちと楽しそうに遊んでいたと思えば、ふと見ると草むらにごろんと寝転んで空を見上げていたりもします。大人の私から見ても本当に「お山の大将」という感じで、子どもたちとの距離感も絶妙です。みんなに「かずみー!」と慕われ、時にはいたずらもされながら、子どもたちの良き「ガキ大将」であるかずみさんに、とっとこに対する思いを聞いてみました。

「とっとこは、ゆる〜い活動なので、目標は『とりあえず次の一年間は続けよう!』なんです。もともと立ち上げた3家族が、それぞれの意見に相違があった。全会不一致からののスタートなんです。だから大将をやりたい人がやる。そしてその日の大将にみんなが従う。大将はその日、自分の行ってみたい所、やってみたことが実現出来たらそれでよい」

 

「あれ? 何持って来たの?」「珈琲をちょっとねー」。子どもたちの遊びを見守りつつも、当番の大人たちだってこんなお楽しみを持って来ている

 

「もう一つ。とっとこには進級式はあるけれど、卒業式はないんです。居心地が良ければいつまでも居てもいいし、卒業宣言していく人達にも特に儀式のようなものはなく、また戻って来たくなったらふらっと戻っておいでよという気持ちがあってのことです」

ここに書ききれない、とっとこに対するかずみさんの思いは、とっとこのホームページでたくさん読むことが出来ます。ぜひ、ホームページにも訪れてみて下さい。最後に、とっとこの名前の由来について、とっとこホームページより引用します。

 

【とっとこの名前の由来】

子ども達がお山をとっとこ歩いて行くイメージから付けられました。そんな保育ができればいいと思っています。また、とっとこの 文字は、子どもの遊びを成り立たせる三間(さんま)の「時間」・「空間」・「仲間」に対応し、最初の「と」は時を、次の「と」は所を、最後の「こ」は子どもを表しています。

Information

里山自主保育 とっとこ

URL http://www.nozuta.net/sono/

Mail tottoko.staff@gmail.com

連絡先 代表 石附和己さん 090-2144-4288

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