事業計画書は「目標を実現するための手引書」治田友香さん(ローカルメディア講座リポートその5)
SNSなどが身近になり、今やメディアは一人でも始められるものになりました。しかし、「メディア活動を続ける」ために必要なものとは? 「思いを形(文書)にすること=事業計画」の重要性を、森ノオトのリアルな実例を元に、治田友香さんと北原まどかが語り合いました。受講者それぞれの事業計画の発表も行われた内容充実のローカルメディア講座最終回の様子をリポートします。(写真・堀篭宏幸)

マスマス関内フューチャーセンター。シェアオフィスには約70社が入居する。ここ、ワークショップスタジオでは、ソーシャルビジネス分野の起業家を育成する「ソーシャルビジネススタートアップ講座」などさまざまなスクール事業を展開。「地域をつむぐローカルメディア講座」は、ローカルメディアの担い手として、昼間地域にいる人や主婦層をターゲットに、平日日中に開催する取り組みとして去年初開催された

20161214日(水)最終回を迎えた2016年度の「地域をつむぐローカルメディア講座(第?期)」では、まず、事業計画の重要性と計画の立て方について、マスマス関内フューチャーセンターを運営する関内イノベーションイニシアティブ株式会社の代表取締役の治田友香さんが講義しました。

関内イノベーションイニシアティブ株式会社は2010年に設立。社会的事業の起業支援を目的にシェアオフィスやコワーキングスペースの運営、スクール事業、クラウドファンディング事業などを手がけています。

「事業計画は、団体の目標を実現するための手引書です」と治田さん。事業計画は、法的に必要だからとか、誰かに言われて作るものではなく、自分たちの思いや計画を仲間やスタッフで共有し、協力者を増やすためにつくるコミュニケーションツールの一つだと、治田さんは言います。

最初から外部に見られることを前提としたものを作らなきゃと大げさに意気込まなくても、「なぜ(メディア事業を)行うのか(事業理念・社会的課題)」「どこで、なにを、いつ、どのように行うのか」「セールスポイントや資金計画」など、その組織の特徴がわかる文章を作成します。

受講生にはすでに地域でなんらかの活動を始めている人が多く、「まずは内部向けに作ればよい」という話にうなずきながら聞く姿もありました。仲間を増やし、夢を共有して士気を高め、今足りないものを確認しあうためにも、「事業計画」は大切なのですね。

内部共有のうちは独自の事業計画でよいのですが、活動を進めるうちに助成金申請や資金調達のための審査資料として必要になるケースを見越して、外部向けに通用するよう、魅力的で実現可能な事業計画を意識して作成しておくことが推奨されます。

私、船本も実は、治田さん率いるマスマス関内が主催する「ソーシャルビジネススタートアップ講座」の2015年度の卒業生。プロジェクトは自分一人の頭の中でだけ熟成していてもダメで、言語化し文章化することにより人の心を動かす努力をしていく、そのくりかえしだと学びました。文章に思いを落とし込む行為はとても大変ですが、活動や計画を考え直す良いきっかけになり、結果として活動の強化にも結びつきます。

治田友香さん。財団事務局長を経て2013年6月から現職。NPO法の創設及び改正に向けた立法運動、地方自治体におけるNPO支援策、企業の社会貢献プログラムの企画実施、将来起業家をめざす大学生等向けの奨学金給付事業、内閣府による地域社会雇用創造事業の一環でソーシャルビジネス人材育成支援事業などを通じて、営利・非営利の区分けなく起業家支援プロジェクト支援に取り組んでいる。横浜市市民協働推進委員等を歴任

事業計画を作成したら、全体の構成が矛盾なくわかりやすくなっているか、他人が見て説得力があるか、ニーズに対応したものになっているかなどについて、何度もブラッシュアップします。

「この活動をすることによって誰の笑顔が見たいですか」と治田さん。ウェブメディアが蔓延して、PV(ページビュー。ページ閲覧数)を稼ぐことに気を取られ、内容が伴わない情報サイトが増えてきている中、ローカルメディアに求められることは、確実に届けたいターゲットに向け、ここでしか読めないものを発信していくことです。治田さんは「リアルに顔が浮かぶ人にむけて活動してほしい」と話しました。

