(text&photo:ながたに睦子)
1年半ほど前、友人から誘われて、日野市の「なかだの森」と呼ばれるプレイパークで開催された柴田愛子先生の講演会に参加した私。初冬の空の下、落ち葉の上に座りながらのびのびと愛子先生のお話を聞くことができ、帰る頃には、日頃悩んでいた子育ての悩みが、ふっと軽くなっていたことを覚えています。その時からすっかり愛子先生のファンになってしまった私は、念願かなって「りんごの木子どもクラブ」(以下「りんごの木」と表記)の保育の様子を見学することができました。
この日まず伺ったのは「小さい組」と呼ばれる、2・3歳児の保育室です。そこは、台所があり、トイレがあり、お風呂があり……と、普通の家庭のような空間で、子どもたちは本を読んでもらったり、庭では泥遊びをする姿が見られました。愛子先生のお話では、広い園舎や園庭ではなく、愛子先生自身に可能な力量の中で、子どもにとってベストな保育が出来るように、この場所を選んだとのことでした。
その後、愛子先生と一緒に「畑」と呼ばれる場所に移動しました。そこでは「大きい組」と呼ばれる、4・5歳児がのびのびと遊んでいました。「畑」と聞いて、私は言葉通りの「畑」を想像していたのですが、住宅街を抜けて辿り着いたその場所は、広々とした空き地に手作りの遊具や小屋が作られ、子どもたちが伸び伸びと遊んでいる、とても素敵な場所でした。
「ここでは子どもは何をしてもいいの。みんな自分のやりたいことをやって遊んでいるのよ」。愛子先生は笑顔で子どもたちを見守りながら続けます。「私は子どもに、『産まれてきて良かった』と思える人生を送らせてあげることが、大人の義務だと思っているの。だから子どもに関する仕事がしたいと思って、幼稚園に勤めたり、絵本屋でアルバイトをしたり、保育雑誌の仕事をしながら、子育てに関する研究会にもたくさん通ったのよ。でも、そこで学んだのは、大人の勝手な思いや、親の願いで子どもが育てられているということ。そうではなく、『子どもの目線』で子育てをしようと思って立ち上げたのが『りんごの木』なの。そしてここでは、『子どものやりたい放題』を保証してあげようと思ったの」
愛子先生の言葉通り、「畑」では、子どもたちが思い思いに自分の好きな遊びに夢中になっている様子が見られました。ホースで水をまいている子、穴を掘っている子、どろんこになって遊んでいる子、ハンモックでゆらゆら揺れている子など……。
「畑」には大人もしゃがめるほどの大きな穴が掘られていて、そこの中でおしゃべりをしている子どもたちもいました。その穴に私が目を奪われていると、愛子先生からはこんなお話が聞けました。
「4・5歳児の3学期頃になると、一つの遊びに夢中になってやり続けるという時期が来るの。昨日、今日、明日と同じ遊びを持続していく力が、子どもたちについてくるのよ。そんな時期に、やりたい遊びを選んで、月曜日から金曜日までとことん続けよう! という『とことん週間』を設けるの。あの穴は、そのときに子どもたちが掘ったものよ。子どもって穴を掘るのが好きなのよね。『もぐらになりたい』って言って、2カ月掘り続けた子もいたのよ。『へえー、もぐらになるってどんな気持ちだろうねえ』って、私も一緒にその穴に入ってみたのよ。そしたらなんだか気持ち良くなっちゃってね。そしてとことんまで自分のやりたいことをできた子は、すっとその遊びから離れて、また別の遊びを探すのよ」
日々の育児の中で、「はい、もうやめようね」と大人の都合で子どもの遊びの時間を断ち切ってしまうことは、多々あります。そんな時、たいてい子どもはとても不服そうな顔をしています。その日の遊びの時間が終わってもまた次の日、その次の日と、気の済むまで自分のやりたいことをとことんやらせてもらえる子どもたちは、きっととても生き生きとした表情をしているのだろうと、その日の畑で遊ぶ子どもたちの様子を見ていて思いました。
