(text&photo:ながたに睦子)
今年のこどもみらいフェスティバルで上映される『みんなの学校』。大阪市住吉区にある公立小学校「大空小学校」の2012年4月から2013年の4月までの一年間を追ったドキュメンタリー映画です。この映画を観た友人たちから「すごく良い映画、ぜひ見て欲しい!」とおすすめの声をたくさん聞いていて、とても気になっていた私。先日、こどもみらいフェスの上映に先駆けて、都内でおこなわれた上映会に出かけました。
『みんなの学校』の冒頭は、学校に関わるすべての人達が集まる「全校道徳の学習」で、木村泰子校長先生が体育館に集まった全校生徒に問いかけるシーンから始まります。
木村先生「大空小学校は誰が作る学校ですか?」
生徒たち「一人ひとりです」「自分です」
木村先生「自分って誰ですか? 自分だと思う人、手をあげて下さい」
生徒たちの手が次々挙がります。先生は続けます。
「大空小学校はみんなが作る学校です。今手を上げた人たち、一人ひとりが作る学校です」
全校生徒約220人(2012年度)の大空小学校には、特別な支援を必要とする生徒の数が30人を超えています。その中には、教室をすぐに飛び出してしまう子、友達につい暴力を振るってしまう子、自分の気持ちをうまくコントロールできない子など、さまざまな個性を持った子がいますが、「特別支援学級」は存在せず、みなが同じ教室で学びます。
大空小学校には、たったひとつの約束があります。それは「自分がされていやなことは人にしない、言わない」というもの。これを破った子どもは、校長室へやってきて、校長先生と一緒に「やり直し」をします。ちゃんと「やり直し」ができた子どもは、笑顔でまた友達と遊ぶようになり、その姿を嬉しそうに見つめる先生たちの姿があります。
「セイちゃん」は、4年生のときに大空小学校に転校してきました。以前に通っていた小学校の特別支援学級では、校内で2時間ほど過ごすのが限界だったそうです。お母さんの「少しでも長く通える学校に行かせたい」との思いで、大空小の仲間になりました。転校直後は「大空を引退します!」というのが口癖で、隙を見ては学校を抜けだそうとしますが、その度に、教職員や、地域の大人、クラスの友達が、セイちゃんを迎えに行きます。そしてセイちゃんがクラスに戻るのを、そばでじっと見守りながら、根気よく待っています。
ある日、教室を飛び出したセイちゃんを迎えに来た友達に、セイちゃんは心ない言葉をぶつけてしまいます。そこで先生は「セイはもっと友達を信用せなアカンで」と声をかけます。
セイちゃんにとって、前の学校は「敵」だった、安心できる場所ではなかったと、木村先生は言います。けれども大空小では、みんながセイちゃんを見守っています。だんだんと友達と積極的に関わるようになったセイちゃん。やがて大空小はセイちゃんにとって安心できる場所となり、彼の顔に笑顔が増えていきます。
「上履きが黒く汚れていたり、筆箱の鉛筆がすり減っていたりするのを見るだけで嬉しいんです」と、以前の学校では見られなかったセイちゃんの変化に、嬉し涙を浮かべながら話す、セイちゃんのお母さんの姿もまた印象的でした。
「カズキ」は、「あの子が大空小に行くなら大空はやめておこう」と近所で噂のたつ子でした。「じゃあ、そんな子は、どこに行ったらええのん?」と木村先生は言います。両親は朝早くから働き、生活も不規則になり、たびたび学校を遅刻するカズキの6年間を、教職員や地域サポーターたちは、細やかに見守ってきました。カズキが学校に来ていなかったら、家まで迎えに行きドアを叩いて起こし、学用品が揃っていなかったら、親に電話をかけて、「学校に必要なものだけはちゃんと揃えてあげて」と言葉をかけます。
ある日カズキが、地域ボランティアの男性を蹴飛ばしてしまいます。なかなか素直な態度がとれないカズキですが、先生たちに諭されて、謝りに行きます。後日、その男性から学校に電話がありました。謝るカズキの手をとった男性に、カズキはそっと、修学旅行のおみやげを握らせたそうです。その話を聞いた木村先生は「もう!わかりにくいやっちゃな!」と言いながら、嬉しそうに涙ぐみます。
