「おはようございます!」
カラフルな園バスから降りてくる子どもたちの元気な声が響き渡る柿の実幼稚園の朝。それに応える園長先生は、園児ひとり一人と目を合わせしっかりと握手し、1日がスタートします。
柿の実幼稚園は川崎市麻生区にある幼稚園。年少、年中、年長クラスに加えて、満3歳児クラスや週2回通園のプレクラスに通う園児も含めると、園児の数は1000人を軽く超えます。当然、教職員の数も多く、常勤・非常勤・補助の先生をあわせると170名以上! 日本一のマンモス幼稚園と言われる所以です。
私と柿の実幼稚園との出会いは、6年ほど前。長男が2歳の頃、お友達と一緒に見学に行きました。1000人の園児? 園の中に山がある? 我が子は毎日、無事に行って帰ってくることができるのだろうか。先生たちも子どもたちのことなんて覚えられないんじゃないか? と不安だらけの私は、どちらかというと入園に消極的でした。
しかしその思いは門を入って一変しました。
出会う子どもが皆、ニコニコ笑顔。先生たちもひとり一人丁寧に接し、スキンシップを欠かさない。挨拶もしっかりしてくれます。
あれ? 想像していたのと違うかも???。
当然、遊びたい盛りの我が子にとっては、まるで楽園。広い園庭を走り回り、あっちに行けばジャングルジム、こっちに行けばどろんこ工場。畑の脇を通って山に登れば、またまた園舎とローラーすべり台。毎日こんなところで過ごせたら、どれだけたくさんの思い出をつくることができるだろう。そう思い、週2回のプレクラスに入園し、以来、現在に至るまで私の2人の子どもたちは柿の実幼稚園で過ごしています。
柿の実幼稚園では、とかく園児数や施設、行事等の規模の「マンモスさ」ばかりが注目されていますが、入園して感じたことは、そこが柿の実幼稚園の肝ではないということ。たしかに年間行事は華やかです。入園式からはじまり、年2回の遠足、夕涼み会(最後には打ち上げ花火が見られます!)、運動会、発表会、作品展だけでなく、畑に植えたジャガイモを収穫し年長さんが園児全員にカレーを作り振る舞うカレー弁当や、園内での親子キャンプ、クリスマス会やおもちつき、どんど焼きといった季節の行事が行われます。その合間を縫うようにクラスごとに収穫したサツマイモや大根を使った食育や、陶芸、山遊び、運動遊びなども行われます。さらに年長さんはクラスの輪や協力しあうことの大切さを学ぶため、ドッヂボール大会や縄跳び大会もあり、卒園式まで怒濤のイベントラッシュです。
自然いっぱいの環境のなか、たくさんのお友達や先生と、数々の経験を積む中で大切にしていること、それは「あたたかさ」であると園長の小島澄人先生は語ります。その「あたたかさ」が現れているところが園内には数々あります。園長先生によるペットボトルのふたをつかった「壁画」もそのひとつ。
「誰かのために汗をかく、ということは誰かのために気持ちを向けるということ。だから手づくりを大切にしています。朝、子どもたちがいないうちに壁画づくりに取り組むことで子どもに思いを向け、昼間は私の取り組む姿勢や背中を教職員に見せてその思いを伝えたい、と思っています」
約30年前、新しく落成した園舎のコンクリート壁が味気ないと感じた園長先生は、工事現場からもらったタイルとペットボトルの蓋を活用してずっと壁画を描き続けています。
「たとえばローラーすべり台のように自分でつくれないものはお金をかけてつくりますが、手づくりでできるものは自分でつくっています。姉妹園である『夢の森幼稚園』は山の開拓からスタートし、父母も一緒になってつくりあげました」
柿の実幼稚園が「マンモス」と言われながらも、アットホームであたたかい雰囲気に包まれているのは、こうした園長先生の教育方針が現れているからなのでしょう。そんな園長先生の「みんなちがって みんないい」というメッセージも柿の実らしさを感じる言葉です。
「受け入れられる経験があるからこそ、受け入れることができるのです」
「知・徳・体・聖」の調和を目指す「全人教育」をモットーとする柿の実幼稚園では、自然に子ども同士が支えあう関係を築いています。
先生たちは子どもたちとのスキンシップを欠かさず信頼関係を築いているので、子どもたちは安心して自然の中を走り回ることができます。こういった経験はきっとこの先、大きな人生の礎となることでしょう。
とかく柿の実幼稚園の子どもは、「元気がよい!」と評判ですが、特に年長の1年間では、小学校に入学してから求められる協調性、集団行動について先生とともに学び、経験していきます。運動会のリレーは、どんなハンディキャップをもっていても、クラスのみんなでバトンをつなぎます。
入園したての年少では、ゴールで待つ先生に「むぎゅう」と抱きしめてもらおうと、ニコニコでかけっこをしていた子が、年長ではクラスのため、お友達のために真剣に走り抜けていくのです。その成長ぶりに、姿を見守る保護者は涙なしではいられません。
園長先生が「あたたかさ」を育む環境として「自然」「先生との関係」のほか、もうひとつ大切にしているのが「家庭」です。柿の実幼稚園は週2回、お弁当を持って行きます(数年前までは毎日お弁当でした)。保護者はそのほかできる範囲で園の行事のお手伝いにも参加します。また年に1度のフリーマーケットを開催するほか、役員が開催する講演会や講習会等のイベント、そしてコーラスやオーケストラ、バレーボール等のサークル活動もあります。これらの活動は保護者自身が楽しむだけでなく、子どもたちと共有することのできる貴重な経験となります。まさに子育てを通し、保護者が育てられているのです。
今回、改めて園長先生のお話をうかがい、豊かな自然と、先生たちのあたたかいまなざしが、柿の実幼稚園の子どもたちの元気な声をはぐくんでいるのだと感じさせられました。
《人生に必要な知恵は、すべて幼稚園の砂場で学んだ。_ロバート・フルガム》
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