また、こんな場面もありました。愛子先生の視線の先に、ホースで水を流し続ける1人の男の子がいました。自分もびっしょりになりながら楽しそうに水をじゃばじゃばと流しているのですが、周りは大きな水たまりが……。しばらくして、愛子先生は笑顔ですっとその子に近づいて、「◯◯、ずいぶんたくさん水をまいたねー。ここにはずいぶん大きな水たまりができちゃったから、今度はあっちの畑のほうに水をまいてよ」といって、そっとホースに手を添え、彼に別の場所に移動するよう促しました。私だったら「ああそんなに水をまいてー! 服もびしょびしょ、もう終わりにしようね」と言って止めさせてしまったと思いますが、きっとそれではその子は納得しなかっでしょう。
愛子先生はこんなお話もして下さいました。
「りんごの木では、月に1度『お話会』(保護者会のようなもの)という時間があるんです。保育者と父母が、日頃の保育の内容や、子どもたちの様子などをみんなで話すの。そこでは自分の子どもだけではなく、他の家庭の子どもの話も聞くでしょ。自分の子、人の子、みんなで問題を考えて、支え合って、助け合う。そうすることで、親も大きく成長するの。自分の子だけを見ていると、どうしても視野が狭くなるでしょ。そして、誰かに助けてもらった『ありがとう』は、また次の誰かに返してねって言ってるの」
りんごの木に通っている子どもやお母さんたちが羨ましいなあ! と思いながら、愛子先生に、「『りんごの木』が求める理想や、今後の目標などはありますか?」と聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
「りんごの木には、理想なんてないのよ! 一つだけ、私自身が行きたいと思える場にしたいと思ってるの」と愛子先生は続けます。「私は小さい頃、家が大好きな子だったのね。家がいちばんほっとできて、力を抜いて過ごせる場所で、色々な子どもたちが集っている学童保育のような場所だった。だから今、その家を再現したいと思っているのかもしれない」
最後に、愛子先生に子育て中のお母さんに向けたメッセージを伺いました。
「お母さんたち、子どもの育つ力を信じて下さい。子どもにはちゃんと自ら育つ力が備わっています。お稽古ごとは親の安心料であって、親があれこれ与えなくても、子どもはちゃんと自分でやりたいことを見つけて育っていきます。お母さんには、『目に見える能力』だけでなく、『目に見えない子どもの力』を引き出してあげてほしい。できるだけ子どもの心に寄り添ってあげること、そしてほっと出来る我が家を作ってあげること、それだけです。最初から完成した大人が子育てをしているわけじゃない。親も子どもと一緒に育っていくんです。そして親が生き生きしていると、子どもだって生き生きしてくるんです」
私も、6歳と0歳の娘を育てながら日々悩むことも多いですが、「子どもの自ら育つ力を信じて、子どもの気持ちに寄り添ってあげて」という愛子先生のメッセージは、強く心に残りました。実は最近、小学校に入ったばかりで慣れない環境に戸惑う長女の心のケアに思い悩み、心がガチガチにこわばっていた私でしたが、気持よく風の抜ける畑でのびのび遊ぶ子ども達の様子を見ながら、愛子先生の心温まるお話を聞いていると、まるでマッサージされたように、心がゆるゆるとリラックスしていきました。
そして、「子どもが主役の子育て」という試みは、都筑区周辺の地域でも、徐々に広がり始めているようです。6月21日(土)、22日(日)には、横浜港北ニュータウン、センター北駅周辺で、「YOKOHAMA こどもみらいフェスティバル」が開催されます。ここでも愛子先生は『ママがホッとする子育てアドバイス こころが軽くなる子育てのすすめ』という講演をする予定です。少しでも多くの、子育て真っ最中のお母さんに、ぜひ愛子先生の生の声を聴いてもらいたいなあと思いました。
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