小池一美の農と食をつなぐ熱血報告Vol.4 青葉区市ヶ尾町 川口俊一さん

“有機野菜”は最近では一般のスーパーにも置いてあったりして、だいぶ馴染みのあるものとなりつつありますが、“自然農法”の野菜を日常で見かける機会はなかなかないと思います。

 

青葉区周辺では森ノオトでもお馴染みの「森の扉」さんや「青果ミコト屋」さんが、自然農法の野菜のおいしさをマルシェや宅配などを通じて伝えています。お二方が取り扱う川口俊一さんの野菜も自然農法です。さて、この自然農法って、どんな農業なのでしょうか。

 

旧上麻生道路沿いにある川口さんの“草の畑”。「草の根っこが畑を耕し、枯れれば土の養分になる」と、草と共存した田畑づくりに心血を注ぐ

 

 

もともとコンピュータ会社の営業サラリーマンだった川口さんが専業農家に転身したのは、5年前のこと。きっかけは1993年の記録的な冷夏による不作で米不足をもたらした「平成の米騒動」でした。

 

ご家族に化学物質過敏症の方がいる川口さんのお宅では、以前から有機栽培米を食べていたのですが、この米騒動で有機栽培米の入手が困難となってしまったそうです。化学物質過敏症の方の中には、農薬や化学肥料を使った食材を口にすることはできない方もいます。

 

そこで実感したのが、「自分自身で米を確保していくことが必要」だということでした。

 

もともと10年前からご自宅のお庭で農薬も肥料も(!)撒かない自然農法を実践し、野菜を果物を育てていた川口さん。現在も、ご自身の実践と学びのなかからたどり着いた自然農法で、お米や野菜、果物を栽培し、いまなお試行錯誤しながら、よりよい作物をつくろうと努力されています。

 

川口俊一さん。「漫画の“ドラゴンボール”に“せんず”という、豆1粒で1000粒分の栄養がある豆が出てくるでしょう? いずれはそんな豆と米をつくりたい。ちょっとしたおにぎりとおかずで栄養が賄えるような」と、茶目っ気たっぷりに語る

 

もしかしたら「えっ?!」と読み返した方もいるかもしれませんね。そうなのです。自然農法では、肥料を与えずに野菜がつくれるのです。

 

もっと驚かせてしまうと自然農法では草取りもしません。

 

川口さんは言います。

 

「農家はふつう雑草を嫌がるけれど、誤解しているんだ。草が自然に生えてくるのは神の配合。いろんなことを教えてくれます」

 

同じ自然農をされているお仲間はその雑草を「神草」、その神草を育てる土の菌を「神菌」と呼んでいるほど。

 

自然とは不思議なことに、野菜でも雑草でもその土地に合ったものが自生するのだそうです。元来こうして実った作物を人間や動物は採取してきました。だから川口さんは、雑草や虫を敵とせず、土が本来持っている力で作物が自生できる流れを手助けする、そんな野菜作りをしているのです。

 

必要に応じて雑草を取ることもあるそうですが、それも「人間のわがままで抜かせてもらっているよ。虫さんもたまに少し移動してもらっています」と話してくれました。

 

「この田んぼの水は最高なんです。水深100メートルからの地下水を使っているから」と川口さん。しかし田んぼには慣行農法の化学物質が残留していて、5年目にしてようやく「肥毒が抜けてきた」という

 

まずは田んぼを案内していただきました。

 

川口さんが「ここは虫の住処」というように、バッタやカエルが目の前をピョンピョン跳ねる田んぼは、現在約4反あります。主にコシヒカリを栽培し、その他にもササニシキと初霜の頃に収穫する幻の「ハツシモ」という品種を栽培しています。

 

稲は全て手植えをしているとお聞きして、思わず腰が曲がらないか心配になりましたが、来年はたくさん仲間を募って田植えをしたいそうです。

 

森ノオトでも案内しますので来年はみんなで川口さんのお手伝いをしましょう! 川口さんは、何と、疲れにくい田植え法を見つけたそうですよ!

 

実は化学物質過敏症のご家族が川口さんのお米を食べられるようになったのは昨年から。田んぼの土から化学物質などの残留物が抜けて、自然農に適した土地になるのに4、5年はかかると言われています。いまでもまだ土が出来上がっていない状態だそうです。

 

今年のお米はご家族も食べられて、去年よりもおいしくたくさん実ることを祈るばかりです。

 

真夏でも元気に育つマイクロトマト。堆肥置き場でもどんどん実をつける、驚くべきほどの生命力!

 

続いて畑を案内していただきました。

 

4反ある畑では大豆ほどの小さな可愛いマイクロトマトがたくさん実っていました。意外なことにマイクロトマトは野生種のトマトだそうで、生命力が強く、どんどん生えてくるそうです。そのマイクロトマトの周辺では、実際に大豆がたくさん植えられていました。

 

「大豆で味噌をつくれれば、ご飯と味噌汁と漬物は食べられるからね。それに今年はアメリカの大豆の不作でますます大豆が手に入りにくくなりそうだし」(川口さん)

 

米と大豆と野菜――。確かにこの3つが揃えばわたしたち日本人は生きていくことができます。しかも川口さんの畑では4つ目のデザート♪も栽培されていました。

 

ぶどう・いちじく・プルーン・柿・桑と魅力的な果実に加えて、くるみや月桂樹も植えられていましたよ。

 

そんな畑を眺めながら、川口家の健康的で豊かな食卓をとても想像してしまいました。

 

「お百姓さんは本来、水をまかないんです。でも、カンカン照りだから」と、じょうろを2つ持ってにんじんに水をまく。「持っている農機具は草刈り機だけ。耕耘機も持っていないの。援農、募集していますよ。来年は、地域の人たちを呼んで田植えイベントをしたい」

 

化学物質過敏症の方がご家族にいることもあり、以前から調味料も厳選したものを使っています。

 

「野菜も調味料でもなんでも、きちんとつくったものは美味しいよ。義理の息子もアレルギーがあったけれど、数年で治っちゃった(笑)。これまで健康でいられるのも、きちんと食事をつくってくれた奥さんのおかげです」

 

土と生命の循環のバランスが取れている自然農の野菜やお米が、どんな味がするのか気になりませんか。もしかしたらいままで食べたものと違う印象を持つかもしれません。自然農法の野菜は野菜本来のすっきりとした味わいで、えぐみも少ないといいます。

 

実りの秋も間近。この機会に自然の恵みを堪能してみませんか。

 

「日本の人口は減り続け、土地が余ってくるようになるでしょう? 年寄りばかりでは耕作はできない。若い人たちが自分で食べ物をつくる技術を身につけ、自給し、余暇で好きなことができるような、そんなライフスタイルを先に実践して提案したい」と、夢を語る川口さん

 

 

hitomi’s point

実は取材日に高熱を出していた小池。そんな小池を気遣ってくださった川口さんは取材後畑のレモングラスを採って渡してくれました。レモングラスの爽やかな香りと川口さんの優しさに癒されました。ちなみにレモングラスは殺菌作用があり、腹痛や下痢・頭痛・発熱・インフルエンザの症状を緩和に効能があります。

米・大豆・野菜・果物に続いてハーブも育てる川口さんの畑はまさに桃源郷です!

Information

■川口さんのお米や野菜についてのお問い合わせ先

kawagchi@asahi-net.email.ne.jp

■川口さんのHP

http://www.ne.jp/asahi/zen/kusanohatake/index.htm

 

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