実りの秋!寺家ふるさと村の「からんこ山」へ遊びに行こう!
寺家ふるさと村に、いつも子どもの元気な声が響いている山があります。ナザレ幼稚園の「からんこ山」です。お山には今の季節、絵本で見るようなきのこが生え、どんぐりや色づいた落ち葉が一面に落ちています。ナザレ幼稚園の瀬野哲裕園長先生にお話をうかがいに、秋晴れのある日、子どもたちがいるお山を訪ねて来ました。

 

「からんこ山」、声に出すとコロコロと転がりだすような愛らしい響きのお山の名前は、からんこ山ができた当時、ナザレ幼稚園の瀬野哲裕園長と親交のあつい鴨志田緑小学校の宮武民子校長が名付けたそうです。

 

園舎からバスで3分、園舎から幼稚園バスに乗ってくる子どもたち。バスから降りると、狭い山道で危なくないよう、自然と一列に並び、お山へ続く階段を登っていく。その足取りは元気いっぱい、跳ねるようだ

 

名前の由来は宮沢賢治の『雪わたり』という童話の中にありました。お話の中に出てくる四郎とかん子の「かん子」から響きをもらい、「かん子さんの行く山」から「からんこ山」になったそうです。『雪わたり』の始まりにこんな一節があります。

 

***

 

四郎とかん子とは小さな雪ぐつをはいてキックキックキック、野原に出ました。こんなおもしろい日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けないきびの畑の中でも、すすきでいっぱいだった野原の上でも、すきな方へどこまででも行けるのです。平らなとこはまるで一まいの板です。そしてそれがたくさんの小さな小さなかがみのようにキラキラキラキラ光るのです。

 

***『雪わたり』より

 

この童話にあるように、子どもにとって自然の中を行くことの高揚感、楽しさ、惹かれる気持ちをからんこ山で味わってもらいたいという願いが込められているそうです。

 

崖を駆け上がる子どもたち。滑りそうになると大声で「助けてくれー」、前を行く子は振り返り手を差し伸べる。そんなやりとりがあちこちで見られる

 

そして、もう一つ、このお話から名前をもらった大切な理由があるのだと瀬野先生は話してくれました。

 

「このお話でね、四郎とかん子は森の中の狐の学校に行くわけなのだけれど、そこではこう言っているのです。“狐の生徒はうそ云うな”、“狐の生徒はぬすまない”、“狐の生徒はそねまない”この三つのような、目には見えないけれども、生きるうえで大切なことが身についている子どもたちは、大人になってから自然や人の命を粗末にしたりしないでしょう?」

 

瀬野先生は続けます、「だけどね、こういう大事なことというのを子どもに伝えるにはどうしたらいいのでしょうね。子どもはね、言葉で教えられたことより、自分で見つけて覚えたことで“分かる”ことができます。山で子どもたちは駆け回りながら自然と「発見、実験、冒険」の体験をしていきます。そうして体で覚えたことは一生忘れないでしょうね。自然の中でこそ自然に養える生きる力があると思います」

 

木漏れ日の中、なにやらじっと地面を見ている二人。その姿に、静と動、どちらもお山の活動の中にはあるのだなあと気付かされた。ときにはブルーシートに寝転がり木々の間の空を眺めたり……

 

一歩踏み込めば、大人も子どももあっという間に自然と仲良くなれる山、そんなからんこ山は、いつでも一般の方々に開放されているそうです。

 

お山の先生である水谷航平先生に「いつ行ってもいいんですか? 」と改めて尋ねると、「いいんです、いつでも! ぜひふらりとお山に寄ってみてください」と笑顔で答えてくれました。

 

長くお山の先生だった中山康夫先生の退職後、この春からお山の先生となった水谷先生。ある日、お山の手入れをしながら、気配を感じ、ふと顔をあげると、なんとたぬきと目があったそう。挨拶に来てくれたのかな? (撮影:水谷航平先生)

 

この水谷先生が主になり企画しているのが、土曜日に行われている「家族で遊ぼう」の会。こちらの会も地域の方々を受け入れています。「家族で」という言葉に水谷先生は思いを託しています。

 

「子どもの育ちの礎は家庭、家族にあると思います。この会ではただ自然とふれあう場を提供するだけでなく、家族で自然の中で楽しむ時間を大切にしていただきたい、と思っています」

 

先生の言葉にある「家族で楽しむ」というシンプルなことが、この会では気負わず感じられます。からんこ山に行くと子どもの表情が輝きを増すのはもちろんのこと、大人たちも、大きな木々に囲まれて、木立を揺らすおおらかな風の音、草葉から聴こえてくる虫の音、そして子どもたちの元気な声に身を浸していると、なんとも肩の力が抜け、子どもよりも楽しそうだったりします。色々な育児への気負いや悩みもしばし忘れて、自然と戯れ、子どもたちの持って来たどんぐりや木の葉を手にしながら気持ちがほどけていきます。大人が本気で遊んでしまう姿を子どもたちに見せられる、そんな素敵な会です。

