とある土曜日の午後、アトリエ・アルケミストの子どもの教室が始まる時間。玉川学園の住宅街の中、一見普通のアパートかな?と見受けられる建物が眼下に。手前の階段でうろうろしているとアルケミスト主宰の佐藤由樹子先生が「こんにちは」と笑顔で階段を登って来てくれました。
この建物は、まるごとアルケミストのアトリエでした。
最初に見せていただいた1階のアトリエ、縁側の向こうの庭の木々の間を通って光が柔らかくさしこむ部屋に、年季の入った大きなテーブルがどんとありました。部屋の棚には作りかけの作品や画材が整頓されてならび、椿や白梅が小瓶に活けられ、音楽が静かに流れていました。
次に通してもらった部屋には、アクリル絵の具、水彩絵の具各種、日本画用の岩絵の具、油絵の具、彫刻の道具一式、ハンダ付けなどの工具様々、木槌、手芸用品、布、毛糸、染物の道具一式、ガラス工芸の材料などなど、とにかく「つくる」ために必要な道具が詰まっていました。
アルケミストでは初めて来た人に「なにをやりたいですか?」とまず聞きくそうです。「その人がやりたいことが出来るように、『つくる』という括りで、美術室、木工室、家庭科室、技術室がここにあるという感じです」と由樹子先生は案内してくれました。
さらに奥の部屋へ行くと、暖かで静かな一室で生徒が黙々とデッサンをしています。一人は中学3年生で、小学校4年生からアトリエに通い、美術系の高校へ進学を志してデッサンの練習をしているそうです。「その人が自分の好きなことを手がかりに様々な制作をして、色んな発見をしてもらえたら嬉しい」という気持ちで由樹子先生は生徒たちを見ています。
次は外階段を登り2階へ。そこには小さなキッチンがついていて白壁に囲まれた、これまたほっこりしてしまう部屋がありました。ワークショップや、小鳥喫茶室が開く料理教室などで使われるそうです。この日は「味噌づくり」のワークショップが開かれていました。
築年数の経った、かつてアパートだったこの建物のどのお部屋も、実に整っていて清潔感があります。
アルケミスト全体に流れる、この穏やかな空気の秘訣は由樹子先生のこんな話からわかってきました。
「ここの教室のスタッフは、来て落ち着く、居て気持ちが良い、制作を安心してできる環境整備をすることや、子どもたちと普通に話ができること、それを教えることと同じように、むしろそれ以上に価値を感じて取り組んでくれる人たちです」
案内してもらっているうちに、1階のアトリエから賑やかな声が。この日の教室には小学校1年生から制服姿の高校生の姿、平日はスタッフをしているという方も見えました。アルケミストでは平日の日中が大人クラス、夕方がちびっ子クラスといったゆるやかな区分はあるものの、「つくることが好き」というつながりで子どもから大人までが同じ空間を共有します。
教室開始の午後1時になると、先ほどまで賑やかだった部屋がいつの間にか静まり返っています。子どもたちはクロッキー(短時間で目の前のものをさっと掴んで描く)をしていました。
この教室では基本的には、自分がやりたいことをテーマにそれぞれの作品を作りますが、最初の8分間だけは全員同じテーマでクロッキーをするそうです。クロッキーは「目で見て、手で出す」というものづくりの土台になります。このクロッキーは、先生が見て「こうしたら?」とアドバイスをするためのものではなく、積み重ねの中で本人が力を練っていくためのもの。その過程で「もっとこんな風に描いてみるにはどうすればよいのかな」など自分の課題に自然に気づきます。そして聞きに来たタイミングで先生はアドバイスをするそうです。
作品づくりにおいてもアルケミストの先生たちは「待つ」ことを大切にしています。「テクニックとして聞かれれば答えますが、そうでない場合はまずやってもらいます。自分で色々とひねくり回してもらう。1年生で数カ月にわたって絵の具を混ぜて終わってしまう子も中にはいます。でも、何もできてない訳ではなく、ちゃんと蓄積している。そこで面白い表現を発見できたりしますし、技術的なことも、教えられたのと自分で発見したのでは嬉しさが違います。スタンダードなテクニックだったとしても、自分で発見したものは『自分だけの描き方』です。『よくこれ考えたねえ!自分で見つけたの?』ってなる。その繰り返しを散々やった上で、『これってどうやるの?』と聞かれたら丁寧に説明します。そうすると身につく。『体験』が『経験』になる瞬間です」(由樹子先生)
「ここでは『作品』が自己紹介代わりになります。だから年数を重ねるほどにみんなが仲良くなっていきます。プライベートなことを知っているから仲が良いというより、互いの性分を分かっている仲の良さといいますか……」と先生。
さて、2時間のレッスン時間はあっという間に過ぎ、いつの間にか子どもたちは手に箒を持っていました。小さな子どもたちも要領よく、くるくるとカーテンを丸めてたくし上げ、机や椅子をたたみ、すっきりとした床をまずは掃き、それから丁寧に雑巾がけをしていました。
とても清々しい光景でした。それは次にアトリエを使う人たちへの自然な心遣いから子どもたちが身につけているものに見えました。
アルケミスト(錬金術師)、「たいせつな誰かや何か、大好きなことと出会うことで人は輝く金に変わる」という意味が込められた名前のアトリエ。その名の通り、たくさんの出会いがそっと散りばめられていて、その中で世界で一つの作品がうまれていきます。その場所は、陽だまりのように暖かくありながら、ものをつくることへ忠実な時が流れる格別な場所でした。アトリエ、ワークショップや小鳥喫茶室、きっと訪れた人それぞれにその人ならではの出会いがありそうです。
絵画造形教室 アトリエ・アルケミスト
住所:東京都町田市玉川学園8-3-18
電話:042-723-7768
HP: http://atelier-alchemist.net/index.html
FB: https://www.facebook.com/アトリエアルケミスト-1400567970195203/
ワークショップ
2月25日土曜日 「音を絵にするワークショップ」(感覚のエクササイズ)
3月18日土曜日 「音を絵にするワークショップ」(感覚のエクササイズ)
3月25日土曜日 韓美華先生のミツロウ画ワークショップ
4月22日土曜日 韓美華先生のミツロウ画ワークショップ
7月 絞り染ワークショップ・油絵ワークショップ など開催予定
参加費、対象年齢などHPを確認してください。
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