(この記事は、消費者力アップ県民提案事業の委託事業の一環でお届けしています)
1955年(昭和30年)11月、アメリカ、ニューヨーク。
超高層のRCAビルの上で、世界初のパラボラ型のソーラークッカー(当時の言葉では、太陽エネルギー利用釜、とか、太陽熱炊事器と言われている)で米を炊いてみせ、大注目された日本人がいました。
その名は五藤齊三(ごとうせいぞう)。今もつづく五藤光学研究所の創業者です。
当時、太陽熱利用については、世界各国さまざまな研究がされていました。そうした研究成果を参考に、齊三も、度々おこる電力不足から未利用のエネルギーに着目。東京都から補助金7万2000円を受けて、太陽熱を利用した炊事器を試作して、実験と改良の研究に進んだのでした。それを知ったアメリカのスタンフォード大学の教授の誘いで参加した、アリゾナ州での太陽熱利用世界シンポウムで、齊三のつくった機器は大変効率がよいと話題になり、ロックフェラー財団からの要請を受けて、ニューヨークでの実験へとつながったのでした。
ニューヨークの11月、それも高層ビルの上となれば、気温はマイナス6度。そんな中でも一升のお米が一時間ほどで炊けたと、タイム誌をはじめ、新聞、ラジオ、テレビのニュースになりました。この時、齊三は64歳、創業時代から二人三脚で支えてきた留子夫人を連れての初めての海外経験だったそうです。
ところで、そもそも五藤光学研究所は、ハレー彗星に魅せられた齊三が、人々に手軽な望遠鏡を普及したいという想いからはじまった会社です。齊三は独学で勉強し、30歳で、日本光学研究所(現在のニコン)に入社して5年後に独立、三軒茶屋(東京都世田谷区)で創業しました。その後、日本初のプラネタリウムの国産化に成功し、日本の天文教育をリードし、天文ファンを育ててきました。
その後、残念ながら、未だ完成にはいたらないとして、五藤光学からソーラークッカーが商品化、実用化されることはありませんでしたが、齊三の自伝にはこんな言葉が残されていました。
「今や世界をあげて自然の原子力たる太陽熱利用研究の時代ということが出来る。とにかく人造原子力発生の原料たるウラニュームとトリュームの産出高が極めて限られた量である上に使えば減る一方であるに対し、太陽熱エネルギーは遥かに大きく、かつ無尽蔵である。これを利用することこそ、将来に於ける文化人の責務でなければならぬ」(出典:『天文夜話 五藤齊三自伝』)
この齊三の想いは、時と場所を超えて引き継がれています。ソーラークッカーは日本が元祖ということを教えてくれた、マダムサンシャインこと、日本ソーラークッキング協会会長の鳥居ヤス子さんに加え、同じくソーラークッキング協会会員の狩野光子さん、西川豊子さん。この3人は、ソーラークッカー業界の重鎮と言っていいかもしれません。
有機農業に関するライター業をしていた鳥居ヤス子さんは、アメリカ、カリフォルニア大学の畑でソーラークッカーに出会いました。衝撃を受けた鳥居さんは、帰国後から早速実験をはじめ、ほぼ毎日それで食事を作るようになり、ガス代が300円ぐらいだった時もあるそうです。現在は息子さんの家に住んでいるそうですが、今もご自分の日常の料理の7、8割はソーラークッカーを使用しています。
また、海外、特にアフリカのケニア、タンザニア、南アフリカに何度も足を運び、ソーラークッカーを広めるボランティア活動もしてきました。無電化地域で、薪を集めるために何キロも歩き、燃料の奪い合いに陥っていたアフリカの女性たちが、ソーラークッカーを使うことで、とても楽になったと喜んでいるそうです。鳥居さんは、鳥居式ソーラークッカーを考案して全国の小中学校を廻ったり、その暮らしがテレビなどにもよく取り上げられているので知っている方も多いかもしれませんが、「日本では、ソーラークッカーを庭やベランダに広げた様子が、いまだに“珍しい風景”という風に見られているんです。日本が元祖ということもほとんど知られていないし、太陽の熱はただで使えることも、まだ知られていないのね。もったいないですね」と静かに、淡々と語る姿が心に残りました。
この、鳥居さんとの出会いの場を作ってくれたのが、厚木市で活動する「宇宙キッチン」のみなさんです。代表の狩野光子(かりのみつこ)さんは、あつぎ環境市民の会の初代代表や、神奈川県環境学習リーダーを務めるなど、30年以上ボランティアで環境問題に携わってきた方です。厚木市にある神奈川工科大学や、東京工芸大学等で特別講義を行うなど学究肌で、「ひまわり」という工作で手作りできるソーラークッカーを考案して特許も取得しています。
「台所から持続可能な社会をめざす」ことを目的に、ソーラークッカーの普及を改めておこなおうと、2016年の1月からはじまった「宇宙キッチン」の活動。私は、今年の5月にSNSでたまたま「宇宙キッチン」主催の鳥居ヤス子さんの講演情報を目にして参加したのでした。その名前がキャッチーで楽しくていいなと思って、後日、狩野邸の厨房での活動日にもお邪魔してきました。
狩野さんは、講座の中で、生活者が科学的な視点や原理を知ることの大切さを説いています。とてもチャーミングで可愛らしい方なのですが、語られる内容は深く厳しく、さらに各地、各国の環境事情にふれることもできて、想った以上に面白い講座でした。インドやタイなどでは、ソーラー葬もあるという話には驚きました。
今年は、ソーラークッカーの日常使いをしたいなあと考えていた矢先に、こうして一気に長年活動されてきた方々に出会うことが出来て、その厚み、すごみを感じている今日この頃です。今後、茅ヶ崎の西川豊子さんが毎月第一日曜に開催しているソーラークッカーの料理会や、8月5日浜松市で行われる予定のソーラークッカー全国大会にも参加したいなと計画しています。
そして、わたしも「宇宙キッチン梅原研究所」と称して、ソーラークッカーの楽しさを知り、日常使いする人を増やす活動をゆるやかに続けることにしました。「熱」って勉強しはじめるととっても面白いのです。
「環境教育なんかでソーラークッカーを作ったりしているけれど、結局、ゆでたまごどまり。そういうんじゃなくて、日常でもっと使えることを知って欲しいのね」と狩野さんがおっしゃる通り、小学校の実験や一時の体験で終わって忘れられるのでは意味がありません。ご飯も炊けるし、肉や豆料理にデザートづくりもできます。ソーラークッカーが標準搭載されているベランダがあってもいいのに! と思うくらい、ソーラークッカー周りの開発はなぜだか遅れているのです。
そんなわけで、手始めに8月27日(日)に、狩野さん考案のひまわりをつくるワークショップを森ノオトの事務所、森ノオウチで開催します。そして、実は冬の方が効率がいいというソーラークッカー、寒い中ではありますが、年明けに、鳥居さん、もしくは、狩野さんをお呼びしての講座も企画したいと考えています。未来のキッチンや、まだ体験したことのない味の研究などなど、台所に宇宙からの太陽エネルギーを直に取り込こんでみたいという、遊び心たっぷりな方のご参加をお待ちしています。
宇宙キッチン梅原研究所 第一回講座
日時:8月27日(日) 13:30-15:30
会場:森ノオト事務所森ノオウチ
横浜市青葉区鴨志田町818-3
参加費:おひとり1000円+ソーラークッカー材料費1500円=2500円
定員:5組(基本的に大人向けの講座となりますが、お子さん連れでも参加可能です)
※ソーラークッカーで調理した試食品、お茶つき。曇天や雨でも、講座は開催します。その場合、試食品の内容は変わる可能性あり。
event@morinooto.jp宛に、お名前、住所、電話番号、お子さまの年齢をお書きの上お申込みください。
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