お腹も心も優しく満たされる、桂台のパン屋〈こんがりや〉
〈こんがりや〉の扉を開くときの気持ちは、お気に入りの絵本を開くときのそれに似ています。ふわっと包まれる香ばしい香りと間違いなくおいしいパンと、柔らかい店主の笑顔があることを知っているからでしょう。地元の人たちに愛される青葉区桂台のパン屋さん〈こんがりや〉を取材しました。

私が〈こんがりや〉を知ったのは2年くらい前、寺家ふるさと村にあるカフェGKサンタを訪れた時のことでした。サンドイッチのパンがふっくらしっとりおいしくて幸せな気持ちになりました。そのとき、GKサンタの店長さんが「うちは〈こんがりや〉というパン屋さんから仕入れています。どのパンも風味がとても豊かなんです! 桂台にあるんですよ」と紹介してくれました。

恭子さんが書くお店のブログは、子育てをしながら仕事をしている同世代の女性としてのふとした言葉や写真が優しく届く

 

その後、ママ友とお昼を持ち寄って食べたとき、かつて料理人をしていた友達が取り出したのは、絵本で見たような茶色のパンにハムやサラダがぎっしりの手作りサンドイッチ。見とれていると、その友達の口からも「これね、昨日〈こんがりや〉で雑穀の食パン買って、思わず朝、つくったの。シンプルで甘みがあるんだよ」と、再び〈こんがりや〉の名前を聞いたのでした。そのときの周りの友達の「あ、知ってる! こんがりや」「私はあそこのスコーンがくるみとレーズンがたっぷり入っていて、大好き」など次々と話し出す表情があまりにみな嬉しそうで、これはもう行ってみなければ! と強く思ったのでした。

こんがりや一押しのおやつパン。生地の中にお豆やお芋、オレンジなどが練りこまれて種類も豊富。「お子さんのおやつや、コーヒーのお供にぜひ、食事としてではなく気軽におやつとして食べてもらえたら嬉しいパンです」と恭子さん

 

友達から教わった「桂台のいなげやを正面に見て右方面、ファミリーマートの右隣」という言葉を頼りに、初めてこんがりやを訪ねました。そのとき感じたお店のナチュラルで心地よい雰囲気、ドライフルーツがぎっしりと入りもっちりとした食感の天然酵母パンなど、甘すぎず食感や風味を大切にしたパンが多く、以来すっかりファンになりました。

物静かで職人気質な智さん、「酵母やイーストは活きていているため天候や季節によって左右されますが、いかに毎日同じ味、同じ食感をお客さんに届けられるかということを大事にしています」と話してくれた。オニオンが入ったフランスパンは智さんが考えたものだそうで、スープやシチューと相性抜群

 

いつも柔らかな笑顔でお店の切り盛りしている女性と、奥の工房でパンを黙々とつくっている男性。ブログを見るとご夫婦でお店を切り盛りしている様子、控えめなお値段でありながら、これでもか! というくらいうまみがぎゅっと詰まったパンも、可愛らしい店内のあれこれも、お二人でどんな風にお店をやってこられたのかとっても気になってしまいます。

お店の一角にある焼き菓子のコーナーでも毎度立ち止まってしまう

 

こんがりやは村田智さん、恭子さんご夫婦で営んでいます。青葉区桂台にオープンして来年でちょうど10周年になります。

恭子さんは大学では社会心理学を学びました。就職活動の時期になり、自分の手で何か作り、人に届けることを仕事にしたと思い始めたそうです。友達と卒業旅行で行ったイスラエルでパンの魅力に出会ったことがその後の道に影響を与えます。イスラエルの旅行ではまだ学生ということもあり、レストランなどにはなかなか入れず、街角や駅で安価で気軽に買える地元のパンをよく食べました。そのパンはシンプルなものでしたが、塩気や甘みが印象的で、自分はパンが好きだなという気持ちを改めて意識させられたそうです。そして大学を卒業後、製菓製パンを専門学校で学びます。

