「絵本の読み聞かせ」から長いお話への移行がイメージできない、というお話をよく聞きます。そうは言っても、本好きのお子さんは小学校に入れば自分で好きな本を見つけてくるもの。ただ、私は子どもに任せるだけではなくて、ぜひ大人も一緒に物語の世界を楽しんでほしいと思っているので、移行のきっかけになりそうな「幼年童話」のオススメ作品をご紹介したいと思います。
ところで「幼年童話」ってどんなジャンルかイメージできますか?
例えば、絵本より長めで、絵はあっても少なめで文字の多いもの。
語りが伝えるものと絵が伝えるものの両方があって物語の世界に入っていけるのが絵本ですよね。文字が読めるようになると、本を「読んで」物語の世界に入っていきます。幼年童話は、児童文学と絵本のちょうどその間、というイメージでしょうか。
幼年童話への入口は、絵に頼らず、自分の中に物語を取り込みながらそのお話の世界を楽しむ経験の第一歩。絵本の読み聞かせは、親子ともども、比較的取っ掛かりやすいと聞きます。子どもと物語の付き合いをちょっとステップアップさせたいと思う時に、おすすめしたいのが幼年童話なのです。
そこで特におすすめなのが、幼年童話の代表格、『いやいやえん』!
あの『ぐりとぐら』の中川李枝子さんと山脇百合子さんの作品です。
ここでもお恥ずかしながら……なのですが、私は幼年期に『いやいやえん』に出会いませんでした。『ぐりとぐら』は大好きでしたけどね。
私が保育士を始めてすぐの頃だったでしょうか。ようやく『いやいやえん』を手にし、ものすごい感動を覚えました。「なんでこの作者さんは子どものことがこんなにわかるんだろ!」と。とにかく、私が日々接している子どもたちのありのままが描かれ、かつ物語になっているのです。目の前の子どもたちに日々右往左往していた私にとって、子どもの本質を教えてくれたという意味で、本当に衝撃的でした。それからは『いやいやえん』が私の保育士としてのバイブルになっていたくらいでした。
ますます中川さんファンになった20歳そこそこの私は、世田谷美術館でおこなわれる中川李枝子さんと山脇百合子さんの講演会のチケットをゲット。「子どものことがこんなにわかる」、その秘密を知ることになったのです。
もう有名な話ですが、中川さんと山脇さんは姉妹です。そして中川さんはかつて世田谷区の住宅地にあった小さな無認可保育園「みどり保育園」の保母さんだったのです!
講演会で聞いたお話そのものが書かれているエッセイがあります。『本・子ども・絵本』(大和書房)です。中川さんの作家としての言葉以上に、保母として大事にしてきたこと、また大切にしたいことが熱く語られています。中川さんの作品は「みどり保育園があったからこそ書けました」と、エッセイの中で語っています。
園長の天谷保子先生は、『いやいやえん』のはるのはるこ先生のモデルです。なつのなつこ先生は中川さんご自身なのでしょう。天谷先生は「心はあたたかくても頭は論理的、幼児教育には打ってつけ」の方だったそうです。そして中川さんご自身、「幼児教育はどうあるべきか、真剣に考え精一杯やってきたつもり」と語っております。「親に安心と納得のゆく、そして子どもにとっては家庭にいる以上に心地のよい、楽しい保育をしなくてはならない! そのためにはまず、保母が仕事を愛し、楽しむこと」……これがみどり保育園の方針だったそうです。みどり保育園での日々のあたたかい小さなエピソードを聞けば聞くほど、『いやいやえん』がどうして生まれたのか、私は心から納得できたのです。
中川さんも天野先生もとっても素敵な保母さんだっただろうと思います。中川さんの保母時代の話しに、私はすっかり虜になってしまいました。
(そのとき、私の『いやいやえん』にサインしてもらいました)。
今では息子の『いやいやえん』です。
もくじの1番目の『ちゅーりっぷほいくえん』は、今となってはなかなか驚きのはじまりです。なにせ“かんたんなやくそく”がずらり、ときますから。主人公のしげるは、この“かんたんなやくそく”を守ることができないので、だからすぐ“ものおき”に入れられます。「1 かおをあらわないできました 2 ゆびをしゃぶっていました ……」というように。このしげるのふるまいを聞いて、息子は本当に楽しげに笑うんです。
もくじ4番目の『やまのこぐちゃん』のお話も大好きです。こぐちゃんが「しゃつにあしをつっこみ、ぱんつをあたまにかぶる」シーンが大好きで、ここでも大笑いです。
『いやいやえん』の他に、中川さんと山脇さんの隠れた名作と、私が勝手に思っている作品があるのです。
『けんたうさぎ』(のら書店)です。
これは息子が5歳になった今も大好きな本ですが、でも、もうちょっと前の3〜4歳の頃の方が大はまりしていました。
おそらく、けんたうさぎが3〜4歳なんだと思うのです。
けんたうさぎのふるまいに「そんなにおかしい!?」っていうくらい、腹がよじれそうになるくらい、大受けしながら聞いてるんです。
『けんたうさぎ』も、もくじがやっぱり素敵です。いたずらうさぎ、あべこべうさぎ、きえたうさぎ、おそみみうさぎ……。どれもこれも小さな子どもたちの日常を思わせてくれませんか。息子はどのお話もお気に入りですが、どれが特に好きか聞いてみたら「うーん、まようなあ、あべこべうさぎかなあ、でもきえたうさぎもいいなあ」とのこと。
あべこべうさぎは、朝、けんたうさぎがベッドの足のほうから抜け出してきて、そこからあいさつは「おかあさん、こんばんは」。ふくもズボンをあたまにかぶっています。ごはんをたべるのに、テーブルにこしかけたりもします。そんなけんたうさぎのまねをして、息子ははんたい言葉を愛用していた時もあるくらいです。おかあさんうさぎとおとうさんうさぎとのやりとりがまたユーモラスであったかいのです。この本は本当に私のおすすめです。
息子にとっては、『いやいやえん』の子どもたちも、『けんたうさぎ』も、まるで自分のように思えるのでしょう。自己投影できるから、すっとお話にはいっていけるのではないかと感じるのです。
なぜなら、中川さんが子どもそのものを描ける作家さんだから。
だから長年読み継がれるし、子どもたちが物語の世界に入っていけるのだと思います。
この2作品が、絵本から一歩進んだお話しの世界に導いてくれて、第1回で紹介したように、息子が『エルマーとりゅう』の世界にはまることにつながったと私は思っています。
本屋さんでは今、幼年童話が売れなくなってきているそうです。
幼年童話にもまだまだ素晴らしい作品があります。ちいさな子どもたちに向けられた豊かな物語を、ぜひ楽しんでみてください。幼年童話を楽しめる時間は実は本当に短くて、だからこそきっと、親子にとってかけがえのない宝物になるはずです。
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