メディア活動を軸としながらも、関わる人のスキルや志向を生かしてさまざまなイベントを展開してきた「森ノオト」。講座ではお金についての深い話にも踏み込んだ。今年始動した「森ノファクトリー」など、助成金をきっかけに一歩踏み出した事業もある。「スタートアップ時期に助成金でコンテンツを固め、その後はしっかりと地域に根ざして事業継続していきたい」とまどか編集長

 そんな治田さんの話を受け、事業例として森ノオトの北原まどか編集長が「森ノオトのこれまでとこれから」をかなり詳細なリアルな資料ともに公開しました。

2050年を生きる子どもたちのために美しく豊かな地球と地域を作っていこう」。「森ノオト」がはじまったのは2009年、まどか編集長31歳のころ。出産をきっかけに、専門分野だった「環境」というテーマをとことん地域でとりくんでいくことを決めました。それまでの編集者としてのスキルを生かすために選んだ方法が「地域メディア」です。当初は一人で始めた活動でしたが、次第に賛同者や仲間が増え、2013年にNPO法人化しました。

講座では、開始から7年経ったいまは組織の基盤の見直しをしているといった、まさに「森ノオト」の今を赤裸々に公開。今年、これまたマスマス関内で開催された講座「かながわボランタリーACEプログラム」で作成したばかりという中長期計画を示しながら、これからの5年をどう考えているかを話しました。

地域活動をしていると、日々忙しく、目の前のイベントや活動に必死になってしまう状況が多くなってしまいがち。しかし、目先のことに追われるだけでは、携わっている人がみな疲弊してしまいます。「遠くを見て走ることが大切です。この活動の3年後、5年後がどうなっているのか。それを公開することで、仲間たちも『じゃあ私はこうやって関わろう』と主体的に考えることができると思います」とまどか編集長。

「最初は一人でスタートするケースが多いと思うけれど、役割分担をイメージしながら、仲間を増やしてその人に応じた仕事をつくることが継続の秘訣です。ローカルメディアを存続させるための活動ではなく、志を実現していくための活動であることを仲間と共有するが大切」と繰り返しました。

対象地域の人口や魅力、課題などを抽出し、読者ターゲットなどメディアのフレームを検討、イニシャルコストとランニングコストを算出するという前回の講座で宿題として出された課題をもとに発表する受講生たち

講座の締めくくりには、受講生たちが「自分のローカルメディア」について事業計画を発表しました。

「情報発信を通してまちの人たちの交流をすすめていきたい」「従来の住民と新住民をつなげたい」「地域の魅力を発見したい」「プロジェクトを情報発信の力でうまくすすめていきたい」。今講座には、「メディアを作る」ことが主目的ではなく、情報発信力を身につけることで、「(組織の)状況を改善したい」「社会課題を解決したい」という参加者たちが集まりました。

自分の地域を分析し、誰に何を届けたいのかを考え発表することで、受講生同士、お互いにエールを送りあえる仲間が出来たと思います

まどか編集長の言葉通り、一人でがんばらず、まずは地域に一緒に走れる仲間を作ること。メディアに限らず、どんなに小さな事業でもそれは同じです。内部に外部に発信し、仲間を増やし、やりたい目標に向け一歩ずつ進んでいくこと。そして、組織内以外にも切磋琢磨しあえる仲間といえる同志を作ることが、道をひらくきっかけになると気づかされた講義でした。

「地域をつむぐローカルメディア講座」は、新しい形で来年、展開する予定です。私たちの暮らす横浜、そして神奈川、そして全国に、「地域をよくしたい」と志を共有できる仲間が増えていく、その日が楽しみです。

講座のあとのランチ交流会も和やかに開催され、講座中には聞きにくい講師に対する踏み込んだ質問が飛び交い、お互いの活動紹介なども行われた。全6回の講座に単発受講を含め24人が参加した。それぞれのメディアと活動がどう育っていくのか、楽しみにしあえる仲間ができた

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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