そんなカズキの、迎えた卒業式。「今まで見守ってくれてありがとうございました」と、先生や地域のサポーターに、自分の言葉でしっかりと感謝の気持ちを伝えられたカズキの表情には、確かな変化がありました。なかなか自分の気持ちを伝えられなかった複雑な表情から、優しそうな目にーー。
映画の中には、先生たちが試行錯誤し、悩む姿もたくさん出てきます。その中には、指導に失敗して校長先生から厳しく叱られる場面もあります。そんな先生たちのありのままの姿に、カメラは肉迫します。
大空小の先生たちは「クラス担任」という枠組みを越えて、子どもたちと関わります。決して一人だけで問題を解決しようとせず、困ったことがあったとき、失敗したなあと思ったとき、行き詰まったとき、素直に周りの先生たちに伝え、そしてみんなで解決策を考えます。「困ったら言葉にする」、それが大切だと、木村先生は言います。
この日の上映会の後には、木村先生の講演会が開かれました。木村先生は現在の大空小の話や、卒業した生徒たちのその後の話などしてくださり、2時間半という時間はあっという間でした。
講演会の中で、木村先生は、「大空小学校を映画にすることに、最初は教職員はみんな反対だった。職員たちが毎日試行錯誤しながら取り組んでいる姿を、お金を払って見に来てもらうのには抵抗があった」と話してくれました。
ですが、映画が出来たあとに、カズキが映画を観る機会があり、映画を観終わったカズキは、しばらくじーっと動かないまま、ぽつりと「俺って、大空で大事にされてたんやなあ……」と言ったそうです。それを聞いた木村先生は、「ああ、この映画を作って良かったなあ」と、本当に心から思ったそうです。そんなエピソードを聞き、また私は涙があふれてきました。
また、木村先生が話してくれたこんな話も印象的でした。
「大空小を見学や視察に来てくれた、教育関係者の方たちからは『すばらしい取り組みだけれど、自分の学校ではちょっと無理だなあ……』ということを言われることもあります。でもね、無理なんてことはないと思います。それがその学校に必要だと思ったら、絶対に出来ると思うんです!」
そんな『みんなの学校』の上映会が、こどもみらいフェスの企画の一つとして、6月17日(金)に、都筑公会堂で行われます。上映後には、森ノオトでも以前にインタビューした「りんごの木こどもクラブ」の柴田愛子先生との意見交換会「talk with 柴田愛子」も行われます。
『みんなの学校』では、映画全編を通して、子どもたち、教職員たち、保護者たちが、学び、悩み、笑い、泣き、成長していく姿が映されています。そして、この映画を通じて、学校という場だけではなく、自分の子どもを含めた、たくさんの子どもたちとの関わりあいを学ぶヒントがたくさんあふれています。
この作品は、小学生のお子さんを持つ方や、教育関係者の方だけでなく、すべての人に観て欲しい映画だと思いました。ぜひスクリーンで、木村先生、セイちゃん、カズキ、大空小のみんなに会いに来てください。そしてこの上映会をきっかけに、観た人一人ひとりの小さな心がけから、学校が、地域が、社会が、少しずつ変わっていけるといいなと思いました。
こどもみらいフェスティバル「みんなの学校上映会」
http://www.kmfes.com/eventinfo2.html#event03
◆6/17(金) 1部 10:30- / 2部 18:30-
■映画「みんなの学校」
料金:前売800円 当日1,000円
※小学生以下無料同伴可(お席はございません)
みんなの学校
今後の近郊での上映会
2016年6月17日(金)
神奈川県横浜市都筑区
都筑公会堂(こどもみらいフェス)
2016年6月26日(日)
神奈川県横浜市西区
西区公会堂
2016年7月17日(日)
神奈川県鎌倉市
鎌倉市福祉センター
2016年8月4日(木)
神奈川県川崎市
川崎市高津市民館(りんごの木夏季セミナーにて)
上映後、意見交換会「talk with 柴田愛子」を行います。
会場:都筑公会堂(横浜市都筑区茅ヶ崎中央32-1 都筑区総合庁舎内)
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