琥珀の子 電気のおはなし第12話【最終回】
電気ってなに? という素朴な疑問から始まったこの連載も今日で一旦終了です。電気の世界でとりあげるべき重要人物はまだまだたくさんいるのですが、そこをびゅんっと光速ですっ飛ばして、最後は生活にもっとも取り入れやすい再生可能エネルギー、太陽光発電についてのおはなしをしたいと思います。 それでは電気をめぐる時空の旅に出掛けましょう♪

太陽光発電というのは、太陽の光のエネルギーを電気のエネルギーに変える装置です。通常は物に光があたると熱になって、それがさらに別の物や空気に伝わって散っていく……のですが、ちょっとした仕掛けをつくることで、熱になる前に直接電気を取り出しているのです。

 

この仕掛けには「半導体」の性質が利用されています。鉄や銅など電気を通しやすい「導体」と、ゴムやガラスなど電気を通さない「絶縁体」との間にいるから「半・導体」というわけで、ある条件が与えられると、電流が流れたり、反対に流れなかったりするのです。半導体っていうとムカデの足のように端子がいっぱいついているICチップを想像するんですが、太陽電池そのものも一種の半導体であり、真空管とか、ダイオードなんかも半導体なんですね。半導体のおかげで、我々の希望通りに電気の流れを作り出したり、調整することができます。

 

太陽光発電のしくみ

 

太陽電池には大きく分けてシリコン系、化合物系、有機系があって、現在もっともよく出回っているのがシリコン系のものです。シリコンの純度が高い単結晶のもの、細かい結晶が集まった多結晶の2タイプは、シリコンの固まりをまずつくって、それをうす〜くスライスして使います。材料節約や軽量化のために、シリコン溶液を吹き付けてさらに薄いシート状にするアモルファスタイプというものもあります。

 

いずれにしても、シリコンにホウ素などを加えて電子が足りない状態にしている(+に帯電している)p型半導体と、シリコンにリンなどを混ぜて電子が多い(−に帯電している)n型半導体の2枚を重ね合わせて、プラスとマイナスの差を安定的に作り出しているのが太陽電池です。ここに光が当たると、中の電子が光のエネルギーを吸収して自由に動くエネルギーを持つのですが、プラスとマイナスがはっきり分かれているために、一定の方向に電子が押し出されて外に流れ出すようになっているのです。

 

この仕掛けによって、燃料がなくても光が当たっている限り電流が流れ続けるんですね。このように、光が電子にエネルギーを与えることを「光電効果」とか「光起電力(ひかりきでんりょく)効果」といいますが、この現象を最初に発見したのは、意外に古くて1839年、フランス人の物理学者アレクサンドル・エドモンド・ベクレルさんでした。

あれ? ベクレル?! とまた聞き覚えのある単位が出てきましたが、放射能の強さを表すベクレルという単位は、この方の息子さん、アントワーヌ・アンリ・ベクレルさんの名前からきています。息子さんは1896年にウラン化合物から出る放射線を最初に発見した人で、1903年にキュリー夫妻とともにノーベル物理学賞を受賞しています(ちなみに、キュリー夫妻はラジウムやポロニウムという物質からも放射性物質が出ていることを発見)。1975年になって単位が見直されて、それまでのキュリー(Ci)から最初の発見者にもどそう! と、ベクレル(Bq)が定着したのでした。

実はおじいさんも科学者だったというベクレル家。人名が単位になるということは、琥珀の子読者さんにはもうおなじみのことではありますが、これがもし日本人だったらササキとかタナカが単位になっていたのでしょうか。

 

ベクレルファミリー

 

それはさておき、太陽光発電の原理も原子力発電の原理も、おおいなる自然界のしくみを知りたいという想いから生まれてきたんですよね。科学や化学と自然とは本来対立するものではなく、どちらかを信じすぎても、侮ってもいけないのだろうと思います。

 

1876年になると、イギリス人の技術者スミスさんとメイさんが、セレンという物質にも光起電力効果があることを発見します。1883年にはアメリカ人の発明家チャールズ・フリッツさんが「セレン光電池」をつくりだし、カメラの露出計や電卓などに利用されはじめます。

