子連れも多様性の一つ?!ポートランドで過ごす「日常」体験 Field Trip in PDXレポート(2)
森ノオトリポーター3人で参加した「ポートランド・フィールド・トリップ」。住宅街の一軒家の2階を宿として借りて、洗濯に炊事、スーパーで買い物をし、まち歩きやおさんぽ、Village Building Convergence(村づくり集会)などのプログラムに出かけた毎日でした。8日間という短い間でしたが、暮らすように過ごしてみたポートランドでの日々をお伝えします。

<行っちゃえ!子どもとポートランド>

1歳の女児を連れたまどかさんと3歳男児を連れた船本。日付変更線を超える長時間の飛行機移動を隣り合わせの座席で助け合った

「未就学・未就園児の子ども連れ」にとって旅は難関。近所に買い物に行くのでさえ、「歩きたい」「歩きたくない」「トイレ」「おなかすいた」と大騒動なのに、海外旅行なんてとても無理とあきらめている人も多いと思います。私も、「ポートランドは憧れのまちだけど、子どもが小さいうちに行くのは難しいだろうな」と思っていました。

 

しかし、今回この旅の企画を考えてくれたのは、ポートランドに住むユリ・バクスターニールさんと東京に住む佐藤有美さんという2人の母親。2人が「ポートランドでの子どもとの暮らし」を感じてほしいと計画してくれたプランは「これなら子連れでも行ける」と確信できるプログラムばかりでした。

 

「多様性を認めるポートランド」では、「“子ども”も“子連れ”も多様性のひとつ」なのか。日本では何かと肩身の狭い思いをすることの多い子ども連れが、社会の一員として認められているとしたら、ポートランドはどんな町なのだろう。

 

期待に胸を膨らませ、子どもとの海外旅の決行を決めたのです。

 

なお、今回参加した旅の概要や参考にした書籍は、北原まどかさんの記事をご覧下さい。この記事は「暮らし編」として、一人の市民として、女性として、母親として、現地で、肌で感じたことを伝えてみたいと思います。

 

どこに移動するのも日本とほぼ同じこのスタイル。わが家の3歳児は、日中は1時間ほど昼寝し、21時までには眠ってしまうため、現地でユリさんに借りたベビーカーが移動ベッドがわりに役立った。

 

ただ、ポートランドに行ったって、普段はベビーカーに慣れている子どもが急に歩くわけでもなく、素直になるわけでもありません。突然の雨、寒さ、昼寝、水遊びへの対応。疲れたりぐずったりするとだっこし、「おしっこ!もれちゃう」と言われたら、たとえ知らないまちなかであろうと、バスに乗っていようとなんとかトイレを見つけるために走らなくてはならないのは同じ。

 

1歳女児と3歳男児のこども連れは、だっこ紐とバギーでなんとか移動し、プログラムの説明も十分に聞けないことも多かったのも確かです。でも、ポートランドが長年かけてデザインしてきた広くて歩きやすい道と、公園などを取り込んだまち歩きや農園でのアウトドアレクチャーなど、子どもも親も生き生きできるツアープログラム、そして、同行の仲間たち(特に山川紋さん!)に助けられて毎日を過ごしました。

 

「公園大好き!」。ポートランドでは、公園などのオープンスペースをまちづくりで重要視していて、市の面積の約12%が緑地や公園だ。2020年までにすべての市民が徒歩10分から15分以内で公園にアクセスできるよう準備が進められている

 

私にとって、まだ排泄をうまくコントロールできない3歳児のトイレは外出先で気になることの一つでした。ダウンタウンには公衆トイレが少ないとのことでしたが、ポートランドはまちづくりの約束で1階はガラス張りのお店が多く、お店を利用しない立場でも「トイレを貸してほしい」と尋ねやすい雰囲気。ほとんどのお店が快くトイレの鍵を貸してくれて、利用することができました。

 

多くの場合、一般的な個室でもとても広くベビーカーでもゆうゆう入ることができ、まだ手助けが必要な3歳児のトイレ利用にはとても助かりました。

 

