主婦フレフレ!が生まれた理由。お嫁さんと孫の笑顔を守りたい!
朝起きて歯をみがく、ごはんを食べる、体調が悪かったら病院へ行く……本人には「どうしようもない」環境で生まれ育ち、生活スキルを得られなかった女性のために始めたことが、全ての母親、そしてお姑さんのためになる!? ママに料理や家事の基礎を伝え、仲間をつくる機会を提供する「主婦フレフレ!シュフレ協会」を立ち上げた武次直美さんをインタビューしました。

大切に育て上げた我が子の結婚、そして孫の誕生は、誰にとっても喜ばしいことのはず。しかし、武次直美さんの場合は、息子さんのご結婚は、苦難を伴う新たな人生の始まりでした。今から8年前の夏の日、当時20歳の息子さんが連れてきた「お嫁さん」は当時17歳、お腹に赤ちゃんを宿していました。若くして「おばあちゃん」になることを受け入れた武次さんでしたが、息子夫婦の子育てをサポートする以前に、お嫁さん自身をもう一度「育てる」という経験をすることになります。
 
「彼女は自分の妊娠にすら気づかなかったんです。高校生の彼女の下っ腹が明らかに出てきていて、おかしいと思って養護施設の職員にお願いして病院へ連れて行ってもらって調べたら、妊娠8カ月だった。食生活が乱れているからふだんから生理不順で、生理がこないことすら気にもとめていなかったのだそう。妊娠8カ月まで無受診だとリスクが高くて、どこの産院も受け入れてくれなくて……病院探しが本当に大変でした」(武次さん)
 
武次さんのお嫁さんは、自分の両親のもとで育っていません。児童養護施設で育っていて、家事や生活スキルが親から伝わらない、カラダや性の知識も乏しく、朝起きて夜に寝るという生活習慣そのものがない……。そんな彼女と息子さんが二人で自立した生活をするのは難しいだろうと、武次さん夫妻の家で若い夫婦が同居することになります。
 
「朝は起きよう、こどものためにもごはんを食べよう」。そんな「常識」が伝わらないもどかしさと、言えば言うほど心を閉ざしてしまうお嫁さん、そして生まれた小さな命との暮らしに、武次さんは困惑します。掃除、洗濯、炊事といった家事以前のコミュニケーションに悩んだ武次さんは、友人に頼んでお嫁さんを誘い出すために若いママ向けの「料理講座」や「ランチ会」を企画してもらい、お嫁さんの背中を押します。
 
「育った環境によって、家事や生活の基礎を得られない人がいる。その人たちが結婚したときに、生活が上手くいかなくて家庭が壊れたり、心を病んでしまうこともある。これって、育った環境によるもので、本人の力ではどうしようもないこと。だから、家事や生活の基礎力を伝える場が必要なんだなって思った」と、武次さん。

武次直美さん。「おばあちゃん」とはいうけれど、そうは見えないほど若々しくてパワフル

武次さんが仲間に頼んで続けてきた、生活スキルをシェアする場と機会は口コミで広がり、生活困難者だけでなく、孤独な子育てに苦しむ母親たちの間でも話題になりました。お金がない人でも来られるように、参加費は500円程度の低価格。ワーキングウーマンとして働いてきた武次さんが取引先の企業にかけあって協賛してもらいながら活動を続けてきて、行政や公的機関との協働をしていくにあたり、団体の設立が必要な場面になりました。そうして「一般社団法人シュフレ協会」が生まれたのは、2014年のことです。
 
現在、シュフレ協会は横浜市港北区や都筑区、川崎市中原区や高津区を中心に、子育て中のママを対象としたイベントを開催しています。
常備菜講座やお弁当講座、とりわけ離乳食の講座や、女性向けのイベント開催、ママ向けのマネーセミナーなど、暮らしのスキルから、経済的な自立に向けた学びの機会まで、活動領域は多岐に渡ります。今後は、子育て支援NPOと一緒に親子のお出かけ情報誌の製作なども予定しています。
最近では、横浜市港北区の民家を使って「昔からの知恵と工夫を受け継ぐ☆おばあちゃん先生の料理が学べる交流会」をおこなったり、12月15日(金)にはセンター北(都筑区)のノースポート・モール6階のみらい公園で、「みんなで楽しむ☆親子でXmas交流会」を開催します。
参加対象は、未就園児とママ。「子育て世代を応援したい!」という、武次さんのお仲間や、協賛企業の支援によって、低価格で参加可能なイベントを実現しているのです。

シュフレ協会のイベントの様子。ホテルの宴会場や、ちょっとおしゃれなレストランなど、あえて高級感のある場で開催するのは、「うちのお嫁さんみたいな環境で育った人は、そういう場に行ったこともないことが多い。いい場所に身をおいて素敵な体験をすると、人は一気に成長できるんです」と、武次さんはその理由を明かす(写真提供:シュフレ協会)

「主婦、フレフレ!のシュフレ協会です」と、どんな場面でも明るく発表する武次さん。シュフレ協会の活動が「明るく華やかでキラキラしたママたちの子育てサークル」と見られがちなことに、ジレンマを感じているといいます。
 
「SNSやホームページで楽しそうに笑うママの写真をアップすると、生活に困難を抱える若いママは、自分が行ける場所ではないと思ってますます遠ざかってしまいます。企業や友人に頭を下げて協賛金を募って低価格でイベントを実施しているのは、経済的に生きにくさを抱えている人にこそ来てほしいからなんだけど、そう発信すると、”自分が生きにくさを抱えている”と思われたくないという気持ちが芽生えてかえって逆効果になるみたい……」
今、まさに活動の岐路に立っている武次さんですが、一方でシュフレ協会の「本当のミッション」に共感した仲間が続々と集まってきているのも事実です。
 