寺家ふるさと村にあるカフェGKサンタでは、土日に店長がこんがりやから朝パンを仕入れて店先で販売している。GKサンタのテラス席でふるさと村を眺めながら店長が丁寧に入れてくれる温かい飲み物と一緒に食べるサンドイッチも最高

 

智さんは、元々は和食系のお店で料理人として働いていたそうです。働きながら習いに行ったお菓子の教室がきっかけで、「食べてくれる人の身近な楽しみでいられる」という理由からパン屋さんの道へと進みました。

お二人は同じパン屋さんで職人として出会ってから、いつか自分たちのお店を持ちたいという夢を持ちました。修行を兼ねて働きながら、コツコツと準備を続け、やがて結婚して赤ちゃんを授かり、恭子さんは一旦専業主婦として子育てに専念しました。お子さんが4歳になったとき、ついにお二人が「ここなら!」と思える今の桂台のお店となる物件に出会ったそうです。

口に入れるとふわっと消えるくらい軽くてしっとりとしたシフォンケーキは種類がたくさん! お値段もお手頃で、お友達のお家へ行く時は色々な種類を買って、みんなでわいわい選ぶのが楽しい

オープン当時から2年前までの約7年間は、クロワッサンやサンドイッチ、お惣菜パン、食パン、フランスパンなどいわゆる普通にパン屋さんに並ぶパンを全てひと通り作っていたそうです。そうして、少しずつ地域で求められているパンが見えてきたこと、そしてもっと肩の力を抜いて、本当に自分たちが好きなパンを丁寧に、お客さんに長くこの場所で届けていきたいという気持ちが強まり、二人でこれからのお店のあり方について話し合いを重ねてきました。

これからママ友と子連れでの集まりがあって、みんなのパンを買いに来たというお客さん。カウンター式のお店で恭子さんはお客さんの顔を見ながら、細やかにそれぞれのお客さんのパン選びの相談に乗っていた

 

そして7年目、お店のスタイルを思い切って変化させました。パンの種類を厳選し、二人で全てをまかなえる形にしました。

毎日でも食べられる飽きのこないパンたち、値段は抑えめで、幅広い年齢の方が気軽に寄れるお店。二人が自分らしく居ながら、妥協のないパンをお客さんに届け続けられる今のお店の形に。

自信作の食パンを、「毎日飽きずに楽しみながら食べてもらいたい」とジャムも手作りで販売している

こんがりやのパンの味を好んでくれるお客さんとは味の好みが合うためか、不思議と他のことでも気が合うそう。「お客さんとの日々のお店でのさりげない会話やふれあいが楽しく、なにより幸せ」と恭子さんは言います。

街に根ざし、街の人の身近な楽しみになれるパンを届け続けたい。来年の10周年を前に、一歩一歩お二人の夢が形になってゆき、これからも地域と共に育ちつづけていくのでしょう。

「パン屋さんには土日のお休みがないので、娘には寂しい思いもさせてきたと思います。朝ごはんはお米にしてね! と言われたプチ反抗期も乗り越え、今は言葉にこそ出さないけれど、誰より自分たちの仕事を応援してくれていることを感じています」と話す恭子さん、ふとお母さんの顔に

 

近所の仲間とこんがりやの話をするとみんなの顔がほころび、「天然酵母パンの柔らかな酸味がワインにあうんだよね」「あの、キャラメルクリームが絶妙で大好き」と大盛り上がり。こんなパン屋さんが身近にあってくれてよかった! きっとそう思えるパン屋さん、こんがりやです。

お客さんを通して出会った作家さんが、お店のパンをそれぞれイメージして作ってくれた消しゴムはんこのシールや、恭子さん手作りのさりげない店内の装飾、娘さんが描いたガラス窓のイラストなどを眺めるのも楽しみの一つ

Information

こんがりや 横浜市青葉区桂台2-30-14サンコート桂台1F(駐車場有り)

      045-961-2224

      営業日時 月火水金 10:00-18:30  土日祝8:00-18:30

      定休日 木曜日 第2金曜日

      Instagram http://www.kongariya.com/cont5/main.html

      ブログhttp://kongariyama.blog.fc2.com 

Avatar photo
この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく