日本では年間に632万トン以上の食料が食べられずに捨てられています。しかも、そのうちの半分は家庭から出ていることを知っていますか?
ちょっとドキッとする分量ですよね。
実は、フードロス対策としても、エネルギーの節約という視点からも、前からやってみたかったことの一つが、人のおうちの冷蔵庫チェックです。とはいえ、わが家の冷蔵庫を積極的に見せたい人はなかなかいないもの。ましてや記事で公開するとなるとなおさらです。
しかし森ノオトの編集会議の場で、ライターの山田幸さんのおうちの冷蔵庫はよく整頓されて捨てるものが少ないと聞き、ぜひにとお願いして、今回の取材が実現しました。
幸さんは、お土産物などの急な事態に備えて、冷蔵庫につねに余白を作るようにしているそうです。庫内全体の見通しもよく、エネルギーのロスも少ないことがわかります。
ちょっと意地悪な質問で、今日は取材にくるから、さすがにいつもよりちょっときれいにしたのでは? と聞くと、昨年末に整理してこの状態にしてから約半年、ずっとこれを保っているとの返事がさらっと返ってきました。
でもご安心を。幸さんとて一朝一夕にこの状態に行き着いたわけではないのです。
幸さんは、3人のお子さんと旦那さんとの5人暮らし。長男が大学生、一番下は食べ盛りの小学生の女の子というから、それぞれの成長と空腹具合に備えるのはすごく大変そうです。
6年前に家を建て、アイランド型のオープンキッチンに合わせ、リビングからよく見える位置に冷蔵庫を置くことになったため、「見られても恥ずかしくない冷蔵庫にする!」と決心しました。容量も556リットルと5人家族にしては大きすぎないサイズのものを、迷った末に選んだそうです。
「私は昭和の貧しい時代の生まれでもないのに食べ物がないと心配なタイプで(笑)、子どもたちを飢えさせてはいけないという不安があって。お弁当を作っていた時期もあったし、以前は冷蔵庫の中はてんこ盛りだったの。でも、見えないと忘れてしまって使い切れず、もやもやすることもあったのよ」と幸さん。
「実は食材をそんなにたくさん備えなくても大丈夫なんだとわかって、意識が変わったのは最近のこと。家族にあった形にするのはいっぺんには無理だけど、定期的に改良して今はすごくいい状態。主婦歴20年でやっと! でも、また、勝手が悪くなってきたらすぐに変えていくつもり」と、気取らず、変化する暮らしに合わせて、果敢に取り組んでいこうとする姿勢がかっこいいです。
ひととおり見せてもらった後は、フードロスについてみなで語り合います。
生産者側、販売側の問題は置いておき、この日は消費者側である家庭からのフードロスが減らない要因を、冷蔵庫あるある! を元に探ります。
話し合いで実際に出た意見を大きく3つに分類してみました。
1:自分由来のもの
たとえば、買い物の仕方で、計画してまとめ買いできるか、その日の食材はその日の気分で、品物を目で見て買いたいか? レシピに忠実に作りたいか、あるもので料理をするタイプか? 庫内がいっぱいでないと不安か、すかすかでも大丈夫か? 常備菜をつくるか、常備菜をうまく食べきれないか? 等々。もともとのその人の性質、考え方のくせや、日常の精神状態によるものや、また、自分の状態を自覚しているかどうか。
2:家族それぞれの嗜好の違いによるバランスのずれからくるもの
一人の人間をとっても、成長とともに、食の好みや流行は変わります。家族それぞれに好みや習慣が違うので、例えば、旦那さんが前日の残り物を食べてくれるか、全く手をつけないか、少食か、大食か、美食家か、出されたらなんでも食べるタイプか、等々。自分の感覚と違う食の感覚をもっている人を、すぐに受け入れて対応できるかどうか。また、相手への見方を決めつけていないか。
3:状況や外部環境によるもの
ストックが見えないと同じものを買ってしまったりするように、家の食料の管理状況、冷蔵庫の環境を把握できていない。ドレッシング、ジャムなどの瓶詰め、調味料など使い切れない筆頭の商品形態がある。食べ慣れないものをもらってしまったり、外食の頻度や習慣、家に招くお客さんが多いかどうか、また、食べ物のやり取りを気軽にするようなご近所間の関係があるか、コンポストがあるか、フードロスに関する知識があるかどうか等々、形式、状態、システムによるもの。外部との関係によるもの。
あれこれ話している時に「大事なのは自分をよく知ること!」という名言が、幸さんの口から飛び出しましたが、ほんとうにその通り。暮らしの現状把握ってなかなか難しいのです。冷蔵庫整理の仕方には正解があるわけではなく、常備菜は苦手、買いものはその日にしたい派。完璧主義だけど、普段はめんどうくさがり、と自己分析する幸さんは、分類カゴにことばを入れておくことが、自分にとってはとても効果的だったと言います。
面白かったのが、前日の残り物を旦那さんが一切食べないというパターン。南部家と梅原家で共通するものでした。すると次の日に持ち越したものは自分で食べなければならず、余るほどつくることを諦めるか、かなりのアレンジをして別のものに作り替えるかといった選択が迫られます。
梅原家では、食べたいものを食べたい時に食べたいだけ、という自由さを大事にする方を目指し、市販のお惣菜も活用しつつ、少量料理をするようになりました。余ったら次の日の朝食か昼食、時には夕食にして私が消費するのでまあまあバランスが取れています。でも、庫内がいっぱいでないと不安だという聡子ちゃんは「分量通りにつくって、でも次の日は、やっぱり食べないのか……と少しがっかりするような流れをなかなかやめられない」という悩みを抱えていました。
私自身が個人的にフードロスを自分ごとと感じたのは、20代で一人暮らしを経験した時です。一人になった開放感、気まぐれな暮らしの中で、食事の適量がつかめず、どれほどの無駄をしてしまったことか。一人一台冷蔵庫のある暮らしは私には合わないと強く感じたものでした。その延長で、核家族化がフードロスの一因となっているのではないかと感じています。
今回こうして、仲間内で集まって、テーマを決めてざっくばらんに話し合う場があると、ちょっとした気づきからすぐに行動が伝播します。自分の考え方のくせを知るにも、場の力、コミュニティの力によるところが大きいのではないでしょうか?
サルベージパーティーといって、食べきれない食品をもちよって、美味しく料理し直して食べる活動がありますが、森ノオト界隈でも、また集まって、月一回くらい冷蔵庫の残りもので持ちよりランチをしたいねという話になりました。
その際に、家にある一番古いものをも持ちよった人が勝ち! といった工夫をすると、罪悪感や恥ずかしさを超えて、みんなが楽しく変わっていけるきっかけになるかもしれません。
あなたは今、おうちの冷蔵庫に何が入っているか、すぐに思い出すことができますか?
書籍『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』
井出留美・著、幻冬舎新書
http://www.gentosha.co.jp/book/b10432.html
映画「0円キッチン」
監督:ダーヴィド・グロス、ゲオルク・ミッシュ
配給:ユナイテッドピープル 2015年/オーストリア
http://unitedpeople.jp/wastecooking/
横浜市資源循環局食品ロス・生ごみの削減
http://www.city.yokohama.lg.jp/shigen/sub-shimin/foodloss/type.html
サルベージパーティー協会HP
フードバンク・セカンドハーベストHP
http://2hj.org/problem/foodbank/
農林水産省 食品ロス削減国民運動
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227.html
九都市廃棄物問題検討委員会 食べきりげんまんプロジェクト
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