薬膳料理ってなんだか難しそう。薬くさいんじゃないの? ……そんな風に思い込んではいませんか? 瀧本靖子さんの薬膳を知れば、その誤解は解けるはず。彼女の提案する薬膳料理は、お洒落で美しく、しかも意外とカンタンなのです。10月に発売されたばかりの新刊『お酒と楽しむ薬膳ごはん』の紹介と合わせて、瀧本さんに薬膳の魅力をうかがいました!
体の幸せ、心の幸せ。お酒と薬膳の素敵な関係。
ーー新刊『お酒と楽しむ薬膳ごはん』の発売おめでとうございます。新刊の見どころとポイントについてお聞かせください。
瀧本靖子さん(以下、敬称略): 薬膳の世界では、体と心はつながっていて両方で一つであると考えます。中医学でいう五臓「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」はそれぞれ感情と対応しています。例えば、くよくよしやすいのは脾が弱いから。逆に、くよくよ思い悩むことで脾の働きを低下させる、というように、常に体と心はつながっているのです。
今回の本でお酒と薬膳料理を一緒に楽しむ提案をしているのは、心身両方を健康で豊かにしていくこと。薬膳料理で体が健康になること、そして大切な人とお酒を飲んで豊かな時間を過ごし心が満たされることで、相乗効果を生みます。
私は仕事柄、「健康にいい薬膳料理を食べるのにお酒を飲んでもいいの?」と聞かれることがあります。もちろん飲み過ぎはよくありませんが(笑)、適量のお酒は食事の時間を楽しくしてくれますし、お酒と一緒に食べる料理が体にいい薬膳料理であれば、お酒を飲んでますます健康になれるのです。
本書では、お酒を飲む人はもちろんですが、そうでない人にも満足していただけるよう、ごはんとしても美味しく、しかも簡単で短時間でつくれるようレシピ開発に力を注ぎました。
ーー本では薬膳的なポイントも学べるのでしょうか?
瀧本: レシピごとに素材の持つ性質を明記し、また、「季節で楽しむお酒と薬膳料理」のコーナーでは、春、梅雨、夏、秋、冬の季節ごとの特徴と起こりやすい心身の症状と原因、薬膳による養生法をお伝えしています。
食材には体を温める、冷やす、気力を補う、血を巡らせるなどの性質があります。例えば体を温めるものと冷やすものを組み合わせると、せっかくの食材が持つ性質を相殺してしまうことがあります。本の中に「百合根と山芋と松の実のチーズ&豆乳風味」というレシピがありますが、百合根、山芋、松の実のような白い色の食材には、肺に潤いを与えて肌を乾燥から守る作用のあるものが多いのです。肺と肌は経絡(けいらく:体中に張り巡らされているエネルギーが流れる道筋のようなもの)でつながっていて、肺を潤すことで肌にも潤いを与えることができると考えられています。このレシピの食材はすべて白いでしょう? 美肌効果が期待できるお料理なのです。しかも豆乳は痰や体内の余分な水分を排出する働きがあるので、美人になりたい人にはおすすめのレシピです(笑)。
難しいことを簡単に、シンプルに。
ーー薬膳って難しい、面倒くさいというイメージがありますが、瀧本さんの提案するレシピはどれもシンプルで、誰にでも簡単につくれるものばかりですよね。
瀧本: 正直なところ、薬膳は難しいです。薬膳は中国の何千年に及ぶ智慧と臨床の集大成でもある中医学の一部で、私自身、薬膳に魅せられてどんどん深みにはまっているわけですが(笑)、極めようと思えば思うほど、奥深い世界だということに気づかされます。
しかし、自分と家族の体調管理に役立てるためであれば、症状や体質は限定的なので、そのポイントを押えさえすればそれほど難しいことではない。例えば風邪を引きやすいとか、冷え性ならば体の芯から冷えるのか、手足の末端だけ冷えるのかなど、その理由がわかれば対処法は明らかなのですから。
それに、学んだことを実践して効果があれば、これほど楽しいことはないですよね? 薬膳料理を食べ続けて冷え性が治ったり、気づいたら花粉症が軽減していた……。そんな成功体験がさらに学びたいというモチベーションにつながり、ますます薬膳が楽しくなってくるはずです。
ーー瀧本さん流の「薬膳」のポイントは?
