

<ポートランドまち歩き 移動編>

かつてはアメリカで一番汚い川と言われていたウィラメット川の河畔。高速道路が撤廃された跡は緑地や遊歩道、広場になっている。この日は移動遊園地がきていた
子連れ海外旅行では、現地での移動がスムーズに行くかどうかという点は最も気になるところです。ポートランドはアメリカが自動車社会に発展するまっただ中だった1970年代に「高速道路を撤廃し公園に」という運動がおこり、既存の高速道路を撤廃して公園にし、市街地の公共交通機関を充実させることに力を入れました。そんな歴史を持つまちだけあって、公共交通機関がとても使いやすくなっています。

かつて高速道路が走っていた場所は今は憩いの親水空間に。屋根付きの広場には子どもたちの遊び場にもってこいの噴水。日本の4月並みの気温だが、かまわず子どもは噴水に突入
街の中心を南北に流れるウィラメット川にかかる12本目の橋として去年9月にできたばかりのティリッカムコロッシングブリッジ。公共交通と徒歩と自転車のみが通行できる橋です。自家用車が橋をわたらないことで、街に排気ガスを持ち込まずCO2削減に一役買っています。車ユーザーは川の手前で駐車し、公共交通か自転車で街に入ることになります。ハードや仕組みを整備することで人の生活スタイルが変化するポートランド流まちづくりの一例です。

中央がライトレールと呼ばれる路面電車やバスの専用道路。人と自転車道路が両側に通っている。全長約520メートル。別名「人々の橋」
橋にはLED電飾がついており、色の変化でその日の川の温度・速度・深さなどを表します。「川の変化はいまの日常生活に必要なものではないかもしれないけれど、この電飾をみることで、私たちの生活が自然とともにあるということをいつも感じることができる」と、今回の旅のプログラムを一手に担い、住民目線でまち歩きのガイドをしてくれたユリ・バクスターニールさん。橋が、川(自然)の様子・変化を市民が目にするきっかけになっています。

橋の上にはゆっくり眺めを楽しむためのスペースも十分。暮らしを切り取るように体験してほしいという「ライフサンプリング」ツアーを企画してくれたユリさんが各所で様々な情報を解説してくれた

カッコいいデザインの路面電車。この写真は交差点でのものだが、ホームにあがると高低差がほとんどなく、ベビーカーでもスムーズに乗り降りできる
ポートランドは、歩きやすい街としてデザインされているのも子連れにはありがたいところです。一区画が正方形で一辺の長さが約61メートルととても短く、大人の足では徒歩1分で次の区画に到着します。そんな中にあってストリートカー(路面電車)は南北に瞬間移動できるみたいに便利。チケットは一枚買うと2時間半有効で何度乗り降りしてもよく、ストリートカー、ライトレール、バス共通。各拠点では乗り換えしやすいようにターミナルが設置されています。低床で座席の少ない広々タイプの車両が多くて、ベビーカーを持ち上げずに乗り込めるのでありがたい環境でした。

まち歩きで利用したストリートカー車内。保育園のおさんぽか、たくさんの園児を連れた先生たちが乗り込んできたときも違和感なく、その光景が日常なのだと感じた

座席のある車両とはわけられている。「荷物・自転車・ベビーカー」ユーザー用のスペース。自転車を持ち込む人や車いすユーザーの姿も頻繁に見かけた
宿が住宅街だったので、どこへ行くにもバスに乗りました。バスもストリートカーと同じく、乗り込み口に近い場所に十分に広いスペースがあり、ベビーカーでも乗れます。ただ、乗り込んだあとは安全のために子どもをベビーカーから座席に移動させるよう言われることもありましたが、ベビーカーをたたむようには言われませんでした。車いすユーザーも多く、乗り降りの際は自動で出てくるフラップ板を歩道に渡してくれるので、ベビーカーや車いすを持ち上げることなくそのまま乗り降りが可能です。

バスの中ですっかり寝てしまった息子をベビーカーに乗せながら降車。このフラップ板は運転席の操作一つで自動で開くもの。ベビーカーはもちろん車いすユーザーもこれで乗り降りしている
ポートランドは自転車の町でもあります。ダウンタウンのあちこちに無料で駐輪できるバーが設けられていました。ある場所ではなんとベビーカーがつないでありました。私は、日本で日頃利用する保育園でベビーカーを預かってもらえないため、よく仕事中に空のベビーカーを持ち歩いています。日本でもこうした公共ベビーカー置き場があればいいのにと思いました。

