受け継いだ味を伝えていく、暮らしをいろどる行事と料理を。〜緑区・岡部妙子さん〜
田畑が広がり家々が点在する、のどかな風景の横浜市緑区。
そこに代々続く農家のお母さんが岡部妙子さんです。家に伝わるお盆、お彼岸などの年中行事を大事に暮らしています。お料理上手な岡部さんの基地、ご自宅の台所でお話を伺ってきました。(photo:梶田あゆみ、明石智代)

厳しい暑さに比例して、山や畑の緑はいっそう勢いを増していきます。訪れた岡部妙子さんのお家でも玄関先の草刈りの真っ最中でした。
横浜の古くからの暮らしを知るために、地元の人からお話をずっと聞いてみたいと思っていたのでわくわくしながら、森ノオトスタッフの梶田あゆみさんととともにお邪魔しました。

岡部さんのお宅の屋根。このあたりで青い瓦屋根をよく目にする。色の濃いもの、淡いもの、それぞれが日の光を受けて輝き、緑に映えて美しい。なぜなのか、数人の地元の人に聞いてみたが謎のまま

 

岡部妙子さん。「畑の野菜でいたずらするの」と自家製の料理を茶目っ気たっぷりに表現する。(大先輩に失礼ながら)可愛らしい方だ

岡部さんに案内されたのは台所。
「ふだんはね、他所の人に台所は見せないのよ。汚くしててごめんなさいね」と照れくさそうな岡部さん。
いえいえ、床はすっきり、棚はきっちり、窓辺には花や雑貨がならび、使い手の意志を感じる居心地のいい場所でした。
この日はレシピ作りのため、岡部さんの意向で、塩1g差で配合を変えて二つ同じ料理を同時進行で作っていきます。「あなたもやってみたら?」と岡部さんの配慮で、二つのうちの一つは私が担当することに。
限られた時間のなかで、岡部さんの手元を目で追いながら夢中で料理していると、「なんだか初めて会った気がしないわね~」と気さくな岡部さん。実は私もそんな気が……出会って1時間。料理を通してすっかり同志です。

ごぼうや人参をささがきにする岡部さんと明石。岡部さんのあざやかな包丁さばきを目に、おのれの手もとに……(涙)

試作の献立は、混ぜごはん。
広島出身の私にはイメージできなかったのですが、混ぜごはんとは味付けした具材と酢飯を混ぜ合わせたものだそうです(多分、我が家だとちらし寿司と呼んでいます)。
岡部さんがお盆料理に必ず作るこのメニューは、お義父さんもご主人も息子さんも大好きで、代々のご先祖さまもお気に入りだったとか。岡部家に伝わるお盆のごはんです。42年前に嫁いできた岡部さんは義妹さんから作り方を教わり、以来ずっと作り続けてきました。

2つのコンロで同じお吸い物をつくる。普段は目分量で料理する岡部さんだが、ていねいに味見をして、誰でも岡部さんの味が再現できるレシピをめざす。二つのお吸い物を食べ比べて、「1gの塩でこんなにも味が変わるものなんですね」と感心する梶田さん

神奈川県ふるさとの生活技能指導士、田奈恵みの里推進委員会食体験部会会長としても活躍する岡部さん。料理教室で、地場産の野菜を使った料理やうどん、味噌、草だんごなど郷土料理を紹介しています。

お料理のセンスが磨かれた要因は、何だと思いますか? と岡部さんに問うとしばし考えて話しはじめました。

「嫁いですぐに料理をすべて任されるようになったの。お義母さんは強くて、しっかりしててなんでもできる人だった。そんなお義母さんは食べることが大好きで、私の料理を好んで食べてくれたの。食べたい料理があると、あれ食べたいって言われてね。あれこれ工夫して作ったのよ。料理をいろいろ作るようになったのはお義母さんのおかげ」

岡部さんのお見合い結婚のきっかけもお義母さんでした。
「チャキチャキした歩き方が気に入ったって(笑)。 “私が選んだ嫁だから”って親戚に言ってた話を後から教えてもらったの」と目を細めます。