瀧本: 私の薬膳教室では、単に「薬膳料理」だけを教えるのではなく、広く中医学の概念、つまりライフスタイルや生き方につながる価値観までをお伝えしようと心がけています。
具体的には、通っている生徒さん個人やそのご家族の症状や原因をご自身がわかるようにして、自分で食材や組み合わせを選べることができるようになるまで、とことん訓練します。「自分で選ぶ」のがポイントで、アクティブに体質改善できるようにしていきます。
ーー薬膳料理は薬くさいというイメージが一般的なようですが、瀧本さんの料理は薬くささがなく、とても食べやすいですよね。
瀧本: もちろん、ご要望があれば薬くさくもつくれますよ(笑)。生薬の使い方によって思い切り薬膳料理っぽくもなりますし、生薬に頼らずとも食材の組み合わせ方次第で体質改善にものすごく効果が出る料理もあります。
生薬を使うと、体質の変化はよりダイレクトで、効果が早いのが特徴です。生薬を使いこなせるようになったら、「アクティブに体が変わる」ことを実感できると思いますよ。
「家庭医」を増やしていくことが、私の夢。
ーー瀧本さん自身が「薬膳で人生が変わった」一人ですよね。
瀧本: 私は昔から虚弱体質で、小さなころから様々な症状に悩まされてきました。例えばアレルギー性鼻炎。一年中鼻づまり状態で、どこへ行くにもティッシュペーパーが手放せない子どもでした。そのせいでものごとに集中できないことが多かった。また私は極度の冷え性で、学生時代は「冷えで膝が腐っているんじゃないか」と思うほどでした(笑)。
ところが、薬膳を知って学び始めたら、たった2年で今まで苦しんでいた症状と別れることができたのです。もっと早く知っていたら私の人生は違ったものになっていたはずだと思うくらいです。
ーーいや(笑)、今の瀧本さんは薬膳という天職を得て、とてもイキイキ輝いていますよ。ご自身の経験を伝えられるからこその強みもあるのではないでしょうか。
瀧本: その通りで、「薬膳教室心味」という場を通じて、多くの方に薬膳の魅力を伝えることができるのが、私にとって何よりの仕事だと思っています。
最初は「薬膳レストラン心味」としてスタートしたのですが、レストランの場合は決まったメニューがあって、その人のその時の体調に合わせたお料理を出すということがなかなかできませんでした。なるべくご注文の際にお客様の声を聞いて、それに対応した薬膳茶をお出しするなどしていたのですが。
薬膳とは本来、一人ひとりのためのオーダーメイドの料理であるべきです。オンリーワンの料理なので、レストランの形式ではそれがどうにも難しい。となると、教室で生徒さんとじっくり対話し、その人が自分や家族のためのオンリーワンの料理をつくれるようになれば、薬膳の本質をより多くの人に広げていけるのではないかと思って、2006年に「薬膳教室心味」を始めて、2007年からは教室に特化して事業を展開しています。
ーー瀧本さんの夢を聞かせてください。
瀧本: 各家庭に一人、家庭医が存在する社会にすること。中医学の世界では、医者の序列の最高位にあるのが「食医」で、皇帝の食事管理と病気の治療を薬膳で行っていました。家庭の食医にあたるのが、お母さんではないでしょうか。もちろんお父さんでも構わないのですが(笑)、その家庭でごはんをつくる人が、食事によって家族の健康を管理できる。誰もがそういう知恵を学び、実践することで、健康で元気な人、つまりは笑顔が地域にあふれることになると思います。
ーー最後に、青葉台出身の瀧本さんに質問! 青葉台の魅力を教えてください。
瀧本: 個人的には、食材が揃いやすいことは大きな魅力です。私の教える薬膳ではどこでも手に入る食材を使うよう心がけてはいるのですが、そうはいっても蓮の実やピータン、クコの実など、手に入りにくい食材もありますからね。青葉台なら明治屋、成城石井、東急スクエアなど質のいい食材を置いているお店が多いので、とても助かっています。また、お肉は長津田の中山肉店、お豆腐ならばしらとり台の高橋豆腐店、乾物などはたまプラーザ東急百貨店にある富沢商店などで調達しています。
青葉台は、生活レベルや教養の高い方が多いですね。青葉台校に通ってくださる方は教室の定着率もいいので、皆さん、学びたい意欲が高いのだと思います。青葉台にたくさんの「家庭医」が増えてくれればうれしいです。
##取材を終えて……(一言)
瀧本さんとのおつきあいが始まったのは、今から4年前。当時レストランとして営業していた心味にうかがい、初めて薬膳料理を食べて衝撃を受けました。全く薬くさくないし、とても華やかで洗練されていて……。まるで瀧本さんのようだと思いました。その後、取材を通してお互いを深く知るようになり、年齢が近いこともあってか今では大の親友です。
最新刊はキタハラも企画・編集として関わったのですが、ともかく瀧本さんのセンスと才能には驚くばかりです。アイデアを一つ投げると、すぐに何十ものレシピが出てくる。頭がよくて柔軟なので、企画をもみこみ練り直す際も話が早い。締め切りもきっちり。このうえなく仕事がしやすい人で、活躍の幅を多方面に広げているのも納得です。こういう人と出会えることは、まさに編集者冥利につきます! これからも瀧本さんと一緒に、美味しくてためになる薬膳の本をつくっていけたらいいなあ。
(取材・文・写真/キタハラマドカ)
国際中医師、国際薬膳師、管理栄養士、ワインエキスパート、フードコーディネーター。青葉台、三軒茶屋で「薬膳教室心味(ここみ)」を主宰する。大学卒業後、漢方と食事で病気の治療を行う食養内科に管理栄養士として勤務。高齢者福祉施設での食事管理の仕事を経て、2005年に青葉台で薬膳レストラン「心味」、2006年から薬膳教室「心味」を始め、現在はカルチャーセンターやレストランにおける薬膳料理メニューの開発・指導など、活躍の幅を広げている。
2009年12月に初めての著書『免疫力を上げる魔法のスープ』(PHP出版)、そして2010年10月に最新刊『お酒と楽しむ薬膳ごはん』(学陽書房)を上梓。薬膳の魅力を多くの人に伝えている。
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