琥珀の子 電気のおはなし第9話
今回とりあげるのは、その仕事と人柄で、少年少女から王室にまで慕われたイギリス人のマイケル・ファラデーさん。彼は、自然界の大いなる謎、電気と磁石の間の並々ならぬ関係に興味を持ち、「電磁誘導」の法則を発見しました。これは、発電機やモーターのしくみの原理で、電化製品のほとんどに使われている他、suicaやPASMOなど多くの最先端iCカードにも応用されている技術です。
それでは電気をめぐる時空の旅に出掛けましょう♪
(文と絵/梅原あき子)

ファラデーさんは、1791年イギリスの片田舎で産まれ、ロンドンで育ちました。貧しい鍛冶職人の家だったため、早くに自活の道を見つけるべく、13歳になると、文房具や新聞、製本業を商う近所のリボーさんの店で雑用の仕事をはじめ、翌年には製本の徒弟となります。この店の主のジョージ・リボーさんがなかなかの人物で、勉強好きなファラデーさんを可愛がってくれたんですね。町で行われる科学の講義を聞きにいく許可を出したり、お客さんを通じて、当時講演上手で人気者だった科学者デービーさんの講義のレアなチケットを融通してくれます。しかも、仕事の合間にはリボーさんの店に豊富に揃っている本を読めるというすばらしい環境ですから、ファラデーさんは、製本職人として独立する道を歩みながらも、科学者になりたいという夢をぐんぐんふくらませていきます。

幼いときから記録魔だったファラデーさんは、講義に行くと必ず、会場の様子から、題目、講義のスタイルと内容、実験の器具の図まで細かくメモをとり、必要ならば後に清書して製本までしました。ある日、とうとう想い溢れて、その講義録とともに「助手になりたい!」と熱い手紙をデービーさんに書き送ったところ、面会してくれることになったのですが、科学の道は辛くて収入も少ないし、商売替えはやめておけ、と断られてしまいます。しかし、天に熱意が通じたのか、その後しばらくして前任の助手が急に辞めたために直々にお呼びがかかり、1813年3月から、晴れてデービーさんの助手として王立研究所で働くことになったのでした。ファラデーさんは、何かに夢中になると脇目もふらず情熱的につき進む人だったようで、のちに結婚するときも、奥さんに熱い手紙を書いたり旅行先まで追いかけていったりしています。

幸運は続くもので、王立研究所で働き始めた半年後には、デービー夫妻のお伴として、1年半にも及ぶヨーロッパ周遊旅行に出発。フランス、イタリア、スイス、オーストリア、ドイツを巡り、アンペールさんやボルタさんにも会うことができました。20代前半で世界的な科学者たちと出会う機会を持てたことや、山や海、各地の大自然にふれられたことは、ロンドンの町っ子だったファラデーさんにとって、このうえない体験であり、すばらしい教育でもありました。

恩師のデービーさんもマルチな才能の持ち主でしたが、主な功績に「電気分解」による各種元素の発見があります。1800年、水に電圧をかけると酸素と水素に分解できることが発見されてから、この手法を取り入れた研究が流行り、デービーさんは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ホウ素、バリウムを単体で取り出すことに成功しました。また既に発見されていた塩素に「塩素(chlorine)」と名付けたのも彼の仕事だそうです。塩素の気体は黄緑色なので、ギリシャ語で黄緑色を意味する言葉にちなんだとか。

それにしても、電気って「ものを細かく分ける仕事」もしていたんですね。ファラデーさんも研究を引き継いで、種々の化学実験を行って結果を出しているのですが、ま、そこは飛ばして、いよいよ「電磁誘導」のお話に参ります!

アンペールさんの右ねじの法則は、「電流が流れると、磁界ができる」というものでしたが、「磁界が変化すると、電流が流れる」のが電磁誘導です。磁石のそばに金属線をただ置いておくだけでは何もおこらないのですが、金属線でコイルをつくり、その中に磁石を出し入れしてみると、磁石を動かしている間だけ、電源がなくてもコイルに電流が発生するんです。つまり、磁石の動き、磁界の変化が電源になるってことなんです!