お義母さんは旅先のお土産を欠かしたことはなく、実の娘以上に気遣ってくれたそうです。
岡部さんの料理の腕前は、そんなお義母さんに応えたいと日々精進した賜物なのかもしれません。

台所の戸口の上にある神棚。左に恵比寿様、右に火の神様が祀られている。1月20 日には、一年間がんばって働いてくださいとの願いをこめて、けんちんや赤飯、尾頭付きの魚が供えられる

暮らしに息づくお盆かざりや、お彼岸のおはぎなど、行事の作法をお義母さん・義妹さんから受け継いできた岡部さん。先人から受け継いだものを後世に伝えていきたいと願っています。草だんごが大好きなお孫さん、岡部さんの料理に目がないご主人。岡部さんのつくる料理には、つねに家族の笑顔があります。料理で家族を幸せにしてきた実感がある岡部さんだからこそ、多くの人に本物の味を伝えたいと思うのでしょう。

試食をかねた昼食。岡部さんはちゃちゃっとキュウリの浅漬け、ハム、トマトを用意し、思わぬごちそうとなる。野菜はすべて自らの畑から。米は「一郎米」と岡部さんが呼ぶご主人“一郎さん”の作ったもの

取材を終えて、小さな頃、亡き祖母と作ったよもぎもちの記憶がふいによみがえりました。もちを必死でつく祖母、大勢で集うにぎやかな台所、ほおばった出来立てのよもぎもち、
今では私の一部をなす大切な思い出です。
岡部さんが後世に伝えていきたいと願う本物の味には、健康や家族のつながりをつむぐだけでなく、あたたかな記憶も織りなしていくのかもしれません。

お盆を前に、横浜のお盆料理とお盆飾りについて、お子さんと体験してみませんか?
横浜が地元の方は我が家との比較を、県外の方はその違いを知ることで、よりご先祖様の迎え方や家族について考えを深められるかもしれません。「混ぜごはんを食べたい!」という方もぜひどうぞ。

Information

平成29年度 横浜市経済局消費生活協働促進事業

「農家のお母さん発!横浜の地産地消を未来につなぐ体験講座」

URLhttps://morinooto.jp/2017/07/10/noukanookasan/

【第1回】「お盆料理とお盆飾り」

講師:岡部妙子さん

日時:201781日(火)10:00-12:30

会場:アートフォーラムあざみ野 3階生活工房

(横浜市青葉区あざみ野南1-17-3

東急田園都市線、横浜市営地下鉄ブルーライン・あざみ野駅より徒歩5

*できるだけ公共交通機関をご利用ください。

*駐車場は予約制(有料、電話045-914-5910)です。

料金: 2,500

定員:15名(先着順)

申し込み方法:参加希望回、氏名、生年月日、住所、電話番号、E-mailアドレス、参加の動機を記入の上、event@morinooto.jpまでお申し込みください。

小学生のお子さんは同伴可です。

*恐れ入りますが、未就学児は託児をご利用ください。会場のアートフォーラムの「子どもの部屋」が有料でご利用いただけます。要予約、先着順、4日前の17時まで受付。お電話で直接お申し込みください。<子どもの部屋:電話045-910-5724

主催:特定非営利活動法人森ノオト

227-0033 横浜市青葉区鴨志田町818-3

TEL045-532-6941FAX045-985-9945

共催:アートフォーラムあざみ野(男女協働参画センター横浜北)

後援:横浜市環境創造局、JA横浜

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この記事を書いた人
明石智代ライター
広島県出身。5年暮らした山形県鶴岡市で農家さん漁師さんの取材を通して、すっかり「食と農」のとりこに。森ノオトでも地産地消、農家インタビューを積極的にこなす。作り手の想いや食材の背景を知ることで、より食材の味わいが増すことに気づく。平日勤務、土日は森ノオトの経理助っ人に。
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