 

9月に行われた「家族で遊ぼう」。この日は流しそうめん。「地域の方々、子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、どなたでも自由に遊びに来てください」というのが幼稚園の思い。四季折々の企画が用意されている。予約なしで大丈夫なので、ふらりと参加してみてはいかがでしょう。秋にはサンマを炭火で焼こう会なども毎年行われます

 

現在、ナザレ幼稚園の年中と年長の我が家の子どもたち。やはりからんこ山が大好きです。園の活動でからんこ山へ行った日は、帰ってきてもう一度夕方「ママ、今日見つけたでっかいきのこを見せてあげる。先生に教えてもらった葉っぱの遊びを教えてあげるから!」とはりきります。子どもに手を引かれ、私も黄昏のからんこ山に時々行きます。草木や虫の話の他にも子どもたちは「からんこ山で天狗さんの声を聞いたんだよ」「天狗さんを見た友達もいるんだよ」と時に天狗さんのお話をします。その話をふと、幼稚園主任の野崎良子先生にするとこんなお話をしてくれました。

 

「ナザレ幼稚園では毎年、七五三をからんこ山でお祝いします。そのとき、天狗さんからお祝いのメッセージをもらいます。森の広場に集まっている子どもたちの右側や左側の木々の茂みにスピーカーを2、3台見えないように設置します。なので、右側から“おーい、みんな!”と呼びかけた天狗さんの声が聞こえた次の瞬間、“わっはっは! 七五三おめでとう!”と左側から聞こえてくる。右の森の中を見つめていた子どもたちは急いで声のする左をぐるっと向きますよね。そのとき、木々の間にふと天狗の姿が見えたように思う子どももいるのでしょう。天狗さんはとってもすばやく木々の間を飛び回ることができることを子どもたちはお話で知っているので」

 

子どもたちの想像力と先生方の工夫とが、お山に天狗さんがいることを信じる力を生み出していたことを知り、子どもたちが「天狗さんがお祝いにくれたんだよ」と千歳飴を嬉しそうに持ち帰ってきた日を改めて、感動をもって思い出しました。

 

瀬野先生は「天狗さんのような目には見えないけれど、お山にはきっといる、そんな存在というのは、自然と正しいことを教えてくれたり、きっと守ってくれたり、成長を喜んでくれたり、ときには相談に乗ってくれたり、いつまでも私たちの心に必要な拠り所になってくれると思っています」と話してくれました。

 

「家族で遊ぼう」はお山にある園舎やお山にブルーシートを敷いて工作をする企画もある。季節感のある工作が多く、お土産として持ち帰り、思い出と一緒にお部屋に飾れるのも魅力<撮影:米倉真由子(ナザレ幼稚園父母)>

 

『雪わたり』の最後、森の中のきつねの学校から、四郎とかん子が帰る場面が次のようにあります。

 

***

 

ふたりともおじぎをしてうちの方へ帰りました。きつねの生徒たちが追いかけてきてふたりのふところやかくしに、どんぐりだの青びかりの石だのを入れてきて、
「そら、あげますよ。」
「そら、取ってください。」なんていって、風のようににげ帰っていきます。

 

***『雪わたり』より

 

 

今まさに実りの季節を迎えているふるさと村。写真の右奥直売所「南」の左側の坂道を、窯元を左手に見ながら、ゆるゆると登っていくと、からんこ山の入り口にたどり着く

 

寺家ふるさと村の豊かな自然の中で、からんこ山は足を踏み込むとまた一段とほっこりとあたたかく包み込まれるように感じられ、高い木々の上から天狗さんが子どもたちをきっと見守ってくれているのだろうと思えてきます。

 

どうぞこれから過ごしやすく、散策に気持ちの良い季節、寺家ふるさと村の黄金に広がる田んぼを見ながら、からんこ山へ遊びに行ってみてください。帰りには子どもたちのポケットも、大人の心も、山の恵みでいっぱいになっていることでしょう。

Information

学校法人四恩学園 ナザレ幼稚園

http://shion-gakuen.ed.jp

電話:045-962-0050

ナザレ幼稚園「からんこ山」

住所:横浜市青葉区寺家町608

アクセス:東急田園都市線青葉台駅より鴨志田団地バス停下車、徒歩8分

「家族で遊ぼう」

開催日:月3回くらい土曜日。10月以降の予定は決まり次第、幼稚園HPに掲載されます。

問い合わせ:080-1128-8673(野崎)

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この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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