はじめて料理人と出会った日のこと 都筑区大熊町・中山正勝さん
「濱の料理人」代表の椿直樹さんと巡るシリーズ、第12弾は、横浜市都筑区・大熊町の中山正勝さんです。10年前、椿さんが地産地消の活動のきっかけとなった農家さんに、緊張気味で会いに行ってきました。(写真:大西香織)

 

横浜市西区にある居酒屋「大ど根性ホルモン」・オーナーシェフの椿直樹さんと都筑区・大熊町の農家・中山正勝さんの所へ行くというので、予習のために、椿さんのブログを拝見しました。

 

ブログには、椿さんが地場野菜に感動し、農家の中山さんに会いに行った日のことが綴られています。

 

“訪れたのは初夏、ナスやトマト、キュウリなどの露地野菜が彩り豊かに広がる畑に本当?にビックリ!横浜で野菜が採れるんだ、生産者がいるんだ、驚きの連続でした。“

 

出典:椿直樹のローカルファースト

 

続けて、椿さんは、中山家を訪れた印象をこう記しています。

 

“もう感動レベル。それから3時間位、横浜の農業の話を 教えてもらったっけ。

でも、ご家族の反応はあまり良くなかった、というより「どこのモンが来た?」的な感じだった気がします。

そりゃそうだよね、当時はコックが畑に行くなんて聞いた事もなかったし。“

出典:椿直樹のローカルファースト

 

その少し緊張に満ちた文章から、私も出会う前から緊張が伝染していました。

 

中山さんに「今日はよろしくお願いします!」とドキドキしながら声をかけると、

「よろしくお願いします」と拍子抜けするほど柔和な笑顔で迎えてくれました。

 

中山正勝さん。90aの畑を耕している。栽培品目は、スイカ、カボチャ、ナス、トマト、ゴボウ、キュウリ、梅、ゴマ、生姜、人参、ジャガイモ、もち米など多種多様

 

この日の予想最高気温は33度。強烈な日差し……まずは作業場の庇(ひさし)の下でお話を伺いました。

 

左から椿さんと中山さん。椿さんは農林水産省が認定する地産地消の仕事人、神奈川県第一号認定者。以前から椿さんの地産地消の活動を知る中山さんは、この国の取り組みを知り、推薦のために尽力した

 

椿さんと中山さんとの出会いは10年前。まだ野菜ソムリエの資格ができて間もない頃、3期生として資格を取得した椿さんは、横浜の農家さんに会いたくて、冒頭のブログのとおり中山さんに会いに行きます。

 

「待ち合わせしたら、バイクで見えてね。(料理人に見えなくて)最初は信じらんなかった。すごい印象に残っています」と中山さん。

 

「迷っちゃってね。農家さんと会うのは初めてで。(時間に遅れている分申し訳なくて)中山さんは最初怖かったです」と椿さん。

 

互いに初めて接する料理人と農家、暗中模索の関係でした。

 

それから半年、椿さんは中山さんの畑に通います。

 

「ナスの収穫をした時、“指紋がつく”って怒られてね。その時はじめて、売っているナスに指紋がないことに気づきました」と当時を懐かしむ椿さん。

 

「ナスをさわると鮮度が落ちる。時々、誤ってさわることもあるけど、極力、ナスの実に手をふれないよう心がけているんです」と中山さん。

 

サラダナスは、浅漬け用のナス。漬物を好まない若い人にも口にしてほしいと考えた名前。直売所でも作物を売る中山さんはネーミングを大事にしている

 

中山さんと私との記念の1枚。明石(写真左)の右手に持つハサミが優れもの。ナスのヘタを切り込むと片手だけで実を収穫できる

 

「中山さんの畑で旬を学びました。人参が好評だから来週も人参を注文したいって思っても、中山さんに“ないものはない”って言われちゃうんです」(椿さん)

 

「まずいもの売っちゃうと今度は買ってもらえなくなっちゃう。そっちの方が怖いからね」(中山さん)

 

調理場で使っていた野菜が畑でできている、それを実際に目にした椿さんは、農業に魅了されていきます。野菜の旬を肌で感じ、農家の心遣いに触れるのでした。

 

椿さんは、ぐるっと周囲を見渡し、手を広げ、

「この状態を想定できるような一皿を出したい。お皿に中山さんの顔が浮かんでくるような……」と静かに語ります。

 

夏の空はどこまでも青く、ジリジリと刺すような日差しは野菜を色鮮やかに照らし、成長を促します。額の汗と格闘しながらも、野菜と向き合う中山さんとそのご家族の阿吽(あうん)の作業……。

 

つい人に伝えたくなる、この興奮を、椿さんは料理の一皿で語ります。

 

ナスはお二人の肩のあたりまで生長。ネットを貼ってのナス栽培は中山さんのアイディア。ナスの誘引(茎を支柱に結び付け、生長の方向を調節すること)がしやすい。中山さんは、きめ細かい剪定と誘引を施し、6月から11月末までの長期間、ナスを収穫する

 

中山さんが収穫したサラダナスを椿さんが手で割く。その味わいは、えぐみもなく、皮も柔らかく、優しい甘み。ふわふわの果肉は噛みしめるほどに、水分が出て、のどをさらりと潤す

 

その一皿は、例えばサラダナス。

 

「農家はこうやって水分補給するんだ」と中山さんから言われ、畑で生のナスをかじった感動をもとにできました。

 

「ナスはナイフを嫌うんです。だから、ヘタの所だけ、ちょっちょっと切れ目を入れてそのままお客様に出しています」と椿さん。

 

今年はいつから椿さんのお店に出るのかと、心待ちにするお客様が多い一品です。

 

到着して間もなく中山さんのお父様が「食べて」とかごいっぱいのトウモロコシを出してくれた。もっちりとした歯ごたえで甘い

 

中山さんの奥様が、冷やしたスイカを出してくれた。スイカの水分が暑さにバテた体を潤し、不思議と力がよみがえる。こんな暑い中、作業場では扇風機フル稼働で中山さんの奥様とお父様が野菜の袋詰め作業をおこなっていた

 

椿さんをはじめ、料理人から野菜の調理法を知ることは、「お客様が何を求めているか知る糸口になる」と言う中山さん。料理人の要望と、種・育て方があれば、新たな野菜の栽培に挑戦してきました。また、ハーブを中心とした料理人専用の畑作りも始めています。

 

これまで料理人とのやり取りを通して、中山さんはどのくらいの期間絶やさずに、ある一定の品質・量の野菜を提供し続けることができるかを常に考えるようになりました。その柔軟さと厳格な水準を自分に課す職人気質が、プロの料理人から愛される理由なのかもしれません。

 

セルバチコ。ルッコラの一種。料理人の要望で、中山さんは栽培をはじめた

 

昔は土地改良(土地開発計画)の仕事に携わっていたという中山さんは、農家さんと知り合い、奥様と出会い、農業で食べていこうと決めました。農家歴は30年以上になります。

 

農家になってよかったなと感じるのはどんな時ですか?

 

「やっぱり好きなものを作って、おいしいって感じる時だよね」

 

おいしい餅を味わいたいと、自らもち米を育てる中山さん。農業を楽しみ味わうことが、お客様に“おいしい”を届ける近道なのでしょう。

 

会話豊富な農家の中山さんのお話は聞いていて、驚かされることばかり。椿さんが魅了されたのも、うなずけます。

 

皆さんもぜひご近所やマルシェに立つ農家さんとお話をしてみませんか。これまで食べていたナスやトマトが特別な食べものになること間違いなしです。

Information

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https://faavo.jp/yokohama/project/1355
本連載で登場する農家、加工品生産者、スタッフの動画などをご覧いただけます。

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この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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