ミシンの音に癒されて。多世代が交わるものづくりカフェ「いのちの木」
カタカタカタカタ……。ミシンの音が心地よく響くコミュニティカフェ「いのちの木」が、横浜市都筑区の市営地下鉄仲町台駅そばにあります。ここは、ものづくりを通して多世代の人がゆるやかに交わり、心がふっと軽くなる場所。おばあちゃんたちの手仕事による美しいニット商品にも出会える、ものづくりカフェを訪れました。

 

仲町台駅から、緑がまぶしい並木通りを歩くこと約2分。「The tree of life いのちの木」と書かれた手作りの木の看板が見えてきます。ヨーロッパの路地裏をイメージしたという店内は、温かみのある木製の家具が並び、ほのかな珈琲の香りが漂います。

 

並木通り沿いにあるいのちの木。美しく舗装された遊歩道の先には公園が

「こんにちは」。一人、また一人とカフェの扉を開いてやって来ます。この日は、隔週木曜に開かれている編み物サークルの日。夏物の帽子やコースター、かぎ針編みのニット……。それぞれが編みかけの作品を手に一つのテーブルを囲みます。メンバーは住まいも年齢もばらばら。そして、ここを訪れたきっかけもさまざまです。

 

円形のコースターを編んでいる子育て世代の女性がぽつり。「ふちがどうしても反ってしまうんですよね」

 

「丸いとどうしてもつっぱるから、目を少し増やすといいのよ」。隣に座る70代の女性が、優しくアドバイスします。

 

一つのテーブルを囲み、世代を超えて編み物でつながる。世代が違っても、自然と話が合うという

編み物サークルには、40代から80代までの多世代の女性たちが集まってきます。この雰囲気を気に入り、区外から通い続ける女性もいて、金城昌子さん(80)はその一人。一人暮らしの金城さんは、70代で体調を崩し、1年前にここを訪れるまでは、自宅にこもりがちの日々を過ごしていたそうです。新聞記事でいのちの木を知った妹さんが、金城さんを連れ出してくれました。

 

「みなさんとお話をするのが楽しくて。ここに来て、元気になれたの。今はとっても充実しています」。居場所を見つけた金城さんの表情は生き生きとしています。編み物の専門学校に通い、ニットサロンの起業準備をしていたほど編み物が得意な金城さんは、若い世代からも頼りにされる存在です。

 

編みかけの金城さんの作品は、2種類の糸を組みあわせて編んだもの。「模様が素敵ね」と感嘆の声が上がる。「ここから何にしようかしら」と金城さんは悩ましげ

近くに住む小柴千鶴子さん(75)もまた、編み物歴約25年のベテランです。「見せ合いっこ聞き合いっこをして、家で一人でやるよりずっと楽しいの。お話ばかりで、編まずに終わることもあるのよ」。茶目っ気たっぷりな笑顔を見せます。編み物をしながらおしゃべりを楽しむ女性たちの表情は少女のようで、手を動かしながら子育てや家族のこと、会話がどんどん広がっていきます。

 

いのちの木がオープンしたのは、2012年8月。2011年の東日本大震災の折、近くの高齢者住宅で孤立した高齢者の存在を知ったことをきっかけに、NPO法人五つのパンが「ものづくり多世代交流カフェ」として設立しました。多世代が交わり、高齢者の技を若い世代に継承しようと、さまざまな取り組みをしてきました。

 

店内の一角はミシンコーナー。手芸用品があり、ワークショップの生地を選ぶことができる。店内にはハンドメイドの作品も飾られれている

2014年には、ハンドメイドバッグのブランド「Beyond the reef」(ビヨンドザリーフ)との出会いがあり、編み物サークルのメンバーが商品の編み手となりました。商品は女性誌などにも取り上げられ、若い女性の間で話題になっています。

 

そして昨年、いのちの木はオリジナルブランド「Dorcas(ドルカス)」の立ち上げに挑戦しました。資金集めには、インターネット上で活動の理念を伝え、協力を呼びかけるクラウドファンディングを活用しています。

 

最初に手がけたのは、編み模様が際立つシンプルなアームウォーマーとニットキャップ。ウールとアルパカの上質な毛糸で、一目一目丁寧に編まれた商品は、頰ずりしたくなるほど柔らかく、編み手のぬくもりがじかに伝わってきます。

 

ニットキャップは5,500円、アームウォーマーは4,500円。編み手の顔を思い浮かべると一層大切にしたくなる

これらは、カフェを訪れる若い女性たちのアイデアをベースに商品を企画し、金城さんが編み図を起こしました。サークルのメンバーが編み手となり、「私が編んだ帽子を若い人がかぶってくれて、とっても似合っていたの」と小柴さん。金城さんは、「何十年と働いてきた結果、自分の技術がこうして形にあらわれるのはうれしいこと。自分で作ったものを、人に着てもらうことは幸せ」と笑顔を見せてくれました。

 

夏物のアイテムは、マリンモチーフを手編みしたトートバッグ各4,000円。手作りで1点ずつサイズが違う

いのちの木の坂下絵理さんは「商品を買えるのは、このお店だけです。手編みの商品は一つひとつ表情が異なるので、手にとって選んでいただくことを大切にしていますし、編み手さんを紹介することもできますよ」と話します。ひとつの商品を介して、編み手と使い手が思いを交わす。そんな物語のある商品づくりが、Dorcasの魅力です。

 

いのちの木では、編み物サークルのほかに、ミシンのワークショップと本づくりの学校も開いています。私も坂下さんに教わり、ミシンのワークショップに参加しました。ワークショップは1対1。まず、どんな生地でどんなものを作りたいのか、丁寧に聞き出してくれます。生地を裁断するときのポイントや、ミシンでまっすぐ縫うためのコツなど、要所で的確なアドバイスをしてくれます。

 

柔らかな雰囲気の坂下さんがミシンを教えてくれる。今回は店内の材料を使ったが、持ち込むこともできる

坂下さんの優しい声かけに、ゆったりとした気持ちでものづくりを楽しむことができました。ミシンの後には、お茶タイム。丁寧にドリップされたコーヒーをいただきます。自宅で一人で作業をすると、時間に追われてなかなかこんなふうにリラックスした時間は過ごせません。

 

コーヒーは素材からこだわったHORIGUCHI COFFEから仕入れ、1杯ずつ丁寧にドリップ。お茶だけでもふらりと訪れたい

「ミシンやものづくりはツールでしかないんですよ」と坂下さん。その一言が印象的でした。いのちの木のコンセプトは、だれもがくつろげ、だれもがやすらげる、だれにとっても特別な、ミシンの音のするカフェ。たとえ自分で手を動かさなくても、ものづくりの様子を見るだけでも、心が落ち着くものです。ここは、みんなに扉を開いて待っていてくれています。

Information

いのちの木

住所:横浜市都筑区仲町台1-32-21 アルス仲町台せせらぎ公園壱番館102号室

TEL:045-945-2223

HP:https://www.five-breads.com/

営業時間:平日10:30-17:00(土日祝休み)

ミシンワークショップ:平日10:30-(予約制)、2時間3,000円(材料費別)

編み物サークル:隔週水曜13:00-16:00、隔週木曜11:00-14:00(お電話で日程をご確認ください)

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この記事を書いた人
梶田亜由美ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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