いま、まちづくりに関心のある人にとって熱いキーワードが「リノベーション」。地方都市では郊外型のショッピングセンターに人波をさらわれ、中心市街地の空洞化が目立ちます。空き家や空き店舗が増えるなか、不動産オーナーや商店街ではその活用に頭を悩ませています。
私たちの暮らす横浜北部や東急田園都市線沿線は、人気のエリアで、これらの問題とは一見無関係のように思えますが、さにあらず。横浜市でもあと5年もすれば人口が減少に転じます。駅から遠い住宅地では、買いものや通院に不便を感じるご高齢の方が、駅近の物件に転居する動きもあります。青葉区では、奈良町の空き家をリノベーションしてコミュニティの拠点にした「街の家族」の取り組みに注目が集まっています。
今後ますます進行する少子高齢化と、都市への一極集中のなかで、悲鳴をあげる地方都市。こうした地域課題を解決しようと、全国各地で広がりを見せている動きが「リノベーションスクール」です。北九州市で始まったリノベーションスクールは、福井、鳥取、豊島区などで開催されています。
キタハラの故郷・山形市も、全国の地方都市の例にもれず、中心市街地がだいぶ淋しい状況になっています。元々は城下町で、その名残をとどめつつ、明治・大正期の洋風建築と、昭和に発展した目抜き通りが何とも言えぬ雰囲気を醸し出し、活況を呈していました。わたしが中学生の頃までは、山形の七日町と言えば東北を代表する繁華街で、江戸時代から続く専門店や百貨店が軒を連ね、10以上の映画館と飲み屋、料亭がひしめき合い、歴史と文化を感じさせるまちでした。
大学進学を機に山形を離れ、帰省するたびに、様相が変わってきました。郊外にショッピングモールができて客足を奪われ、老舗が軒並み撤退、ビルや建物を維持できずに一等地は駐車場に早変わり。テナントビルも激安ショップやあやしいアクセサリー屋さんなど「ビミョー」感が残るラインナップになり、買いものをするにも魅力を感じられないから客足が遠のくのも、理解できます。
そんななか、山形をデザインの力で元気にしているのが、東北芸術工科大学の教授陣と学生たちです。街中の古い建物でアートイベントをおこない、その流れでリノベーションをし、カフェやシェアハウスとして新しい命を吹き込む事例が、少しずつ見受けられるようになりました。
仕掛人のお一人が、森ノオトの「エコDIYまちづくり」にご協力いただいている、建築家でみかんぐみ共同主宰・東北芸術工科大学(以下、芸工大)教授の竹内昌義さんです。
新しい視点で不動産を発見していくウェブサイト「東京R不動産」で知られ、建築家としても活躍する馬場正尊さんも、同じく芸工大の准教授で、山形の不動産会社と一緒に「山形R不動産」を運営しています。
その竹内さんと馬場さん、山形のデザイナー・小板橋基希さん、そして山形の不動産会社勤務の水戸靖宏さんで立ち上げたリノベーションを事業の核にした地域再生をおこなう会社・株式会社マルアールが今年の6月に立ち上がりました。昨年開催した山形リノベーションスクールの形をとらず、今年はオリジナルコンテンツの「山形リノベーションワークショップ」として、8月7日から9日までの3日間、マルアールのビル「とんがりビル(旧オハラビル)」で開催しました。
キタハラは故郷・山形市のまちづくりにいつか関わりたいと願っていたし、個人的な事情としては乳飲み子を抱えて北九州に行くのは難しいし、なにせ実家から徒歩5分のとんがりビルでの開催ならば、子どもを親(と一時保育)に託せるから参加できる……唯一無二のチャンス! とばかりに飛び込みました。
さて、山形リノベーションワークショップでは参加者が「事業計画コース(竹内ユニット・馬場ユニット)」と「セルフリノベーションコース」の3グループにわかれて、とんがりビルをどう再生していくのか、あるいは実際に一室のリノベーションに取り組みます。わたしは事業計画コースの竹内さんグループに配属となりました。「プランニング、オペレーション、マネジメント、マネタイズ、プロモーション、コンセンサス、これらをつなぎとめる中心概念」をつむいでいくのがミッションで、具体的には4階建てのビルの1階と、3階の事業計画を立てていくことになります。
旧オハラビルが位置するのは、山形のど真ん中、七日町。山形市役所、旧県庁で重要文化財の「文翔館」、山形銀行本店、老舗の百貨店「大沼デパート」からほど近く、映画館が建ち並んでいた「シネマ通り」。ところがシネマ通りの映画館はすべて郊外のシネコンに鞍替えして、私が中学生の頃に5軒はあった映画館は今1軒も中心部に残っていません。
私のグループは、私のほかに、社会人2年目で金沢の建築設計事務所に勤務する女性のほか、芸工大の学生4名と、川崎市宮前区から来た学生1名、計7名。全員、私より一回り以上年下です。
グループワークが始まったものの、学生さんたちはとてもシャイで、なかなか言葉が出てきません。山形市出身者はわたしのみで、山形が初の二人と、芸工大生もほとんど七日町には来ないのだとか。「え? みんな、七日町で遊ばないの?」「どこで飲むの?」「デートはどこに行くの?」って、ほとんどおばさん状態で質問攻めして、しまいにゃグループ全員に出身地や参加動機、将来の夢をインタビューしてしまいました。社会人と学生とで、知識や経験の量が違うのは当然ですが、顔色をうかがっている沈黙が重く、おばさん、焦って、初日が終わってしまいます。
初日の反省から、2日目はしゃしゃり出ずに、若者たちから出てくるアイデアのサポートをしようと、心に決めました。
1階の店舗は、山形の食材を楽しめる飲食店に。「市役所や銀行で勤めるサラリーマンのランチスポットにするために、デリはどうかな」とアイデアがわき、「3階は、ものづくりを楽しめるシェア工房にしたい」と、コンセプトは固まってきました。あとは、それをいかに具体化していくか。
例えば、1階の飲食店に入る時の人の流れは? お弁当を買って帰る人と、中で食べる人の動線をどのように設計する? 3階のものづくり工房は、1時間幾らで借りられるの? 実際に自分だったら幾らまでお金を出せるの? そして、実際に誰が運営し、リスクをかぶるのか?
