生田緑地の目の前にある圧巻の建築がステンドグラス職人加藤眞理さんのアトリエ兼住居「葛籠屋工房」。バラ園などの観光客がふらり立ち寄ることもあるという地図を頼りに川崎市生田緑地からほど近い交差点を曲がると、「うわっ!」と驚きの声を上げてしまうような建物がそびえ立っていました。コンクリートの1階部分を見上げると、2階部分には漆喰壁の日本建築が。
驚く私たちをにこにこと大らかな笑顔で出迎えてくれたのがステンドグラス職人・加藤眞理さんです。
買い手がつかずに不動産屋さんも困ってしまうほどだったという北向きの宅地ですが、ステンドグラス工房を構えるには最適の立地。時間によって光が変わってしまう東南西の窓では、光を通すステンドグラスの製作に支障があるのだそうです。なるほど、1階工房の北側の窓には大きな大きな窓ガラスがありました。
工房の中に入るとまさにいま加藤さんが製作中のステンドグラスがありました。建具に施されモダンな中にも和の落ち着きが感じられるもの、美しい聖女が描かれている作品など、思わず見とれてしまいます。
ステンドグラスには大きく分けて2種類があるそうです。絵柄に合わせて色ガラスを組み合わせていくアメリカ式と、絵付けをする古典的な技法のヨーロッパ式といわれているものですが、加藤さんはそのどちらも習得し、時には2つの技法を作品に取り入れることのできる日本で数少ない職人さんです。
加藤さんにヨーロッパ式の工程を教えていただきました。
最初に下絵を描き、原寸図に仕上げる
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色ガラスを選定して原寸図に沿ってカット
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ガラスにフッ化水素で腐食加工し陰影をつける
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酸化金属の顔料で絵付けし、自然光を通して全体を見ながら調子を整える
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それぞれのピースを釜入れして24時間焼き付け、組み立てる。組み立てる際は鉛桟(なまりさん)というやわらかい金属でガラスのピースをつないでいく
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設置場所に取りつけ
「着色する、焼き付ける」は英語でstein(ステイン)。それでsteined glass(ステンドグラス)というのですね!
長く繊細な工程に思わずため息が出ました。玄関扉の場合、仕上げるまでにだいたい2カ月ぐらいかかるといいます。加藤さんにとっても絵付けは難しく、でもだからこそやりがいや面白さがあるのだといいます。
私たちもガラスを切る体験をさせていただきました。
カーボンの刃先のカッターでゆっくりと押し切りし、切れ目に沿ってペンチで折り取ります。加藤さんがガラスを切る時には「サー」といういい音がします。「この音が出ればちゃんと切れている証拠」と加藤さん。手や目だけでなく五感をフルにつかってガラスに向かい合っているのですね。カットは力加減にコツがいりましたが、加藤さんのように小気味良い音がしたときには、確かにスパッと切れていました。
1987年に設立された加藤さんのアトリエは「葛籠屋(つづらや)工房」といいます。ご先祖は大阪・堺市で代々葛籠屋という屋号でさまざまな技芸を営んでいて、加藤さんは13代目なのだとか。
自然豊かな土地で生まれ育った加藤さんは絵を描くのが大好きな少年でした。電気技師だったお父様の道具を使ってものづくりにも熱中したといいます。
近くにはフランク・ロイド・ライトが設計した教会があったり、通院していた耳鼻科にはステンドグラスが施されてあり、幼いころから自然と洗練された美しい作品にも出会っていたのだそうです。
大人になり世界を旅して修行し、ステンドグラス職人として活動を始めた加藤さんですが、自分の感性や作品づくりには幼いころからの全ての経験が生きているんじゃないかな……と話してくれました。
とても一朝一夕には真似できない加藤さんの作風には、加藤さんの人生そのものが現れているのかもしれません。
加藤さんにはこれから先もまだまだやりたいことがたくさんあるのだそうです。
「数年前の原画を見返すと下手だなって思うんですよ(笑)。今も1年ごとに自分が上達していると感じます」
加藤さんの長いキャリアをもって出てくる言葉の重みとたゆまぬ向上心に圧倒されました。
加藤さんの工房を訪ねてお話をうかがい、すっかりステンドグラスに魅せられてしまった私。加藤さんの手がけた作品をたどる街歩きもしてみたくなりました
加藤さんの素晴らしい作品は「葛籠屋工房」のホームページで見ることができます。川崎市生田の工房と、青葉台ウィズの森では加藤さんのステンドグラス教室も開催されています。ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。
■ 「葛籠屋工房」加藤眞理さんHP
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