個人的に着物が好きな私。着物の滑らかさ、華やかさへの憧れと、日本に伝わる知恵がつまった「着物」に心惹かれています。
とは言え、私にとって‘着物屋’はまだまだ敷居が高く、気軽には入れない場所でもあります。初めての取材のこの日、ワクワクと不安を抱えながら、お店のドアをひきました。
「こんにちはー!」突然目に飛び込んで来たのが店頭で暖かく迎えてくれこの方。
「これは普通の着物屋さんではないな…」と予感とした私。
東京出身のご主人・佐々木俊美さんが京都での修業を経て、藤が丘にお店を構えたのは28年前。京都で出会ったという奥様・恵美子さんは、「つぼみのうちにつまれちゃったから、何の花だかわかんないのよー」と笑います。二人で仲良く、笑いの絶えないお店を作り上げていらっしゃいます。
さて、わかやぎのチョット変わった特徴のひとつに「着物なんでも相談」があります。ホームページやyoutubeでも、「どんなことでも、無料で相談預かります」とおっしゃっています。
取材時も次から次へとお客様が来て、各々色んな相談をして帰っていく光景を見て、驚きました。
冗談を交えつつ愉しく話しながらも、肝心な着物や帯を見る目は真剣そのもの。その姿は、ご主人自身が唯一無二の時を重ねた着物との出会いを純粋に楽しんでいるようでもありました。
「今みんながどんな着物を着ているのか、そして着物の流行のこともよーくわかっているから、だから何でも相談にのれるんだよ」と話すご主人。その姿は、何でも穏やかに、暖かく受け入れてくれる自分の祖父とも重なってしまい、ついつい甘えて色々と相談にのってもらいたくなります。
私が想像していた以上にお客さんの出入りが多いわかやぎさん。
隙をみて、私がちゃっかり持参していた着物を出し、「なんでも相談」をお願いしてみました。
祖母が若かったころに着ていた若草色の色無地。地模様も大柄の古典柄で、着るとどうしてもレトロ感が満載になってしまいます。今では認知症の症状が進んでしまった祖母が、シャキッと着こなしていたこの着物をどうにか残せないものだろうか、と大切にしまってありました。
でも、祖母の着物を私が着るにはいくつか問題があります。
最大の問題は、サイズが合わないこと。
ここで着物の仕立てについて簡単にご説明します。
着物はおよそ35cm×12mの反物を全て直線で裁つため、無駄がないと言われています。着る人の体型に合わせて手縫いで仕立てます。洋服のようにスリーサイズを気にしたりはしません。佐々木さんは「お客さんの姿を見れば、仕立てに必要な寸法はだいたいわかる」そうです。‘並寸’という言葉だけでサイズが伝わっていた時代もあるとか。感覚を大切に、大まかな採寸でもOKな和服。例えば10年後に多少体型が変わったとしても、たとえ10キロ太ったとしても同じ着物を着ることができるのです。
今、着物を新しく仕立てる場合で生地に余裕があるときは、縫い込む分量を増やし、後々調整しやすいように仕立てることが多いそうです。対して数十年前はぎりぎりで仕立て、余り布で着物とお揃いのバックや草履の生地に使ったそうです。どちらにしても、手元にある生地を最大限に大切に使うのが着物の仕立て方の特徴と言えます。
例にもれず、祖母の着物も余分な縫い込みはなく、身丈(着物の長さ)は調整できないものの、幸いにして着付けの方法で調整可能とのこと。裄(肩から手に沿う部分)はお直しして長くできるということでした。祖母の着ていたものを私も着ることができるなんて、洋服では考えられない展開に、とても嬉しくなりました。
「できる限り、お直ししてあげたい。だって、もったいないでしょ!」
とニカッと笑うご主人。
このご夫婦のお人柄を信頼してお店を訪れる方が多いのだろうと感じました。
古い着物を大切にしてくれるわかやぎさん。もちろん、新しい、今時の着物も大得意です。
「質のいいものは、ずっと飽きずに使えるからね」とご主人。
何十という丁寧な手仕事の工程を経て出来上がる着物を身にまとい、季節や年月の移ろいに気がつき、楽しみながら、着込んでいく。ファストファッション全盛期の現在だからこそ、いいものを長く使う着物を楽しむのはエコでもあり、最高の贅沢なように思いました。
「なんでも着物相談」の他にも、バラエティ豊かな教室が自慢のわかやぎ。
講座に参加するもよし、これから何年も付き合える着物を作るもよし、手持ちの着物の手入れをして更に長生きさせるもよし。着物に関することなら、どんなことでも笑顔で、いや笑いで相談にのってくださるご夫婦がいるわかやぎさん。これからもたくさんの笑顔が集まる場所であり続けることを願っています!
着物 和風小物 手ぬぐい「横浜 わかやぎ」
住所:横浜市青葉区藤が丘1-15-3
電話:045-973-5981
営業時間:10:00-20:00
定休日:火曜日
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