





青葉区にお住まいのライフオーガナイザー・田中由美子さんのお宅のドアを開けると、ご夫婦でセルフリノベーションをした白を基調とした美しい玄関と、由美子さんの笑顔が出迎えてくれました。自分たちで張ったパールのタイルに、学校にあったような懐かしいアンティークの下駄箱、たっぷりとしたガラスの花瓶に入った季節のお花、目に入るもの次々にときめいてしまいます。玄関はただの入口、出口ではなく、家族にとっても、お客さんにとっても、あり方によってはこんなにも心を落ち着けてくれる大事な場所なのだなということに気がつくことができます。

出かけるとき必要なカギ類やお迎えの名札、虫除けなどが入ったバックなど、そこにあると一番便利な場所に、置き場を作る。小さな工夫の一つひとつが暮らしを快適にしてくれる

お片づけ本や、ナチュラル系雑誌『リンネル』や電気掃除機のCMなどで由美子さんとこのお部屋を見かけた人もいるかもしれません。もともと片づけ下手だったという由美子さん。片づけができるようになって自分を前より好きになれたそう。そして今、片づけに悩むお母さんたちの力に少しでもなりたいとライフオーガナイザーとして活躍している
まずは森ノオトリポーターの中で一番多かったお悩み「子どもの片づけ」から質問してみました。お悩みの声は特に小学生のお母さんたち。
「片づけ下手な子どもなので、一緒に片づけているけれど、なかなか片づかなくてだんだんイライラしてしまう。この流れを変えたい」「子どもが自分で片づけられる仕組みや空間作り、教えて欲しい!」などなど……。

リビングと続きのお部屋。手が自分で届く棚の下2段までが息子さんのエリア。年中の息子さんでも自分でできる、ざっくり収納。右側のカーテンの中には、掃除機やお洗濯物ハンガーなど、リビングに置くという発想をしないものが収納されている。「毎日使うし、洗濯物はこの部屋からベランダで干すものだから、近くにあるのが一番楽、収納では固定概念を一回外して考えることがコツ」と由美子さん
「まずはお母さんが“何を目的として片づけさせたいか”を明確にすることです。子どもが日々をスムーズに過ごせるようにしたい、勉強しやすい空間にしたい、忘れ物をしないために、など、片づけの先にある目的をはっきりさせることです。その目的に合う環境を目指して、今の片づかない環境を見直してみる、その流れがオーガナイズです。
片づけを見直す過程で、問題点が見えてくると思います。例えば、ランドセルを机の横のフックに引っ掛けようね、としていても、毎度ランドセルが床に置きっ放しになっているとしたら、その子にとって〈机まで持って行き、フックにひかける〉という片づけ方法が難しいのかもしれない。それならば、その子が帰ってきてからの動線を考え、「ここに置こうね」で済むように、ぽんと置けるような場所を作ってあげる。それでもダメならまた別の方法を考える。
〈トライ&エラー〉を繰り返してその子にあった方法を見つければいいと思います。
整理、収納に正しい答えってないんです。片づけの方法は十人十色です。〈どうしたら私、もしくは子どもはそれを楽にスムーズにできるのか〉を考えることが片づく近道になりますよ」
と、由美子さん。つい漠然と「片づけて!」と言ってしまいがちな我が身を振り返りながら、片づけの先にある目的を見直してみようと早速、目から鱗が落ちる思いでした。

ベランダから取りこんだ洗濯物が仮置きできるよう、カゴが置いてある。取り込んだらここに入れておき、手の空いた人がたたみ、そのまま各自自分の引き出しへ運べるシステム。家族の誰にでもやってもらいやすい仕組みができている。
最近は片づけに関する本も数え切れないほど出ています。苦手なものは本に頼ってしまう私も、何冊も読みました。けれどいくつ読んだところでなかなか理想のお部屋に近づけないのです。次に預かったお悩みも情報で得た方法と実際のギャップがあるようです。
「片づけるときに、まずは分類して整理するのだと分かっていますが、分類の仕方がそもそもわからず、住所不定のものたちが多く先に進めません」というお悩みです。
多くのアドバイスで聞くようにやはり片づけの基本は「全部出して、分ける」だそうです。けれど、その前に「片づけは整理と収納だけのことを指すのではないですよ」という由美子さん。
「いきなり分類、整理を始めると、きっと物たちと一緒に迷子になってしまうと思います。まずは自分を知ること、家族を知ることから始まります。なにを大切に暮らしたいのか、どんな暮らしがしたいのか、その暮らしを叶える通過点に片づけがあります」と由美子さん。

