<行っちゃえ!子どもとポートランド>
「未就学・未就園児の子ども連れ」にとって旅は難関。近所に買い物に行くのでさえ、「歩きたい」「歩きたくない」「トイレ」「おなかすいた」と大騒動なのに、海外旅行なんてとても無理とあきらめている人も多いと思います。私も、「ポートランドは憧れのまちだけど、子どもが小さいうちに行くのは難しいだろうな」と思っていました。
しかし、今回この旅の企画を考えてくれたのは、ポートランドに住むユリ・バクスターニールさんと東京に住む佐藤有美さんという2人の母親。2人が「ポートランドでの子どもとの暮らし」を感じてほしいと計画してくれたプランは「これなら子連れでも行ける」と確信できるプログラムばかりでした。
「多様性を認めるポートランド」では、「“子ども”も“子連れ”も多様性のひとつ」なのか。日本では何かと肩身の狭い思いをすることの多い子ども連れが、社会の一員として認められているとしたら、ポートランドはどんな町なのだろう。
期待に胸を膨らませ、子どもとの海外旅の決行を決めたのです。
なお、今回参加した旅の概要や参考にした書籍は、北原まどかさんの記事をご覧下さい。この記事は「暮らし編」として、一人の市民として、女性として、母親として、現地で、肌で感じたことを伝えてみたいと思います。
ただ、ポートランドに行ったって、普段はベビーカーに慣れている子どもが急に歩くわけでもなく、素直になるわけでもありません。突然の雨、寒さ、昼寝、水遊びへの対応。疲れたりぐずったりするとだっこし、「おしっこ!もれちゃう」と言われたら、たとえ知らないまちなかであろうと、バスに乗っていようとなんとかトイレを見つけるために走らなくてはならないのは同じ。
1歳女児と3歳男児のこども連れは、だっこ紐とバギーでなんとか移動し、プログラムの説明も十分に聞けないことも多かったのも確かです。でも、ポートランドが長年かけてデザインしてきた広くて歩きやすい道と、公園などを取り込んだまち歩きや農園でのアウトドアレクチャーなど、子どもも親も生き生きできるツアープログラム、そして、同行の仲間たち(特に山川紋さん!)に助けられて毎日を過ごしました。
私にとって、まだ排泄をうまくコントロールできない3歳児のトイレは外出先で気になることの一つでした。ダウンタウンには公衆トイレが少ないとのことでしたが、ポートランドはまちづくりの約束で1階はガラス張りのお店が多く、お店を利用しない立場でも「トイレを貸してほしい」と尋ねやすい雰囲気。ほとんどのお店が快くトイレの鍵を貸してくれて、利用することができました。
多くの場合、一般的な個室でもとても広くベビーカーでもゆうゆう入ることができ、まだ手助けが必要な3歳児のトイレ利用にはとても助かりました。
<暮らすようにポートランドに滞在する>
Airbnbという宿泊システムで、民家の2階を貸しきって滞在できたのは、子ども連れ旅にとって有効でした。住宅街にありとても静か、公園も近く、スーパーで買い出しをし、朝と晩はキッチンで調理、服を洗濯して庭で干すなど、日常と変わらないスタイルで旅ができたことはとてもよかったです。
宿の近くにも二つ公園がありました。ドッグランや野球場、芝生広場と遊具のある場所のある公園でした。
<価値を伝えるスーパーマーケット>
ポートランド到着初日、おむつの買い出しのために訪れたスーパーマーケットには衝撃を受けました。オーガニック商品が並び、米やシリアル、コーヒー、シャンプーなどが量り売りされている店内。ナイロンバッグの提供は基本的にはありません。利用者のほとんどがエコバッグ持参。おめあてのおむつ売り場にはたくさんのおむつが並び、「赤ちゃんと地球に優しい」の宣伝文句。パッケージから出した紙おむつは白くありません。漂白剤を使わっていないのでした。なんとなく、洗剤やおむつなどの日用品は日本製の方が繊細で、アメリカのスーパーには大振りな製品が並んでいるのでは、という想像をしていた私はショックを受けました。野菜や果物、食品加工物はもちろん、生活用品にまでオーガニックが根付いているということに気がつきました。