お菓子の教室「アトリエMOCHIKO」として活躍する楠本香代子さんもその一人。「私は以前、製菓学校でフルタイム勤務をしていましたが、子育てをきっかけに退職して自分でお菓子教室を立ち上げました。実は私の息子は自閉症で困難を抱えているのですが、言えば理解してもらえるし、助けてもらうこともしばしばです。自分でカミングアウトしにくい若年貧困者の問題はもっと根が深いと思います。直美さんは、自分の息子さんの家庭を守るため、お嫁さんに笑顔になってもらうために、自分で考え行動し、人に頭を下げて悩みながらも前に進んでいます。その姿に感銘を受けて、私のできるお菓子作りのスキルで、直美さんの活動をサポートしたい」と、楠本さんは言います。

武次さんとMOCHIKO先生こと楠本さん。「MOCHIKO先生がいて、私はどれだけ救われているか。気持ちを共有できる相手がいるって、幸せ」

相次ぐ家出やコミュニケーションが成り立たない時期を経て、8年間一緒に息子さんやお嫁さん、そして愛しい孫たちと一緒に暮らしてきた武次さん、辛くはなかったのですか? と問いかけると、声を詰まらせて、
「だって、追い出したら、あの子、死ぬよ!」
と、一言。
お嫁さんと出会って初めてわかった、若年貧困女性の実態。職を得られない、居場所がなくて苦しんでいる人のことを知りました。殺人事件の犠牲者になった友人もいた、と聞いて、言葉を失いました。若くて体力があっても、死が身近にあるギリギリの状況の人がたくさんいる現実に直面して、「そんな人たちにとっての”おばあちゃんの家”のような場をつくりたい」と武次さんは言います。
 
国立社会保障・人口問題研究所の2011年の調査では、単身で暮らす20〜64歳の女性の3人に1人が貧困であるというデータがあります。政府の「第4次男女協働参画基本計画」では、女性の若年無業者や非正規雇用の実態調査をおこなう方針が示されています。横浜市の男女協働参画推進協会では「”ガールズ”自立支援事業」を2008年より立ち上げ、若い女性を対象とした自立支援事業の取り組みや地域との連携をおこない、2012年に「”ガールズ”自立支援ハンドブック」を刊行しています。若い女性の貧困に対し、様々な立場の人が様々なアプローチをおこない、支援の手を差し伸べています。そのなかで、シュフレ協会は「生活スキルの支援とネットワークづくり」を担おうとしています。

地区センターや知人のお店などを借りての料理教室は、「大人の料理からとりわけ離乳食講座」など、実践的な内容が多く、毎回大人気(写真提供:シュフレ協会)

結婚から8年経った今、お嫁さんは自ら職を得て働き、朝起きてこどものお弁当をつくるようになっています。「18歳で結婚して、そこからの8年間の彼女の成長が本当にすごいと思います。“しっかり者”のイメージには程遠いかもしれませんが、この8年での成長は自信をもっていいと、声を大にして言いたい!」と、武次さん。
 
「核家族化や働くお母さんが増えたことによって、若い女性が家事の基礎を学ぶ機会が圧倒的に減っていると感じています。そして、若年女性の貧困も増えていて、私のような“おばあちゃん”が増えることも想定されます。自分の力で環境を変えることのできない人たちが自らの意志で変われるきっかけって、そういくつもなくて、結婚というのが大きなチャンスなんじゃないかな」。だから、武次さんと同じような状況に局面する“おばあちゃん”が、自分の力ではどうしようもなく生活スキルを得ることができなかった“お嫁さん”に対して、匙を投げず、我が子のように向き合い、でも“おばあちゃん”が辛い時には仲間を得て助け合えるように……そんなネットワークも新たにつくりたい、と考えています。
 
あえて「若年貧困女性」を対象にせず、フツーのママも対象にして、いろんなママたちが混ざって仲間をつくってほしい。だから、シュフレ協会のイベントはいつでも誰でもウェルカムです。そして、“お嫁さん”と向き合いながら、まだ見ぬ“おばあちゃん”仲間のために場をつくってきた武次さんの挑戦は、これからも続きます。
 

12/15(金)のクリスマス交流会は、センター北駅すぐの商業施設内で開催予定。室内なので寒くても大丈夫!

Information

一般社団法人シュフレ協会

http://shufure.com/

TEL 0120-72-1010(平日10:0019:00

シュフレ協会のイベントの情報はホームページまたはfacebookページで。

https://www.facebook.com/shufure/

Avatar photo
この記事を書いた人
北原まどか理事長/ローカルメディアデザイン事業部マネージャー/ライター
幼少期より取材や人をつなげるのが好きという根っからの編集者。ローカルニュース記者、環境ライターを経て2009年11月に森ノオトを創刊、3.11を機に持続可能なエネルギー社会をつくることに目覚め、エコで社会を変えるために2013年、NPO法人森ノオトを設立、理事長に。山形出身、2女の母。
未来をはぐくむ人の
生活マガジン
「森ノオト」

月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる

森のなかま募集中!

寄付についてもっと知る

カテゴリー

森ノオトのつくり方

森ノオトは寄付で運営する
メディアを目指しています。
発信を続けていくために、
応援よろしくお願いします。

もっと詳しく