具体的な顔を思い浮かべながら、「これならばやれる!」という「プロセス」と「空間」と「お金」のデザインについて、議論していきました。
いよいよアイデアを事業計画に落とし込むために、設計図面を描いたり、パワポをつくるなどの実作業に移ると、学生さんたちが本領を発揮し始めました。イラストレーターを使って、飲食店とシェア工房のロゴをつくる学生。飲食店のパースを上手に描く学生。飲食店の収益計算を担当する社会人。チームが動き始めました。
2日目の夕方に中間発表をおこない、竹内さんから「どこで収益を上げるのかをはっきりさせること。このプランはすごくよくなる可能性と凡庸になる可能性の両方がある。細長い空間をいかに生かすかがカギになるのでは」とアドバイスを受けました。そこから、おとなしかった学生さんたちに火がつきました。
「建物全体のコンセプトとして、みんなで何かを一緒にする場所であること。そこからコミュニケーションが生まれて情報が広まる」「まずは七日町ではたらく人をターゲットにする」と、議論が熱を帯びました。
それぞれ、自宅やホテルに戻った後、自分ができる作業を進めていました。最終日、私が朝起きたら、Facebookグループにいくつも図面やパワポがあがっていました。徹夜をしたと見られる若者たち、朝集合した時の顔つきが違います。パワポの提出は最終日の14:00きっかり。弁当も食べず集中してパワポを仕上げていく女子学生は、お腹が空いて弁当をがっつく私に「早く発表原稿がほしい」と懇願するほど。シャイな男子学生さんは同窓の女子学生に頼まれて一生懸命絵を描き、色を塗り、仕上げていきます。
ギリギリ滑り込みで資料を提出し、発表本番までの1時間は、全員が集まり、何度もプレゼンの練習を繰り返しました。そして迎えた最終プレゼン。本当にこんなお店や空間がシネマ通りいあれば、いいな。そう思わせる内容まで完成度が高まっていきました。3日目は、私の出る幕はほとんどありませんでした。
年代もバックボーンも様々な人が集まり、一つのものをつくる。そこでチームが完成していく。参加した誰にとっても、七日町シネマ通りは大切な場になるにちがいない。一期一会のチームでしたが、この経験が山形をどう変えていくのか、そして自分の今住むまちにどう生かされていくのかを案じた3日間でした。
ユニットワークの間に、リノベーションやアートプロジェクトに関わる一流の講師陣によるトークイベントがありました。DESIGNEASTや瀬戸内国際芸術祭を手がけるデザイナーの原田祐馬さん、山伏でイラストレーターの坂本大三郎さん、建築家でHandi House projectを主宰する加藤渓一さん、芸工大准教授で山形ビエンナーレのプログラムディレクターを手がける宮本武典さん、暮らし方冒険家の伊藤菜衣子さん。共通しているのは、「巻き込み力」が強いこと。お金を目的にせず価値そのものを追求しているから(到達点に至るまでのプロセスに妥協せずに近道を求めない)、ぶれずにコンテンツそのものに集中できる強さがあること。
竹内さんの総括では「みんなのために、まちのためにという“パブリックマインド”がある」、それこそがリノベーションの醍醐味なのだと感じました。
私が体験したリノベーションワークショップのプロセスをレポートしましたが、ではこれを、森ノオトのエコDIYにどう展開していくのか、考えてみました。
これまでおこなってきたワークショップでは、みんなでぼんやりとしたアイデアを出し合うレベルで終わっていましたが、具体的な事業計画をつくるところまで踏み込めるとよいなと思いました。「誰が、具体的に、どのようなリスクをとり、収益を得ていくのか」。そのためには、具体的な事例、土俵が必要になってきますし、「課題を解決したい」というリアルなニーズと密接に結びついていかねばなりません。課題解決への切実な思いをもった人(個人かもしれないし法人かもしれません)の「物語」を見つめながら、参加者で物語を共有して、みんなの新しい物語を地域につくる、そんなマインドから設計していくこと。
今年は「森ノオウチ」のエコDIYを着実に進めていきます。そして、来年以降は、エコDIYのコンセプトをエリアリノベーションにつなげていく、「世の中のあらゆる要素にエコを加えていく」ことを、地域で志を共有していく人たちと一緒に描いていけたらいいなと思っています。
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