 

電磁誘導の仕組み(絵:梅原あき子)

 

どうやらこの「コイル」というのが鍵なのです。そもそもコイルっていうのは、ドイツのシュワイガーさんという方が原型を作ったらしくて、金属線を円筒状にぐるぐる巻いてみたら、直線状態よりたくさん電流が流れる、ということが既に分かっていました。そして、円筒状のコイルに電流を流すと、右ねじの法則にしたがってコイルの中心に磁界ができることもわかりました。馬蹄形の鉄の棒に金属線をコイル状に巻き付けて電流をながすと、鉄が磁石になるという、「電磁石」も発見されました。

 

コイル色々(絵:梅原あき子)

 

コイルは身の回りの磁界が変化することを嫌うんです。そのために、磁石が近づいてくると、いやよ、と反発して、逆向きの磁界が発生するように自分で電流を起こすんですね。磁石が去っていく時には、いかないで、と引き寄せるかのように、また逆向きの電流を流して磁界をつくる。これが電磁誘導のしくみです。南極が明日から北極になります、なんて、地磁気がころころ変わられたら困るし、磁界はあまり変化しないでほしいというコイルの気分は分かります。

この現象は、電源につないだコイルに電流を流した時にも起こるし(自己誘導)、そのコイルの隣に置いた別のコイルにも起こります(相互誘導)。このとき、コイルに流れる電流を誘導起電力といいます。電磁誘導はちょっと古い訳では「電磁気感応」となっていて、その方がイメージしやすい人もいるかもしれません。人間関係でも反発や引力って言いますし、隣の人の反応がうつっちゃうってこともありますよね。人も磁石も電気も周りの動きに影響されずにはいられないようです。

SuicaやPASMOなどのカードにも、実はコイルが隠れているんです。駅の改札でピッとやる、あの黒っぽい画面(カードリーダー・ライターという)には磁界が発生していて、通過すると、電磁誘導によってカードのコイルに電流が起きて中のチップが起動します。つまり、コンピューターに電源が入った状態になるわけです。そして、電流が起きるとまた磁界が発生するので、今度はその波(反磁界)にのってカードからデータが搬送されて情報が更新されるのだそうです。これが、ほんの0.1秒くらいの間に起こっているんだから、すごいですね。どこか古くて新しいコイルのはたらき。

 

ICカードのしくみ(絵:梅原あき子)

 

電磁誘導の発見を機に、力を電気に変える機械(発電機)や、電気を力に変える機械(電動機=モーター)の開発も一気に進みました。ファラデーさん自身は、技術を応用して起業するといったことには全く関心がなく、原理や法則を見つけて実用化寸前までいくと、すっと手をひいて、次の実験に取り組んだそうです。そのため生涯一つも特許をとっていません。王立研究所の給料は安くて、内職で化学分析をして稼いでいた時期もあり、科学上の大発見か、富豪か、どちらを目指すかで悩んだこともあったそうですが、次第に内職もしなくなり、貧しさの中で、常に新しい発見の喜びを得る人生を選びました。

奥さんとは終生仲睦まじく、細やかな情愛に満ちた暮らしを続けたそうです。子どもはいませんでしたが、彼は実験が予想通り成功すると歌ったり踊ったりして子どものようにはしゃいだそうですし、ファラデーさんの中には、やはり琥珀の子がいますしね。

テスラさんやエジソンさんが、寝る間を惜しんで研究して特許をとりまくった姿にも感動しましたが、ファラデーさんは全く違って、毎日8時間くらい寝て、午前中は実験室へ行き、午後は書斎にいって実験結果をふまえて次の計画をたて、用があれば出かける。食事の誘いや会合はほとんど断って夕方には帰り、奥さんと詩を読んだり、動物園に行ったり、芝居を観に行ったりして、週末には教会に行く。……という規則的で長閑で、厳しくて無駄の無い生活をしていたそうで、それもまた感動的です。実験が予想通り成功しなかった場合も、成功したときと同じ詳しさで、その過程と結果をきちんと記録しているのも偉い! のちにそれらをまとめた電気の実験に関する書物は、エジソンさん他、多くの科学者や数学者たちの愛読書になり、教育者としても優れていたと言えます。大人向けだけでなく、少年少女のためのクリスマス講演を続けたのも有名で、化学や科学の話を、実験を交えて面白く聴かせる名手でもありました。

長年暮らし、働いた王立研究所を離れ、晩年は、ハンプトンコート宮殿の一角に小さな家を賜ります。体調を崩して仕事ができなくなると、次第にぼんやり座っていることが多くなり、1867年、いつもの安楽椅子で眠るように静かにこの世を去りました。電磁気学だけでなく、この後、光学の分野にも功績を残したファラデーさん。彼の研究もまた引き継がれ、現代の暮らしにしっかり根付いています。

電気の世界の偉人たちにも、いろいろなタイプの方がいますが、ファラデーさんというのは、人間っていいなあと思えてしまうような、どこか爽やかで涼しげな炭酸飲料のような人。実際のことはわかりませんけどね。今度バスや電車に乗る時には、ファラデーさんの屈託の無い笑い声が聴こえてきそうです。

それではまた磁界! じゃなかった次回! お楽しみに。

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この記事を書いた人
梅原昭子ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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