 

 

<暮らすようにポートランドに滞在する>

ベッドルームが2部屋とキッチン、ダイニング、シャワールームなどがあり、タオルなど生活必需品も貸してもらえる。

 

Airbnbという宿泊システムで、民家の2階を貸しきって滞在できたのは、子ども連れ旅にとって有効でした。住宅街にありとても静か、公園も近く、スーパーで買い出しをし、朝と晩はキッチンで調理、服を洗濯して庭で干すなど、日常と変わらないスタイルで旅ができたことはとてもよかったです。

 

冷蔵庫・ガスレンジ・オーブン・食洗機・コーヒーメーカー・トースター・食器などがそろっている。パンや肉を焼いて、サラダとヨーグルト、新鮮な果物の食事。自炊は山川紋さんに頼りきりでした

 

宿の近くにも二つ公園がありました。ドッグランや野球場、芝生広場と遊具のある場所のある公園でした。

 

ポートランドの日の入りが遅く、夜20時を過ぎていてもこの明るさ。いつもは20時には寝てしまう3歳児もこの明るさには寝る気になれず、寝る前のおさんぽに出かけたことも。

 

住宅と車道の間の緑地にブランコなどの遊具や鳥の家、ツリーハウス、ぶどうやブルーベリーなどの農園、また、庭先にマイクロライブラリーを設置しているお宅などもあって、おさんぽ途中にも遊具でちょっと遊ばせてもらったり、マイクロライブラリーから絵本を借りたりして、「おうちライフ」を楽しんだ

 

 

住宅の前に設置されたマイクロライブラリー。読みたい本を持って行き、読んだ本を置いてよいシステム。寝る前の読み聞かせの絵本をここで借りた

 

今回利用はしなかったが、ミシシッピ通りという小洒落たショッピングストリートに、天井の高い空間に時短で省エネな最新鋭の洗濯機が並ぶコインランドリーを発見。食事をしたりコーヒーを飲んだりできるカフェバーが併設し、Wifiも飛んでいて仕事をすることもできるコミュニティ型ランドリー

 

 

 

<価値を伝えるスーパーマーケット>

 

到着初日に訪れたスーパーマーケット。山川さんが手にしているのは量り売りのボディソープ。陳列された大きいボトルから、その場で小さな容器に詰め替えて購入する

 

ポートランド到着初日、おむつの買い出しのために訪れたスーパーマーケットには衝撃を受けました。オーガニック商品が並び、米やシリアル、コーヒー、シャンプーなどが量り売りされている店内。ナイロンバッグの提供は基本的にはありません。利用者のほとんどがエコバッグ持参。おめあてのおむつ売り場にはたくさんのおむつが並び、「赤ちゃんと地球に優しい」の宣伝文句。パッケージから出した紙おむつは白くありません。漂白剤を使わっていないのでした。なんとなく、洗剤やおむつなどの日用品は日本製の方が繊細で、アメリカのスーパーには大振りな製品が並んでいるのでは、という想像をしていた私はショックを受けました。野菜や果物、食品加工物はもちろん、生活用品にまでオーガニックが根付いているということに気がつきました。

 

20枚-30枚入りでこの値段なので、日本より少し高価

 

このとき利用したのはWhole Foods Market(ホールフーズマーケット)という有名な全米チェーンの自然派食品のスーパーマーケットだったのですが、ポートランドにはもっと地元に根ざしたPeople’s Food Coop(ピープルズ・フード・コープ)やNEW SEASONS MARKET(ニューシーズンズ・マーケット)というお店があります。

 

ニューシーズンズマーケットにて。コスメや生活用品にオーガニック商品が充実していて、おもわず足がとまる

 