このとき利用したのはWhole Foods Market(ホールフーズマーケット)という有名な全米チェーンの自然派食品のスーパーマーケットだったのですが、ポートランドにはもっと地元に根ざしたPeople’s Food Coop(ピープルズ・フード・コープ)やNEW SEASONS MARKET(ニューシーズンズ・マーケット)というお店があります。
ポートランド発祥のニューシーズンズマーケットは、「店の周辺の農家や食品店とコンタクトを取り、起業講座など必要に応じてスタートアップのサポートを行う」、「地元住民を雇用し、従業員を大切にする」などを企業理念に掲げ、地元志向・地産地消を広めることをミッションとした店。利用客に旬を伝えることを使命とし、商品配置にも気を配っています。ローカル商品はタグに明示し、その商品が「サスティナブル(環境に配慮し、持続可能性が高い)かどうか」も色分けで表して、店のおすすめ度を表示しています。
希望者には店内ツアーを設けて店の特徴についてレクチャーしてくれるのだそうです。私たちはツアーに参加できなかったのですが、ユリさんからかわりに教えてもらいました。興味深かったのは「コーラを店に置いている」というお話でした。「コーラ」はジャンクフードの代名詞で、決して地産地消ではなく、ナチュラルな商品とは言えないけれど、ニューシーズンズで販売されています。そのことで批判を受けることもあるそうです。しかし、もし店にコーラを置かないなら、コーラを買いたいお客さんはこの店を利用しなくなります。コーラを飲む人の人生をオーガニック志向に変えるには、どうすればよいのか。コーラを排除することがよい選択なのではない。排他的になっても何も生み出さない。「オーガニックで地産地消商品のみを取り扱っている」と謳うのは店のエゴであり、本当に地域のためになるのはどういう選択なのかを判断基準としているのだそうです。
そのほか、たとえ子どもが店内で騒いでも店員さんたちが皆でサポートしてくれたり、商品はどれも店内で食べてOKという、日本からするとびっくりのルールも。お客さんを信頼しているんですね。
お惣菜売り場では、見た目も栄養も良さそうなお惣菜を売っていて、こんなお店が日本にあったら、食事づくりに追われる子育ても気が楽だろうな、と思いました。
なお、都市成長境界線を設け居住区域を制限することで、農地と宅地の近さを実現しているポートランドでは、Farm to table(農場から食卓まで)の考え方が浸透しており、コミュニティのあり方として近隣生産者を応援すべく、自宅近くの農家とマッチングをしてくれる取り組みなども盛ん。近隣農家との契約に至らなくても、毎週開かれるファーマーズマーケットに行けば、旬の食材を直接販売する生産者と出会え、新鮮で安心な農産物を購入することができます。
PDC(ポートランド開発局)に勤める山崎満広さんの本『ポートランド - 世界で一番住みたい街をつくる」によると、ポートランダーは「ライフスタイル重視の人が圧倒的に多く」、「自然を愛し、多少不便であっても環境に優しいサスティナブルな生活をするためならと、車に乗らず、なるべく歩き、自転車やバス・電車を使う。家は自分で手直しし、買い物は少し値が張ってもなるべく地元で穫れた野菜や果物、そして地域の企業がつくった製品を買う」と書かれています。
少し値が張っても、地元を自分のコミュニティと考え、持続可能な街に自分が住むために、地元のものを選びとるライフスタイル。大衆に流されず自分で「選択する」事の大切さ。その積み重ねがまちのあり方や市民のマインドに息づいているのだと感じさせられるポートランドの日常体験でした。
“ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる”
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