 

ところで、「光」とひとことで言っても、見えないものから見えるものまでいろいろで、見える色も振動数の違いによって変わります。実験によって、波長の長い赤い光を当てても電子はうごかず、光を強く(明るく)すると飛び出してくる電子の数は増えるのにエネルギーは増えず、波長の短い青い光に近づくほど飛び出す電子のエネルギーが増えるということが分かってきたのですが、この不思議な自由電子の「光電効果」のしくみを説明したのは、かの有名なアインシュタインさんです(ちなみに、光起電力効果は光電効果の一種です)。

 

1905年、アインシュタインさんが26歳のとき、光は波だと信じられていたところに、光は粒なんだという考えを持ち込めば、光電効果をシンプルな数式で表せることを示して、のちにそれが実証されたので、1921年にノーベル賞を受賞しました。アインシュタインさんというと相対性理論で、その研究に触れようと思うと到底電気の世界では収まらないのでちょっと割愛しますが、自分は特別天才ではなくて、光に乗ってみたらどうなるんだろう? 落下するエレベーターに乗っている人は重力を感じるのかな? 等々、子どもの抱くような素朴な疑問をしつこく考え続けただけだというような言葉を残していて、かっこいいのです。しかもノーベル賞受賞直後の大正11年11月から12月にかけて来日しているんですね。東京から東北、関西、九州までかなりのスケジュールで勢力的に廻って講演会をしたそうで、どこの会場も大盛況だったとか。その時に物理少年になった人が結構いるのかもしれません。私も遭遇してみたかった!

 

アインシュタインさん

 

さて、ちょっと話が飛びましたが、太陽電池のおはなし。その後、時代はすすみ、シリコン系のpn接合型太陽電池が誕生したのは1954年。前回の電話のベルさんから名前をとった「ベル研究所」の3人の研究者が開発を成功させたもので、翌年には電話の通信ケーブルの電源として、1958年には人工衛星の電源として地球を飛び出しています。太陽光発電は日本のメーカーもかなり頑張っていて、1955年には早くも日本電気(NEC)がpn型シリコン太陽電池を開発しています。1959年にはシャープも研究を開始して、オイルショックののち1975年には三洋電機や京セラも参入。住宅用の太陽光発電システムはちょうど20年ほど前の1993年から始まったそうです。

 

最新のパネルでは太陽のエネルギー100%のうち20%くらいを電気として取り出せるようになっています。開発当初の6%に比べればかなりスゴい進化ですが、まだまだ太陽のエネルギーを利用しきれていないんですね! 地球に降り注ぐ太陽のエネルギーはたった1秒間に42兆キロカロリーもあるんだとか、夏の真昼だと1立方メートルあたり1kW級の電気エネルギーを持つという計算も出ているので、無駄に散っているエネルギーを集めれば、十分豊かに暮らしていけると思いました。

 

太陽電池も今はシリコン系が主流ですが、最近実用化され始めた化合物系は、加工の自由度がより高く、曲面にも使えるようになってきています。有機系のものだと、色素を使って絵の具のように塗るだけでいいタイプのものまで出てきていて、2050年頃には、かなりバラエティに富んだ太陽電池が一人ひとりの暮らしの中に入ってきそうです。

 

 

電気ってなんだろう?

そんな素朴な疑問から西へ東へと予想もしなかった旅がはじまって1年、めんどうで、わずらわしいなと思っていた電気の世界が、とても面白いものだと思えるようになってきました。電気の世界の奇人変人天才達との出会いは毎回とても刺激的で、ほんとうに愉しいものでした。

連載は終わりますが、琥珀の子をめぐる旅はつづきます。

 

来週2月1日、2日はコミュニティパワー国際会議の取材で福島へ行く予定です。リアルな現場のレポートは若干苦手ではありますが、今後もさまざまなエネルギーの情報をやわらかく発信していきたいと思います。

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この記事を書いた人
梅原昭子ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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