ベビーカーがとまっていたのはまちなかの保育施設の前。この施設は生後6週間から12歳までの子どもが対象で、就業時だけでなく誰でも利用ができるそう
<ポートランドまち歩き 子連れの定番 公園編>
子どもがいると公園は日常的に利用する場所ですよね。私は、ポートランド滞在中に8カ所の公園に行きました。ユリさん曰く、誰にでも住みやすい街を作るという方針のポートランドの市街地計画では、公園にも多くの選択肢を用意しているのだそう。まち歩きで教えていただいた近接する三つの公園は計画的に作られていました。場所は、レンガ造の倉庫街をリノベーションしている再開発地区として世界的な注目を集める「パール・ディストリクト」。子どもが水遊びを楽しめ、親を含む来訪者が自然と子どもを見守りながら居られる「ジャミソンスクエア」、植物も動物も住民だという考え方から生態系の保護と修復を目的とした水辺と湿地の公園「ターナースプリングパーク」、遊具やドッグランがあり、多目的に利用できる日本でもよく見るような一般的な公園「フィールドオブネイバーフッド」と、来訪者が自分好みの公園を選択でき、また、公園から公園へと歩くことを楽しめるようになっています。
ユリさん曰く、公園だけでなく、まちのいたるところに「交流を生み出す仕組み」を潜ませているのがポートランドまちづくりのポイントなのだそうです。

噴水施設の池の水は定期的に満ちたり、ひいたりを繰り返す。開園時間になると管理者が折りたたみの椅子をいくつか出してくれる。公園利用者はその椅子を自由に移動して過ごしてよい

「魚だ」「虫だ」と走り出す子どもたち。生態系保護を目的とした公園のため、飼っている犬や猫は入ることができない。雨水が循環するようになっている。地元バレエ団が公演をすることもあるそう

広い砂場とアスレチック遊具が設置されている遊具スペースは子どもの安全のため柵で囲われている
またポートランドのあちらこちらで見かけるフードカートも子連れのまち歩きには心強い味方。車を改造したキッチンカーでテイクアウト料理を提供してくれるフードカートはまとまってポッドと呼ばれる屋台村を構成していて、様々なジャンル・国の料理のフードを楽しむことができます。ポートランドでは、フードカートがあることが街に人を呼び街の価値を上げると認識されているのだそうです。フードカートから町への出店へとステップアップする事例もあることから、フードカート利用が起業家支援につながるという考え方もあるとか。レストランの利用を躊躇する子連れにとって、手軽においしいものがテイクアウトできるのはありがたいこと。しかも公園を始め、まちにはベンチや小さな緑地など、「街に居ること」を楽しむことのできる空間がいっぱいあり、テイクアウトフードを食べる場所に困ることはありません。

ダウンタウンの中心のフードカートが集まるポッド。複数のフードカートから様々な料理を食べ比べることができる

中華・メキシコ・ベトナム・インドと様々な国の料理を提供するフードカートがある

持ち運びしやすいようにラップサンドとフレンチフライのセットを購入。子どもと2人でも食べきれないほどのボリューム
また、市街中心部には「パイオニア・コートハウス・スクエア」という広場があります。
駐車場だった場所を皆が集うことのできる広場にしたいと、市民が5万枚のレンガ一枚一枚を寄付していったという、ポートランドのまちづくりを語る上ではずせない場所です。

円形空間の中心で年間およそ300件ものイベントが開かれるのだそう。階段状になっているので腰掛けて見ることができる

レンガ一枚一枚に刻まれているのは、この広場建設のために寄付をした人の名前。この公

パイオニアスクエアにあるバラのモニュメント(ポートランドはバラで有名)の片隅に虫の彫刻が。美しいだけでなく、虫がついているありのままのバラの姿を受け止めたいというポートランダーの心意気を感じる
<多様性を受け止め、歴史を刻むポートランド>

まちのあちらこちらで見かける水飲み場
まち歩きをしていていろんなところでみかけるこの水飲み場。いつでもだれでも水が飲めるそうです。Benson Bubblersといって、1912年に地元実業家のサイモンベンソンが寄付をして作られたのがはじまりです。
木材を切り出す労働者の街だったポートランドで、労働者が安全な飲み水を得られるように、そして、水を買えないと泣いていた女の子のために作られたそうです。
ポートランドは公共交通の便の良さや雨風がしのげる場所が多いということもあって、近年ホームレスの人口が増えているそうです。水は生活するにあたり最低限必要なもの。誰もが飲める水飲み場が町にあるということがホームレスの人の生活を下支えしている面もあるようです。
ユリさん曰く「全米で最も住みたい都市に選ばれるポートランドですが、いまもホームレスの人口が多かったり、黒人が少数派だったりと、万人にとっての夢の国というわけではありません。ホームレスの問題も早急に解決しなければならないことだと思います。でも、ホームレスにいなくなってほしいからといって、ただ柵を作って出て行ってもらうというのは根本的な解決方法ではないでしょう。誰もが住みやすい町とはどんな町なのか、社会課題に対して目を背けず、その解決に向けて、日々活動が行われています」
排除することでは何もうまれない。広い視野と他者を理解しようとする心、多世代、多文化、多様性を受け止めることで街が育っているのだということをこの水飲み場がまちのあちこちで語ってくれているようです。

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