由美子さんオススメの本。由美子さん自身も片づいたお部屋に憧れながら挫折も経験する中で、『利き脳片づけ術』(高原真由美著・小学館)という本でライフオーガナイズの思考に出会い、片づけ方に得意不得意はもともとあるのだと知り、心が軽くなったことをきっかけに、深く学び始めたそう
「こういう暮らしがしたいなあ」という理想を具体的に書き出したりしてみると良いそうです。そして、その軸を確認してから、分類を始めるとスムーズにいくそうです。私も今までまずは「いる」か「いらない」つまり「捨てない」か「捨てる」という二択で片付けようとして、だんだん息が詰まってくる思いをしていました。由美子さんからのアドバイスは次の通り。
「要/不要で迷ってしまう場合は、まず自分に響くキーワードで3、4つのカテゴリーを作って分けることをおすすめしています。分け方は、使う頻度や、そのものに対する感情、そのものの状態などから分けやすいキーワードを組み合わせて作ります。
例えば、増えていく子どものおもちゃを整理して片づけようとした場合、よくやってしまいますが、“これ、いる?”“いらない?”と分けてしまわず、その子にあった4分割を作ります。感情を大事にするお子さんだったら、<好きでよく使う(宝物)・お兄ちゃんぽい・赤ちゃんぽい・壊れている>で分けさせてあげてはいかがでしょう。そうすると、子どもは感覚で分けやすくなります。大切なモノを選び取るという作業から、残ったモノを自然と手放しやすくなると思います」
子どもあるあるで、要不要を聞いてから手放そうとすると、とりあえず全部「いる!」と言われてしまう……ということもなくなりますね。この作業、とても楽しそうですし、子どもの成長も見られそうです。

息子さんの整理ボックス、引き出してみると見えないところにシールがペタペタ!息子さんの「シールを貼りたい!(紙とかにではなく)」という熱い希望を由美子さんのインテリアへのセンスを保ちながらこっそり叶えてあげている裏技だ
もう一つ、大切なアドバイスが。それは、「子どもが分類しているとき親が口を出さないこと」(由美子さん)
子どもがせっかく自分で分類して分けても、「それおじいちゃんに買ってもらった大切なおもちゃだよね?まだ遊ぶんじゃないかな?」など、ついついお値段や、プレゼントしてくれた方のことが浮かぶと口を挟んでしまいがちです。でもそこはぐっとこらえて見守るべきところ。子ども自身の価値観を育ててあげることが大事だそうです。由美子さんの年中の息子さんは何度か分類を一緒にやっているうちに、いつしか声をかけなくても新しいおもちゃが入ってくると、自分で「これはもういらないよ」と一つおもちゃを減らすことができるようになったそうです。

見せない収納が理想だけれど、利き脳などから自分には見える収納が合っていると由美子さん。「お家をオーガナイズしたいと思っているけれど腰が重いという方はぜひ、キッチンのオーガナイズから始めてみてください。キッチンには元々キッチンで使うモノしかないですし、片づいた後、その良さを実感しやすいので、次の場所も頑張ろうと思えますよ」とのアドバイス!
最後の質問は「24時間体制の育児をしながらも、少しでも自分の時間を確保してリフレッシュできる方法があれば知りたい」という、多くのお母さんたちが共感してしまうものでした。

シンクの前にDIYで取り付けた棚。この棚、お料理などで使うものを置く棚ではなく、必須の家事である毎度のお皿洗いを気分良く楽しくするために、目に入る場所に好きなものを並べ、時にはタブレットを置いて録っておいたドラマなどを見ながら楽しく家事ができる
由美子さんは言います。
「やらないことを決めることだと思います。やらなければならないこと、やりたいことを全て書きだして優先順位をつけてみる。その中で思い切ってやめてもいいことはないか? もっと時短出来る方法はないか? 家族に手伝ってもらったり任せることはできないか? を見直してみてください。自分だけで全てをこなすのではなく、旦那さんや子どもの手が借りられる部分が見つかると思います。ここをお願い、と頼みたい部分を具体的に相手に伝え、シェアすることです。
時には文明の力に頼って、床の掃除や、食器洗いなどを、機械に任せてもいいのではないかと思っています。そして、自分がやりたいことができる時間〈プレシャスタイム〉を確保してほしいです。なにより自分がリラックスして笑顔で過ごせることを大切に、完璧を目指さず最初から諦める! ということも必要ではないでしょうか」

「好きなものしかお部屋に置いていないんです」と由美子さん。好きなものに囲まれた心地よい空間、子育て中だからと諦めず、きっと誰しも叶える方法があるのだと由美子さんと話をしていると思える
由美子さんの言葉に出てきた「プレシャスタイム」。お話を聞いて、今まではやらなければならない家事、育児の余った時間でこのプレシャスタイムを手に入れられたらなあと躍起になっていましたが、自分にとって大切にしたい時間を持つために暮らしをオーガナイズしてみよう! と、今までと真逆の思考回路ができたように思います。
最後に、記事の中でお伝えしきれませんでしたが、由美子さん、コテコテの関西弁で軽快に実にテンポ良く、ばんばんジョークをとばしながらお話してくれました。由美子さん自身が悩みから一歩踏み出し、こうして今すっきりと自分らしくいられる空間に立ち、同じように踏み出したいと思っている多くのママたちを精一杯応援しようとしてくれている心意気を感じる時間でした。


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