毎年3月7日、川崎市麻生区にある琴平神社では「人形浄化和め祭り」が行われます。古くなったお人形たちに感謝し、お祓いをして清めるお祭りです。
私が訪れたのは、早春の暖かな日。
境内には白梅がほほえむように、咲いていました。
20年くらい前から始まったこの祭儀では、毎年5000体以上もの人形が集まるそうです。
近頃は「断捨離」が人気ですが、単にモノとして人形を処理するのではなく、大切に送ろうとする温かい気持ちの方がたくさんいるんだなぁと、私はうれしくなりました。
並べられたお人形はお供え物や、祝詞の奏上などで御霊を慰め、神聖な火でお人形の頭上をお祓いします。お清めして御霊抜きをしたあとに、環境への配慮から境内ではお焚き上げをせず、焼却施設へ運ぶそうです。
お祓いをする宮司の志村幸男さん曰く、
「たくさんのお人形たちのお顔からは、それぞれお人形の気持ちが伝わってくる」
「哀しい顔をしているお人形もあるし、満足そうに微笑まれているお人形もいる」そうです。
人形も長い時間を経ると感情を持つものなのでしょうか?
我が家の人形たちはどんなお顔をしているのかな、と最近はゆっくりお顔を見ていないことを思い出し、反省しました。
お人形を持って来る方も、子育てがひと段落した時、親としての務めを終えたことに感謝の気持ちを持っている方、親としての思いが満たされたように見える方、様々な面持ちで来られるそうです。
「持って来られる方々のお気持ちを受け取り、お人形の魂や、邪気を払って浄化していくことに、ご自分がぶれることはないですか?」
という私の質問に、
宮司さんは「それは修行がたりません。そんなことでは神主はつとまりませんよ」と笑って、こんな話をされました。
「信念をもつことが大切です。人の心の平安や安心、心の豊かさを願う、という信念を持ってお務めをしています。
お人形を持って来られた方の心を癒やし、子育ての終えたことへの感謝の気持ちに寄り添い、神社に来られる方の心の豊かさのために日々、何かできることがあるか? と探しています。ほめられてうれしい、感動するとか、そういったよかったことを少しでも多く経験することで、人の心は豊かになっていきます」
そして、自らの信念を積み上げるために、宮司さんは毎朝、絵を描いているそうです。
大地に咲く、いくつものコスモスに注がれるまなざしのあたたかさに、ぐっと心をつかまれました。これが宮司さんの信念だと、人の心の平安、心の豊かさへの思いがまっすぐに伝わってくる絵でした。
朝3時に起きてお務め前の7時半までの時間を積み重ね、この絵を描きあげるのに3カ月かかったそうです。
朝まだ明けきらぬうちに自分と向き合い、絵を描くことで人の平安を祈る。
琴平神社に流れるあたたかな、静かな時間、静謐さはこんな宮司さんの心があるからなのかな、と思いました。
また琴平神社では、秋の例大祭(体育の日)や節分祭りなどで、地域の人のつながりをつくる場所として、地域とのつながりを大切にしています。
中学生の職業体験や、留学生の受け入れなど、宮司さん自身、たくさんの人に会う機会を作っているそうです。
「人とコミュニケーションをとる時に、人の顔を見て話すことが大切です。その表情を通して一人ひとりを認識していくことで、もめごとや誤解が解けていきます」
人にとって大切なことって、ほんとにシンプルな、昔からよく耳にしたようなこと、足元にあるようなことだな、とつくづく思いました。
これは、我が家にある「高砂人形(尉と姥)」です。
結納の時にいただいたもので、お義母さんが手縫いで作ってくれた木目込み人形です。久しぶりにいただいた時のこと、一針一針縫ったお義母さんの気持ち、結婚して過ぎたこの16年を思い返すと鼻の奥がツーンとしました。
いつかこの人形も手放す時があるのかな、
その時、自分は心豊かな人となっているかな、とこの先に続く道に想いを馳せました。
それぞれの心にある人形物語。
琴平神社にはあたたかな思いでそれを見守る人がいます。
武州柿生 琴平神社
住所:神奈川県川崎市麻生区王禅寺東5-46-15(駐車場有り)
電話:044-988-0045
人形浄化和め祭についての詳細:
http://www.kotohirajinja.net/ningyou.html
【人形浄化和め祭】 毎年3/7に行われます。
・毎日18:00まで、年間を通してお人形を納めることができます。
(注:保管場所に限りがあるため、2月中旬以降だと助かるそうです)
・初穂料(お清め料)はお気持ちです。
・日本人形、ひな人形、五月人形、西洋人形、などお人形類、ぬいぐるみなど。
その他、歳旦祭(初詣)、どんど焼き(1/15)節分祭(2/3)例大祭(体育の日)などいろんな行事があります。
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!