ポートランド発祥のニューシーズンズマーケットは、「店の周辺の農家や食品店とコンタクトを取り、起業講座など必要に応じてスタートアップのサポートを行う」、「地元住民を雇用し、従業員を大切にする」などを企業理念に掲げ、地元志向・地産地消を広めることをミッションとした店。利用客に旬を伝えることを使命とし、商品配置にも気を配っています。ローカル商品はタグに明示し、その商品が「サスティナブル(環境に配慮し、持続可能性が高い)かどうか」も色分けで表して、店のおすすめ度を表示しています。

 

「旬を伝えるのも使命」。3週間しか店頭に並ばない旬のものを扱うメインコーナー。このときはイチゴでした

 

希望者には店内ツアーを設けて店の特徴についてレクチャーしてくれるのだそうです。私たちはツアーに参加できなかったのですが、ユリさんからかわりに教えてもらいました。興味深かったのは「コーラを店に置いている」というお話でした。「コーラ」はジャンクフードの代名詞で、決して地産地消ではなく、ナチュラルな商品とは言えないけれど、ニューシーズンズで販売されています。そのことで批判を受けることもあるそうです。しかし、もし店にコーラを置かないなら、コーラを買いたいお客さんはこの店を利用しなくなります。コーラを飲む人の人生をオーガニック志向に変えるには、どうすればよいのか。コーラを排除することがよい選択なのではない。排他的になっても何も生み出さない。「オーガニックで地産地消商品のみを取り扱っている」と謳うのは店のエゴであり、本当に地域のためになるのはどういう選択なのかを判断基準としているのだそうです。

 

滞在中に様々なスーパーに行ってみて、食材や生活用品を購入。生活する上で、人は店から情報をとっていること、食は暮らしを支えていることを実感

 

そのほか、たとえ子どもが店内で騒いでも店員さんたちが皆でサポートしてくれたり、商品はどれも店内で食べてOKという、日本からするとびっくりのルールも。お客さんを信頼しているんですね。

 

お惣菜売り場では、見た目も栄養も良さそうなお惣菜を売っていて、こんなお店が日本にあったら、食事づくりに追われる子育ても気が楽だろうな、と思いました。

 

具材を指差し注文したら、その場で調理してくれる。店内にイートインコーナーがある

 

なお、都市成長境界線を設け居住区域を制限することで、農地と宅地の近さを実現しているポートランドでは、Farm to table(農場から食卓まで)の考え方が浸透しており、コミュニティのあり方として近隣生産者を応援すべく、自宅近くの農家とマッチングをしてくれる取り組みなども盛ん。近隣農家との契約に至らなくても、毎週開かれるファーマーズマーケットに行けば、旬の食材を直接販売する生産者と出会え、新鮮で安心な農産物を購入することができます。

 

宿の近くのHOLLYWOOD FARMERS MARKETでは、この日、キッズデーだった。子ども向けコンサートやイラストコーナー、クイズラリーや子どもにはスモモ1個プレゼントなど、イベントも充実していた

 

ポートランドではコミュニティで蜂の家を持つなど、蜂と共存する暮らしがある。ファーマーズマーケットでは蜂蜜生産者が蜂蜜や蜜蝋キャンドルを販売。本物の蜂の姿に子どもたちは興味津々

 

PDC(ポートランド開発局)に勤める山崎満広さんの本『ポートランド - 世界で一番住みたい街をつくる」によると、ポートランダーは「ライフスタイル重視の人が圧倒的に多く」、「自然を愛し、多少不便であっても環境に優しいサスティナブルな生活をするためならと、車に乗らず、なるべく歩き、自転車やバス・電車を使う。家は自分で手直しし、買い物は少し値が張ってもなるべく地元で穫れた野菜や果物、そして地域の企業がつくった製品を買う」と書かれています。

 

少し値が張っても、地元を自分のコミュニティと考え、持続可能な街に自分が住むために、地元のものを選びとるライフスタイル。大衆に流されず自分で「選択する」事の大切さ。その積み重ねがまちのあり方や市民のマインドに息づいているのだと感じさせられるポートランドの日常体験でした。

 

“ポートランド 世界で一番住みたい街をつくる”

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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